終焉への銃声 1
お久しぶりです。こんな亀更新じゃいつ終わるか判ったもんじゃないですね、気合い入れて頑張ります。
「じゃあ、カズトが撃たれて連れて行かれるところから話すわね」
「あの後、カズトを乗せたはずの荷車の後ろを付いていったの。はずって言うのもちゃんと確認はしてなかったから、恐らくと思ってね。カズトが乗せられていたのは前の荷車で、後続の荷車はこっちに向かわせる援軍だったみたい。今思えば、アキナの能力でカズトの居場所は判ったのにね」
「つまり、別の荷車の後を追ってこっちに来たの?」
「そう言うこと。それに気付かないでカズトのいない荷車を追っていたら此処に着いたの。銃の音がずっと鳴り響いてて、とっても危険な場所だった」
確かこの地域は敵に包囲されていると言っていた。戦闘の激しい地域だったのだろう。アルカネ達が付いていったのは援軍なのかもしれない。
「荷物が下ろされてカズトがいないのが分かって引き返そうと思ったけど、兵士達が戦っているのを放って置くわけにはいかないわ。カズトだったらきっと助ける、そう思って皆で加勢することにしたの」
「でも、だったら……」
僕はそう言いながらゆっくりと来た方向、亡くなった兵士達の方を見やった。
カメリアさんは大丈夫だろうか。
「その時は、追い返すことには成功したわ。経緯を説明して、協力する約束も取り付けることができた。しばらくは何とかなると思ってたの。でも……」
そこまで言いかけたところでアルカネは黙り込んでしまった。それを見てノノさんが、揺れる火を見つめたまま言った。
「来たのだ。死神が」
「死神……?」
「少年の姿をした死神が、全てを刈り取っていったのだ。少年」
「っ……また、あいつが……」
ついさっきも、もう一人の僕は自分で作った兵を殺していた。
飽きた玩具のように無関心に。思わず、肌が粟立った。
「私達4人を残して全員を殺し、死神は姿をくらませた。だが、少し焦っているようだった。何かの限界が迫っているのかもしれない。長引くと思っていた戦いは思いの外早く終わるはずだ、短期決戦を仕掛けてくる可能性が高い。このまま本拠地を叩くか一度引き返すか、どうする少年」
「本拠地って、どこにあるか分かるんですか? ノノさん」
「ああ、分かっている」
ノノさんは力強く断言した。
「敵は北から南へと進軍し、かつ一点から円状に広がっている。後は地図と照らし合わせて向かえばおおよその位置は特定可能だ」
「カズト殿、お仲間の皆様、失礼致します」
ノノさんの説明を聞いていると、カメリアさんがこちらの部屋に来ていた。手にはいくつものネックレスが握られていて、恐らくドッグタグのような役割を果たす物だろう。
「もう大丈夫なんですか?」
「仲間の死を悼むのはほんの一時で十分です。必要以上の哀れみはかえって彼等の死を惨めに変えてしまいます、私は生きた証を背負い、前に進むのが役目です。話を変えますが、先程ウィード殿からカズト殿に伝言がありましたので御伝達を」
あのウィードから僕に伝言? 何だろうか。
「ウィードは何を言ってた?」
「たった一言です。『後は任せたよ』とだけ仰っていました」
「?」
どういう意味だろう。別に何か大事な物を預かっているわけではないし、何か頼まれたっけ?
