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さらばだ、諸君

お別れです。

「この世界はある、神となった人間の遊び心によって創られた。『人の世を』実際に現す為に。まず最初に世界を創り、そこに人を生み出した。次に文化を与え、物語を生み出した。この時点で、アルカネ、アキナ、そこの老兵は既に生まれていた」


「次に神は、物語を築くため世界に下準備を施した。少年を、私を、森の守護者を、国王を、ありとあらゆる世界から呼び寄せこの小さな舞台の役者に仕立て上げた。全ては少年を主人公にするため、苦悩の果てに全てを失い世界を救う英雄に仕立て上げるため、他の世界から呼ばれた人間は案内人ナビゲーターとして道を正す役目を得たのだ。私の役目は、君達をここまで連れてきて、殺すこと。だから、まず竜人の巫女を殺した。次はお前だ」


ノノさんは別の手に同じ銃を出現させてカメリアさんへ向けた。


「やめて!」


私の声なんて構わず、ノノさんがカメリアさんに向かって引き金を引いた。顔と胴体に弾を数発受け、カメリアさんの体がガクガクと痙攣している。ノノさんの視線はずっと私を射抜き続けていた。


「こんなことして、ノノさんは、何も思わないんですか……? 苦しく、ないんですか?」

「苦しい? ……ああ、苦しいさ。何も思わない訳ではない」

「だったらどうして!」

「こうするしかないからに決まっているだろう!!」


苛立つようにノノさんは地面を踏みつけた。驚いたユーリが腰を抜かして地面にへたり込む。


「何故私が殺さなければならない、こんなにも優しく情に溢れた君達を何故手に掛けなければならない! 悲劇の好きな神など当事者にとっては迷惑なだけだ! 何故人は悲劇を好む? 悲惨な光景を見て自らの安心、幸福を引き立たせたいからか? これは劇じゃない、現実だ! 仮初めの世とはいえ、私達は生きている! おい、スヴェラ! そこでずっと嗤っているんだろう、もう私はお前の意には従わない!」


声を荒げるノノさんは、泣いていた。

不条理を目の前にして叫ぶノノさんの表情は悲痛で。

誰にも変えようのない現実がただそこにあるだけで。


「最期くらい、私らしく死んでやる」


ノノさんはそのままゆっくりと、

手に持っていた拳銃を自分の頭に向けた。

その手は震えていて、とても引き金を引けるような状態ではなかった。しばらくして力なく銃を下ろした。


「ははっ……人を殺めておきながら自分を殺す度胸はないときた。私はとんだ卑怯者だな」

「誰でも、死にたくはないと思います。私は普通だと思いますよ、ノノさん」


私は震え続けるノノさんの手を握った。


「カズトのいる場所を、教えてくれますか」

「……城の中に入って、地下へ続く階段がある。その先に少年はいる。今頃はヴィードと戦っている時だろう。まあ、少年は殺してはいけない決まりだ、あいつは必ず負ける。2人で迎えに行ってやるといい」

「ノノさんは、来ないんですか?」

「私に付いていく資格はないさ。裏切り者は二度と仲間を名乗ることは赦されないからな」

「……分かりました」


ノノさんは笑いながら首を振った。私は腰を抜かしてへたり込んでいるユーリを抱き抱え、城の方へ向かっていく。

しばらく進んで振り返ると、ノノさんは再び銃をこちらに向けていた。声は出さず、


『戻ってくるのなら撃つ』


そう口を動かしているような気がした。


「またいつか会いましょう、ノノさん」


もう、振り返らない。

後ろは見ない。ただ、進むべき場所に向かうのだ。


「待っててカズト、すぐ向かうから」


城の中へ、私とユーリは進んでいく。滅びから逃げるように、かつての仲間を置き去りにして。


__


「……行ったか」


少女達の背中が見えなくなると、私は地面に座り込んだ。もう何をする気力も残っていない。黙っていれば世界と共に滅びることができる。茜の空に浮かぶ大量の明るい粒子は神秘的で、神々しさすら感じる。


「さてと、私もそろそろ退場しようか。2度も死を体験できるなど、そうできることではない、恵まれない生を送ってみるものだな」


始めて死んだあの時はどうしていただろうか。確か、殺すことに失敗しなぶられていたはずだ。冷たい地面と日の当たらない暗闇の中で一人、助けを求めていたような気もする。


傷口から熱が逃げていく感触。今回は楽に死ねるから、あの時の寂しさは感じずに済むかもしれない。

……叶わない願いだろうが、今度こそ、次こそは。


「また全員で笑って暮らせる世界を見てみたいものだ」


そもそも次があるわけなどないのだが、願うくらいならいいだろう。


私はなんの躊躇いもなく銃口を咥え込んだ。

そのまま勢いに任せて、引き金を―――




確かに響いた発砲音と、傾ぐ身体。世界が反転し、宙が大地になった錯覚を覚える。


「―――ああ、そうだ」


少年は、私が死んだら、


悲しんでくれるだろうか―――





私は、目を閉じた。

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