13話
小腹も満たせた所で、母とペリシアにお土産を用意するために数軒の店を回る。
まずはガラス製品を取り扱っている所だ。ここでは蓋付きの小さな容器を買う。
この世界でガラス製品は高級品なので、あまり一般家庭にはない。
目的の物は拳より一回り小さいサイズ。特に装飾がされているわけでもない物でも、1個9,000バルで販売されていた。
「すみません、これを2個下さい」
「はい、ありがとうございます。18,000バルですが16,000バルでいいですよ」
お、何も言わなくてもまけてくれた。品揃えもよかったし、今度も何か必要なときはここで買おう。
さあ、次は薬剤店だ。
この薬剤店は薬草の他、治療薬の製造販売をしている。今日ギルドへ売却したオバ草も、こういう薬剤店が買って販売する。
俺が今日採ってきたオバ草は、すり潰しただけの汁にも簡単な治療薬となる。
といってもアカギレが和らいだりする程度で、傷を治したりする効果はない。
俺もだが、母やペリシアが冬場にアカギレで辛そうにしていたので、これを贈ることにしたのだ。
ガラス容器を買った店でおすすめの薬剤店を聞いたので、その店に向かう。
「すみません、オバ草をすり潰してほしいんですけど、今からできますか?」
カウンターにいたのは、俺と大して年の変わらない女の子だった。
「オバ草ですね。大丈夫だと思いますが確認してきます。どれくらいの量がありますか?」
というので、ギルドに売却せず残しておいた10株と、ガラス容器をカウンターに出す。
「これをこのガラスの容器に均等に入れてほしいんです」
「分かりました。暫くお待ちください」
カウンターの奥にある作業場らしき場所へ走って行って、直ぐに帰ってきた。
「今からできますが、数が多いので少しお時間をいただけますか?夕方には出来上がります」
それなら問題ないのでお願いした。費用は1,500バル程ですんだ。
支払いを済ませた後、ちょっと気になる事があるので女の子に聞いてみる。
「ちょっとお聞きしますが、あなたの着ているそのエプロンはどちらで買われたのですか?」
女の子が付けていたエプロンがとてもよくて、母とペリシアにもあげたくなったのだ。
聞くとこの近くの店らしく、待ち時間の間に行ってみることにした。
教えてもらったお店……そこは女性物専門店だった。
……入りずれぇ~。
店の前で立ち尽くしていると店員が声をかけてきた。
「何かお探しですか?」
「あの、さっきこの先の薬剤店にいる女の子に教えて貰ったのですが、その子の着ていたエプロンがとてもよかったので、それを探しに来たんです」
そう伝えると、店員は俺をエプロンが掛けられている場所へ案内してくれた。
その中から母とペリシア、追加でラムの分も似合いそうな物を選んで購入した。が、ゆっくりと選ぶ余裕はなかった。
エプロンが掛けられている場所の奥に女性用の下着売り場があり、エプロンを選ぼうとするとその下着売り場へ顔を向けることになるのだ。
この世界の下着は所謂ズロースなのだが、中には前世のような物もあり、これはサイドを紐で結ぶタイプ、つまりヒモパンなのだ。
これだから女性物専門店は入りずれぇ~んだよ。
と言うわけで、そそくさと支払いを済ませた俺は、さっさと店から出て薬剤店に戻った。
「あ、お帰りなさいませ。もう少しで出来上がります。お目当ての物はありましたか?」
「はい、ありがとうございました。出来上がるまで店内を見させてください」
時間があるならどんな物が売られているのか見ておこう。
乾燥させて使うタイプの薬草、オバ草などの薬草から作られる治療薬などの薬。解毒剤もあるな。
今はいいが、そのうち傷を治してくれる治療薬位は持ってないと、冒険者としてはいけないんだろうな。
暫く店内をうろついているとお店の女の子が近づいてきた。
「お客様、ご注文の品が仕上がりましたのでご確認をお願いします。それと絞り粕は持って帰られますか?」
カウンターに置かれたガラス容器は、七分目あたりまで液体で満たされていた。もっと少ないかと思っていたが、割と汁が出るもんなんだ。
もちろん絞り粕も受け取る。食欲のない馬達にあげれば食欲が改善されるのだ。ラムに渡したら喜ぶだろう。
お礼を言って出ようとすると、カウンターの奥からこの店の薬師と思われる人が出てきた。
