23話
「こんにちは、お客様。どうしたんです?そんなに深いため息をついて。幸せが逃げてしまいますよ」
ギルドから出て直ぐの俺に、後ろから声をかけてきたのは薬剤店の娘さんだ。なんか恥ずかしいところを見られたな。
「アハハハ、お恥ずかしい。ちょっとジレンマ?みたいになってましてね」
彼女もギルドにいたようだ。お店からの依頼の事でギルドに来ていて、そこで俺を見つけたらしい。
「今からお店に帰るんですか?ならお送りしましょう。また襲われても大丈夫なように」
と、笑いながら言ったら、笑顔でありがとうと言われた。うん、あの時の事はトラウマにはなってないようでよかった。
お店まで送りながら、さっきのため息の訳を話した。
「凄いじゃないですか!そのお歳でランクFって聞いたことないですよ!でも確かに見習いは見習いなんですよねぇ。お客様のお気持ち、お察しします」
「あはは……」
同情されちゃいました。
「ランクにも驚きましたけど、私より1つ年下だったんですね。てっきり年上かと思ってました」
「あぁ、よく言われます……」
俺は13歳なんだけど、中身が42歳ですからね。昔からよく考え方がオッサン臭いと言われるよ。でもしょうがないじゃないですが!オッサンなんだもん!
そう思うと何だか寂しくなってきた。
「ランクFになれるって事は、それだけお強いのでしょ?他の都市に行ったりはしないのですか?」
「他の都市に行っても、見習いが受けられる依頼にそう大差はないかなと思うし、何より、ここには母も妹もいます。他の都市に興味はありますが、幼い妹を置いて違う都市に拠点を移すつもりがないんです」
ペリシアがもう少し大きくなるまで、後2~3年はこの街を拠点にして仕事をするつもりでいる。
「クスッ。そうですか。そういうお客様も13歳とお若いんですけどね」
うむ。どうしても考え方に中身年齢が出るんだよ。
そこが俺はオッサン臭いと言われる由縁なんだろう……。
他の都市か……。拠点を移すつもりはないけど旅行とかならできそうだな。
遠くまでは母が心配するだろう。しかし近くの村程度なら4~5日位でいける。
村までなら都市をつなぐ駅馬車に乗れば移動の出来る。運賃は高いけど、今の俺なら払える。
マホンからは3日に1本位のペースで便があったと記憶している。
旅に行く可能性を考えていた俺に、彼女がこんな提案をしてきた。
「もしよろしければ、一緒にワカミチ村に行きませんか?」
「ワカミチ村?ですか?またどうして?」
「実はですね……」
と、理由を話し出した。
薬師が使う素材にキヒキヒという茸がある。
そのキヒキヒは、ワカミチ村周辺でしか採れない。それも初春に採れる物でなければ効能がないらしい。
採取した後、1ヵ月程かけてしっかりと乾燥させる。
キヒキヒ自体の品質も大切だが、乾燥させる際にもいくつか気を付けないといけないらしい。これで商品の善し悪しが決まる。
こういうのはやはり名人がいるらしく、いつもその名人の商品を取り扱うことが可能な行商人から買うそうだ。
その行商人に、今年はいくら必要なのかを伝えてワカミチ村から持ってきてもらう。
こうすることで必要な量が確保できるようだ。
だが今年は、その行商人がワカミチ村から未だに帰ってこない。
このマホンを出て2ヶ月が経過しても帰ってこないと言うことは何かあったと見ていい。
事実、ワカミチ村から来た別の行商人から、自分達より前にワカミチ村を出ていることが確認された。
他の行商人に同じ物を頼んでも、その名人が別の行商人に売ってくれる可能性が低いようだ。
それでも可能性はあるだろうが、無理に頼んで名人の機嫌を損ねれば今後の仕入れに響く。
それに、この時期は殆どの行商人がワカミチ村からキヒキヒを仕入れてこの街を経由し、王都に向かう。
その為、ここからワカミチ村に向かう行商人は殆どいないのだ。
なので、薬師をしている父が直接買い付けに行くことにした。
貸し馬車の手配をして、護衛の冒険者依頼を出すためにギルドにいたらしい。
