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17話

 翌日。


 今日も昨日と同じ場所に来ている。道すがら、ハーブとオバ草を少し採取してきた。この開けた場所でウサギを捕りつつ、ハーブとオバ草を採る予定だ。


ー タンッ ー


 誰もいない草原に銃声が鳴り響く。


「アビーさんに教えて貰ったこの場所はいいね」


 所々に岩が露出しているお陰でウサギの死角から近づける。7m程度まではウサギに接近できるため、頭部を狙うことが可能になる。

 結果、今日は一日中……


ウサギを探しながらハーブとオバ草を採取

  ↓

ウサギを発見。岩を利用して接近

  ↓

頭部を狙い発砲。

  ↓

足を持ち上げ血抜きをしながら休憩。


 を、ひたすら繰り返した。そんな一日の中で一番の収穫はお昼御飯の時だった。


 アイテムボックス内の時間が経過しているのかどうかの確認だ。

 それを確かめるため、昨日買ったのがスープパスタだった。

 俺のアイテムボックスに保温効果があるのか。それとも時間が経過しない、つまり止まっているのか。

 ドキドキしながらアイテムボックスからスープパスタを取り出す。


「温かいままだ……それに麺が伸びてない。と言うことは買ったときのままか?」


ー フゥー フゥー ズルズル ー 


 この世界でもパスタを音を出しながら食べるのはマナー違反だ。だが、日本人ならやっぱり麺類は音を立てながら食べたい。

 だから人がいないところでは、ズルズルと音を立てながら食べるようにしている。


「うまいな。屋台だからと期待してなかったけど。この味であの値段ならお得だな」


 スープの出汁もしっかり出ているし。鹿の干し肉と思う物もしっかりと柔らかくなっていて、噛めば噛むほど旨味が出てくる。


 結論。

 俺のアイテムボックス内は時間が止まっている。入れた時のままの状態で出てくるようだ。


「これもチートアイテムだな」


 他の人のアイテムボックスはこんな仕様にはなってない。アイテムボックス内でも時間は進んでいる。温かい物は冷めるし、長期間食べ物を入れておけば腐ってしまう。

 これで食料の長期保存ができるのは助かる。


 そういえば……ギルドで買い取って貰ったオバ草は、やたらと鮮度がいい!と言われたのはこれが原因か?


 採って直ぐにアイテムボックスに入れる。それを出すと、入れた状態つまり採ったばっかりの鮮度で出てくるというカラクリだ。


 こうして俺のアイテムボックスのチートが明らかになった一日だった。




 そろそろ日が傾き始めたので帰ることにする。今日の成果は普通のウサギ6匹、オバ草が昨日と同じくらい。ハーブは依頼されている量がある。ギルドでオバ草を買い取ってもらい、一葉に帰ろう。


 ギルドに着いたときには日が暮れていた。南門が混雑していて通るのに時間がかかってしまったのだ。そしてギルド内は非常に混雑していた。


「うわ、メッチャ混み混みだな」


 多くの冒険者達が依頼を終えて帰ってきており、報酬受け取りや買い取りカウンターは長い列ができ、併設されているバーも満員御礼状態。


 目的の買い取りカウンターへ近づいてみると、スタッフ総出で忙しなく動いていた。並んでいる冒険者達も若干イライラしている。


 こりゃぁ、見習いが並んだら睨まれそうだな。


 明日の朝早くに来て買い取ってもらった方がよさそうだと思い、買い取りカウンターを後にしようとしたとき、俺の担当をしてくれているアビーさんに声をかけられた。


「あ、ドルテナさん!オバ草の買い取りですか?ちょっと待ってて下さい。直ぐに伺いますので。部長!グストル部長!」


 ちょっ、アビーさん!部長さんとか呼ぶのやめて下さい!


 アビーさんの声を聞いた冒険者達の視線が俺に突き刺さる。


「アビーさん、アビーさん!大丈夫ですから、大丈夫です!明日、朝早くに来ますので、その時にお願いします」

「しかしそれでは鮮度の方が」

「それも大丈夫ですんで、明日また来ますので。アビーさんも忙しいでしょうから、ね?ね?」


 並んでいる冒険者を後回しにして、見習い冒険者それも成り立てのガキを優先したらマズいですって!


 そう思いながら列の方を見ると視線に殺気が混ざりかけていた。


 ほらぁ~メッチャ睨まれてるし。恐ぇ~!


「はぁ~そうですか。ドルテナさんがそうおっしゃられるのであれば。では明日お待ちしております」


 と言って深々と一礼された。

 アビーさんが一つ行動をとる度に、男性冒険者の視線に殺意が色濃く混じっている。


 ……俺まだ死にたくないッス!


「はい、明日また来ますので、では!」


 俺も頭を下げてギルドを後にする。頭を上げたときにふとカウンターを見ると、昨日対応してくれた女性が満面の笑みで手を振っていた。

 思わず手を振り替えしそうになるが、男性冒険者の膨れ上がる殺意を感じて踏みとどまった。

 

 ヤバい。剣に手をかけている人もいる?!


