表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と銃器を武器に僕は世界に立ち向かう  作者: 雨空涼夏
一章 若き少女と竜の巫女
35/87

新しい長は

風邪ひいて遅くなりました。すいません。インフルではないので投稿は継続します。

「到着いたしました。ようこそ、私たちの里へ」


背中から降り、改めて入り口を見る。雲よりも高い所にある里なので、まず空気が薄い。あと寒い。そして常に晴れている。地震以外では災害に困ることはなさそうだ。だが中に入ろうとすると、数人の竜人に止められてしまった。


「まだ里に残っていた者たちは貴方を敵とみなす恐れがあり危険です。これを羽織り姿を隠してください」


そう言って手渡されたのはよく見るボロボロの外套だった。


「これ、逆に目立たないですか?」

「いずれ皆に伝える際姿は見せることになるので、目立っても問題はないです。人間だと分からなければいいのです」


そういうものなのかなあ。異世界人はリンチされるということはアキナの話からも想定ができたので、おとなしく受け取って羽織ることにした。


「それでは向かいましょう。ついてきて下さい」


里の中はとても賑やかだった。住処となる場所とは別に、まちとなる区画、作物や動物を育てる区画と事細かに仕切られている様子が見受けられる。その住民のほとんどがこうして戦いに駆り出されたので、男の竜人の姿はなかった。帰ってきた竜人の中で一人外套を羽織っている僕はやっぱり目立つのか、たくさんの視線を感じる。


高低差の激しい道を上り下りすること数分。大きな広場が見えてきた。そこにはすでにたくさんの竜人が集まっている。ここで起きたことを伝えるのだろう。僕は奥の大きい舞台のようなところにアキナと一緒に上がるように指示された。先にアキナが上がっていく。


「カズト様、アキナ様が仰っていたキューブとやらを準備していただけますか?それがあれば里にいる民の信頼を得やすくなるのです」

「それって救世主、て言ってたやつですか」

「そうです。その証こそがカズト様がお持ちしている物なのです」

「分かりました。出しておきます」


ステータスカードをキューブに戻す。本当に信じてもらえるのだろうか。ここで考えてもすでに手遅れなので、さっさとアキナの隣に並ぶ。後に続いて竜人も登り、集まっていた竜人たちが静かになると話し始めた。


「皆、集まってくれたことに感謝します。こうして集まって貰ったのには理由があるのです。今からそれを説明させていただきます。聞いて下さい」

「ねえアキナ、僕たち話が終わるまでこのまま立ちっぱなしで良いのかな?」

「知らないわよ。とにかくちゃんと話を聞いてることね。おかしなこと言い出したら私が叩きのめすから安心して」


話している竜人の後ろで肩をグルグル回すアキナ。言動からして怒らせると先に手が出るタイプらしい。後ろでそんなやりとりが行われているとは知らず、竜人は話を続けている。


「……と言うことなのです。私たちは、ガナンの命で立ち上がった私達は、敵もろとも熱線によって焼き払われたのです!」

「どういうこと!? ガナン様がそのようなことをするわけがないでしょう!」

「ガナン様を侮辱する気!?」


集まった竜人たちから非難の声が上がる。まあ想定された事態だろう。朝の竜人は慌てることもなく続ける。


「いえ、事実です。ここにいる彼とアキナ様が壊滅状態の我々を救ってくださいました。そうでなければ我々は今頃地へ還っていたところです。こうしてここに戻ることはなく、動かぬただの肉として大地に横たわっていたはずなのです。私だけではありません。私と生還した者たちは熱線をこの目で、この体で、見て、浴びたのです」


最初は非難をしていた竜人が、他の戻ってきた竜人に同じことを聞いて回る。口々に返ってくる「ガナンが我々を敵と共に殺そうとした」という答えに、疑いの眼差しは自然と失せていった。