「へぇ~、それは大変ですね。素材がなければ仕事になりませんからね。でも、それなら私が乗せてもらえる場所もないのでは?護衛の冒険者に素材を載せる場所を考えたら、私の乗るスペースがあるとは思えないのですが」
「う~ん、それは直接父に聞いてみましょう。どうぞお入りください。ただいま~」
問題を指摘したところで、薬剤店に着いた。
彼女は店の奥にある調合室みたいな所に行き、父親とさっきの話をしている。
その間、俺はカウンター横の椅子に暫く待っていた。
話が終わったのか、2人が奥から出てきた。
「お客様、ご無沙汰しています。先程娘からお話を聞きました。ランクFになられたそうで。おめでとうございます。冒険者見習いでそのランクということは実力もお持ちなのでしょう。同行していただくには問題がないと思います。ただ、お客様のご指摘の通り、馬車には護衛の冒険者やキヒキヒを載せる為、余裕がありません。娘がお誘いしておきながら誠に申しわ──」
「でもお父さん!それなら荷物を持っ…あ、えっとその、……」
彼女は、俺と父親との会話に割り込んで何かを伝えたかったようだが、最後の方は尻つぼみになっていった。そして俺の方をチラチラと見てくる。
……あぁ、そういう事か。
彼女は俺のアイテムボックスの容量がかなり大きいことを知っているんだった。
連続レイプ犯の2人の死体をアイテムボックスに入れたのを見ている。
それを警備兵に話しているのだから、その場にいたであろう父親も知っていてもおかしくない。
だが、他人のアイテムボックスの容量を聞くことや知ること、まして他人に教えるなんて事はマナー違反と言われている。
俺が荷物を持ってば乗れるが、それを提案するには問題がある。
俺のアイテムボックスの容量を、本来なら知らないはずの父親に話すことになりマナー違反だ。
また、父親が俺のアイテムボックスの容量を知ってしまっていたとしても、それもまたマナー違反だ。
俺のことは、高品質な薬草を持っている上客と認識されていると思う。
その客に対してマナー違反、失礼があった為に、今後取引できなくなるというのは避けたいだろう。俺はそんな事しないのだが。
「そんなに見なくても大丈夫ですよ。怒ってもいませんから。それに貴女は知ろうと思って知ったわけではないでしょ?貴女の前で使ったのは私なんですから。気にしないで下さい」
「はい……すみません。ありがとうございます」
それでも彼女は気にしているようで、下を向いたままだ。とりあえず話を進めるために父親と話をする。
「ご主人も娘さんからお聞きしていると思いますが、私のアイテムボックスは他の方と比べて容量がかなり大きいです。例の犯人の男達の死体を入れられるほどに。なので、もしご主人さえよければ私が荷物を持ちますので、その空いたスペースで私も同行させてもらえませんか?」
「お客様のお心遣い、誠にありがとうございます。警備兵に話をする際に知ってしまいました。申し訳ございません。しかし、娘も私も決して他人に話してはおりません。どうか信じて頂けますよう、お願いいたします」
と言って、2人とも頭を深々と下げた。もちろん疑ってはいない。
この2人は信用できると思う。なにより危険察知が反応していないのだから。
「はい、わかりました。お2人のことは信用しています。なので頭を上げて下さい。それと護衛の方ですが、お2人の分があれば十分です。私は自分の身は守れますので、追加の護衛は不要です。後、食事も自分で用意しますので乗せてもらえるだけで構いません。」
「わかりました。それではよろしくお願いいたします。重い荷を持っていただければそれだけ馬車が軽くなり、馬の負担も軽減されることでしょう、こちらとしてもとても助かります」
これで俺のワカミチ村行きが決定した。
この後、お互いに改めて自己紹介をした。
薬剤店の父親はヘイデンさん。俺の一つ年上の娘さんはエルビラさんという名前らしい。
帰り際、クラス3の治療薬を2つ買って帰る。初めての旅だ、何があるか分からない。




