強制的に
案の定間に合わず。その上分割です。
昼に間に合えばいいな。頑張ります。
次の日、僕たちは楓さんのいる城へと向かっていた。
主な目的は二つ。面倒事は大体終わったのでその報告と、アルトノリア周辺について聞くことだ。見れるのであれば世界地図も見たい。アキナ曰く、ここから一番近い異世界人がいるのは森の方らしい。危険なところであれば準備をしなければいけないし、周囲の様子を知っておけば万が一迷った時にも脱出できる可能性が上がる。本来の目的である永遠探しをするために情報集めをするのだ。
今回は大臣さんは迎えに来ないので自分たちで歩いて城へ向かった。と言っても軽装で荷物もないので大して苦ではない。話をしながら歩くとすぐに着いてしまった。
玉座の間まで行き扉を開けるが、楓さんはいない。普段はここに居るわけではないのだろうか。
「楓さん、どこにいるんだろ?」
「誰か捕まえて聞いてみましょう」
「うん、それが一番早いかも」
アルカネの提案を採用し、部屋を出て城の中に居る人に楓さんの居場所を聞くことにした。人が居そうなところは食堂とか門の辺りだろうか。手当たり次第回ってみよう。
先に向かったのは食堂。まだ朝なので食べてる人が居るんじゃないかと期待を込めて入ると、予想通り多くの人が食堂で食事をしていた。食べ終わったような人を見つけたので楓さんがどこにいるのか聞くと、「カエデ様なら訓練場にて兵士の鍛錬のご指導をしていらっしゃいますよ」と教えてくれた。
個人的に訓練場はあまりいい思い出がない。それに訓練中はあの死なない(正確には死んでも生き返る)結界が張られているはずなので派手に戦闘をしているかもしれない。まずそこに行くこと自体が危険なのだ。
気が進まないが、行かないと話が聞けない。3人で訓練場に向かうと、案の定爆発音が聞こえる。危ないし振動とかが収まるまで待っていようか。
じっとすること数十分。振動が収まり、中から「勝負あり!」といった声が聞こえてきた。入るなら今しかない。
「突入するよ!」
「分かったわ」
「いっけー!」
勢いよく扉に突撃するが、扉は開かず、そのまま顔面から激突した。痛みで床の上を転がっていると、アキナが扉をぶち破ろうと手に魔力を込めているのが見えた。
「ちょっとアキナ、ストップ! それはまずい!」
「なんで? 押しても引いても動かないんだからぶち破ればいいんじゃないの?」
「結界で守られてるんだからそう簡単には破れないよ! 下手したら廊下一帯が吹き飛んじゃう!」
「分かった。じゃあ止めるね」
アキナの手に集められた魔力が分散していく。廊下爆散の危機は免れたみたいだ。
アキナは発想が結構脳筋だから、注意しておかないと危ないかもしれない。年齢も関係がありそうではあるが、そんなことを言ったらさっきの拳が僕に向かってくることは目に見える。ことを荒立てる必要もないので、黙って扉をノックし続けることにした。
ノックを数分続けると、中から扉が開かれた。出てきたのは楓さんだった。相変わらず大きな鎧を着込んでいる。
「なんだ、お前達か。しばらくは休ませようと思っていたが、自分たちから訓練に来るとは感心だな」
「いや、今日は楓さんに聞きたいこと――」
「さあ、さっさと入れ。昼まで兵士達と手合わせをしてもらうぞ」
ものの見事にスルー。襟を掴まれ訓練場の中に放り込まれると、兵士達から歓声が上がった。
「「「「「「「うおおおおおおおおおおっっっ!!!」」」」」」」
「カズト様がいらっしゃったぞ! 俺たちの英雄!」
「アルカネ様にアキナ様もいるぞ!」
「アルカネ様、何と美しい姿だ……」
「お前、何を言っているんだ!? アキナ様の無邪気なあの姿を見るんだ! 彼女こそ俺が守る天使、my engel!」
兵士たちの喧騒は止まない。僕を英雄と称し雄叫びを上げる兵士もいれば、アルカネとアキナのどちらが美しいか論争を始めている兵士もいる。一言で表すと「大混乱」だった。
……アキナを推している兵士たちはロリコンでいいのかな?
