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15話

 草原を抜ける前に戦闘服からレザーアーマーに着替え、南門をくぐる。


 先ずはギルドでオバ草の売却だ。アビーさんにもお礼を言わねば。

 昼を過ぎてそんなに経っていない時間。この時間は流石にギルドも静かだ。バーも遅いお昼御飯を取る人が少しいるだけで、飲んでいる人はまだいない。


 買い取りカウンターに行き、側にいたギルドスタッフに声をかけるがアビーさんは見えない。


「あの、買い取りをお願いしたいんですが」

「はい、こちらのカウンターにお出しください。あと、カードもお願いしますね」


 カードを渡しながら聞いてみる。


「アビーさんはおられますか?」

「あら、私よりアビーの方が好みなの?♪スタイルはアビーより自信あるわよ♪」


 そう言いながら両腕を寄せて谷間を強調させている。


 おいおい、13歳の子供に何を言ってんだよ。でもアビーさんの胸よりかなりデカいな。アビーさんがモデル系ならこの人はグラビア系だな。


 とはいえ、これでもかと強調された谷間から何とか視線を外すことができた。


「あ、いえ、そういう訳では」

「うふ。いいのよ気にしないで、冗談だから。えっと、何君だったかしら~……あ……」


 俺のカードの名前見た谷間を強調していたお姉さんが固まったてしまった。


「し、失礼い、いたしました。少々お待ちください」


 慌ててカウンターの奥へ行こうとして、途中の机に脚をぶつけていた。


 いや、そこまで慌てなくても。うわぁ、今、机の脚に指先ぶつけたよ。右足の小指っぽいな。痛そぉ~。


 暫くするとグストル部長さんが来られた。どうやら彼を呼びに行っていたようだ。


 部長さんが来るって事は……あれ?アビーさん、今日はあがったのかな?


「ドルテナさん、お早いお帰りで。アビーはこの時間お休みを頂いておりまして、夕方から出てくることになっております」


 そうなんだ、狩り場を教えて貰ったお礼をしたかったんだが、また明日にしよう。


 実はドルテナの帰りは夕方以降と予想していたギルドは、アビーに夕方前まで中休みを与えて遅い時間まで勤務させるように調整していたのだが、ギルドの努力は無駄になってしまったようだ。


「そうなんですね。たいした用ではないので明日でも大丈夫です」

「左様ですか。本日もギルドで買い取らせて頂けると聞きましたが」

「はい、またオバ草をお願いします」


 採ってきたオバ草を全て出す。今日は140株で買い取り価格が200バル。28,000バルの稼ぎとなった。


 今日は寄り道をせずに帰る。この時間に帰って伯父にウサギを渡せば、今夜の食堂のメニューに載せられるはずだ。

 裏口から入って、厨房の伯父へハーブと普通のウサギ3匹を渡す。


「冒険者2日目でもうウサギが捕れたのか?将来有望だな!でもなんで頭の半分ががグチャグチャになってんだ?」

「運がよかったんだよ。頭のやつは、冒険者の秘密って事で」

「確かに冒険者には秘密がつきものだ。ウサギの鮮度もいいし、毛の艶もかなりの物だ。なかなかの上等品だな」


 頭をぶち抜きました、とは言えない俺は苦笑いをして話を聞いてきた。


 さて普通のウサギは渡した。次は問題の魔物の方だ。伯父さんに渡したらどうなるんだろう。


「伯父さん、あのね、見て貰いたい物があるんだ」


 と前置きして魔物のウサギを台の上に出した。


「な?!テナー、これは魔物じゃねぇーか!それも普通の奴の倍はあるぞ。……林に入ったのか?!」

「いやいや、違うんだよ。これは草原で狩ったんだよ」


 伯父さんがすごい剣幕で怒っている。その声を聞いて母と伯母もやって来た。

 伯父は林や森の危険性を俺が理解していない、と思ったのだろう。確かに見習い冒険者は林や森の立ち入りを禁止されている。それは、見習い程度が林や森に入ると、中にいる魔物に殺される確率がかなり高いからだ。


