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28話

 俺達が住んでいるマホンを出発し、一路ワカミチ村へ向かう。


 先ずは馬車で1日の距離にあるダウゼン村だ。


 この先の林を抜けるまでは緩い坂道だが、森に入ると少しずつ勾配が出てくる。

 前世のように舗装されている道ではない為、スピードも出ない。草原や林まではそれでもスムーズだが、森からは歩いている速度と同じ程度になってしまう。


 この後2時間くらい移動したら休憩して馬を休ませ、また2時間くらい移動というのを繰り返す。予定では夕方にはダウゼン村に着くはずだ。


 早速だが特注クッションは用意しておいて正解だ。車輪から伝わる振動をこれだけ吸収してくれていれば充分満足だ。これなら2時間くらい平気だ。


 馬車の中は俺とヘイデンさん、エルビラさん、護衛のノーラさん、パメラさんの5人がいる。

 セベロさんとアダンさんは御者台に座っている。


 ヘイデンさんは何かを読んでいるようだ。こんなに揺れているのに読み物なんかして、馬車酔いとかならないのかね。

 エルビラさんは俺と同じで外を眺めている。とても楽しそうだ。あの顔なら馬車の振動も気になってはいないだろう。


 ノーラさんとパメラさんは周囲を警戒している。


 馬車は小麦畑を通り過ぎ、草原の中を轍に沿って進んでいる。歩かなくていいのは楽だなぁ。

 あ、街道から離れた場所にウサギがいた。この辺りにもウサギはそれなりにいそうだな。


 車内にはガタッ!ゴトッ!という音が響く以外静かなものだ。

 そんな平和な#一時__ひととき__#を堪能していると、視線の先に林が見えてきた。


「そろそろ林だ。幌を下ろした方がいい」


 御者台にいるセベロさんが、車内にいる俺達に注意を促してきた。


 この馬車は、屋根の部分は木製だが、周りを囲う部分は幌になっている。

 林や森の中では魔物が出る可能性がある。その為、少しでも防御できるように幌を下ろすことが多い。


「分かりました。ドルテナさん、そちらをお願いします。エルビラ、そこを下ろしてくれるかい」


 ヘイデンさんにお願いされた箇所の幌を下ろす。これで視界はほぼなくなる。御者台の方と後ろだけが今は覆われていない状態だ。

 護衛のノーラさんとパメラさんは馬車の後方に座っているので見える範囲で警戒している。


 俺も念のため危険察知を広範囲に広げておく。すると、新たに察知範囲になった場所に黄色い反応がポツポツと出てきた。

 馬車からはかなり離れた場所なので、こちらに気付いて襲ってくることもないだろう。


 外の景色が見られなくなったエルビラさんが話しかけてきた。


「ドルテナさん、このクッションとてもいいです。厚みがあるので振動をしっかりと吸収してくれています。ありがとうございます」

「それはよかった。用意した甲斐がありました。正直ここまで効果を発揮してくれるとは思ってはいませんでしたが」


 これだけ振動を吸収してくれるなら背もたれも作ればよかったな。


「おや、そのクッションはドルテナさんの物でしたか。なかなか良さそうな物をお持ちですね。この子は初めての馬車でしたので少し心配していたのですが、それがあるなら長時間座っていることもできるでしょう。ありがとうございます」

「いえいえ、そんな大した物ではないですよ。それとエルビラさんの使っているクッションはエルビラさん用に用意した物です。これからも何かの折に使ってもらえればと思います」

「そうでしたか。それはいい物をいただきましてありがとうございます。しかし、このクッション、お高物なのではないですか?」

「あぁ~。それはですね、お礼も兼ねてまして………」


 と、エルビラさんにクッションを渡したときのようにお礼の意味を説明した。

 ヘイデンさんもエルビラさんと同じ様な所を気にしていた。デジャブですよ。さすがは親子だ。


「今回のワカミチ村へ買い付けにドルテナさんが同行していただけたことは、私としても大変ありがたく思っております。娘にとって今回の買い付けは初めてな事ばかりで、少々気になっていたのです。旅と聞けば楽しそうかもしれませんが、長時間の移動はなかなか苦痛です。話し相手は私か初めて会ったばかりの大人の冒険者達だけですので」