しかしまだ疑問は残る。質問がすぐに返ってきた。


「だけど相手は私たちの里を奪っていった人間たちなのでしょう? どうして敵である私たち竜人を助けたの!?」


竜人からすれば親の敵が窮地の仲間を救ったというのだから。混乱するのも無理はない。


「すいません、ここからは僕が話します」


前に立っている竜人を押しのけて、質問に僕は答えた。


「僕たちは始めから戦う意思なんてなかったんです。知らぬ間にそちらが攻めてくると忠告をされたので、誰一人死なせないために作戦をたて、防御に徹しました。ガナンの狙いは僕です。僕一人を殺すためだけに竜の里の兵全てを動員し、殺そうとしました。でもそれは失敗に終わり、兵たちは全員無力化され拘束されました。誰一人死なせないという作戦を見破ったガナンは、味方ごと戦場を焼き払ったんです」


「うるさい! お前もいせかいじんなんだろ! 僕のおじいちゃんたちを殺した悪いやつなんだろ! どうせうそをついてるんだ!」


僕の言ったことに反発する声が聞こえた。その声の主は小さな男の子の竜人だった。


「アキナ。あの子、ちょっと怖がらせてもいいかな?」

「……何するつもりなの?」

「大丈夫、怪我させたりはしないから」


舞台のような台から降り、声を上げた子どもの竜人の元へ行く。僕が近づくと後ずさって逃げようとしたが、そのまま尻餅をついてしまった。僕はナイフを一本魔力で作り出し刃を自分の方に向けながら、子どもの竜人に聞いた。


「じゃあ君はどうしたいの? 言ってごらん?」

「かたきを討ちたい。ふくしゅうしたい」

「じゃあこれを持って。ここに刺すんだ。見える? ここだよ」


僕は持っていたナイフを子どもに握らせ、首の頸動脈があるところを指さした。突然のことに、子どもの竜人は頭が追い付いていないようだ。分かるように、何度も繰り返す。


「そう、僕は君の言うとおり、異世界人だ。僕を殺せば敵を討てるんだ。ほら、首の所に血管があるのが分かる? ここに大事な動脈があるんだ。ここにそれを刺せば君はみんなの敵を討てるんだよ。ほら、いつでもいいよ。僕は痛くて苦しむと思うけど、君は気にせず刺し続ければいいんだ」

「え……あ、うぁ……」


子どもの竜人が手に持つナイフは激しく揺れている。うん、躊躇ってくれる子でよかった。


「今どんな気持ち? 言ってごらん」

「怖い……すごく怖い……」

「そう、殺すことはすごく怖いことなんだ。僕も怖くて殺すなんてとても出来ない。それをガナンは躊躇うことなくしたんだ。戦争は敵を殺し味方を守らなきゃいけないのに、味方ごと敵を殺そうとした。そんな人が里の長で居続ければ今度は誰が死ぬか分からない。だから僕たちは長を変えたいんだ」


ひとしきり話したいことは話した。もう子どもの竜人は一言も喋らない。僕はそれを肯定と受け取り、再び舞台の上に戻った。


「話を戻します。ガナンは自らが治める里の民を殺そうとしました。そんな人が長のままで良いわけがありません。僕が言うことは信じなくても構いません。僕はあなたたちが憎む異世界人です。でも、自分たちの仲間のことは信じてあげてください」


お辞儀をして後は朝の竜人にバトンタッチ。僕はアキナの隣へ戻った。


「私たちは新たな長にアキナ様を推薦したいと思います。その他の者を推薦したい方は挙手を願います」


挙手の呼びかけに反応する竜人は誰もいない。朝の竜人は話を進めようとするが、背後から伸びてきた手によって妨害された。


「ちょっと、私は長にはならないって言ったわよね?」


アキナが竜人の首を掴みそのまま持ち上げる。首を絞めているわけではないが、代わりに折れそうだ。竜人は必死に説得する。


「雑務は全て我々にお任せください! 里において皆から信頼を得ているのはアキナ様だけなのです。どうかお願いします!」

「言ったわね? その言葉、破ったら承知しないからね」


万力のような締め付けから解放され竜人は安堵の息をつく。


「そ、それでは新たな長としてアキナ様を選定いたします。賛成の者は広場の右へ、反対の者は左へお願いします」


広場の竜人はどんどん右へ集まっていく。左へ集まったのはほんの数人だった。最初の方に上がった声の主だろう。


「では3分の2以上右に集まったので、新たな長はアキナ様となります」


右に集まった竜人からは拍手が起こる。里に残っていた竜人は、今回の戦争に反対する人もいたのだろう。そんな様子を傍らで眺めていると、アキナが手招きしていることに気がついた。なんだろうか。