「お客様、ちょっとお話を伺ってもよろしでしょうか?」
「え、あ、はい。えっと、さっき作って貰った物を人に渡したいので、あまり長い時間は困りますけど」
母には日暮れまでに帰ると言っているので、少しくらいなら大丈夫だ。
「はい、お手間は取らせませんので。大変失礼とは思いますが、あのオバ草はお客様がお採りになった物でしょうか?」
「はい、今日林の近くで採りましたよ」
「左様ですか。お客様からお預かりしたオバ草は、全て質がよく鮮度もよい高品質なものでした。なかなかあの様な素材には出会うことはありません。薬師として大変によい経験をさせて頂きました。ありがとうございます。またお見受けしたところ見習いのご様子。これからもご贔屓にして頂ければ幸いです。何かございましたらいつでもご相談ください。ご武運をお祈りいたしております」
と何とも丁寧な対応をされてしまった。
おまけに店から出る際は、店の外までお見送りされてしまった。
一葉に帰ってきた俺は、裏口から厨房に入る。
「ただいまぁ。伯父さん、ハーブここに置いておくね。後、ウサギは捕れなかった。ごめんね」
「あいよ。初日からウサギまで捕れるとは思わないから大丈夫だ。ハーブがとれてたら……ってテナー?これ全部テナーが採ってきたのか?どこで採った?」
「え、うん、言われてた種類はたぶんあると思うよ。場所は南門から出た先にある林の近く。あ、林には入ってないからね」
伯父からは、何種類かのハーブを依頼されていたが全てあるはずだ。
昨日のうちに実物を見せて貰ったから取り間違いはないし、何より鑑定しながら採ったから間違いはない。
「あぁ、頼んでたヤツは全部あるが、あるんだが、あの辺りにはこんな形や香りのいい物は殆どないぞ。これなんて、普通は林の中のあまり日の当たらない場所でしか良質な物にはならない。林の手前にある物は殆ど香りがないんだ」
ないと言われてもあった物はしょうがない。それに林の中には1歩も入ってない。
「本当に林の中には入ってないよ。見習い冒険者は林には入っちゃいけないって、講習会でも言ってたから入らなかったよ。品質がいいなら問題ないでしょ?」
うむぅ~と唸る伯父を残して母の元に行く。
「お母さんただいま。これとこれ、お土産ね」
「お帰りなさい。怪我もしてないわね。冒険者一日目ご苦労さまでしたね。で、何をくれたのかしら?あら、いいエプロンね。ありがとう。もう一つは、これガラス製品じゃない。こんな高い物大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。ハーブと一緒に採ったオバ草がいい値段で売れたんだ。その中の液体はオバ草の絞り汁だよ。手荒れなんかに使ってね」
ペリシアには部屋で渡そう。今は部屋の案内で忙しいだろうし。部屋に帰る前に厩舎に向かう。
「ラム、ただいま。これお土産のエプロン。ラムに気に入ってもらえたらいいんだけど。あと、馬達にオバ草の絞り粕」
「あ、おかえり~。うれしい~、ありがとう。でもいいの?」
「うん、今のエプロンはだいぶ長い間使ってるし、そろそろサイズもね」
俺もだが、ラムも身長が伸びている。
今使っているエプロンはラムがここに来たときから使っている。その為、エプロンのサイズがあってないのだ。
好みを聞かずに買ってきたけど、ラムに気に入ってもらえたようなので安心した。
エプロンを渡し終えたので部屋に帰り体を拭いた。
そしてレザーアーマーの手入れをしていると母とペリシアが帰ってきた。食事は一葉のまかない飯だ。
食事の前にペリシアへお土産を渡す。母同様、手荒れに辛そうだったペリシアにもオバ草の絞り汁は喜んでもらえた。もちろんエプロンも。
「テナー、ハーブの報酬貰っといたわよ。本当にいいの?」
そう言うと、アイテムボックスから硬貨を取り出した。
母にお土産を渡した後、本当なら伯父から報酬を貰う予定だったのだが、ブツブツ言っていたので母に受け取りをお願いしておいたのだ。
そして、一葉からの報酬は全額母に、つまり家に入れるようにした。
「一葉からのはね。でもずっと一葉からの依頼を受け続けられる訳じゃないから今だけになっちゃうけど」
「それでも家計は助かるわ。ありがとう」
母は笑顔でアイテムボックスへ入れた。
冒険者として当面の活動は、一葉の依頼をこなしつつ射撃の練習となるだろう。




