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揉め事

あとちょっと、あとちょっとで3章にいける……!

僕が起きてからしばらく経った大樹の下、今は全員が起きて朝食を取っている状態だ。あの後結局最後まで起きなかったのはアキナで、枕にされていた左腕は休んだにもかかわらずとてつもない疲労感を内に宿し続けている。



「皆、食べ終わり次第荷物をまとめて出発するぞ。有り余る元気は後に備えて残しておけ」

「あ、あの、私がその村に行っても、大丈夫なんでしょうか……」


ノノさんの声におずおずと手を上げながら答えたのは悠莉だ。

「悠莉、どうかしたの?」

「だって私、村の人達に沢山迷惑をかけてます。最初だって皆さんが森を枯らす犯人だと勘違いして攻撃しちゃいましたし、私が行っても、迷惑がられるだけじゃないでしょうか」

「心配しなくても大丈夫だよ。ソルトさんの家族は皆優しいし、それにあの魔獣が現れたのもカルボシルに逃げたもう一人の僕のせいだ。悠莉が気に病むことなんて何にもないよ」


ソルトさんのことだから「そんな目でこっちを見るなぁ!」なんて言いそうだけど、たぶん大丈夫なはず。家族思いのいい人だし。


「そう、なんですか……」


悠莉は頷いてくれたけどもどうにも納得できてはいないようだ。


「なに、そう気を張る必要はないぞ。君はここで暮らしていただけで彼らに何一つ迷惑はかけていない。むしろ森を守り続けたことによって彼らの暮らしを助けている。確かあの村は林業が盛んだったはずだからな。ちなみにそろそろ行かなければまた夜の森をさまようことになるぞ」


そう言ってノノさんは残った朝食を口に詰め込み、間髪入れずに白衣のポケットから干し肉を取り出すとナイフで削り取って食べ始めた。僕達もつられるように残りを平らげ、各々脇に置いていた荷物を背負った。あまり自由の利かない野宿は好んではしたくない、早くソルトさんの所に向かおう。


「よし、では向かうぞ。無いとは思うがはぐれることのないようにな。疲れたら伝えてくれれば背負って移動するなり休憩するなりの措置は取る、無理だけはしないでくれ」

「分かったわ。ユーリも気を付けてね、結構足場が悪いから」

「は、はい、気を付けます」

「では行くとしよう。皆、私に続け!」

「「「おーっ!」」」

「お、おー……」


何だかよく分からないノリに支配された僕達はノノさんの号令に合わせて右手を空高く掲げた。後ろの方で控えめに右手を上げる悠莉を新たに引き連れ、僕達はソルトさんのいる村へと向かった。


行く道は前回と変わらない。所々不安定な足場もあるが、慣れた僕達は難なく森の中を進んでいく。悠莉は森の中は歩きなれていないのか時々躓いたりバランスを崩したりしていて、見ている側としてハラハラされられる場面が多々見られる。


(なんか怪我しそうで怖いな……)


「悠莉。ちょっとごめん」

「えっ? 私何かされまし……きゃあっ!?」


僕は悠莉を抱き上げてそのまま歩き出す。俗に言うお姫様抱っこだが、悠莉一人くらいなら苦ではない。この方が悠莉も転ばないし早く進めて一石二鳥だ。


「あーっ! ユーリだけずるい! アキナも!」


悠莉の声を聞いて、先に歩いていたアキナがこちらを振り向き抗議の声を上げる。ぴょんぴょん飛び跳ねながら大きく声を上げていて、駄々をこねている子供みたいだ。


「いや、悠莉が見てて危なっかしいから僕が抱えれば安全だと思ったからやったんだよ。アキナは歩きなれてるでしょ?」

「むぅぅ……村に着いたら私にもしてね?」

「分かった。村に着いたらね」


村に着いたらアキナにもお姫様抱っこをする、という条件付きでようやくアキナが静かになる。悠莉は顔を真っ赤にして腕の中で小さくなっていて、抱っこしてから声を一言も発していない。


「いいなあ、私も……」

「アルカネ、何か言った?」

「ううん、何でもないわ。もう少しで森も抜けられるでしょうし、ペースを上げても大丈夫じゃないかしら」

「そうだな。皆疲れていないか?」


ノノさんが確認をとると、皆は首を横に振った。内一人は早く抱っこして欲しいから首を振ったのかもしれないが、アキナは体力だけは有り余ってあるため実際問題はないのだろう。念のため僕がもう一度確認したが、返事を聞く限りは大丈夫そうだ。


「では少し急ぐとしよう。はぐれないよう注意してくれ」


そう言って歩くペースを上げるノノさん。歩くっていうよりはもう走ってるけど、見失うわけにはいかないので僕達も身体強化をしてその後を追う。


「ごめん悠莉、揺れるからしっかり掴まってて」

「ふぁ、ふぁい!」


噛みながらの返事に僕は少しだけ口角を緩め、綺麗な森の中を走っていく。進むにつれ辺りを覆う枝や葉は少なくなっていき、大きくなっていく隙間からは白い光が差し込んでくる。やがて村へ続く道ができ始め、遥か遠くに建物が見え始めた。


「ふむ、想定よりかなり速く到着したな。まだ昼時だ」

「カズトー、あそこに誰か立ってるよ?」


そう話すアキナが指差す場所には、一人の女性が立っていた。その女性は僕達に気付くと深くお辞儀をして、後ろを向いて手招きをした。すると元気の良い声と共に子供達が走ってきた。たしか、キラとリタだったかな。男の子と女の子が一人ずつだ。


「お兄ちゃん達だー!」

「一緒にあそぼー!」

「よかった、皆無事みたいですね」

「そのようだな。見ろ、少年が守った笑顔はこれほどまでに美しい。早く村長の所へと向かおう、少年が帰ってくるのを首を長くして待っているはずだ」


到着した子供達が僕の足にしがみつき帰還を歓迎してくれる。含みのない純粋な笑顔は少し眩しいくらいだ。


「あ、あの、そろそろ降ろしても大丈夫です……」


腕の中の悠莉が遠慮がちに声を上げる。確かにもう足場の不安定な森ではない。もう抱える必要はないだろう。


悠莉を下ろすと、すぐさま子供達に包囲され「お姉ちゃんだあれ?」「どこから来たの?」と質問攻めされている。悠莉は森に向かったときにはいなかったから子供達が気になるのは普通かなのかな。同じくらいの年の子に囲まれた悠莉は何とか答えようと言葉を紡ぐ。

「あぅぅ、えっと、その、私……」


が、そこまで言ってオーバヒートしたのか、耳まで真っ赤にした悠莉が駆け足で僕の後ろに隠れた。あんまり人と話すのが得意じゃないんだろう。しかし子供達も諦めが悪く、逃げる悠莉の後を追って僕の周りをクルクルと回り始める。


「かわいいお出迎えも来てくれた事だし、急ぎましょう。ノノさんの言うとおり、きっと私達の帰りを待ってるわ」

「そうだね、早くソルトさんの村に行こう」


そんなやりとりを眺めつつ、僕らは目前に迫るソルトさんの村に歩いていった。

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