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全てを食らう者

5500程度です。次から戦闘、今回は気合入れて書いてます。

「崎原悠莉、です。悠莉って呼んでください」

「ユーリ、良い名前ね。私はアルカネ、これからよろしくね、ユーリ」

「アキナはアキナだよ! これからもーっと仲良くなろ!」

「ノノだ、よろしく頼む」


僕達が命がけのダイビングをした後、飛行形態のアキナに乗って旋回しながら降りてきた3人に悠莉を紹介した。話して見た感じでは問題なさそうだ。


早速アキナが悠莉にアプローチしている。仲間が増えたのが嬉しくて仕方ないのだろう。


「ねえユーリ、私空飛べるんだよ! 一緒に飛んでみない?」

「……空、飛べるの?」

「うん! 魔法の羽でね、びゅーんって飛ぶこともできるしふわーって飛ぶこともできるんだよ!」


相変わらず擬音だらけだが言いたいことは分かる。実際の空の旅はかなり楽しい。


「だ、だったら飛んでみたい、かな……」

「じゃあ背中に掴まって! いくよー?」


本人の了承が取れるや否や素早く背中に乗せると上空へと飛び立った。楽しそうな笑い声が枯れた森の空でよく響いた。


「少年、話したいことがある」


そんな時に脇からノノさんが話し掛けてきた。


「なんですか?」

「君の言っていた魔物についてだ」


合成獣キメラについてか。何か動きでもあったのだろうか。


「どうかしたんですか?」

「昨晩この近辺に出現した。少年と大樹の守護者のいた家の辺りだ」

「……それって本当ですか?」

「今冗談を言うと思うのならそう認識すればいい」


そりゃそうだ、わざわざ呼んでまで冗談を言いに来るわけがない。あれが来たって事は悠莉を狙ってるのか?


「私達が見つかるのは時間の問題だ。出来ればこちらから封印されていたのだろう魔物を発見し、奇襲をしたい」


確かに奇襲を仕掛けることが出来れば優位に立つことはできるが、僕達はあの魔物について何も知らない。情報のない状態で奇襲をかけるのはあまりにも危険すぎる。


「それについては反対です。未知数の相手に不用意に奇襲をかけるのは得策とは言えない気がします」

「では正面から迎え撃つか?」


うわあ、面倒くさい。結局あの魔物についての情報なんて得ることはできないし、正面からは損害が大きそうだ。


「……分かりました、奇襲にしましょう。時間はいつにしますか?」

「村長達のこともある、なるべく早い方が良いだろう」

「だったら今晩ですね。日中は明るいですし」

「分かった、彼女達には伝えておく。少年も準備をしておけ」

「了解です」


話し終わるとノノさんはアルカネと飛んでいるアキナ達を呼び集めて説明を始めた。魔物の特徴など、詳細な説明は僕がした。動物達を取り込んでいることを伝えると悠莉がとても悲しそうな顔をしていたが、もう死んでしまった動物達をどうこうすることはできない。最優先すべきは魔物に対しての対策だ。


「何が効くと思いますか?」

「生物であれば大体は炎が有効だ。動物や木々を取り込んでいるのならば効果はあるのではないか?」


火が効くのだったら火炎放射とか燃料を使った爆弾とかも有効かもしれない。簡単なのなら火炎瓶か。でもここで使ったら大規模すぎる火事が発生してしまう。


「ダメ、そんな事したら森が燃えちゃう」

「無論、そのことは既に考慮してある。私が今考えているのは、武器に火の力を付与することだ。アルカネ、君は剣に魔法を付与することは出来るか?」

「そんなの簡単よ、見てて」


アルカネは僕達から距離を取り剣を引き抜いた。


「魔力を用いて宣言する、荒れ狂う火炎よ、わが剣に宿れ! 『炎舞えんぶ』!」


詠唱をすると、剣が赤い炎を纏って燃え上がった。アルカネが剣を軽く振ってもその炎が消える気配はない。


「まあこのような感じだ。直接火をばら撒くよりは引火の危険性は低いはずだ。少年は出来るか?」

「まあ、やってみます」


剣を一本出し、先ほどのアルカネの剣をイメージする。


(魔法を宿らせる、キャンプファイヤーみたいに強く、それを剣に……)


魔力を剣に流し込むと、剣から巨大な火柱が上がった。もう剣に炎を宿らせるというよりは、炎を剣の形状にしているみたいだ。


「少々やり過ぎだが上出来だ。大樹の守護者、悠莉といったか。君は魔法を扱えるか?」

「魔法は得意じゃないけど、植物だったら操れる。杖、取ってきていい?」

「ああ、構わん。持ってくるといい」


悠莉は家に走っていった。しばらくして、いつだか見た木の杖を両手で掴んで家から出てきた。それを振るしぐさを見せると、地面から蔦が出てきた。その蔦が彼女を持ち上げると、滑り台のような形状になった。すーっと滑って、僕達のところに戻ってくる。


