本題
お待たせしました。次の日の昼になって申し訳ないです。
「はあ、楽しかった。良い運動になったわね、アキナ」
「うん、竜化の練習もできて丁度良かった!」
満足そうに2人が僕の方へ戻ってくる。時間はお昼よりちょっと前、訓練場はまるで一夜明けた戦場のような有様で、兵士たちがあちこちに横たわっていた。いくら死なないとはいえ、少々やり過ぎな感じもする。
「よし、今日はこれまでだ。結界は5時まで展開する。後は自由にしろ」
「「「「「「「は、はい……」」」」」」」
うわあ、疲れ切ってる。まだ蘇生中の兵士もいるし。僕はお疲れ様ですと心の中で頭を下げた。
さて、楓さんの質問コーナーの時間だ。
「楓さん、訓練には付き合ったので質問に答えてもらえますか」
「ああ、構わん。何が知りたい?」
「アルトノリア以外の国や町、周囲の地形とかですかね。地図があればそれである程度は済むんですけど」
「なんだ、そんなことか。地図なら俺の部屋にある。付いてこい」
訓練場を出て3階の楓さんの部屋へみんなで移動する。無駄に広いので足が疲れる。
「着いたぞ、入れ」
促されるまま中に入る。そこはとても国を取り仕切る王が暮らすとは思えないほど、簡素な部屋だった。
鎧を置く棚に小さなテーブル、人1人が寝られるくらいの普通のベッド、着替えが入っていると思われるクローゼット。後は何も見当たらない。てっきりもっと豪華絢爛な部屋なのかと思っていた。
楓さんはテーブルに近づくと引き出しから大きめの丈夫そうな紙を取り出した。見てみると、色は塗られていないが細かく線で森や城のようなマークが描かれている。
「いいか? ここがアルトノリアだ。地図上では東に位置する。正反対にある国がカルボシルという国だ。大きな国はこの二つしか無い」
確定、かな? 多分ここに1人異世界人がいる。もう1人は森だったはずだ。地図に目を落とすと、アルトノリアの周辺には森はなくかなり離れたところに村と一緒に記されていた。うん、すっごく広い。僕が知っている地球の世界地図と縮尺が同じならインドくらいの広さだ。徒歩で移動すると考えると気が遠くなる。
「後は比較的大きな都市がいくつかあるが、こことカルボシルには劣る。どこに向かうかは知らないが、盗賊と魔物には注意して行くんだな。まあ、あの大群を1人で退けられるお前なら大丈夫だとは思うが」
やっぱり森が一番辛いかも。保存食とか武器の替えも用意しないと。いざとなれば魔力で何とかなるが、あまり頼りたくはない。危険が迫ったときに魔力切れなんて洒落にならないし。
「分かりました。楓さん、ありがとうございます」
「必要なら持っていくか?」
「いえ、大丈夫です。多分もう出せると思います」
魔力を集めて同じ地図をイメージすると、全く同じ物を出すことが出来た。記憶完了だ。
「相変わらず便利すぎる力だな」
「便利過ぎてちょっと怖いですけど。後は大丈夫です。ありがとうございました」
「手助けができたのなら幸いだ。幸運を祈る」
楓さんにお礼を言って、僕たちは城を後にした。
これで必要な情報は手に入った。後はアキナの情報と照らし合わせれば森にいる異世界人の居場所が分かるはずだ。
「あれ? ノノさんだ」
そろそろ宿屋も見えてくる頃、アキナが声を上げた。指が指し示す方向には、白衣を着た女の人が宿屋の前で立っている。姿からして確かにノノさんだ。何か用だろうか。
向こうもこちらに気付いたようで、僕たちを見つけると手を振ってくれた。
「ノノさん、こんにちは」
「やあ少年。君に用があって待っていたんだ。君たち2人も元気そうで何よりだ」
「話なら中でしましょう。立って話すのも疲れますし」
僕はノノさんを部屋の中に案内した。話って何なんだろう。
「それでノノさん、どうしたんですか?」
「君たちはこれからどうしていくつもりだ?」
「どうしていく、ですか」
質問の意図がいまいち分からない。どうしていくだから、今後僕たちは何をするのか聞いているのだろう。
「アキナの力を頼りに、僕と一緒に来た友達を探しに行きます。時間はかかると思いますが」
「……そうか」
ノノさんはそう一言呟くと、顎に手を当てて何か考えだした。アキナとアルカネが不思議がって、ノノさんを見つめている。
「よし、少年。私の願いを聞いてくれないか。前提として、君たちが私の願いを聞き入れる必要はない。断っても大丈夫だ」
「?」
何か危険な頼み事なのだろうか。犯罪関連は勘弁してほしいが、ノノさんだしその類ではないだろう。僕はノノさんの言葉を待つ。
「私を、君たちの旅に加えてくれないか」
それは、危険な仕事でも何でもなく、僕たちへのパーティ申請だった。




