想定外
「私を、君たちの旅に加えてくれないか」
「……え?」
「君は誰かを守ることに躊躇いがない。それこそ、命を賭けてででも大切な物を守ろうとするはず。なぜか、そんな気がするんだ。私としては危なっかしくて見ていられないんだ。皆歳が20に満たないだろうから、色々と助言や監督をしたいんだ。君が魔力を切らして怪我を治せない時の為に、私の持つ知識を教えたりな。悪い話ではないはずだ」
……待って待って、なんか色々と急すぎる。ノノさんが仲間になる? 別に僕は構わないし、むしろ願ってもない幸運だ。医療の知識を持つノノさんから教われるなら、魔力が尽きても何かが出来る。アルカネ達はどうだろうか。
「まあ、僕は構いません。ノノさんに協力してもらえるなら心強いです。アルカネ達はどう?」
「私も賛成。私は村の周りとかここ周辺の事しか知らないから、より安全になるわね」
「アキナは?」
アルカネは賛成の意を示した。だが、アキナはどうなのかと促すが、アキナは何も話さない。ノノさんの顔をじーっと見つめている。どうしたのかと心配になり、大丈夫かと聞こうとしたとき、アキナが口を開いた。
「本当は?」
だが、アキナの口から出たのは何かを疑っているような言葉だった。
「アキナ? どうしたの?」
「……ううん、何でもない。私も賛成でいい」
そんなアキナの様子に何か違和感を感じたが、僕が特に気に留めることはなかった。
「そうか、ありがとう。急に来たものだから断られると思っていたが、頼んでみるものだな」
「探してくれる仲間が多いのは僕としても助かります。何かあったらよろしくお願いします」
「ああ、任された。ところで出発はいつになるか教えてくれるか? 私も少し準備がある」
出発か。僕はそれほど大荷物にはならないから明日でもいいんだけど、アキナやアルカネはそうもいかないだろう。そっちに合わせて出発しよう。
「僕はアキナやアルカネに合わせるよ。アルカネたちはいつがいい?」
「私はここにある荷物で足りるから、明日でも大丈夫よ」
「私も明日で大丈夫。荷物なんてないし」
「だそうです。僕たちはいつでも大丈夫ですよ」
「では明後日にこの宿屋の前に集合しよう。時間は9時、それでも構わないか?」
僕たちは頷いた。アキナはあまり反応が良くなかったけど、ノノさんがいなくなったら理由を聞こう。
ノノさんが部屋を出て行き、部屋には僕たちだけが残った。僕より先にアルカネがアキナに聞いた。
「ねえアキナ、さっきのノノさんに言った事ってどういうこと?」
アルカネがアキナに顔を近づける。その顔を手で押さえながらアキナは言った。
「何か、嘘を吐いてる目をしてたの。でも嘘だけど嘘じゃないような、そんな曖昧な感じで確証が持てないの」
「アキナって嘘とかを見抜けるの!? すごいわね!」
「巫女の力の一つだよ。目を見れば嘘を吐いてるか分かるの」
いつだかそんなことを話していたっけ。アキナでも判断がつかないってことは、嘘は言っていないけど何かまだ隠している事があるという事だろうか。
「てか、ノノさんって治療院の偉い人じゃなかったっけ? 前に倒れて質問されたときも先生って呼ばれてたし。ほったらかしてもいいのかな?」
「そのために明後日にしたんじゃないかしら。色々手続きとかもあるでしょうし」
なるほど、確かにそうかもしれない。後任を決めないといけないだろうし、やることがそれなりにあるのだろう。
「じゃあ2日後に向けて、僕たちも準備をしようか」
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「2人とも荷物は持った?」
「バッチリよ、カズト」
「うー、ちょっと重いかも」
それから2日後、僕たちはお世話になった宿屋を出て入り口付近でノノさんを待っていた。
話し合いの時に言ったとおり、アルカネは最初に持ってきていた物しか背負っていない。
アキナには大きめのリュックサックを背負わせた。中には食料や飲み水、替えの服や武器類が詰められている。
僕の荷物は着替えを少しとキューブ、中銅貨と中銀貨数枚だ。世界の共通通貨だと昨日楓さんが言っていたので、何かあった時用に持つことにした。
万が一必要な物が不足した場合や、緊急事態には僕の魔力で何とかすることになっている。万能なのは良いが頼りすぎないようにしないと。
「カズト、来たわよ」
「遅くなって済まない、少年」
「大丈夫ですよノノさん、僕たちもついさっき宿を出たばっかりですから」
到着したノノさんは、白衣といういつもの出で立ちでやってきた。両肩にはぱんぱんに膨らんだショルダーバッグの紐が掛けられ、とても歩きづらそうだ。
「そんなに大荷物で大丈夫ですか?」
「なに、これくらい大したことはないさ。こっちには薬品だったりが入っている。もう片方にはキャンプ用の道具が多く入っているな。ところで少年、地図は持っているか? 進むルートの確認をしておきたい」
「分かりました。今出しますね」
地図はもう頭に叩き込んである。魔力で地図を作り出してノノさんに渡すと、素早く広げ森の付近を見始めた。
「目的地はどこだ?」
「とりあえず、森の近くにあるこの村を拠点にしようと思います」
インド森の近くにある村を指さすと「ふむ」とノノさんは顎に手を添えながら言った。
「ここから徒歩で向かうとなると1週間かかるぞ」
「……マジすか?」
「マジだ。野宿の準備はしているか?」
そんなに距離が開いているとは思わなかった。甘く見積もっていたようだ。
「数日なら水や食料は何とかなります……多分」
「まあ何か起きた場合はその時対処しよう。では行くぞ少年。早く移動してできるだけ安全な所にテントを張りたい」
「分かりました。それじゃ出発しよう、2人とも」
さあ、ちょっとした長旅の始まりだ。
目標も新たに、僕たちは次の一歩を踏み出す。
その先には見たことの無い世界が、現実が広がっている。
それがどんなものであろうとも、僕たちはそれを受け入れるしかない。
例え、絶望が待っていようとも。




