正体
盛大な投稿日詐欺を行ってしまいすいませんでした。m(_ _)m
中間考査と部活動用の作品の締切が迫っていたのです。戦闘シーンは終わったから投稿はスムーズになる、かな?
「食らえ!」
大きな剣を合成獣の足目掛けて振るうが、合成獣は飛び跳ねてそれを躱す。着地すると素早い動きで僕を引き裂こうと爪で狙ってくる。僕は横っ飛びで攻撃から逃げるが合成獣の猛攻は止むことを知らない。僕は立て続けに繰り出される重い一撃を剣で防ぎ続ける。
合成獣の顔はどこか余裕さえ伺える。舐められている、そう感じた僕は意表を突くべく身体強化をして合成獣の後ろに回り込んだ。僕を見失った合成獣が左右を見回す。
もう一度、足の腱を切るため剣を振る。しかし返ってきたのは硬い金属音と手が痺れるほどの反動だった。後ろ足で蹴り飛ばされ地面を転がることになる。
辛うじて反応することは出来たが攻撃を防ぐ盾代わりにした剣がミシリと音を立てる。
(もうこの剣は駄目か……)
新しい剣を魔力で創り出し素早く立ち上がる。
「カズト避けて!」
焦ったようなアルカネの声。顔を上げるとすぐ側には合成獣の熊の口が見えた。僕は創り出した剣を捨て、身体強化をして合成獣の顔から逃げつつ同時に足元に起動済みの手榴弾をいくつか転がしておいた。直後、激しい爆発音。
「魔力を用いて宣言する、紫電よ、その雷を以て魔物を討て!『雷光』!」
アルカネの詠唱が聞こえ、一筋の雷が合成獣を目がけてほとばしる。だが合成獣は高く跳躍し、アルカネの放った雷撃を躱す。
「隙ありぃー!」
そんな緊迫した場面とは程遠い無邪気な声が上から聞こえる。空で待ち構えていたアキナが加速して合成獣に全力の一蹴りを加えたのだ。バランスを崩された合成獣が背中から地面に落下していく。
「もう一度! 魔力を用いて宣言する、紫電よ、その雷を以て魔物を討て!『雷光』!」
「ガアアアアアアアッ!」
落下地点にタイミングよく放たれた雷が今度こそ合成獣を捉える。眩い閃光と共に雷が弾け、立ち上がろうとする合成獣の動きを止める。やはり電気がよく通るみたいだ。
「今度こそ……!」
先ほど手放した剣を拾い上げ、合成獣の胴体に振り下ろす。身体強化で攻撃力を高めた一振りは深くとまではいかないが、確かにその硬い皮膚を切り裂き大きな溝を刻んだ。
「よしっ!」
もう一撃、そう欲張ったがために僕は隙を生み出した。ダメージを負ったはずの合成獣が何事もなかったかのように立ち上がり、尻尾で僕を捉えたのだ。上半身が拘束され、そのまま宙へ持ち上げられる。剣は握っているものの動かすことなどできやしない。
「……カズトを、放して!」
悠莉が叫びながら杖を振り、蔦が合成獣をがんじがらめにし、尻尾と顔を残して合成獣を締め上げる。合成獣は暴れ回り、尻尾を何度も地面に叩きつける。そこに拘束されている僕が無事なわけがなく、頭や体が激しい衝撃に晒される。
(ヤバい、意識が……)
絶え間なく襲いかかる衝撃に視界が揺らぎ、酩酊したかのような錯覚に陥る。今どうなっているんだ? 思考が現実に追いつかない。
「このっ、カズトを放しなさい!」
そこへアルカネが飛び上がり、鬼気迫る勢いで尻尾の根元に向けて剣を振り下ろした。さほど硬くはなかったのか尻尾は簡単に切れ、僕もろとも宙を舞った。
「キャッチ! 大丈夫、カズト?」
地面に接触する寸前でアキナに拾われゆっくりと降ろされる。ああだめだ、前すらよく見えない。脳しんとうを起こしてるかもしれない。立ち上がろうとするが、バランスが取れずに地面に倒れ込む。この状態じゃ戦闘復帰は厳しそうだ。
「カズトは茂みに隠れて休んでて。私達が戦うから」
「あ、ちょっと待っ……て……」
僕の返事を待たずにアキナは飛び去ってしまう。
「さて少年、治療の時間だ。大人しくしていろ」
「どこから出てきてるんですかノノさん……」
闇夜の中からぬっと現れるノノさん。
実際今戦線復帰しても邪魔になるだけだ。僕は火の明かりが届かない所へ移動して、皆の様子を窺うことにした。
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「魔力を用いて宣言する、雷の奔流よ、悪しき魔物を討ち滅ぼせ!『雷砲』!」
私の詠唱によって現れた雷が、集束し波動となって合成獣へ向かう。それは胴体に直撃すると激しい光を伴って消えていく。蔦があるので威力は少し減衰しているだろうが、それなりに効いてはいるようだ。
身体の魔力はもうそれほど残ってはいない。もって後2~3発といったところだ。それ以上は攻撃を避けるための身体強化用の魔力を削ることになるので、慎重に行かなければ。
「アキナ、カズトは大丈夫?」
「うん、茂みに運んでノノさんに任せてきた。この調子なら私達でもいけるかもしれないよ!」
合成獣は自らを縛る蔦を引き千切ろうともがいているが、ユーリがそれを許さない。すぐに新たな蔦を生み出し行動を抑制している。確かに攻めるのならば今がチャンスだ。
私は合成獣を縛る蔦を足場に背中へ向かって駆けあがる。そのまま首の根元まで向かい、鞘から剣を抜いた。
