22話
案内された詰め所の部屋で待っているとパーナーショップさんがやって来た。
「さてと……あの男と対峙していたが、その経緯を教えてもらえるかな?」
俺は、ギルドを出てからずっと、あの男に付けられていたところから話した。そして男が俺にベラベラ喋ってくれた内容をそのまま伝えた。
「そこに私たちが到着したわけか。あの男が逃げ出そうとした後に使った武器も魔道具なのか?」
「はい、昨日お見せした物の上位版と思っていただければ……。ところで、連続レイプ犯は3人いたのですか?昨日引き渡した2人だけと思ってましたが」
武器のことにあまり突っ込まれたくなかったので無理矢理話を切り替えた。
しかし、連続レイプ犯が他にもいるとは聞かなかった。パーナーショップさんからもその点についての追及もなかった。
「君は本当に依頼ボードを見ていないのか……。まぁいい。被害者の中には3人いたという証言もあってな、あの男も時々加わっていたようだ。先の2人が倒されたら残りの1人も尻尾を出すと思って、君を囮にさせてもらったんだ」
こらこら、冒険者見習いを囮にするんじゃない。
俺に危険察知スキルがあったからよかったけど、もしスキルがなかったら本当に警備兵からの出頭要請と思ってあの男に付いて行ったかもしれないだろうが。
「それでだ、あの男にも報奨金があるんだ。それをここで渡しておこう。それには少し色を付けてある。今回の犯人を全て君が捕らえたのだ。その分をプラスしてある」
そう言って700,000バル、大銀貨7枚をテーブルに出した。
「え?主犯格の男より高いんですけど……」
「うむ、今回のことは口外しないでおいて欲しいのだ。警備兵が犯罪者に荷担していたと表沙汰になると、今後の警備に支障が出る。今後はこのような者を出さないように、警備兵の採用を厳格にすることになるだろう。あの者は明日にでも処刑となる」
要は口止め料が含まれているということだ。
俺はそれを受け取り、アイテムボックスに入れる。
今回の装備品は警備兵の支給品なのでもらえない。その分も色を付けてもらっているので文句はない。
パーナーショップさんにお礼を言われて詰め所を出た。こちらこそありがとうだよ。
既にお昼を回っている。昨日と今日の二日間でいろいろありすぎた。どこかでお昼御飯を食べて今日は帰ろう。
明日からまたいつもの日常だ。
昨日と今日の報酬で懐は温かくなったが、仕事はしなくてはならない。
オバ草は俺の小遣い稼ぎ程度の意味合いだったが、ハーブもウサギも一葉には必要な物なのだ。なので、明日からもいつもの勤務シフトで狩りに出かけ、そして休む。
平穏な、普通の日常に戻るのだ。
適当に屋台で買った物でお昼御飯を済ませた俺は、宿に帰ろうと歩いていた。
その途中で公衆浴場つまり銭湯の前を通りかかった。
「報奨金でお金に余裕は出来たから、入っていくかな」
この世界に来て初めての風呂だ。どんな風呂なのか非常に興味があったのだが、高い利用料に阻まれてなかなか来る機会がなかった。
入り口に表示されている料金表には7,500バルと書いてある。
この世界の風呂は金に余裕のある大棚や稼ぎのいい冒険者が利用する程度だ。一般市民には風呂に7,500バルもかけてられない。
「いらっしゃいませ。ありがとうございます。どうぞ」
入り口のスタッフに7,500バルを払うと貸しタオルをもらえた。そのまま男湯に入ると……
「狭いな……」
脱衣所は4畳程度だ。さっさと服を脱ぎ浴場へ入る。
「……これまた狭いな……」
洗い場は6人分しかないし、浴槽は2畳位だ。どこぞの学生寮の風呂を彷彿とさせる。イメージとかなりかけ離れている光景にしばしの間、立ち止まってしまった。
それでも体を洗い浴槽につかると、久々の風呂に思わず声が出る。
「いつかはもっとデカい風呂に入りたいな……この世界には温泉とかないのかねぇ」