 今回は銃の力で勝てたのだ。俺の剣術なんてペラッペラの紙みたいなレベルだ。そんな俺が剣だけで魔物のウサギに勝てたとは思えない。


「テナー、草原にこのサイズの魔物はでねぇぞ」

「うん、そうだね。こいつはね……」


 厨房に来た母と伯母にも草原であった事を簡単に話していく。魔物は突進してきたところへ剣を突き刺したことにした。

 まぁそれでも頭がグチャグチャになってるのは都合がつかないんだけど、そこは冒険者としての秘密情報なのでと誤魔化した。

 あぁ、でも母の目は誤魔化せられないようだ。あんたまだ何か持ってるのね、#的__てき__#な目をしてる。


「そりゃ不幸中の幸いだったな。兎に角怪我もしてねぇようだし。で、テナー、こいつどうするんだ?」

「どうするって?依頼されてたウサギだからここに出したんどけど。魔物は無理なの?」


 一葉からの依頼は、ハーブとウサギ。だから持ってきたのだが、魔物は捌けないのか?


「いや、うちは大歓迎だが、肉屋なんかに持って行くといい稼ぎになるぞ」


 俺は首を横に振る。まぁそうなんだろうけど、一葉の食堂で出せばここだって儲けられる。いい食材を安く提供すれば評判もよくなる。一葉には母も妹も働いているんだ、一葉の儲けや評判は母や妹にとってもいい事だ。


「そうか、ではありがたく買い取らせて貰うな。このサイズなら量もとれるしうまいぞ。賄いに少し残して、後は今夜のおすすめの一品にさせてもらうよ」


 お、やったぁ。今夜は魔物の肉が食べられるのか。楽しみだ♪


「じゃぁ早速こいつをばらすか。テナー、剥ぎ取りを覚えたいんだったな。教えてやるからちゃんと見とけよ」


 俺はウサギが捕れたら毛皮などの剥ぎ取りのやり方を教えてもらうことになっていた。

 ウサギの毛皮はギルドで買い取ってもらえる。


「まずここからナイフを入れて――」


 この後、伯父から皮の剥がし方から魔石の取り出し方、内蔵の処理を教えてもらった。


「とりあえずこんな感じだな。また自分でやってみてわからなかったら聞けよ」

「うん、ありがとう」


 これで今日の仕事は終わりだ。夕食までにはまだまだ時間はあるが、それまでにやっておきたいことがあるので厨房を出ようとしたとき母に引き留められた。


「テナー、後でお話があります。いいですね?」


 と母に言われてしまった。う、やっぱそうなりますよね。


「はい、夕方には帰ります」


 そう言って厨房を後にした。


 夕方までにやっておきたいこと。それはアイテムボックス内の時間経過がどうなっているのか、の検証だ。

 今日のお昼に食べたサンドイッチの肉が温かかった。偶々なのか、そうではないのか。これを確かめるために屋台を目指す。

 目的の屋台は冒険者ギルドの近くにあったような記憶がある。

 この世界にはめん類、中華麺ではなくてパスタの方がある。今はスープパスタを売っている屋台を目指している。


「さてと、どこで見たんだったかな。あ、あったあった」


 目的の屋台はギルド前の広場の一角にあった。


「すみません、一杯欲しいんですが、持って帰りたいので器ごと売ってもらえませんか?」

「器代も貰うけど構わないかしら?器も一緒で1,800バルになるわ」


 1,800バルを女店主に渡して器ごと受け取りそのままアイテムボックスに入れる。これが明日の昼に出したとき、温かいかどうかを確かめる。

 目的の物は手に入れたので街を散策してから帰ろうと思っていると、広場から出たところでアビーさんと出会った。


「アビーさん、今朝はありがとうございました。お陰で目的の物に出会えました」

「そうですか、お役に立ててよかったです。今日はもうお帰りですか?」

「はい、依頼の品も捕れたので、昼過ぎくらいに帰ってきました。あ、オバ草はギルドに買い取って貰いましたよ」


 今日のうちにお礼が言えてよかった。何時間にウサギ3匹捕れたのは、アビーさんにいい狩り場を教えて貰ったからだ。魔物も捕れはしたが……。

 また明日と言ってアビーさんと別れて街中に向いて歩き出す。


 夕方まではまだ時間があるので、色々な店を覗きながら歩く。服屋や履物店、小物屋なんかを見て回った。

 気が付くとかなり端の方に来ていたらしく、商店が殆どない場所まで来てしまっていた。

 ここから先は住宅街なのでUターンしようとしたとき、脇道の奥から何やら言い争う声が聞こえてきた。男と若い女の声だ。


「イヤ!離して下さい!ねぇ!離して!!誰かぁ!……」


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