記憶を探るがそんな内容の会話はした覚えがない。では任せたとは何かの暗喩だろうか。
「では私は辺りの哨戒へ参ります。日が出る頃には戻りますので、ゆっくりとお休みください」
カメリアさんは返事を待つことなく足早に部屋を出て行く。部屋にはいつの間にか船を漕ぎ始めたアルカネとどこか遠くを眺めるノノさん、焚き火を眺める僕が残された。
誰が話し始める事もない、部屋には微かな寝息の音と廃材の燃える音、残りが闇夜の静寂さで満たされている。
僕は床に寝転がり、火の方を向きながら目を閉じた。
_____
僕は時々、なぜ旅をしているのか忘れる時がある。
最初はただ不安だった。
場所も分からない所に放り出され、指示も合図もなく彷徨うのかと心配だった。
一人の同い年位の少女に助けられたあと。
魔物に襲われ、変な能力を手に入れて。
国に移動すると変な王様に絡まれた。
なんだかんだあって竜人と戦争をして、
その竜人の少女に救世主と呼ばれて、その子の父を殺した。
助けられた際に関わった、干し肉が大好きな医師の女性も仲間に加わり、いつしか僕の回りはとても賑やかになっていた。
カルボシルへ向かう途中に立ち寄った村で、僕と同じ世界から来た女の子は森を大切に守っていた。
そこでもう一人の僕と出会い。
大きな魔物を皆で倒し。
僕は少女と話をした。
心を開いてくれた時は嬉しかったけど、飛び降りたときは焦った。
目の前で誰かが死ぬのが怖かったから、僕は咄嗟に助けた。
過去を無理矢理思い起こして、現実を見せられて、どうすればいいか判らないまま、カルボシルで戦争に巻き込まれている。
この世界の何処にも永遠は見つからない。
でも僅かな疑念は時を経て確信に変わりつつある。
――きっと、ここが終着点だ。
僕らの旅はもうすぐ終わる。
予めこの世界には終わり、滅びが予言されている。その滅びを食い止める救世主とされるのが僕であれば、必然的に僕らは滅びに立ち会うこととなる。
不自然な地震にウィードが残した言葉。
その時はもうすぐそこまで迫っているのかもしれない。
「少年。まだ、起きているか」
微睡みに落ちる寸前、僕を呼ぶノノさんの声に意識が引き戻される。
「……寝ているならそれでいい。これは私のただの独り言だ」
ガラスのない窓枠に腰掛けながらどこかを見続けるノノさん。
どうしてかノノさんは悲しそうな顔をしていて、いつもの陽気な雰囲気とは対照的で。
「私は幸福だ。死を以てすら償いきれない罪を抱えながらも君達に出会えた。僅かではあるが、仲間として共に生きることが出来た。これは奇跡であり夢なのだろう。そう、何時か必ず終わる泡沫の夢だ。覚めるときは間もなくやってくる」
(罪? なんの罪なんだ、ノノさん……)
闇の彼方へ手を伸ばしながら、ノノさんの独白は続いた。
「私は君達の案内人としての役割を果たせただろうか。いや、満足に出来ていないな。君達を何度も危険に晒してしまった。ここまで必ず連れてこなければいけないというのに。だが、私にもう悔いはない。最期まで務めを果たすとしようか」
そう言ってノノさんは窓枠に身体を預けたまま目を瞑った。あの状態で寝るのだろうか。落ちないか心配だが、ノノさんなら大丈夫だろう。
またゆっくりと睡魔が意識を押し返してきた。疲労も相まって、そのまま火の暖かさに包まれながら視界を闇に閉ざした。
____
ガシャガシャと鎧の音が近付いてくる。身体を起こして外を見やると薄明るく、間もなく夜が明ける頃だ。
「お目覚めでしたか、カズト殿」
「うん、今起きたばっかりだけどね。カメリアさんは今までずっと外にいたの?」
「ええ、軽く索敵を行っておりました。突然ではありますが良くない報告を一つ」
「何かあったの?」
僕が問うと、カメリアさんは務めて冷静に言った。
「カルボシルから無数の黒煙が上がっておりました。敵部隊の急襲かと。昨晩未明から続いており、現在は収まっています。無線も断絶致しましたので、全滅かと」
その報告は本当に突然だった。僕は立ち上がり窓からカルボシルの方向を見た。少しではあるがまだ煙が上がっている。
「……カメリアさんは向かわなくても良かったんですか?」
「私の任務はカズト殿と共にここに向かうことでございます。勝手な行動はビルク様の命令に反しますゆえ」
「でも、自分の国が滅ぼされたんですよ!?」
「いいのです、カズト殿」
カメリアさんは、穏やかに微笑んでいた。
もう何も言う必要はない。カメリアさんがそう言っているのだ、僕がどうこう言う権利はない。
「ところでカズト殿、白衣の女性のお姿が見えないようですが」
カメリアさんに言われて、今更ながら気が付いた。部屋の中にノノさんがどこにもいない。この窓で確かに寝ていたはずなのだ。
「ちょっと待っててください!」
戸から出るのももどかしく、僕は窓から飛び出した。防壁に着地すると、身体強化をしてあちこちを駆け回った。
「ノノさーん!」
建物中をくまなく捜し回った。
「どこに居るんですか、ノノさん!」
そうしている内に陽が昇ってきた。僕は一番高い所に上って辺りを見回した。
人影も、白衣も、見当たらない。
ノノさんが、居なくなった―――