「アキナ、どうしたの?」

「あんたが救世主だってことをみんなに伝えなきゃ。ほら、あのキューブ出して」

「うん。わかった」


いわれるがままに頼りにならないキューブを取り出し掲げると、竜人たちから驚きの声が上がりだした。


「皆見て。里に伝わる言い伝えは知ってるわよね? 「救世主が来たる時、竜人はその者を補佐し守れ」って言い伝え。彼はその救世主。私の眼がそう判断したの。このキューブを持っているのがその証。しっかり見て!」


僕の腕を掴み、より多くの竜人たちにキューブを見えるようにした。「すげえ……」とか「本物だ」とか色々な呟きが聞こえる。中には跪く竜人もいた。そこまでしなくてもいいのに。当の本人があたふたしているのをアキナは無視して続ける。


「今こそ私たちの使命を果たす時。何かあったら全力で力を貸しなさい。いいわね!?」


返答は返ってこない。返事などをしなくても答えは分かりきっているからだ。竜人たちが頷いたのを見るとアキナはにっこり笑って、


「ありがとうみんな。これからもよろしくね」


そう締めくくった。

_______________


それからしばらく立った後。里の門の前では、僕とアキナがアルトノリアへ行くのを見送る竜人たちの姿があった。


アキナが正式に長になるにはもう少し時間がかかるようなので、一旦アルトノリアへ戻ることにした。この辺りに永遠がいないことは分かったし、別の場所へ向かわなければいけない。だけどどこにどんなところがあるか全く分からないので、楓さんに聞いてこの世界について少し聞いておかないと。


ふと、今永遠の居場所を聞いてみたらどうなんだろうと思い、キューブを握りしめた。


「永遠は今どこにいる」


キューブは光り輝き答えを返す。


「この世界には存在する。場所は部屋」


部屋? 永遠は部屋の中に居るってことか? 抽象的過ぎて探そうにも探すことが出来ない。何度も繰り返してみたが、返ってくる言葉は変わらなかった。


「カズト、そろそろ行くわよ」

「うん、分かった。アキナは大丈夫なの?」

「あとはみんな任せてきたわ。私はカズトを守る役目があるんだもの。そばに居なきゃダメでしょ? さあ乗って。アルトノリアまで一気に飛ぶわよ」


アキナの背中におぶさり、空へと舞い上がる。再び空の旅を楽しむことになりそうだ。吹き付ける風はびゅうびゅうと音を立てて通り過ぎていく。体感で10分くらい経ち、アルトノリアが微かに見えてきた。


「あと5分もすればつくわ。アルカネとこれからの相談をしなくちゃ」

「そうだね。いつまでもアルトノリアに留まる訳にもいかないしね」


何気ない会話。ささやかな平和。僕たちが得たほんの僅かな安息の時間。そんな時間はすぐに終わった。


「っ! カズト、しっかり掴まって!」


アキナが叫ぶ。肩にしがみつくとアキナが更に上へと飛ぶ。ついさっき僕たちが飛んでいたところを見覚えのある熱線が通り過ぎていった。それを放った先には、かつての竜人の長がいた。


「ガナン……!」

「全く、二人とも生きていようとは。しぶといものだな。すぐ楽にしてやろう」


理性を失った濁った瞳の竜人はそう呟いた。


次は大晦日か正月の予定。誤字脱字とかありましたらドンドン指摘してください!

感想も待ってますよー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