プロローグ
「ありがとうございましたぁ……ふ~、終わったぁ。今週はちょっと忙しかったな」
俺は徳原兼次。修行先の関西から地元に帰ってきて3年目。来週で29才になる。
仕事は理容師、そう散髪屋さん。
俺の家はじぃさんが戦後に店を出して俺で三代目。じぃさんは俺が高校を出た後に引退。親父が一人で店をやっていた。その親父も腰を痛め仕事が厳しくなり修行先から帰ることになった。
人口5万人の小さな市だがお陰さまでそれなりに仕事をさせてもらってる。修行時代の勤務に比べれば楽だが一人でやるとまた違う。
あの頃は朝8時出社で最後のお客さんが21時前に終わる。その後閉店作業をして晩御飯。更にこの後、後輩のレッスンを見てあげて退店する時には日付が変わっている。
今考えるとよくやってたなと思う。
さてと、レジを締めて店の片付け。売上金を近所の地方銀行の夜間金庫へ入れ、週末の楽しみのビールを買いに車で近くのスーパーへ出かける。俺は週末以外は晩酌をしない。
田舎は近くても基本車移動だ。地元に帰ってきて「歩く」事が少なくなった。
ーウゥ~!ウゥ~!ウゥ~!ー
遠くでサイレンが聞こえる。
「ん?消防車か?いや、パトカーのほうか」
田舎では救急車のサイレンは良く聞く。なんせ高齢者が多いのだ。だがパトカーや消防車は珍しい。
サイレンと共に何やら叫ぶ音が聞こえるからきっとパトカーだな。違反車両でも追跡中か?
のんびりとした田舎ではあまり聞き慣れない音に興味を持ちつつ、いつもの道でいつもの店に行き癒しのビールを買いう。いつも通りの週末。
強いて言えばいつもはA社のビールだがちょっと贅沢にS社のプレミアムなやつにした。今週はいつもより忙しかったんだ。たまにはいいだろう。
ここまではいつも通りの週末。
ここからがいつもとは違った。
そしてこれがすべての始まりだったのだ。
レジを済ませ車で自宅に向かう。途中の交差点での信号待ちをしていた俺は、ふとさっきのパトカーのサイレンが気になった。
「さっきのパトカーは結局なんだったんだろうなぁ。飲酒でもして逃げてたかな?」
なんて呟きながら、信号が青に変わったのでアクセルを踏む。交差点に進入した時、急に右側から強い光が……