「馬鹿者! 我らが王と英雄の前でなんという姿を見せている! 我らの使命は強くなり、愛する者を、我らが祖国を守ることだ! 鍛錬に戻れぇ!」
「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」
ちょっと豪華な鎧を着ている兵士が叫ぶと、騒いでいた兵士たちが一斉に叫び、再び剣を振りはじめる。
よく見たらあの人、敬意を、って言っていた人だ。やっぱり偉かったんだ。
「さて、話があるのは分かったが今は訓練の時間だ。ウチの兵士たちを鍛えてやってくれ」
「え? 僕たちも参加するんですか?」
「当然だ。訓練の時間に訓練をしない馬鹿の話なぞ聞かないからな」
どうやら兵士達の訓練の相手をしないと話を聞いてもらえないらしい。
「結界は張ってありますか?」
「もう展開済みだ。いつでも死んでいいぞ」
なら安心だ。身の安全が保障されたので、僕は兵士がいる方へ向かう。
「すいません! 誰か手合わせ出来ませんか?」
「お、おい、お前行けよ」
「嫌だよ、恐れ多くて出来るわけない」
ざわざわするけど名乗り出る兵士はいない。怖がられてるんだろうか。
「意気地がないな。誰も出ないのであれば私が戦おう」
「兵士長!」
さっきの豪華な鎧を着ている兵士が出てきた。年齢は中年と言うにはまだ若いくらいで、雰囲気からしてかなり強い。剣だったら一瞬で負けてしまう気がした。
「お、お願いします」
「そう固くなるな。この訓練は何をしても構わないのだ、持ちうる手全てを出し尽くして戦おうではないか」
緊張をほぐそうとしてくれているんだろう。持ちうる手と言われて少し視野が広くなった。
さすがに銃を出すのはまずいだろうし、きっと小手先の魔法じゃ防がれる。やっぱり意表をついて奇襲するしかないか。
剣を強く握り開始の位置に立つと、即座に「開始」の声が上がる。訓練をしていた兵士たちが野次馬と化し 、僕と兵士長の戦いの行く先を見守っている。
「では、参る!」
兵士長の声が聞こえ、剣を構える。
だが、その行動は既に手遅れだった。そう気付いたのは、握っていた剣が後ろへ弾き飛ばされていくのを捉えた後だった。
「覚悟!」
「ひいっ!」
恐怖に震える暇はない。横に払われた剣を躱して自分の剣を拾いに行く。さほど遠くはなく、数歩歩いて拾うことが出来た。
「英雄と聞いていたが、剣の腕はこの程度か?」
「近接は苦手なんです! どちらかというと遠距離で魔法撃つ方が得意なんですよ!」
もう剣はやめだ。剣じゃこの人に勝てる気がしない。
持っていた剣を投げ捨てて、僕は無数の火の玉をイメージした。同時に魔力を放ち、訓練場に大きな炎弾がたくさん出来上がった。
「何? 詠唱も無しに魔法を扱えるのか!?」
どうやら兵士長は僕の能力を知らなかったようで、一言も喋らず魔法を唱えたことに驚愕している。
「喰らって下さい!」
「クソッ!」
兵士長が躱そうとするが、退路は既に断っている。兵士長の周りは僕が同時に出現させた防壁で囲んである。横にも後ろにも移動することは出来ない。前に進めば火の玉が飛んでくる。
「投降してください。僕は人を殺せないんです」
「そうか。確かに私に出来ることはもう無いな。分かった、私の負けだ」
兵士長が剣を投げ捨て両手を上げる。
「勝者、カズト様!」
はあ、楓さんの無茶ぶりとはいえ心臓に悪い。殺すのは最終手段、話ができるのなら会話で解決したい。この世界では通用するかは分からないけど僕はそうしていきたい。
展開していた魔法を全て消すと、兵士長が近づいてきて頭を下げた。
「済まない、君のことを侮っていたようだ。無詠唱で、その上複数の魔法を同時展開できるとは」
「でも実戦じゃ何にもできないですよ。こんな性格ですし」
「君が矢面に立って戦うのは守る為だろう。その力をこれからも磨いていってほしい。手合わせ、感謝する」
「いえ、こちらこそ」
兵士長が兵士達の中へ戻っていく。そう言えばとアキナ達のことが気になり、様子を見てみる。
「くーらえー!」
「くそ、避けるんだ!」
「もう駄目だ、おしまいだぁ……!」
「逃ーげるんだよぉぉぉぉ!」
「逃がさないわよ! アキナ、そっちにブレス!」
「はーい!」
「「「「「「うああああああああ!」」」」」」
…………見なかったことにしよう。
僕は楓さんの元に戻る。お昼の時間まで、アキナとアルカネの訓練の様子を眺めていた。