『このギルドは俺を殺したいのか!

 これがおまえらのやり方かぁ~!!』


 と言っても、こっちの世界の人には通じないよね。


 このままだと洒落にならないので、走ってギルドを後にする。


 生命の危機を脱した俺は、寄り道せず一葉の厨房へ向かう。この時間は宿泊客と一般客が食事をするため食堂は大混雑している。それに伴い厨房も大わらわ。

 伯父にハーブとウサギはどうするか聞くと、後で頼むと言われたので着替えて食堂の配膳を手伝う。1時間くらいするとだいぶ落ち着いてきたので厨房へ行く。


「伯父さん、ハーブここに置いとくよ」


 空いている台の隅にハーブを置いておく。

 そしてウサギを取り出して伯父と一緒に解体していく。時々伯父から指導を受けながらも1人で剥ぎ取りができた。


「テナーは筋がいいな。あと何回かやったら完璧だな」

「ほんとに?ありがとう!」


 ウサギの解体が終わったので部屋に戻って晩御飯にしよう。



◆◇◆◇◆◇



 翌日。


 今朝はゆっくりと起きた。今日はギルドでオバ草を売却してから草原に行くつもりだ。

 昨日と同じ場所で狩りをしていると、ウサギがいなくなる可能性があるから少し場所を変える。

 初めて行った草原をもう少し遠くまで行ってみようと思う。


 母に一言声をかけてからギルドに向かう。ギルドに近づいたとき、後ろから名前を呼ばれた。


「ドルテナさん。おはようございます。昨日は申し訳ございませんでした」


 振り返ると、そこにはアビーさんがいた。


「おはようございます。いえ、こちらこそ混雑している時間帯にギルドに行ったのが悪いんです。気にしないで下さい」

「お心遣いありがとうございます。今からギルドへお越しですか?」

「はい、オバ草の買い取りをしてもらいに。アビーさんは今から出勤ですか?」


 アビーさんの服装は、ギルドの制服ではなく私服だった。普段見ない雰囲気のアビーさんにドキドキしてしまった。

 予想通りやはり今から出動らしいから一緒にギルドへ向かった。


 同伴出勤をしている気分だな……。キャバ嬢と同伴出勤しているおじさん達ってこういう気分なんだろうか。


 そんなことを思いつつやって来たギルドには殆ど冒険者はおらず、殺気を含んだ視線に晒されることもなかった。

 アビーさんに、着替えてくるからカウンターて待ってて欲しいと言われて、カウンターの前で待つ。


 どう考えても同伴出勤してきたキャバ嬢と客のやり取りにしか聞こえないんだが……。


 いつもの制服姿のアビーさんにオバ草とウサギの毛皮、それに偶々遭遇した魔物の魔石も査定してもらうために取り出した。


「ド、ドルテナさん……これって魔石ですよね?どうされたのですか?」

「あ~、これはですね。草原で狩りをしていたら森から出てきたので仕留めたんです。決して林の中には入っていませんよ」

「そうですか……。ただ、見習いに成り立ての方がウサギとはいえソロで魔物を倒すとか普通ないですから……」


 ため息交じりにアビーさんが教えてくれた。


「でもあまり無茶をなさらないでくださいね?では魔物の討伐証明部位も一緒に出してくださいね」

「討伐証明部位?」

「ええ、講習会の時に魔物は報酬があるから討伐証明部位を必ず持ってくるようにと説明があったはずですが……」


 そういえばそんな話があったような、なかったような……。


「あ、討伐証明部位ってこれですか?」


 そう言って取り出したのはウサギの魔物にあった牙だ。

 伯父から聞いた話だと、魔物なったウサギにだけ牙が生えているらしい。


「はい、これです。それとギルドカードもお願いします。では暫くお待ちください」


 そんなに時間がかからずアビーが戻ってきた。

 討伐報酬とオバ草、ウサギの毛皮等の売却金を受け取った俺は、アビーさんに見送られてギルドを出た。


 南門を通って目的の場所に行く。が、アビーさんに教えてもらった場所ほどウサギはいなかった。ハーブはあったがオバ草はお昼までに10株だけ。


「ここはダメだな。この先の林に入ればいそうだけど、見習いは基本的に立ち入り禁止だからな」


 午前中の成果がイマイチだったので、どうも仕事をする意欲に欠ける。こんな日は能率も落ちるので仕事は終わりにした。


 帰るには時間が早いので、射撃練習をする。幸い、この辺りはポツンと生えている木が多い。


 取り出したのは、サブマシンガン【FN P90】だ。オプション選択で、お決まりのサプレッサーを選択した。そして所有者登録をしておく。


「な、なんだこの銃は。すごい形してんなぁ。あぁ、でもゲームの中でなんか見たことがある気がするけど、実在する銃だったんだ」


 独特のフォルムをもつP90をしばし見ていたが、あることに気づく。


「これ、どうやって持つんだよ……」


 テナーこと徳原兼次は、ミリオタでもなんでもない。ずぶの素人に独特の持ち方をするP90の持ち方など想像すらできなかったのだ。


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