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解放

遅くなり申し訳ありませんでした。

大樹の下に建つ一軒家。その中で、僕たちはここに暮らす異世界人に拘束されていた。ミィさん達が目覚めない原因を探りに来たのだが、既に一度警告を受けていた僕たちは捕まってしまったのだ。


しかも異変が起きていたのはミィさん達だけではなかった。森の奥に戻るにつれ、森がどんどん枯れていくのだ。今目の前にいる異世界人の彼女が守っているらしい大樹も例外ではなく、青々しく茂っていた葉が少しずつ地に落ちてきていた。


「まず一つ目。森が枯れていく原因は貴方達?」

「違う。ここに到達する途中に森が枯れ始めたことに気が付いたんだ」

「……言っておくけど、嘘を吐いたら殺すから」


冷たい視線が床に転がる僕へ向けられる。なぜここまで敵視されているのかはわからないが、誤解されているなら解いたほうがいいだろう。


「嘘は吐いてないよ。君に嘘を吐く必要がない 。僕はソルトさんの家族を助けたいだけなんだ」

「……黙って。発言を許した覚えはない」

「アッ、ハイ……」


あんまりじゃないかな。発言権も与えてくれないなんて。


「カズトは嘘はつかないよー」

「それを証明できる証拠は?」


アキナが口を挟んだ。すかさず彼女が実証出来る物を求めてきた。もしかしてなにか打開策でもあるのか!?


「ないよー?」


彼女の問いにアキナはあっけらかんと答えた。まるでそれが当たり前だとでもいう風に。


「カズトはね、誰にだって優しいんだよ! 困ってる人がいたら助けるし、いっつも他の人の事を考えてるの。ここに来たのだって、ここにいたあなたがカズトと一緒にこの世界に来たお友達かもしれなかったからだよ!」


まくしたてるアキナ。彼女も呆気にとられているようだ。が、すぐに平静を取り戻して言い返した。


「敵側のあなたの言葉を信じることはできない。その男と一緒にいる限りは」


僕に指差して彼女は言う。何かした覚えはないが、かなり過剰にヘイトを溜め込んでいらっしゃる。


「ここにその家族を助ける手掛かりなんてあるわけない。なんで警告をしたのに近づいてきたの? 無駄だって言ったはず」

「だからそれはミィさん達の助ける手掛かりを探すために来たって言ったはずだよ」

「うるさい、黙って」

「カズトはうるさくないよ-!」


次第にアキナと彼女が言い争いを始めだした。僕が口出しをすると黙れと蹴飛ばされる。蹴られて転がった僕の体が椅子に当たってノノさんが転倒するアクシデントまで起き、質問どころではなくなっていく。そんなとき、閉められていたはずの家の戸が開く音がした。


「誰!?」


彼女が白熱する言い争いの為置いていた杖を拾い上げ、戸の方を振り向く。体を転がして戸の方を見ると、そこには動物達がいた。熊、犬、小さな鳥、とにかく動物達だ。ぞろぞろと中に入ってくると、あっと言う間に今いる部屋の中を埋め尽くしてしまった。


犬がこっちに近づいてきた。じっと見つめ合う。小さめの犬で、つぶらな瞳が僕の目を捉えて離さない。そんな時間がいつまで続くかと思っていると、犬が近づいてきて僕の顔を舐め始めた。ざらざらした舌が僕の顔を蹂躙していく。顔を背けることはできないので、どんどん涎まみれになっていった。


ひとしきり舐め終わると、犬は彼女の方を向いて一声吠えた。


「……チロ、こいつらを解放しろってどういうこと?」

「ワン!」

「今逃がしたらまた襲いに来る。それでも逃がせって言うの?」

「ワン!」


すごい、犬と会話してる。あの「ワン」の中にどれだけの言語情報が詰まってるんだろうか。もしかしてそれが彼女の能力なのかもしれない。だけどそうなると僕達を拘束している蔦の説明がつかない。複数の能力を保有しているのか?


彼女はしばらく犬と会話を続けていた。数分経ち、話がまとまったらしく、彼女は控えていた動物達に向けて号令をだした。


「蔦を解いて」


号令を受け、動物達が一斉に蔦を解き始める。解くと言っても、噛み千切ったり爪で切ったりと強引だけど。アルカネ達はすぐに解けたようだが、僕の蔦が異様に丈夫でなかなか切れない。動物達では解ききることが出来なかったので、アルカネ達に解いて貰った。

立ち上がると、長時間とはいえないが動かすことの出来なかった体が痛む。涎まみれでベトベトしているし体を洗いたい。さて、解放してくれたからには何か条件を突きつけてくるだろう。


「解放してくれてありがとう」

「……好きでしたわけじゃない。チロがどうしてもって言うから」


彼女はそっぽを向いてぶつぶつと呟く。


「それはそうと、ただで解放する訳がないよね。何かして欲しいことがあると思ったんだけど、違ったかな?」

「……うん。条件は、枯れる森の原因を突き止めて貰うこと。チロが信頼できるって言ってるから、ちゃんと探してきて」


森が枯れていく原因の特定。チロという犬のおかげで手に入れたまたとないチャンスだ。彼女からの信頼をちゃんと得るためにも、森を元に戻さないと。きっとミィさん達にも関係しているはずだ。


