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死神の囁き

お待たせしました。

まずはビル上の二人。僕は大きく跳躍して同じ高さまで到達すると片方、狙撃手に向かって狙いを定めガーランドの引き金を引いた。銃声と共に飛翔した弾丸は、狙撃手のすぐ脇を逸れて彼方へと過ぎ去っていく。

お返しとばかりに放たれた弾を斜めに展開した防壁で弾き飛ばすと、半ば程落ちたところで足場用の防壁に着地してビルの上を見上げた。不安定な姿勢で撃ったこともあるだろうが、かなり近付かないと当たらないみたいだ。


「っと、危なっ」


下の方から射撃され、慌てて別の場所へ防壁を出し飛び移る。そこから赤い帽子の配管工がする壁キックのように、狭い感覚で左右に展開した防壁を蹴り上がった。

一気に屋上まで上がりきると、狙撃手の眉間めがけて引き金を引いた。額に赤い点を作った狙撃手はそれでもなお銃口をこちらへ向けてきた。


「ほら、スカイダイビングの時間だ」


僕は射線から外れると、距離を一瞬で詰めて狙撃手を力任せに蹴り飛ばした。銃が投げ出され、身体が遥か下へ落ちていくのを視界の端に留めながら、もう一人の敵目掛けて肉薄した。


敵が手に握るMP5をこちらへ向けた瞬間、右手に剣を出して切り上げた。飛沫と共に腕が飛び、銃が落ちる。続けて横に薙いだ剣は頭と胴を容易く断ち、糸の切れた人形のように地に伏した。

再び動く気配はない。下に戻って残りの敵を倒しにいかないと。


防壁を伝って下へ向かうと、先程とは異なる光景が広がっていた。大きな道路の中央に、8体の死体が整然と並べられているのだ。どれも手足と首が胴から離れており、真っ赤な染みをあちこちに湛えている。


(あれってさっき僕達を撃ってきた奴等じゃないか? どうしてあんな状態で……っていうか誰が?)


目を凝らすとそのすぐ隣にに一つの人影があった。ボロボロの外套を被り、上からは誰か分からない。だが、その外見自体にはとても見覚えがある。


その人影はこちらを見上げ、何かを向けた。両手でしっかりと抱えられてこちらを向くのは、赤いレーザーサイト。

それがさっき倒した狙撃手と全く同じ銃だと気付くのが微かに遅れた。


刹那、僕の横を下から来た何かが通り過ぎた。


砕ける音と崩落する足場。バランスを崩して仰向けに落下しながら、立っていた防壁が狙撃によって砕かれたのだと分かった。

僕は身体を捻り下を向くとガーランドを乱射するが、落下しながらだと弾道がずれて命中しない。


防壁をを作り着地すると、知らぬ間に外套を纏った男が同じように防壁の足場を作り目の前に立っていた。グロック17を抜き右手で構え、頭に標準を合わせる。男もリボルバーをこちらへ構え、互いに銃を向け合う状態だ。


「久しぶりだね、僕。直接会ったのは森の時以来かな?」

「お前にはあまり、会いたくなかったかな。カルボシルを襲ったのも、」

「勿論。僕は君を案内しに来たんだ。全てはスヴェラ様の望むままに、僕と僕が作り出した兵はありとあらゆる命を刈り取りにここへ来たんだ」

「ふざけるなっ!!」


銃のグリップを強く握りしめる。僕は声を荒げて叫んだ。


「人を殺して何の意味がある!?」

「意味ならあるさ。お前が怒る、これでいいかい? どうせこの世界はもう用済みだ、滅び行く世界なんてどうしたって構わないだろう」


駄目だ、会話にならない。互いに意思を曲げる気がないなら、


「もういい、何を話したって無駄だ」

「そうさ、今僕達は最高に無駄な時間を享受している。僕は演出に大忙しだってのに、暇そうな役者と世間話に勤しんでいる。そうだ、君の大切な女の子達はどうしてる? もう誰か死んだ?」

「死んでないに決まってるだろ」

「じゃあ一つヒントを上げよう。未来にまつわるヒントを」

「うるさい!」


聞く耳なんて持つものか。僕は言葉と同時にグロックの引き金を引いた。

が、発砲音と共に男の姿が消える。


「君の仲間に細心の注意を払うんだ」


突然耳元で聞こえた声。気付くと頭に冷えた何かが突き付けられていた。この一瞬でどうやって……


「判断を誤れば君の仲間は死ぬ。そうだね、スヴェラ様の元に辿り着くまでには全員。僕もあんまり余裕が無くなってきたから今日は退かせて貰うよ。ここら辺の敵は全部殺しておいたから安心して進むと良い」

