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終焉の銃声

カズトがいなくなり、私達はカメリアさんと共にカルボシルの探索を続けていた。


「やはりおかしい、血痕は複数見つかるというのに遺体が何処にもない」

「カズト、どこに行っちゃったんだろう……」


外壁から回り、城内へ向かって探索を続けること1時間くらい。生存者は今の所見つかってはいない。先に行っただけだと思っていたカズトの姿も捉えることができず、微かな緊張と不安が再び私達の周囲に蔓延し始めていた。


「恐らくカズト殿は城内の探索をしておられるのでしょう。生存者が居る確率はそちらの方が高いと思われます」


そこで、再び大きく地が揺れ始める。また一段と大きく揺れ、城の瓦礫が音を立てて崩れる。


立っているのも困難な程の揺れに耐えかねたのか、アキナが魔法の翼を広げ私達を抱えて空へ飛び立った。


「私にしっかり掴まって! 空だったら地震も関係ないよ!」

「おお、かたじけない」

「ユーリ、私に掴まって」

「あ、ありがとうございます」


空へ浮き上がるとあれ程酷かった揺れを感じなくなる。

そのまま下を眺めると、遥か先におかしな光景を捉えた。目を擦ってみてもその様子が変わることはなく、思わず声が漏れた。


「なんなの、あれ……」

「どうしたの、アルカネ?」


不思議そうに私を見るアキナに、私はその先を指差した。


光の粒子となって消えゆく、大地の端を。


「なっ……」


アキナが言葉を詰まらせる。けれどもすぐに平静を取り戻し、苦々しい口調で続けた。


「……もしかしたら、あれが滅びなのかもしれない。世界の崩壊が始まったのかもしれないわ」

「カズトを捜しましょう。カズトが鍵なんでしょ、アキナ」

「うん、時間が無いから急ぐねっ……」


そこまで言いかけたところで、空中に浮くアキナがバランスを崩した。遅れて乾いた音がして、掴まっている私達共々地面へ落下していく。下にはバラバラの瓦礫が見えた。


「っ……、魔力を用いて宣言する! 私達を受け止めて、『防壁(シールド』!」


咄嗟に張った防壁はとても硬く、ぶつかると鈍い痛みが頭と身体を襲う。いや、痛みなんてどうでもいい、痛みを感じるのなら死んではいない。それよりもアキナだ。


「アキナ、大丈夫!?」


すぐに私は横に落ちたうつ伏せでいるアキナの身体を強く揺する。

まるでモノのように規則的に揺れ、気味が悪かった。

急いでアキナを抱き起こすと、血が流れていた。眉間に一つ、何かが通り抜けたような穴が空き、そこから止めどなく血が溢れ出している。

見開かれた目は突然のことに驚いたのか。弛緩した全身はだらりとしていて、胸の鼓動も弱々しくなっていく。


「カメリアさん! アキナの心臓を何回も強く押してください! ユーリも力を貸して!」

とにかく叫んだ。頼れる人には頼る。アキナを助けないと。


「魔力を用いて宣言する、彼女の創を治して! 」


「『再生』!」


淡い光がアキナを包む。まともに扱えない回復魔法を使い始めた瞬間、全身を激しい疲労が襲う。創が塞がる気配なんて一向に無い。


「アルカネ殿、遅れて申し訳ない!」

「アキナさん、しっかりしてください!」


少し離れた所に落下していたカメリアさんとユーリが走ってこちらに来る。状況を一瞬で察したカメリアさんが、心臓マッサージを始めてくれた。


「植物さん、アキナさんを助けてください……!」


アキナの全身が緑色に淡く輝きだす。私は意識が途絶えそうになるのを歯を食いしばって堪え、持ちうるありったけの魔力を注ぎ込んだ。甲斐あってか、僅かに創が塞がり始める。


だけど、瞳に生気の色はない。どこか遠くを見ているようで、ぴくりとも動いている気がしなかった。


私達はアキナの治療を続けた。何分、何時間?

分からない。


日が暮れて、アキナは動かない。


それだけが事実だった。

致命傷となったのは頭を貫いた―――弾丸。


「……慣れていたつもりでいましたが、やはり堪えますな」


埋葬する時間も、残ってない。世界の滅びはすぐ背後にまで迫っていた。

私は、アキナの頬に口付けをした。もう二度と会えない。だから、別れのキスを。したくなかった、さよならを。


「アルカネさん……」

「……行きましょう」


なにも話したくなかった。よく分からない感情が溢れていて、暗い気持ちに溺れてしまいそうで前に進みたかった。こんなところからいなくなりたい、


「皆で、笑って暮らせる世界で暮らしたいよ……」



「君は、そういう世界を望むのか。アルカネ」


突然聞こえた声に、私は顔を上げた。

―――目の前、少し離れた所に、ノノさんが立っていた。


「辛気くさい顔をしているな、少女。なにがそんなに悲しい? 私に話してもらえるか」

「……アキナが、誰かに銃で撃たれました」

「少年の使う武器でか。私達の他に残党でも

「隠さなくてもいいですよ、ノノさん」


私は前を見据えた。ノノさんじゃない、ノノさんみたいな人の目をじっと見た。ノノさんは、溜め息を吐きながら頭をがしがしと搔いた。


「はあ……これだから汚れ仕事は嫌だと言ったんだ。あの時覚悟を決めたはずだったのだがな」

「やっぱり、アキナはノノさんが殺したんですか」

「そうだ、私が撃った」

「どうして!?」

「どうして? そう決められていたからだ。私が殺す、そういう台本だ。少女たちをここまで誘導し、全員殺す。それが私の仕事だ。この世界の神が決めた、変えようのない運命だ」


私は、腰の剣を引き抜いた。ノノさんは銃を持っている。こんなこと無駄だとは思うけど、自衛をするにはこれしか手段がない。


「良い構えだ、よく鍛えている。だが、相手が悪かったな」


そう言ってノノさんの姿が消え、手に強い衝撃が走った。遥か遠くに、持っていた剣が転がった。カチャリと、金属音。私の口に、大きめの銃が突き付けられていた。


「最期だ、全部話そう。私が知りうる世界の真相を、避けられない結末を」

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