24話
薬剤店を後にした俺は、旅の準備に取りかかる。
出発は護衛の冒険者がいつ見つかるかによるが、大体4~5日後位だろう。正式に決まったら連絡が来る。
目的地であるワカミチ村までは2つの村を経由する。
このマホンとワカミチ村までの間には2つの村があり、馬車で1日の距離となっている。
村では馬の休憩も兼ねて1日休む事になっている。
順調にいけば4泊5日でワカミチ村に行く事になる。今回は野宿の予定はない。
ワカミチ村でも1日ゆっくりする予定だが、キヒキヒの取引次第では数日延びる可能性もある。
さて、旅の準備と言っても用意するのは食料程度だ。
装備はいつものレザーアーマーと戦闘服があれば事足りる。下着も一つあれば問題ない。
不衛生?いや、そうではない。
戦闘服という括りには下着や肌着も含まれている。
戦闘服には自動修復機能があり、アイテムボックスに入れると汚れを含めて全て初期状態、つまりきれいな状態に戻るのだ。
だから下着なんかも1着あれば問題ないのだ。洗濯しなくてもいいなんて最高だよ。
食料は飲食店や屋台から買って持って行く。アイテムボックスに入れておけば買ったときのまま保管できる。腐らないから安心だ。
まずは、木製の食器を買いに来た。アイテムボックスに入れるためには容器が必要だ。取り出したときに直ぐ食べられるように食器に入れた状態にしておく。
浅めの皿は串焼きなどに使おう。深めの皿はパスタ用だ。もっと深い器はスープなどを入れよう。それぞれを10枚ずつ購入する。
後は大きめの水筒を4個買う。旅の途中で水がなくなるのは危険だ。特に夏場は水分補給は命に関わる。破損してもいいように予備として4個にした。スプーンやフォークも数個買っておく。
容器は買ったから次はその中身だ。既にお昼を回っているから、お腹がグゥ~と鳴っている。ギルド周辺の屋台でお昼御飯を食べながら、旅の食糧確保をしていく。
串焼きやスープパスタ、様々なサンドイッチ、目に付く物を片っ端から買った。いったい何日分になるのだろうか。
とりあえず、今日の食糧確保はこれで終わり。
明日は昼前にパン屋へ行こう。
以前、オープンテラスのあるパスタ屋で教えてもらったパン屋だ。
一度行ったときには午後だったので余りパンが買えなかった。今回はお昼前に行って色々と買いたいのだ。
次にやって来たのが馬具店だ。
ここは、馬車や幌、鞍にブラシ等の馬車や馬に関する物を取り扱っている。そして俺のお目当て、クッションだ。
馬車にはサスペンションなどの衝撃を吸収する物は着いていない。その為、車輪の振動が直接椅子に伝わる。なのでオケツが痛いのだ。
長時間座り続けて痔になっても嫌なので、馬車の座席用のクッションを買う。この歳で痔にはなりたくない。
「すみません、馬車の座席用のクッションってありますか?」
「いらっしゃいませ。ありますよ。こちらです。お決まりになりましたらお声をお掛け下さい」
(はいよ。さてさて……。うわぁ、どれも結構薄いんだね。これじゃぁあんまり意味がなさそうだな)
案内された場所に置いてあるクッションは厚手の布を数枚重ねた程度の厚みしかなく、とても衝撃を吸収してくれそうにない。
それでも10枚重ねるとなんとかなりそうだ。
ペラペラのクッションを纏めて入れるカバーを服飾店で作ってもらえば、衝撃をキチンと吸収するクッションとして使えそうだ。
柄なんて関係ないから、できるだけ大きさが同じ様な物を10枚選んで行く。
その時、ふと薬剤店の娘のことが頭に浮かんだ。
「彼女もこういうペラペラクッションを使うのかな?う~ん。女の人って長時間座り続ける事が、男に比べると辛いとかテレビで見たことがあるぞ。骨盤の形のせいだったっけか?彼女の分も用意しとくか」
更に10枚のペラペラクッションを選んで、カウンターに持って行く。俺のペラペラクッションより少し小さいが大丈夫だろう。