生き物の急所は大体が首にある、そうお父さんに教わってきた。私に気が付いたのか合成獣は激しく暴れ、振り落とそうとしてくる。慌てて蔦と毛皮にしがみ付き、剣先を首へ向けた。
「ごめんなさい」
一言そう呟いて、私は首に剣を突き立てた。剣は何の抵抗もなくするりと沈んでいき、赤い噴水が吹き上がった。
「いっ………」
「ガアアアアアアアアアッッ!!」
目の前の生命が悲鳴を上げている、苦しんでいる。死にたくないのだろう。
「わかるよその気持ち、誰だって死にたくないよね。私だって死にたくないよ、でもあなたを殺さないと皆が死んじゃう。だから私は皆を助けるためにあなたを殺す。皆と生きるためにあなたを殺すよ。だから」
「ごめんね」
剣を引き抜けば返り血が顔と体を赤く染めていく。そのまま別の位置にもう一回、同じように刺した。もう一度、引き抜いて刺す。何度も、何度も。
合成獣は痛みにもがきながらも倒れることはなく、首にしがみ付く私を必死に振り落とそうとしてくる。これだけ刺しても死なないという事は、人や動物とは体の構造が違うのかもしれない。
「アルカネさん、離れてください!」
振り回される中微かに聞こえたユーリの声、ブチブチと何かがちぎれる音、獰猛な合成獣の唸り声。危険だ、離れろ。そう私の中で何かが告げた。私は血濡れの剣を軽く振って鞘に納め、地面に飛び降りようとした。その時合成獣が再び跳躍したのだ。立ち上がっていた私は上に跳ね飛ばされる。
一時的な浮遊感、すぐに切り替わり自由落下、足場とバランスを失った私は地面へ落ちていく。
どうなるのかな。怪我? 骨折? もしかしたら死んじゃうのかな。最後だけは嫌だけど、今私がどうこうする術は何一つない。時に身を任せるていると、柔らかい丈夫な何かに受け止められた。それを見てみると蔦でできた網だ。ユーリがきっと張ってくれたんだろう。網の隙間から下へ抜け出すとユーリがこちらへ走ってきた。
「アルカネ、さん、大丈夫ですか!?」
「うん、ユーリのおかげで助かったわ。ありがとう」
「今、アキナさんが一人で抑えてます」
「分かってるわ。急いで加勢しましょう」
奮闘しているアキナの元へ走っていると、後ろから声が聞こえてきた。
「皆、ごめん! ノノさんに治療してもらったからもう大丈夫だ!」
「カズト!」
声に反応して後ろを振り向けども誰も居ない。前を向き直すと後ろにいたはずのカズトはいつの間にか目の前にいて、合成獣に向かって走り出していた。
「貰った!」
カズトが首目がけて剣を振り下ろす。あまりの速さに合成獣も反応できず楓さんが使っていた剣が深々と首に沈んだが、中心に至る前に剣は勢いを無くし止まってしまった。
「チッ、これじゃ切れないか」
抜けなくなった剣を離してカズトは別の剣を出現させた。
「光の聖印よ、悪を断ち切れ」
カズトがぼそりと呟いたその時、剣が眩い光を放つ。本来の刀身より何倍にも大きくなり、輝く光の剣が出来上がったのだ。
「これならお前の首も落とせるな。さて、生命を食い荒らした代償はその身で払ってもらおうか」
「ガアアアアアアアアアッ!!」
かなりの傷を負いながらも合成獣は尚も叫ぶ。揺るがない生への執着、妨げる私たちへの殺意が満ち溢れていた。
「さあ、足掻いて見せろ。俺が心ゆくまでその相手をしてやろう!」
先に動いたのは合成獣、カズトの命を刈り取ろうと鋭利な爪を容赦なく振るう。
「遅い。その程度か?」
カズトは踊るように攻撃を躱しながら合成獣へ攻撃を与えていく。ただ、動物とじゃれ合うかのように戦うカズトの姿に私は、よく分からない違和感を感じた。
合成獣は必死に抗うが、その動きも徐々に緩慢になってきた。その最たる原因である首からの出血は止まることを知らず、草地を赤く染め上げていく。
「……そろそろ潮時か。これ以上苦しませるのも酷だな」
「グゥゥゥゥゥ……」
カズトは合成獣へ歩み寄り、剣を首に押し当てた。なぜか合成獣が暴れるようなことはなく、大人しくしている。
「安らかに眠れ、二度と目覚めぬように」
そう呟き音もなく振り下ろされた一太刀によって、合成獣は動かなくなった。大きな巨体を横たわらせて。
足元に転がる顔の虚ろな目が、合成獣の死を物語っていた。
「終わった、か。悠莉、こいつを森の一部にしてくれ。また眠ることを望んでいたからな」
「わ、分かった」
ユーリが杖を振ると、合成獣の体からゆっくりと植物の芽が出てきた。次第に数は増え、数分で姿が見えなくなるくらいにまでになった。
「少し時間はかかるけど、これでちゃんと新たな命に還る、はずです。最後、なんであんなに大人しかったんでしょうか……」
「さあな。俺はこいつの願い通りにしただけだ。俺達を殺そうとしたが、争いなんてしたくなかったんだろう。封印を解かれ怒っていたのがその証拠だ。今回の原因は封印を解いた正体不明の男だ、そのうち見つけて殺すさ。俺はちょっと寝かせてくれ。さすがに疲れた」
カズトは大樹の根元へと歩いていく。聞くなら今しかない。
「待ってカズト!」
「ん、どうした?」
呼び止めるとあっさりとこちらを振り向いた。まるでこれが普通だとでもいうように、素振りには何の変化も見られない。緊張したとき特有の大きく感じる胸の鼓動。深呼吸をしてから私は尋ねた。
「あなたは、誰?」