油断
すいません。今回は打つ時間が無かったので見直しなどが出来ておりません。今日の17時くらいにに改稿します。
追記:11時8分改稿 文章の追加、誤字脱字の確認
「カズト、起きて」
「起きないと遅刻しちゃうよー!」
目覚まし時計の代わりに二人の少女の声が僕を起こす。体を起こすと外はまだ薄暗い。
「アルカネ、今何時?」
「今は4時前よ。1時間でもろもろの準備、2時間で草原まで移動して陣を組む、残り1時間は最終確認よ」
「分かった、ありがとう。僕も準備しないと」
疲れの取れた体をほぐして立ち上がる。少し深呼吸して息を整える。
僕は魔力のストックとなる魔石を受け取るために、楓さんを探すことにした。とりあえず玉座の部屋に行けば居るはずだ。数分歩き扉を開ける。ほらいた。楓さんは昼と変わらず沢山の文官達に指示を出していた。楓さんなら玉座に座っているだろうという安直な発想は案外間違っていないようだ。
「楓さん、魔石ってどこに置いてありますか?」
「ん、和人か。ちょっと待て、今持ってくる」
楓さんは立ち上がると、壁に置いてある大きなリュックサックを引きずってきた。重そう。すごい重そう。
大きさは楓さんの大きな体をすっぽりと覆い隠す程の大きさだ。2×2mくらいかな。これ背負わなきゃいけないの?肩が凝りそう。
「この中に大体俺が張る結界の50回分の魔石が入ってる。お前の力は効率がいいと思うから全部使うことはないと思うが念のためだ。持っていけ」
「これ重くないですか?さっきズルズル引きずって来たじゃないですか」
「この鞄に細工をしてあるから大丈夫だ。少し魔力を注いでやれば中身の重さを感じなくなるようになるから問題はない。お前はそれさえ持っていれば大丈夫だ。俺は他の部隊に指示を出してくるから女二人組をここに連れてきて待っていろ」
「分かりました」
楓さんを見送って部屋へ戻る。部屋ではアルカネが剣の手入れをしていて、アキナはベッドの上でごろごろしていた。
「楓さんが玉座の部屋で待ってろとか言ってたから移動するよ。二人とも準備は出来てる?」
「とっくに終わってるわよ。ほらアキナ、ベッドから離れて」
「えー!もうちょっとだけ!もうちょっとだけゴロゴロさせて!」
「ダメ。もう集合する時間なんだから。ほら早く行くわよ」
なかなか起きようとしないアキナをおんぶしながらアルカネが荷物を持つ。
「荷物持つよ」
「ごめんなさい。ありがとうね、カズト」
「気にしなくていいよ。アキナを背負ってもらってるんだし、これくらい任せてよ」
僕達が玉座の部屋に着くと、すでに楓さんや他の部隊長らしき人達が集合していた。
「やっと来たか。背中の巫女は随分と気楽だな。これからお前の仲間たちと一戦交えるってのに」
アキナを見て、楓さんは呆れたような声を漏らす。
「ほら、アキナ。起きてって!そろそろ出発の時間だよ」
「ううん……。今起きるから待って……」
アルカネがアキナを下ろすと気持ちよさそうに伸びをしている。何だかここだけ平和な感じだ。今の雰囲気にはそぐわないのだろうけど。その後に顔を2~3回叩くと、いつもの強気なアキナに戻っていた。
「ごめんなさい、雰囲気を乱してしまったわね」
「元に戻ったのならいい。総員、準備は済んでいるな!」
楓さんの確認に揃っている部隊長たちが一斉に答える。
「「「はい!全部隊、出撃準備は完了しております!!」」」
「よし、指示を出せ。出発するぞ」
その一言で皆が動き出す。玉座の部屋を出て城門をくぐる。広場には兵士たちが集合していた。
「聞け!我らアルトノリア軍はこれより10km先の草原にて陣を組む!敵の襲撃時刻は8時だ!速やかに移動し、陣形を完成させろ!」
逞しい指揮官の号令で部隊は歩き出す。始まるんだ。戦争が。僕一人を殺すための戦争が。
ただひたすらに草原を目指して歩き続ける。誰一人として話をする人はおらず、鎧が擦れる金属音のみが聞こえる。どれだけ歩いたのは分からない。楓さんが言ったからきっと10km歩いたのだろう。草原に到着して陣を組み僕達は最後の確認をしていた。