思っていたのとは違う銭湯を出て一葉に帰って行った。
◆◇◆◇◆◇
半月後。
ここ最近、報奨金のお陰で懐が温かくなった俺は、ハーブとウサギを依頼されている量だけ取り、オバ草はあまり採らなかった。
その為、3日に1回のペースでギルドに買い取ってもらうほどの量は集まらず、ずっとアイテムボックスの中にストックされていた。
半月経ってやっとそれなりの量になったので、久しぶりにギルドへやって来た。
既にお昼近くなっている為、ギルドの中は閑散としていた。
ギルドに入って直ぐに買い取りカウンターにいるアビーさんと目が合った。いつ見てもきれいな人だ。
そんなアビーさんが笑顔で手を振ってくれている。それに手を振って答えながらカウンターへ近づいていく。
「ご無沙汰しています、アビーさん」
「いらっしゃいませ、ドルテナさん。最近顔を出されないので心配していましたよ。たまにはお顔を見せてくださいね?」
「ありがとうございます。アビーさんの様な方にそう言われると照れますね」
きれいな人にそう言われると思わずほほが緩んでしまう。
それはいいとして、買い取ってもらうオバ草をカウンターへ出して査定してもらう。
オバ草が152株あったので、30,400バルを確認してから受け取る。その後でアビーさんがカードを返してくれた。
「ドルテナさん、カードをお返ししますね。そして、おめでとうございます。1ランクアップです♪(ニコッ)」
「…………え?」
(はい?ランクアップ?えっと、半月前にランクHからランクGにあがったよ。なんで何もしてないのにランクFになるんだ??)
何が起きたかいまいち理解できていない。
「あ、あの、半月ほど前にランクGにはなりましたが、その後は何もしてませんよ?現に、今日久しぶりにギルドへ来たくらいですから。何かの間違いでは?」
何もしてないのにランクアップはしないだろう。誰かミスったな。ったく、ちゃんと仕事しろよ。
「いえ、ドルテナさんはランクFで間違いありませんよ。ランクGに上がる前にギルドポイントがかなりたまっていて、もう少しでランクGになる状態でした。そこへ2名の犯人を捕まえたことによるポイントが加算されてランクGにりましたが、加算されたポイントがほぼ1ランク分あったので、ランクF手前の状態になっておりました。そして、3人目の犯人を捕まえたポイントが加算されてランクFとなりました」
ソ、ソーデスカ。ちゃんと仕事してたんですね……。ギルドの皆さんすみません。
3人目の犯人にもギルドポイントがあったのか。最初の2人の時のポイントに含まれていると思ってた。
あ、そういえば、ランクGになった時の部長さんのコメントが、なんか含みのある言い方だったな。もしかしたらこの事を……、
「えっと、なんて言ったらいいのか……。ご迷惑をお掛けしてすみません」
「そんな、迷惑なんて。当ギルドでも久しぶりの見習い冒険者ランクFの誕生加え、ランクアップの最速記録更新ですよ。みんな期待の星だって喜んでます。これからも頑張って下さいね」
アビーさんが俺の手を握って、ブンブンと振っている。
しっかりと握ってくれているから、アビーさんの温もりが掌から伝わってくる。細くてきれいな指だなぁ。
アビーさんの温もりをたっぷりと堪能してギルドを後にした。
「しかしランクFかぁ。思ってたよりかなり早くランクが上がったな。それはうれしいことだ。確実に武器のお陰だけど。ランクF……一般冒険者の最低ランクにはなれたけど、所詮は見習いだよな。依頼もたいしたことを受けられないし……。」
どれだけランクが上がっても、15歳になるまでは所詮は見習いなのだ。
その為、受けられる依頼も大した物はなく、今の俺にとっては魅力がない。
ハーブとウサギ、時々オバ草にもボチボチ飽きてきた。
「ランクが上がったところで、なぁ~」
はぁ~、と思わずため息が出る。