「待て!」


「じゃあね、僕」


振り向いた時にはもう僕の姿はなかった。残された言葉が残響となって僕の中で響く。


『君の仲間に細心の注意を払うんだ』

『判断を誤れば君の仲間は死ぬ』


僕にとってその結末は呪いに等しい。どっちみち立ち止まることは許されない、今は為すべきことを行わなければ。

僕は地面におり、隠れているはずのカメリアさんを探す。


「カメリアさーん、大丈夫ですか-? 戦闘は終わりました-!」


しばらく呼び続けていると、家の瓦礫の下からカメリアさんが這って出てきた。見たところ怪我もなく無事のようだ。


「カズト殿、あの男は一体何者なのですか?」

「元凶です。この戦争を引き起こした、元凶」

「……我々は、あのような化け物を相手に戦っているのですか」


カメリアさんは苦い表情をした。僕でも敵わない相手にどうすればいいのだろう。


「とにかく、今はグドルに急ぎましょう。敵は全部あの男が倒していったみたいなので、また僕が索敵しながら進みます」

「分かりました。確かに無駄足を食らってしまいましたからな、少し進む速度を上げますぞ」

「はい」


辺りをぐるっと見回したが、風と呼吸音以外は何も聞こえない。

再び僕達はグドルへ向かって歩き出す。もうかなり近かったようで、グドルには一時間ほど歩いて到着した。


ここは工場のような建物がたくさんある。海岸沿いの工場地帯を思い出すな。複雑に入り組んだ通路は迷路と言っても過言ではない位迷う。そんな中、カメリアさんはどんどん奥へ進んでいく。


「カメリアさんは迷わないんですか?」

「拠点の位置も覚えられぬようでは兵として失格です。さて、もうすぐですぞ」


錆びた鉄の戸を押し開けて、暗い通路を歩く。この通路は一本道のようで奥には灯りが見える。半ば程まで歩いてくるとカメリアさんが駆け出したので、慌てて僕もその後を追った。


「カメリアだ! 遅ればせながら援軍へ参った!」


――部屋には、顔に布がかけられた人達が一列に並んで横になっていた。鎧には穴が空き、痛々しい姿のものがいくつもあった。

声に反応する人は、一人もいなかった。


「遅かったのか……」


弱々しい声で、カメリアさんは呟いた。でも遺体が整理されているということはまだ生き残りがいるはずだ。僕はその人達を捜すため、カメリアさんを置いて部屋の奥へ進んだ。


奥には錆びた扉が1個あった。鉄ではないがかなり丈夫そうな扉だ。開けられた痕跡なのか、半開きになっている。そこから中を覗き込むと、見知った姿がいくつもあった。戸を開けると、僕は中に駆け込んだ。


「皆、無事だったんだ!」

「カズト!?」

「久しぶりだな、少年」


そこにはアルカネとノノさんが焚き火を囲んで座っていた。近くでは悠莉とアキナが抱き合って寝ている。近くに廃材が積まれていることからしばらくここを拠点にしていたようだ。


「あと少年、無事だったはこちらのセリフだ。連れ去られた時はどうなるか気が気ではなかったのだぞ」

「すいません、心配かけました」

「まあ無事だったのならいい、こちらも何とか全員生きている。君が居なくなってから10日ほど立っているせいで皆精神的に無理が来ている、寝ている二人が起きたらしばらく構ってやって欲しい」


10日、あれからそんなに経っていたのか。かなり寝こけていたことになるな。


「ねえ、カズト」

「なに、アルカネっ!?」


僕が振り向くとアルカネが抱き付いてきた。突然のことで頭が回らない。


「お願い、ぎゅーってして。ユーリから教えて貰ったの、こうして貰うと安心できるって」


言われるがまま僕はアルカネを抱き返した。人肌の温もりが、心臓の鼓動が、張り詰めた緊張を少しずつ和らげていく気がした。

しばらくそうしていると満足したのかアルカネは身体を離した。


「えへへ。ありがとう、カズト」

「どういたしまして。それにしても、どうしてここに居たの?」

「うん、それはちゃんと説明するね。ちょっと長くなるけど、最初から最後まで」

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