20話
薬剤店から出るとそろそろお昼時になっていた。
街の飲食店や屋台から匂う美味しそうな香りに、お腹が悲鳴を上げている。
仕事の日は母にお弁当を作って貰っているが、休みの日は作らないようにしてもらった。母の負担を少しでも減らしたいのだ。
というわけで、街を歩きながらどこでお昼御飯を食べようか探している。
「午前中は何だかんだでバタバタしちゃたから、ゆっくりと食べられる所がいいなぁ」
そんなことを言っていると、通りから少し奥まった場所に、オープンテラスのあるお店を見つけた。雰囲気が良さそうなのでここにしよう。
店内に入ると、お昼時にも関わらず席は6割程度しか埋まっていなかった。
一瞬、失敗したか?と思ったが、客は皆、笑顔で美味しそうに食べていた。
どうやら穴場的なところを見つけられたようだな。
ゆっくりと食べたかった俺にとっては丁度いい店だ。
店内からオープンテラスへ行き、席に座る。直ぐに女性スタッフが注文を取りに来る。
「いらっしゃいませ。こちらがメニューです」
メニューを見るとパスタ中心のお店のようだ。トマトソースのパスタと香草パンを適当に注文する。
注文をとった女性スタッフが厨房に料理を伝えると答えたのは女性の声だった。どうやら作っているのも女性のようだ。
チラッと見えた厨房内の女性は、注文を取りに来た女性スタッフと雰囲気が似ている。
もしかしたら姉妹で経営しているのかもしれないな。
この店だが、内装などを見ると結構新しそうだ。ここ最近できたお店っぽい。
通りから少し奥まっているお陰で静かなのがいい。これからゆっくりとしたいときは利用させてもらおう。
そんなことを思っていると、注文した品が運ばれてきた。トマトソースのいい香りがする。
「いただきます。………うん、うまいな。この店はあたりだな」
一緒に注文した香草パンにトマトソースを付けて食べてみると、これまたうまい。というか、この香草パン自体がかなり美味しいパンだ。このパンだけでも買って帰りたいな。
オープンテラスでゆっくりと食べるお昼御飯。この世界に来てこういうことができる歳になった俺は、食後に紅茶を追加で注文し、人通りの少ない道を何気なく見ている。
そういえば、高校の同級生がカフェをオープンさせるって言ってたな。どんな店にしたんだろうか。自分で豆から選んで焙煎したいとか話していたな。
俺がこの世界に来る少し前の話だから、もうしっかりと軌道に乗せているだろう。彼は行動力もあり、芯のあるしっかりとした奴だった。
前世のことを思い出していると、女性スタッフが声をかけてきた。ちょっと長居しすぎたかな?
「お客様、当店のお食事はお口に合いましたか?」
「はい、パスタもパンもとても美味しく頂きました。あのパンもこちらで作っているのですか?」
「ありがとうございます。パンは知り合いの店にパスタに合わせた物を作ってもらっています」
あ、そうなんだ。なら教えてもらって、帰りに買って帰るかな。
「そのパン屋さんを教えてもらうことはできますか?とても美味しかったので買って帰りたいのですが」
そういうと、女性は直ぐに教えてくれた。ここから少し離れた場所にあるようだ。お礼を言ってお店を後にする。
教えてもらったパン屋には徒歩20分位で着いた。ただ、商品の数は少なかったがこの時間なら致し方ない。
パン屋は日付が変わる頃から仕事を始める。さっきのパスタ屋や屋台などの商売人が買いに来るまでに、パンを焼かなければならないのだ。
その後に一般客向けの商品を作り始める。それも大体午前中には全て焼き切り、翌日の仕込みに入る。そして夕方には寝る、というのがこの世界のパン屋さんだ。後は販売のスタッフがお店を回すと。
なので、俺が買いに来た時間にはお昼御飯として売れ残った物くらいしか陳列されていないのだ。
バケットみたいなパンと丸い大きめな香草パン、干し葡萄を混ぜて焼いた物なんかが残っていたので全て買わせてもらった。大量にあっても、アイテムボックスに入れておけば腐ることもない。
店員さんに若干引かれてた感はあるが、気にしないでおこう。
今日はこの後、特にすることもないので、道すがら色々なお店を冷やかしながら帰った。
◆◇◆◇◆◇
翌日。