「いいか!今回は誰一人として死者を出してはならない!敵も、もちろん大切な仲間もだ!お前らが死ねば家族が、友人が悲しむだろう!だがそれは敵にも言えることだ!誰一人として悲しませることはさせない!お前達の意識一つで戦果は変わる!死なぬよう、死なせぬように心してかかれ!」
こうして楓さんの演説を聞いていると、改めて国を支える王様だってことが実感できる。戦いになると暴走するどうしようもない人だけど、前に立って皆を引き連れるだけの力が、人望があるんだ。
「最後に今回の総大将から一言お前たちに伝えたいことがあるそうだ!よく聞け!」
楓さんがそう言うと僕を全員の前に立たせた。
「え、ち、ちょっと!何すれば良いんですか!?」
「言いたいこと言えば良いんだよ。ほら、さっさとしろ」
はあ、確かに大事なことなんだろうけど前もって説明しておいてほしい。なにも準備ができてない。黙っていても仕方が無いし何か話さないと。
「今日はわざわざ僕なんかのために集まっていただきありがとうございます。敵を殺しちゃ行けないなんて無茶な作戦を押し付けてしまって申し訳ないとは思います。そんなのただの理不尽ですから」
何を言いたいのかわからないめちゃくちゃな言葉を紡ぎ、話していく。たとえ理解されなかったとしても僕にはどうしようも無いのだ。ただ話して、それで終わりだ。
「敵の狙いは僕一人です。僕が死ねば敵の勝利です。楓さんは僕を守るために皆さんを召集しました。でも僕は誰も死なせたくない。敵も味方も、誰一人として。お願いします!死なないで下さい。死なせないで下さい。持てる限りの力で皆さんを守ります、皆さんも持てる限りの力で助け合ってください」
「おい、一つ聞いて良いか?」
言い終わった後すぐに一人の兵士から声が上がった。
「俺らの王の命だ、言われたことは死んでも守る。噂では、お前は詠唱もしないで魔法が使えるらしいじゃないか。それを見せてくれないか?」
「俺たちにも見せてくれ!」
「ずっと気になってたんだ」
次から次へと「見せてくれ」「そうだそうだ」と声が上がる。次第に声は大きくなり、収まりが付かなくなってきた。
「分かりました。今からやるのでちょっと静かにしてくださーい!」
大きな声で叫ぶと、少しずつ静かになる。静まり返ると僕は右手を前に出した。使う魔法は「防壁」。1番安全で魔力の調整が効く。魔力を集めて空中に1m程の防壁を出現させる。それを見て兵士たちはどよめいていた。
「おい、前の方!防壁の詠唱は聞こえたか!?」
「いや、聞こえなかったぞ、口すら開いてない!」
「すげえ!詠唱無しで魔法を使えるなんて最強じゃないか!」
兵士たちが好きなように話しているのでどうすれば良いか分からない。おろおろしていると楓さんが兵士たちを怒鳴りつけた。
「お前たち静かにしろ!好き勝手に話すんじゃない!そろそろ時間だ。配置に付け!」
「「「「「はい!」」」」」
あれほど騒がしかった兵士たちは楓さんの指示で静まり黙々と準備をし始めた。陣は僕を中心にして円状に並ぶ形だ。朝日が僕たちを照らす中、陣が出来上がる。しばらくすると、羽ばたくような音が聞こえた。
「・・・・・・来たぞ」
振り向くと、太陽を背にして竜人達がこちらへ向かってきていた。その様子はまるで神の審判を想像させる。声が届くくらいまで近づいてくると一際大きい竜人が前へ出てきた。
「アキナはいるか。いるのならば出て来い」
低い声が響き渡る。ぼくの近くにいたアキナが前へと歩み出た。
「お父さん、何の用事?私は話すことは無いんだけど」
「最後の通告だ。戻って」
「お断りよ」
言い終わる間も与えずにアキナは言い放つ。
「私は使命を守る。救世主のカズトを守る。だからそれに反する命を出すお父さん、いえ、ガナンには従わない」
「そうか、それは残念だ」
ガナンはそう言うと空高く舞い上がり、一言呟いた。
「やれ」
まずい、何か来る。危険を感じ取った僕は叫んだ。
「防壁!」
青白い防壁が僕たちを中心にドーム状に展開される。それとほぼ同時に竜人たちの手から無数の炎の弾丸が放たれた。防壁が攻撃を防いでいる間に呆然としていた兵士たちがようやく動き出す。しかし防壁で全て囲んでいるので動きようがない。攻撃がやむのを待つしか無いだろう。
