14話
翌日。
「行ってきます」
厨房で母の作ったサンドイッチを受け取り、今日もハーブとオバ草を採りに行く。
午前中のうちに採取を終わらせて、今日はウサギ狩りをやってみる予定だ。因みに、こっちの世界のウサギは前世の中型犬くらいデカい。
成体で体長70㎝前後。体重も6~10kgはあると思う。耳はピンと立っているタイプだ。
昨日とは少し離れた場所で採取を始める。この辺りは林というより森に近いので、ウサギもよくいるらしい。朝のうちにギルドのアビーさんに聞いてきた。
昨日同様、戦闘服に着替えて、鑑定でハーブとオバ草を採っていく。
お昼前には目標の量を採ったので、少し早いがお昼御飯を食べるために近くの岩場に向かう。
するとその岩場の近くに目的のウサギを発見。
ラッキーだな。幸い向こうはこっちに気付いていないようだし。
早速ハンドガン【FN Five-seveN/サプレッサー】を取り出して近づく。付近に人影なし。距離を詰めて10mちょっと。片膝を付いて胴体に狙いを定める。
息を止めて右手の人差し指で引き金を引く瞬間、何かを感じたのかウサギは顔を上げて耳を四方へ向けた。
ー タンッ ー
頭を上げたウサギの胴体には当たらず、足元に着弾。音や飛んできた弾丸に驚いたのか慌てて逃げ出そうとする。
「チッ!外したか。ん?」
逃げ出そうとするウサギの動きがおかしい。どうやら外した弾が足を掠めたかなんかしたようだ。俺は慌てて近づきハンドガンを構え尚し引き金を引いた。その距離、約6m。
ー タンッ ー
まともに動けなかったウサギの頭部に着弾。
うむ。狙ったのは胴体なんだが……。
初の獲物を得るチャンスに慌ててしまったようだ。
ウサギは頭部に弾を受けたため、なかなかグロい状況になっている。
前世では吐き気を感じる光景だが、今の俺には初めて仕留めた高揚感しかない。精神は確実にこの世界のものになっているのだろう。
ハンドガン【FN Five-seveN】をアイテムボックスに入れる。持っていると次の作業が出来ないので、必ず使った後はアイテムボックスに戻すようにする。
その後に、ウサギの足を持って逆さまにし、簡単な血抜きをする。暫くすると出てくる血の量が落ち着いてきたので、アイテムボックスに収納して当初の目的のお昼御飯にする。
「お昼御飯を食べた後に、ちょっと肩慣らしがてらの練習してから次のウサギを探そうかな」
午後からの予定を立てながらアイテムボックスから母が朝に作ってくれたサンドイッチを取り出して食べる。今日は焼いた猪の肉が挟んであった。
「今日は猪か。焼きたてを挟んでくれたから温かくておい……えっ?」
何で温かいんだ?ちょっと早いがほぼ真昼だ。朝から既に数時間、朝に焼いた肉が温かいわけがない。
アイテムボックスという物には保温効果はないはずだ。食べ物を入れっぱなしにしておくと腐るし、温かい物は冷める。アイテムボックス内でも時間は経過するのが常識だ。
「まさか……。俺のアイテムボックスは容量だけがチートだと思ってたけど、もしかしたら時間が進まないのか?」
前世でのラノベには、アイテムボックスとかの中は時間が進まないパターンがある。俺のもそのパターンなのか?だとすると昨日のギルドの件も納得がいく。
オバ草の鮮度がやたらとよかったのは、採取して直ぐにアイテムボックスに入れたためなのではないか?品質がよかったのは説明できないが、鮮度の件はこれが原因の可能性がある。
街に戻ったら検証する必要がありそうだ。
そんなことを思いながらお昼御飯を食べた。
色々と気になることはあるが、とりあえず街に戻るまではウサギ狩りに集中しようと考えた。
「さてと、食べる物も食べたしそろそろ行動するかな。先ずは練習からだな」
昨日みたいに、ポツンと1本だけ生えている都合のいい木は見当たらない。だからといって林の木に向かって撃つのは、他の冒険者に当たる可能性もあるのでできない。
アイテムボックスに何かないか探していると、何とか的になりそうな物を見つけた。
「これでいいか」
昔、父に教えられながら作った木の置物。と思われる木の塊だ。
ノミの使い方を習っていたときに、熊の置物を作ろうと思ったのだが全然うまくいかず、よく分からない木の塊になってしまったのだ。
大きさも30㎝くらいあるので的にはなるだろう。
取り出した木の塊をウサギを捕った場所に置き、アイテムボックスからFN Five-seveNをとりだす。そして20m離れた場所から狙う。
「ふぅ。落ち着いてゆっくり狙う」
と自分に言い聞かせて引き金を引く。
ー タンッ タンッ タンッ ─── ー
全弾撃ち終わる頃には昨日の感覚が戻ったような気がするので、ウサギ探しに移る。
少し移動して開けた場所に出た。草の背丈も低いのでこれならウサギも見つけやすい。
ということで、早速見つけました。