「ありがとうございます。こちらは1枚3,000バルトなります。えっと、20枚ありますので60,000バル頂戴します」
この世界の生地は高いからね。まぁこんなもんでしょ。60,000バルを払い馬具店を後にする。
次に目指すは服飾店だ。これにはあてがある。
初めての報酬で母とペリシアに買ったエプロンを販売していたお店に行く。あそこの仕立ては本当にしっかりとしていた。なので腕は確かだろう。
「すみません、注文したい物があるのですが」
「はい、ありがとうございます。どういった物でしょうか?」
「これを一緒に入れて、一つのクッションにしたいのですが、そのカバーって作れますか?」
さっきの馬具店で買ったペラペラのクッションを20枚出して、身振り手振りでイメージを伝えた。片方は薬剤店の娘用なので明るめの色にしてもらう。
「はい、できますよ。このサイズなら……1つ11,500バルですね。いかがですか?」
「それでいいのでお願いします。いつ仕上がりますか?」
「ありがとうございます。明日のお昼にはお渡しできます」
それなら旅の出立に間に合う。2枚分の料金を支払い、ペラペラクッションを預けて店を出た。
色指定をした後から、女性スタッフさんの笑顔がニヤニヤ顔になったような気がしたがスルーしておこう。
その後、少し街を散策して夕方には一葉に帰ってきた。その日の夜に、ワカミチ村へ行くことを母に告げた。ついでにランクのことも。
「テナー、あなたいつの間にランクアップしてたのよ……それにランクFって……。お母さん今まで見習いがランクFになるなんて聞いたことないわよ?
そう言われてもなったものはしょうがないと思うんだが。
「それにやっている依頼はここ(一葉)だけでしょ?それなのにどうしてランクアップなんかできたの?オバ草をギルドに売っているようだけど、薬草のポイントって微々たる物よね?あなたは強力な武器を持ってるけど、それだけではランクは上がらないでしょ?」
「うん、それなんだけど。さっき話した薬剤店の娘さんが変な男に絡まれてね。それを解決して警備兵に渡したら、そいつが連続レイプ犯だったんだ。で、ランクがポンポンって上がっちゃった……んだけど、信じないよね」
母の冷ややかな視線を感じ、アハハと乾いた笑いが出てしまう。
俺だってこんなにランクが上がるは思わなかったよ。ランクアップした本人が一番ビックリしてますから!ザンネン!!あ、いや、ザンネンではないか。
「はぁ~。兎も角、ランクFになったからって無茶な依頼は受けないこと。少しでも危険を感じたら逃げるのよ。分かった?」
「分かってるよ。無茶なことは全然してないし」
父のことがあるから、こういう事に関しては耳にタコができるくらい母から聞いている。
「それで。その薬剤店の方とワカミチ村に行くのは依頼ではないのね?テナーにはあの変な服と、強力な武器があるし、他の冒険者の方もいるから多少は安全でしょうけど、それでも心配よ。でも、あなたも見習いとはいえ冒険者だし、自分の仕事も持っている。だから行くのは止められないけど……本当に無茶なことはしないこと。ね。それだけは約束して」
「分かってるよ。何かあれば直ぐに逃げるよ。死んだら元も子もないよからね。逃げるが勝ちってやつでしよ。それに冬前なら冬眠のために獣も活発化するけど、この時期は大人しいはずでしょ?山賊も領主様の肝煎りで、兵士による巡回も昔よりかなり増えているって聞くし」
冬前は冬眠のために獣の活動が活発化する。
そして、冬眠しない魔物もなぜが活発化する性質がある。
その為、秋に山へ入るときは注意しなければならない。しかし、この季節は秋のように気を付ける必要はない。
更に、父の命を奪った山賊は、あの事件を境にめっきりと数を減らした。
ゼロではないが、まず出会わないだろう。もし出会ったら確実に息の根を止めてあげるけどね。
とりあえず、渋々だが母も納得はしてくれた。