魔力を注ぎながらじっと待つ。3分ほど立つと攻撃がぴたりと止んだ。その一瞬をついて防壁を解除し視界を確保する。どうやら魔力切れのようだ。竜人たちは地面に降り立っている。高みの見物をしていたガナンが降りてきて楓さんに話し掛けた。
「ようやく出てきたか。お前たちは殻に籠もる事しか出来ないのか?」
「あいにく戦うことは得意じゃないんでね。総員戦闘態勢!敵を迎撃せよ!」
息つく暇も無く白兵戦が始まる。剣戟が鳴り響く中、僕は作戦を決行する時を伺っていた。結構タイミングが難しい。楓さんに聞きたいけど先頭で指揮を執っているので話すことは出来ない。前線に目を配っていると、見方の兵が撤退してきていた。負傷した兵がかなり多いが、致命傷を負った兵はいないみたいだ。それを追撃する竜人たち。見方に被害でないようにするなら今しかない。4割くらいの魔力を使って、竜人たいの頭上にM84フラッシュグレネードをばらまいた。
突如現れた見たことの無いものに竜人たちが顔を上げる。直後、彼らの視界は閃光で埋め尽くされる。
轟音と閃光によって視覚と聴覚を奪われた竜人たちは歩くことすらままならない。半数以上の竜人が意識を手放して倒れ込む。かろうじて立っている者もいたが、ふらついていて戦うことはできないようだ。
「今だ!前線を再び押し上げて敵を拘束しろ!」
負傷した兵を下げ、戦闘部隊とアキナのいる拘束部隊、アルカネのいる竜人を運ぶ部隊が一気に前へと出る。あれほどいた竜人たちが次々と簀巻きにされていく。今戦っている竜人は100人にも満たない。全員拘束するのも時間の問題だろう。そう油断していた時だった。
「ふむ、もう終いか。負けたのならば死を持って償うと良い」
ふと聞こえた呟き。上を見ると、ガナンから大量の魔力が漏れ出ていた。ガナンはおもむろに手を挙げると何かを唱えた。空中に魔方陣が展開され、何かを放った。
それは熱線。眩しすぎて直視できないほどの熱量を持ったそれが、防壁の張られていない後方の兵士たちを覆い尽くした。僕には兵たちが熱線によって吹き飛ぶところしか捉えることは出来なかった。
辺りは酷い有様だった。土煙が立ち込め、所々火柱が上がっている。竜人たちは熱線によって火傷を負い、僕たちの部隊も少なくない被害が出ている。何人かは死んでいるだろう。
「僕のせいだ・・・・・・」
油断していた。もう大丈夫だと高をくくっていた。僕の僅かな気の緩みが大きな被害をもたらしたのだ。
過ちを犯してしまった自分に腹が立つ。だけどそれ以上に腹が立つ。味方ごと焼いたあの熱線に。空に浮く、味方もを共に殺した竜人に向かって叫ぶ。
「ガナン!なぜ味方ごと焼き払ったんだ!?答えろ!」
「ふん、もう戦えない兵の有効活用と言って欲しいな。お前は誰も死なせないような立ち回りをしている。なら竜人たちを苦しめればお前も苦しむだろう?」
「っこのくそやろおお!!」
「ははははは!いいぞ!憎め!恨め!そして殺せ!それでこそ私が憎む異世界人だ!そろそろ私は撤退させて貰う。これは最後のお土産だ」
ガナンが飛び去りながら指を鳴らした。
「う、あ、あああああああああ!?」
熱線にやられた人たちを救助していたアキナが突然苦しみだした。アキナが身に付けている首飾りが禍々しく光り、アキナの姿が徐々に変わっていく。人から竜へと姿を変えていく。
「ギュガアアアアアアアアッッ!!」
やがてアキナの姿は、完全なる竜となった。魔力の翼ではない、本物の翼。鋭い爪と強靭な鱗を持ったドラゴンとなって、僕の前に立っている。
「成功か。さて、守るはずの仲間同士で殺し合うが良い。アキナよ、その命を以て凄惨な被害をここにもたらせ!ハハハハハハハハ!」
飛び去っていくガナン。ここに残されているのは目を背けたくなる光景と、竜となったアキナ、そして生き残った僕たちだけだ。
アキナに向き直る。既にアキナは戦う準備が出来ているようだった。剣を出現させて握る。
「戦わなきゃ、だめなんだよね」
竜の咆哮、それが開戦の合図。僕と、竜になった少女の戦いの合図だ。