開けた場所と森の境目から1匹のウサギが出てきた。距離は20mくらいか。姿勢を低くしてウサギに近づく。ウサギは森の方を向いていてこちらには気付いていない。そのまま10mまで近づく。
さっきとほぼ同じくらいか。今度は外さないぞ。
膝をつき、静かに深呼吸をして息を止める。狙いは頭部。
ゆっくりと引き金を引くが、さっきのウサギと違いこちらの気配には気付かず、ずっと森の方を見ているだけだった。
ー タンッ ー
「よし!」
狙い通り頭部に当てられた。ウサギが森の方を向いていたお陰だ。
FN Five-seveNをアイテムボックスへ収納し、ウサギの足をもって逆さまにして血抜きをする。
そうしているとまた15m先にウサギが出てきた。
「お?!」
ラッキーだな。こいつもまだこっちに気付いてないぞ。
採ったウサギを血抜きもそこそこに、アイテムボックスに入れ、FN Five-seveNを取り出す。
このウサギも森から出てきて、森の方を見ているので俺には気付いていない。さっきのウサギも森を向いていてくれたので狙いやすかった。
こちらに気付いていないので、スルスルと10mの距離まで近づき先程と同じ様に頭部を狙い引き金を引く。
ー タンッ ー
「やった!2匹ゲットだぜ!連続で捕れるとは幸先がいいな。アビー様々だな。ギルドに立ち寄ったときにお礼を言っておこう」
このウサギも足を持ち上げて血抜きをしておこうと思い、足を持ち上げたその時、偶々視界に入った右側の森から、こちらへと近づいてくる者を危険察知スキルが捉えてシルエットを赤くさせて警告していた。
慌ててそちらを見ると、まだ距離はあるが確かに赤いシルエットがこちらに近づいて来ているのがわかる。
「赤い……チッ!魔物か?!森に近づきすぎたのか?」
いや……違うな。
俺の危険察知範囲はかなり広い。意識すれば範囲は変えられるが、今は最大領域にしてある。それに察知されないところから俺を捉えるていたとは思えない。
急いで狩ったウサギをアイテムボックスに入れて、代わりにFN Five-seveNを取り出す。
この辺りの獣は人を見ると逃げ出す。肉食獣も狼などがいなくもないが、彼奴らは群れるから違うだろう。
向かってくるやつは1匹。
やっぱり魔物とみるのが正解かもな。
魔物と思う物体は、俺に向かって真っ直ぐ向かってきている。
この位置はマズいな。少しでも森から距離をとろう。
俺はまだ距離のあるシルエットから目を離さず森から離れる。森からの距離6m。この距離なら確実に当てられる。
対象のシルエットが近づいてきて分かった。このシルエットはウサギだ。
動き方も飛び跳ねながら近づいているので間違いないだろう。
しかしウサギというのは本来臆病な獣だ。だから人を見ると逃げて行く。だがこのウサギは逃げずに近づいてくる。そして赤いシルエット。危険察知が俺に対して敵意のある対象であると示している。
魔物で間違いないだろうな。
危険察知の範囲外から俺を見つけられたとは思えない。
となると、追っていた何かを見失ったか何かしたところに俺の気配を感じた。そんなところだろう。
……ついてないな。
森から出て来たウサギは、2匹とも森の方を向いていて俺には気付かなかった。あのウサギは魔物に意識がいっていたのだ。そしてその魔物は俺に向かって来ている。
「落ち着け。シルエットは見えているんだ。森から出てくるタイミングで撃てば先手がとれる。魔物ならサイズもデカいはずだ」
シルエットの動きに合わせながら銃を構えいつでも撃てるように引き金へ指をかける。
森からの距離、6m。魔物が森から出てくるまで……後8m………3m……今!
ー タンッ タンッ タンッ タンッ タンッ ー
立て続けに5発。森から出てきたタイミングでぶち込む。対象が飛び出してきた勢いのまま、俺の足元に飛んでくる。しかし動く気配もなく危険察知も既に反応していない。
「やったのか……」
飛び出してきたのは、やはりウサギの魔物だった。サイズは通常のウサギの約2倍の約1.5m程だ。
「これは……デカいな」
1発は頭部、もう2発は右胸に当たっていた。後の2発は外れたっぽい。俺に真っ直ぐ向かってきてくれたお陰で狙いやすかった。
「この状況、銃を持ってなかったらヤバかったのか?」
今回は真っ直ぐ向かって来てくれたが、左右に飛びながら来られたら当てられたかどうか分からない。
「心臓がバクバクだぞ」
辺りには他の魔物の気配はない。こいつも他のウサギ同様、足を持ち上げて血抜きをする。
「……しかし重いな」
魔物のウサギは20㎏は優にありそうな程に丸々と太っている。
普通のウサギ3匹、魔物のウサギ1匹。今日の収穫としては十分だろう。
魔物の血抜きをした後、普通のウサギも帰る前に血抜きを終わらしてしまう。街ではできないからな。
暫くすると血の量が落ち着いたのでアイテムボックスに入れる。
「さぁ、帰ろうかね」
今日の収穫に頬を緩めながら街へ向かって歩き出した。