「こんな感じ。魔法は一人でやってたときは全然出来なかった。良かったら、教えてください」

「私は魔法を扱えぬからな、アルカネに任せよう」

「分かったわ。ユーリ、一緒に頑張りましょう」

「お、お願いします」


アルカネと悠莉は離れたところで魔法の練習を始めた。残ったのはアキナだ。


「ねえねえ私は?」

「君は炎の魔法に充分長けているな。現時点では特にすることはないぞ」


することがないと言われた瞬間、アキナの表情がとたんに暗くなった。暇なんだろうな、退屈なんだろうな。唇尖らせて「むー」とか言ってるし。


「暇なのなら作戦の立案に携わってくれないか? 上空から周辺の地形を確認してきてくれ」

「はーい!」


元気に返事をしてアキナは上空へ飛び立った。しばらくは降りてこなさそうだ。


「さて、少年。全く素性の分からない敵への作戦を考えようか」

「何をしてくるか分からないって相当厄介ですよね……」


そもそも見つけないといけないわけだから捜索もしないといけない。前いた場所に座り続けているのならば楽なのだけど、向こうも生き物だ、じっとしていることは少ないだろう。


「とりあえず前にいた所はちゃんと覚えてますから、それを軸に作戦を立てましょう」

「了解した」


それからしばらくはノノさんとの話し合いが続いた。作戦らしい作戦なんて立たなかったけど、どんな状況でも対応できるように、少しでも連携の練習をしておくことで落ち着いた。

試しに悠莉に太い蔦を用意してもらって練習をしてみたけど、連携って結構難しい。息が合わないと二人同時に出てしまったりするし、途中参加したアキナの魔法が剣に掠った時は肝を冷やした。

でも2、3時間繰り返せばそれなりに様になってきた、気がする。気がするだけで全然なんだろうけど。


「日が沈み始めてきたな。そろそろ終わって休憩にするぞ」

「はーい!」

「分かったわ。ユーリ、大丈夫?」

「つ、疲れました……」


元気を余らせるアキナ、余裕のアルカネ、へとへとの僕と悠莉、体力のなさが顕著に表れている。後は晩御飯を僕が用意して夜まで休憩かな。あまり食べると戦いに支障が出そうだし、前と同じサンドイッチにしよう。

一人前二切れのサンドイッチを魔力で用意して、全員に配る。アキナが足りないと叫ぶので、代わりにカツサンドを用意して仲良く円になって食べた。


だけど悠莉は一人、ちょっと離れた所でサンドイッチを食べていた。まだ、うまく馴染めないのだろうか。

距離を測りかねているのかもしれない。


「大丈夫?」

「大丈夫。私があんな厳しい態度を取ってたのに皆優しくしてくれるし、嬉しい。ただ、どうすればいいのかよく分からなくて……ここにいないお兄ちゃんに申し訳なくて、喜んでいいのか、笑っていいのか分からないの」

「……僕が言える事じゃないけど、喜んでいいと思う。悠莉が笑ってくれたら、悠莉のお兄ちゃんも喜んでくれるんじゃないかな。捉え方次第だけど、せっかく生きてるんだ。もっと、素直になってみよう?」

「そう、なのかな……頑張ってみる」


悠莉は少しだけ、よく見ないと気付かないくらい口角を上げてサンドイッチにかぶりついた。少しでも力になれたのなら良かった。僕も乾き始めたサンドイッチを一口頬張った。



日が沈み星明りが目立ち始めた夜、全員が集まって最後の確認を行っていた。


「ここからはなるべく音を立てずに移動する。少年が発見した魔物に気付かれないように慎重に進むぞ」


顔を見合わせて頷く。先述の通り、光源は星明りのみでほぼ真っ暗だ。周囲は闇に包まれている。近づかないとみんなの顔を判別できない位に。


「それじゃ出発します。確かこっちです、付いてきてください」


僕は先頭に立って皆を合成獣のいた所へ案内していた。生命が枯れ果てた森で響くのは枯れ草を踏む音と微かな呼吸音、そして巨大な何かが羽ばたく音だけだ。勿論、本来ここで聞こえるはずのない音に誰もが気が付いた。だが闇夜に紛れ、その姿は捉えることができない。


「何、何の音?」

「バサバサってしてるよ。相当大きい生き物だね」

「カズト、もしかしてカズトが言っていた魔物じゃないかしら」


当然みんなからも不安や推測が聞こえてくる。


「少年、光源を作ることは可能か? 攻め込んでこないという事は向こうも私たちの姿が見えていないはずだ。離れた所に炎を焚けばそちらに誘導されるはずだ」

「分かりました、やってみます」


僕達がいるのは枯れた森のすぐ手前だ。正面に進むと大樹が、左右には草地がある。後ろに引けば足場が圧倒的に悪いので、左右に火を起こそう。


魔力を集め、火事が起きない距離に着火点を。火を起こすイメージをして、魔力を放った。枯れた草が燃え上がる火種となり、高々と火柱が立つ。それが明かりとなり、魔物の姿が見えた。