「分かった。なるべく早く原因を突き止める」

「……すっぽかしたら、殺すから。早く探しに行って」

「承知しました……」


釘を刺しておくのは変わらない。用心深い子だ。破ったときの条件が恐ろしいけど。とりあえず殺そうみたいな発想は良くないと思う。


「じゃあ、これから探しに行くよ。原因を特定できたら一度戻ってきて報告した方が良い?」

「……うん。そうして欲しい」

「分かった。最後に何かめぼしい所とかはこの辺にある?」

「……ほこらがいくつか。昔からあるけど、今は何がいるかは分からない」


祠か。行ってみる価値はありそうだ。


「ありがとう。それじゃ行こうか、みんな」

「……待って」


出発しようとしたところ、彼女に呼び止められた。何をするのか見ていると、小さな小鳥をノノさんの肩に乗せた。この鳥インコみたいだ。


「……見張り。連れて行って」

「承知した。責任を持って連れて行こう」


じゃあ今度こそ出発できるかな。

家を出ると、どこに隠れていたのか沢山の動物達が家の周りに集まっていた。動物園もびっくりだ。


「森の動物達がよく集まってくるの。異変のせいで住処が無くなっちゃったから」


彼女は仲良くじゃれ合っている動物達を見ながら言う。ここに彼女がずっといたのであれば、動物達は家族同然なのかもしれない。


「君は、いつからこの世界にいるの?」


ふと気になって、そんな事を聞いてみた。長い沈黙の後、


「……分からない」


彼女はそう答えた。答えなのかどうかは僕には知り得ない。


「よし、急いで祠を探そう。この辺を中心に徹底的に洗っていくよ」

「了解したわ」

「はーい!」

「承知した。ではここを中心に300メートルずつ捜索していこうか、少年」

「分かりました。細かい指示はお願いします、ノノさん」


大樹を背に、僕たちは森の中へ駆け出した。

_______________


「行っちゃった……」


襲撃者の4人組が枯れ果てた木々の中に消えていくのを見送って、私は大樹の根元に腰掛けていた。足下には、この世界に来たときに創ったチロが座って私のことを見ている。


「ごめんなさい、心配掛けて」

「クゥン……」

「いいの、気にしなくて。疑わないと、自分が生きる意味すら忘れそうで」


すり寄ってくるチロの頭を優しく撫でる。あの人達が悪い人でないことは薄々分かっていた。この世界で与えられた使命を脅かす人達でないことも。


森は今の私の唯一の住処だ。人のいない、正直で真っ直ぐな動物しかいない平和な森。嘘を吐く、相手を騙して自分の思うがままに生きようとする人間のいない森。人が来たのはあの人達で二回目だ。


前は冴えない男の人が来た。その時はこの世界に来たばかりで困惑していて、手に入った力で全力で脅した。それからは近寄らなくなってくれたけど、今度はあの人達が来た。誰も来ないようにと本の通りに人払いの結界を張ったのに。


何でまた人間に生まれてきたのだろう。死んで、忌まわしい世界からおさらばできると思っていたのに、目が覚めればまた人の姿。ひらひらした服を着ていることだけは分かった。鏡なんて無いからどんな容姿をしているのかはちゃんと分からないけど、少なくとも今いる場所は日本でも暴力男のいる自宅でもなかった。


こんな大きな木のある森の中で目覚めた私の足下には一冊の本があった。1ページ目には、こう書かれてあった。


「ここで森と大樹を守れ。そのための力を君に与える」


何のことかよく分からなかったけど。続きを読むにつれてだんだんとそれが分かってきた。私は3つの力を扱えるそうだ。


植物を操る力。


動物を創り出し、意思疎通できる力。


「魔力」というものを使い、魔法を操れる力。


植物を操る力はすぐに慣れた。杖を作って、どうしたいかを念じるだけでその通りに草木が動いてくれる。彼らを拘束した蔦だってこの力だ。


動物を創り出す力は、正直言ってよく分からなかった。説明通りに創った初めての動物が、犬のチロだ。よく懐くし、可愛い。


魔法は無理だった。書いてある通りにやっても上手くいかない。

得意不得意とかがあるのかもしれない。


「あの人達は信頼、できるのかな……」

「ワンッ!」

「うん、分かった。少しだけ、頑張ってみる……」


なんだか周りが騒がしくなっている。どうしたんだろ。動物達の方に向かうと人の姿が見えた。ボロボロの外套を羽織っていて表情はよく見えない。けど、明らかに怪しい。杖を構え、警告をする。


「ここは聖なる大樹を守りし場所。今すぐ出て行って」

「いや、ここに来たのは大樹が目的じゃないんだ」

「え……?」


その声はついさっき簀巻きにした男の人の声とよく似ていた。


「ここに来た目的は、君だ」


男の人は外套を脱ぎ捨てた。隠されていた顔が露わになる。


その顔は、さっき簀巻きにした人の顔とそっくりだった。




その顔は、私を殺した父親に、よく似ていた。



春休みだってのに委員会の仕事で4月1日まで出校、やってらんねえぜ!

宿題も控えてることを考えると休みなんてないですね。小説もそれに引っ張られて遅くなることが予想されますがご了承下さい。リアルが忙しいんです(涙)

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