今日は連続レイプ犯の報奨金を受け取りにギルドへ寄り、その後で狩りに出かける予定だ。2日働いて1日休む。とてもいい勤務シフトだよ。
冒険者ギルドは朝から大忙しだ。割のいい依頼を受けようと、冒険者達が依頼ボードに押し寄せている。そして依頼ボードに掛けられている木札を我先にと競い合うように取っていく。
その木札を持って依頼受け付けカウンターへ向かう為、カウンターにも長蛇の列が出来ていた。そんな受け付けカウンターの長蛇の列を避けながら、報酬受け取りのカウンターへ向かう。
流石にこの時間から報酬受け取りのカウンターに行く人はいないからガラガラだ。そして何故かアビーさんがカウンターにいた。
「おはようございます。ここって報酬受け取りのカウンターですよね??なんでアビーさんがここに?」
「査定業務が主な仕事ですが、私達は基本的にどの仕事も熟せます。ですので朝の忙しい時間は兼務することもあるんです」
そう言われて隣の買い取りカウンターを見ると、「この時間は報酬受け取りカウンターへお越しください」と書いてあった。
「そうなんですね。では警備兵からの報酬を今日受け取ることになっているのでそれをお願いします」
「はい、ギルドカードをお預かりします。その件に関しては応接室で承るようにと聞いておりますのでご案内いたします」
そう言うと、昨日も案内された応接室に案内された。暫くすると部長さんが小袋を持ってやって来た。
「ドルテナさん、おはようございます。早速ですが、昨日の件の報奨金をお支払いいたします。主犯格の男が650,000バル、共犯者が500,000バルでした。これにはギルドからの報酬も含まれております。2人合わせて1,150,000バル。更に被害者やその家族からも懸賞金が掛けられておりましたので、懸賞金4,000,000バルと。報奨金と懸賞金合わせて5,150,000バルになります。お確かめ下さい」
と言うと、徐に小袋からお金を取り出してテーブルの上に並べ始めた。金貨5枚、大銀貨1枚、銀貨50枚。
「えっと……懸賞金の額が多くないですか?懸賞金400万バルって連続殺人者並みですよね?」
「そうですね。実は被害者の中にとある資産家の妾が含まれておりました。その妾は資産家のお気に入りだったらしく、お1人で200万バルをの懸賞金を出しております」
なるほど、そういうことか。一応、報奨金等の明細も教えてもらったが別に気にならないので聞き流した。
テーブルに置かれていたお金は全てアイテムボックスに入れた。一気に懐が温かくなってしまった。
説明が終わった頃に、アビーさんがギルドカードを持ってきてくれた。
「ギルドカードをお返しいたします。ドルテナさん、おめでとうございます」
と言って満面の笑みでカードを渡してくれた。
俺はいったい何でお祝いを言われたのか分からなかったが、部長さんがカードを確認してみてはと言うのでよく見てみる。
「なっ?!ランクがGに?!もうランクアップ?!」
冒険者見習いになってまだ二月たったかどうかの俺がランクアップ?!いくらなんでも早過ぎだろ……。
これは何かのミスなんじゃないのか?と言う思いで部長さんを見ていると詳しく説明してくれた。
「当ギルドで歴代最速のランクアップですね。驚かれるのも確かですが、ドルテナさんはそれだけギルドに貢献をしておられるということですよ。今回の連続レイプ犯の件でかなりのランクポイントを得たのは事実ですが、それまでに鮮度のよい高品質なオバ草を大量に売って頂いていたり、お1人で魔物を倒しているのでかなりのギルドポイントが貯まっておりました。なので、連続レイプ犯の件がなくてもそう遠くない将来にランクアップしていたでしょう。今後の活躍次第では……次のランクアップも近いかと」
そうだったんだ。ってか何か最後の方、変な含みを持たせてたな。気になるが突っ込むと藪蛇になりそうだからスルーしておく。
とはいえ、確か見習い冒険者はランクFにはポイントが足らないから成れないとか聞いていたんだが……。
そう思いながらランクGになったギルドカードをアイテムボックスに入れて応接室を出た。
「ランクアップしましたが、だからといって無茶はしないで下さいね」
とアビーさんの優しい注意を受けてギルドを後にした。