「もしかして、今回の護衛の冒険者さんに女性が含まれていたのはその事も?」

「はい、娘も男だらけの中で何日も過ごすのは辛いでしょうから、依頼の条件に女性冒険者が含まれるようにしました」


 なるほどね。最初から女性込みの冒険者を条件に付けていたのか。

 決してあの破壊力満点なお胸にやられた訳ではなかったようだ。まぁ、ギルドが紹介しているんだからそこで判断はしないわな。


「ところで、先程から何を読んでおられるのですか?」

「あ、これですか?これから立ち寄る予定の村で何が採れたかが書いてあるのです。せっかくですので、途中の村でも買い付けをしようと思いまして」


 それで木箱が6個もあったのか。

 キヒキヒだけを入れるにしては、えらい多いなぁとは思ったんだが、そういうことね。

 途中の村を素通りするのはもったいないわな。俺も村内を色々と見て回って珍しい物があれば買って一葉に持って行こう。


 そんな話をしていると、御者台のセベロさんから最初の休憩場所に近づいてきたと伝えられた。


 街道沿いには休憩できるように開けた場所が設けられている。

 馬車の速度で凡そ2時間の距離に設置されており、馬の綱を架けられる様にしてあったり、水を汲みに行けるように川まで道が付いていたりとなっている。

 早馬以外はこのような場所で馬を休ませながら進む。


 マホンを出て最初の休憩場所までは何事もなく着いた。何かあっても困るのだが。 

 普段なら他の馬車もいるようだが、この時期にワカミチ村方面に向かう馬車は殆どいない為、休憩場所には俺達の馬車だけだ。


「はい、お疲れ様です。馬達を休めて、我々も体をほぐしましょう」


 セベロさんが馬を馬車から外そうとしているので俺も手伝う。アダンさんは周囲の確認に行った。


「お手伝いします。ここを先に外したらいいですか?」

「ああ、そこから外して、次はこれだ。その前に手綱は持っておけよ。そうしないと馬が逃げるぞ」


 馬車からの外し方を確認しながら馬を外す。その馬を少し離れて設置されている馬をつないでおく場所に連れて行き、手綱を結びつけておく。

 こうすると、馬もある程度自由に動けるのでストレスなく休むことができる。


「ほぉ、手綱のつなぎ方を知っているのか。うむ、よくできてる。これなら外れまい。どこかで習ったのか?」

「あ、はい。冒険者見習いになる前に、宿の厩舎で仕事をしていて、その時に教わりました。ただ、久しぶりなので少し不安でしたが」

「それで馬が素直にお前の言うことを聞いていたのだな。それに、これだけ出来ていれば特に問題ないから大丈夫だ」


 久しぶりだったが、セベロさんに手綱のつなぎ具合を確かめてもらい安心できた。


 さて、馬達の水を汲んでこうよ。桶は俺が持ってるからな。セベロさんにお礼を言って川へ降りていく。

 2つの桶に水を汲み、各馬へ与える。その後で、飼い葉を出してやる。馬は一度に食べられる量が少ないから何度かに分けて食べさせる。

 馬達が休んでいる間に軽くブラシを掛けてやる。時間がないからしっかりとはしてあげられないが、少しはリラックスできるだろう。


 馬達の毛艶もいいし体付きもしっかりしている。いい馬だ。

 この馬は前世のサラブレッドとは少し違う。所謂、農耕馬みたいな感じだ。

 高さは170㎝前後だが、かなりムキムキの馬だ。足もかなり太く、パワータイプだ。

 馬車を引くための馬はパワーが重要視されている。もちろんサラブレッドみたいなスピード重視の馬もいる。これは軍馬や早馬などに使われる。


 2匹目の馬のブラッシングが終わる頃にヘイデンさんがやって来た。


「ドルテナさん、馬達の世話をしていただきありがとうございます。馬達も気持ちいいでしょう。出発まではもう暫くありますので、ゆっくりと休んで下さいね」

「分かりました。でも私は馬車に乗っているだけですので、疲れたら馬車内で寝させてもらうことも可能です。なので休憩中はこの子達に構ってあげようと思います」


 ブラッシングとかはやり慣れたことだから特に疲れない。疲れたとしても寝てれば馬達が運んでくれる。楽なもんだ。


 とはいえ少しは休んでおこう。他の人達の方を見ると、エルビラさんとノーラさん、パメラさんの女性陣が何やら楽しそうに話している。

 ヘイデンさんの言う通り、女性同士の方が落ち着くのかもな。適当に座り、出発までゆっくりと休んだ。


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