10話
誤字がありましたので修正しました。
13歳の春。
父がいなくなったあの日から1年半が過ぎた。
今日は冒険者ギルドに来ている。毎月1回開かれる新人講習会を受けて冒険者見習いの登録をするためだ。
13歳から登録ができ、見習い冒険者を2年間行えば一般の冒険者として登録される。
見習いをせずに冒険者になる場合は16歳まで待たなければならない。なので冒険者を目指すほとんどの人は見習いから始めて15歳で一般冒険者になる。
冒険者ギルドは二階建てで、1階が各種受け付けとなっている。軽い食事もできるバーも併設されているようだ。
前世のラノベとかに出てくるギルドのイメージのまんまだな。
2階には会議室があり今回のような講習会などにも使用される。入ってみると意外と広かった。
1階で新人講習会受付と書いてあるカウンターへ行く。
「すみません、新人講習会を、受けたいのですが」
「はい、ではこちらの項目を書いてください。その後に、このカードへ自分の血を一滴垂らしてくださいね」
と、受け付けカウンターのお姉さんが対応してくれた。
このお姉さんがこれまたラノベの設定でよくある、容姿がよくて着ている制服は特定の部位が強調されていてってやつだった。胸元に目が行きそうになるのを必死で我慢する。
他のカウンターのお姉さんも綺麗どころを揃えた感じだった。スタイルは……人それぞれだ。
渡された用紙に書かれている項目を埋めていく。その後にカードへ血を垂らしてお姉さんに渡す。
「はい、ありがとうございます。それでは奥の階段から2階に上がってください。正面の部屋が講習会場となります」
「はい、ありがとうございます」
お礼を言い会場へ向かう。部屋には既に4人ほど人がいた。この後もう一人きたので、俺を含めて6名で講習会となるようだ。
ギルド職員の男がやって来て講習会が始まった。冒険者のイロハを説明してくれる。
依頼の受け方からランク、野営の仕方、各獣や魔物の特徴、ギルドでの報酬の受け取り方等々。
最後はギルドでの獲物の売却についても教えてもらえた。セールスっぽい物も入っていた気がするが……
中でも1番金になるのは、魔物が持っている魔石らしい。
この魔石、時計の動力になるだけではなく、隷属魔法や各種契約書を作る際にも使われていると教わった。
他にも使い道はあるそうだ。例えば、冒険者の必須アイテムのポーションならぬ治療薬にも魔石が混ぜてあるらしい。
見習いには一般冒険者と違って受注可能な依頼に制限がある。
基本的には街中の依頼となる。壁の外の依頼は街の周りの草原までとなっており、林から奥に入ることは基本的には禁止されている。
この制限は見習い達の生命を守るためなのだ。林から奥に入れば魔物との遭遇率も高くなるだけでなく、強さも奥にいけば行くほど強くなる。
ギルドとしても、未来ある冒険者を失いたくはないのだ。
依頼を達成するか、依頼以外でもギルドに貢献するとギルドポイントが付く。このポイントをある一定まで貯めるとギルトランクがあがっていく。
ランクは最上位からSS>S>A>B>C>D>E>F>G>H
ランクSSとランクSは、遙か昔に存在していた大魔法使いや、特殊なスキルを持っていた剣士がランクSSやランクSとなっていたそうだ。ここ数百年いないらしい。現在、生きている冒険者での最高ランクはランクAだそうだ。
見習いはランクHから始まる。
見習い期間の2年の間に70%の人がランクGになるが、それ以上のランクアップは不可能と言われている。
理由は、受けられる依頼に街中及び林までという制限があるため、依頼達成のギルドポイントがランクFへのランクアップに必要な数を得られ難いためだ。
そうは言ってもごく稀にランクFになる見習い冒険者が現れるらしいが、そういう者は将来必ずランクAに到達すると言われている。
通常は2年間で1ランクしか上げられないが、それでも見習いになる事で未成年者であっても街を守る壁から外へ1人で出ることが認められている。
マホンでは未成年者が外へ出る為には保護者の付き添いが必要となる。1人で門を通ろうとしても止められてしまうのだ。
なので外の世界を自由に歩き回れるというのはこの世界の未成年者にはかなり魅力的なのだ。
自力で1ランクしか上げられない見習い期間が終わり一般冒険者になった暁には、お祝いを兼ねて全員自動的に1ランクアップとなる。
その為、15歳で一般冒険者ランクFになる。
尚、この時点でランクFに成れなかった人達は冒険者としての適性がほぼないということになり、冒険者を諦めることとなる。稀にやり続ける人もいるそうだが……。
因みに、16歳からギルドに入る場合はランクFの一般冒険者としてスタートする。
ランクF以降は徐々に受けられる依頼の幅も広がり、見習いの時より速いスピードでランクアップしていく。
とはいえ、未成年の冒険者はランクDにはなれないといわれている。ランクDからの依頼には対人戦、つまり人を殺す事が予想される護衛任務などがあるからだ。
ランクDからはギルドポイントだけでなく、ギルドによる昇格試験を受ける必要があり、成人していない者にその手の依頼はさせないようにしている。
この世界の成人は16歳となっている。その為、ギルドとしての配慮なのだ。