「なに、あれ…………」


魔物の姿は変わってはいなかった。その大きさを除いては。


あの時見た大きさとは比べ物にならない。翼をはためかせるその大きさは大樹と同じかそれ以上。泡立っていた体はさらに膨れ上がり、前にも増して醜くなっている。炎が照らすあの爪だけがやけに目についた。


「いや……いやぁ……」

「悠莉!?」


悠莉の様子がおかしい。酷く震え、か細い声で何か呟いている。


「悠莉、しっかりして!」

「いやっ、いやあああ!!」


半狂乱の状態で喚くばかりでこちらの呼びかけには応えてくれない。


「少年、避けろおっ!!」

「ごめん、悠莉!」


ノノさんの鋭い声。僕は身体強化で一気に加速し悠莉を突き飛ばした。肩に何かが当たり、温かい液体が服に染み込んでいく。くそ、もっと考慮するべきだった。こっちが奇襲できるなら合成獣キメラだって奇襲できるに決まってるじゃないか。


肩に魔力を集めて治療をしながら悠莉の元へ駆け寄る。草地なのが幸いして、ケガはしていないようだ。


「アキナ、見えるように照らして!」

「りょーかい! 魔力を用いて宣言する、眩い閃光よ、その光を以て深き闇を照らせ!『陽光ようこう』!」


アキナの詠唱で大樹の上に丸い白光の塊が出現し、大樹の周辺を照らす。僕達も、巨大な合成獣も、白く照らされた。その姿はまるで神の尖兵、審判を下す者。


「ヴヴヴァァァァァァアアアァァァァアァッッ!!」


混ざり合った獣の咆哮がけたたましく響く。その音圧が全身を震わせ、奥底に眠る恐怖という本能を呼び覚ます。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッ!)


体がすくんで動かない。体を動かそうと試みるが、足は地に縫い付けられたようにびくともせず、ただ見上げることしか許されない。


(皆は!? 皆はどうなった!?)


見回すと、アキナとアルカネは腰を抜かして地面にへたり込んでいた。ノノさんは辛うじて立っているものの、僕と同じように動けないでいる。


「お兄ちゃん……助けて……!」


悠莉の助けを求める声。そうだよ、守るって決めたんだろ? 居場所になるって言ったじゃないか。みんな守るって、誓ったじゃないか。生き延びて永遠に会うって決めたじゃないか。何びびってるんだよ、動かなかったら皆死んじゃうだろ、動けよ、守るんだろ、動けよ、動けよ!


魔物は刻一刻と僕に迫る。ゆっくりと近付くのは強者の余裕からか、怯える様を愉しんでいるのか。


奮え、唸れ、恐怖なんて吹き飛ばせ。生きるんだ、みんなで笑って進むんだ、誰一人欠けることなく!


叫べ、決意を、叫べ、誓いを!


叫べ、僕の意志を!


「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


どっから出てきたのかと疑いたくなるほどの声量で叫んだ。僕が初めて取ったアクションに、合成獣の動きも止まった。


「守るって決めたんだよ! こんなところで、殺されてたまるかああああああああ!!!」


魔物の咆哮になんか遠く及ばない。だけど、気持ちを奮い立たせるのには十分だ。その小さな咆哮は共振し、さらなる咆哮を生み出す。


「私だって、カズトを守るって決めたんだ! あんたなんか、けちょんにしてやる!」

「そうだな、この程度で動けぬようでは年長者としての威厳が廃るな。よし、少し相手をしてやろう。来るがいい!」

「カズト、私はあなたに助けられた時から必ず付いていくって決めたの。だから……倒す!」


まだ怯える悠莉を抱き抱える。今安全な所はどこにもない。僕達が守りながら戦うしかない。


「ごめん悠莉、これくらいでびびっちゃって。僕達が守る、悠莉も力を貸して」


その小さな手を握り、合成獣を睨みつける。口はカラカラに渇き膝だって未だに笑ってる。だけどなぜか、自信だけは満ち溢れていた。僕の仲間達となら、こんなやつ倒せるぞって。


「みんなで、生きて帰るぞ!」

「うん!」

「当たり前よ!」

「ああ」


「お兄ちゃん……私も、頑張る。悠莉も、頑張る!」

「うん。勝とう、こんなのへっちゃらだ」


さあ、生を賭けた、殺し合いを始めよう。

よろしければ感想等頂ければ幸いです。

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