「だいたいこんなとこだな。今後活動する上で何かあれば、遠慮なくギルドに相談する事。特に見習い達はギルドの保護下となっている。些細なことでも独り立ちするまではギルドを親の様に頼るんだぞ。自分一人で抱え込まないようにな。何か質問はあるか?……ないならこれで新人講習会は終わりだ。帰りに必ず受け付けでギルドカードを受け取るようにな。では解散!」
部屋を出た俺は、1階のカウンターで発行してもらったギルドカードを受け取る。
このカードには名前、年齢、性別、冒険者ランク、発行したギルド名が記録されている。
年齢やランクが変わるとカードに記載してある内容が書き換えられる。前世のリライトカードみたいだ。
このカードは各街のギルドでも有効で、ギルド間には魔法的な繋がりがありそれで情報の共有が可能になっていると講習会で教わった。
発行する際に自分の血をカードに垂らしており、本人確認は血液で行われるようだ。
このシステムのお陰で不正はできない。
なんでも、血液には魔力が含まれており、そのパターンが人によって全て違うらしい。DNAの事か?とも思ったが俺には知る術はない。
さぁ、カードも貰ったし今日から冒険者としてのスタートだ。見習いではあるが。
因みに見習い達が、たちの悪い冒険者に絡まれるというお約束は起きない。
なぜなら、見習いはギルドの保護下に置かれている。その為、冒険者見習達にちょっかいをかけたりした場合、ギルドからペナルティもしくは罰を受けることとなる。
俺が厩舎の仕事を辞めて冒険者見習いになろうと思ったのは、強力な武器があるというのが一番の理由だが他にもある。
アイテムボックス容量無制限と鑑定スキルに加え、13歳の誕生日に“危険察知スキル”と“装備品全解放”を取得したのだ。
“危険察知スキル”はパッシブスキルで、自分を敵対視している者、危害を加えようとしている者、又はその可能性のある者が、危険度によって黄色から赤色のシルエットになって見える。
そのシルエットは物陰でも透けて見えるというとても素晴らしいチートスキルである。
敵対視していたり危険性があると予測される程度なら黄色いシルエットとなり、危険度が増せば赤味が増してくる。そして最も危険になると真っ赤になるという物だ。
そしてこの対象範囲は意識すれば変えられる。
このスキルは、今まで聞いたことがなかったので自分以外は所有していない可能性がある。他の人に気付かれないようにしなくてはいけないと思う。
“装備品全解放”もチートだった。
アイテムボックス内に“装備品”という枠ができて、意識するだけで予め設定した装備品を一瞬で装着出来るという物だった。
こんな便利なシステムはアイテムボックス持ちの人でも見たことがないので、きっとこれも俺だけのチート設定なんだと思う。
その装備品のプリセットで、とある装備品が設定されていた。
俺には見覚えもあり誰が装着していたかも理解できる物。それは”迷彩柄の戦闘服”。
それを鑑定してみると“自衛隊戦闘服/イーリス仕様”となっており、確かに、見た目も前世の自衛隊が着ていそうな感じがする。
鑑定すると詳細に“イーリス仕様”の内容が書いてあった。
イーリスとはこの世界が存在する惑星のことで、この世界の人は地動説を理解している。
そしてこのイーリス仕様というのがチートなのであった。
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【イーリス仕様】
防御力:極大(ほぼ全ての攻撃を無効化する)
自動修復:破損部分を修復し初期の状態を維持する(汚れにも対応)
重量軽減:重量を90%軽減する。
気温維持:内側の温度を一定に保つ。
肉体強化:着用者の筋力を強化する。
体力回復:着用者の体力を徐々に回復させる。
免疫強化:着用者の免疫力を強化する。
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一度着替えてみたのだが、まぁ、着替えるといっても一瞬で今着ている物と入れ替わるのだが。
頭部にヘルメット(イヤーマフ付き)、上下迷彩の服、ブーツ、見えないけど靴下、グローブ。
この世界には馴染まない容姿だ。オプションもあるが今回は付けてない。
何とも身軽だが、イーリス仕様のお陰でこの世界ではトップの防御力を誇るはずだ。
ちなみに今の俺の装備はレザーアーマーに武器がショートソードといわれている剣だ。それもかなり使い込んである中古品。
俺が冒険者になると母に話したら、装備を揃えるための支度金をくれて、それで購入した物だ。手渡された額はかなりのものだったが、俺は最低限の物で済ませた。
そんな装備を見た母は、お金が足らなかったのかと慌てていたが、ほとんど使ってないお金を返すと驚いていた。
装備は冒険者にとって命を守る大切な物。それにお金をかけるのを惜しんで命を落としたのでは意味がない。だからそんな装備を選んだ俺を、かなりきつい口調で怒り出した。
「あなたは何を考えているの!装備を疎かにする冒険者なんていません!死にたいのですか?!あぁ、私も一緒に行くべきだったわ。テナーはしっかりしてるから大丈夫と思ってたのに。兎に角、もう一度装備を選び直しに行きなさい!あ、いえ、それではだめね。お母さんも行きます。いいですね!!」
……散々な言われようだな、俺。




