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剣と魔法と銃器を武器に僕は世界に立ち向かう  作者: 雨空涼夏
一章 若き少女と竜の巫女
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作戦会議

お待たせしました。

日付が変わり、朝を迎える。本当であれば楓さんと訓練をする予定だったけど、アキナから伝えられた竜人が攻めてくる事への対策を話し合うことになった。使いの人(大臣さん)の荷車で、僕とアルカネと新しく仲間に加わったアキナが城へ運ばれていた。アキナは町の風景を楽しんでいるようで、時々奇声を上げながら外を眺めていた。


「ねえカズト、あの建物はなに?私の見たことないものがたくさんあるのね」

「僕も最初はそうだったよ。僕のいた世界とは全く違う」


僕だって最初は驚いてばかりだった。アキナのようにすぐに楽しんではいなかったはずだ。


「ねえカズト。私、この国を戦争に巻き込みたくない。カズトはこれまでの異世界人とは違うって分かってもらいたかったのに、どうしてこうなっちゃったんだろ……」


小さな願いが聞こえる。そう言ったアキナの声は震えていた。アキナは戦いなんて望んでいないんだろう。僕だって戦いたくない。誰かが死ぬなんてまっぴらごめんだ。


「誰も死なせない。絶対に」


小さな声で、ぼそりと呟いた。


城に着くと、兵士や文官が慌ただしく駆け回っていた。なんせ明日は戦争だ。突然知らされたのだからどこも混乱しているんだろう。人の合間を縫って、楓さんのいる玉座へ向かう。


2,3分歩き玉座の間に着く。中に入ると楓さんが文官たちに、矢継ぎ早に指示を出していた。その姿は歴戦の指揮官。初めて楓さんの王様らしい姿を見た瞬間だった。ふと僕と目が合う。到着したことに気付いたようだ。


「やっと来たか。全員下がれ。以降の連絡は追って伝える」

「「「はっ」」」


やがて僕たち以外の人が部屋から出ると、楓さんは玉座に座り込んだ。


「では作戦会議を始めよう。おい和人、何か言いたいことがあるんだろう。顔に出てるぞ。言いたいのならさっさと言え」


僕の方を見て言い放つ。バレバレのようだ。楓さんの言う通りなので、言ってしまおう。


「僕は、この戦争で誰も犠牲者を出したくありません」

「それはそうだ。味方の犠牲は少ない方が良い」

「そうじゃないんです。味方だけじゃなくて敵も含めて誰一人、死者を出したくないんです」

「「「はぁ!?」」」


僕以外の三人の声がシンクロする。分かってるよ、無茶苦茶なことを言ってることぐらい。


「馬鹿か、お前?味方だけならまだしも、敵も死なせないだと?そんなことは実現不可能だろう」

「そうよ!どうやって誰も死なせないようにするのよ!?」

「私たち竜人はちょっとやそっとじゃ撤退なんてしないわよ。二人の言う通りだわ」


「でもっっ!!僕のせいで誰も死なせたくないんだ!誰かを死なせるくらいなら僕一人で戦えばいい!」

「頭冷やせよ、馬鹿」


いつの間にか近づいていた楓さんに頭を殴られた。アキナとアルカネが心配そうに駆け寄ってくるが、それを手で制する。僕は楓さんに見下ろされる形で話を聞かされることになった。


「お前の命はもうお前だけの物じゃないんだよ。そこの竜人の娘はお前を全力で守ると言ってる。隣にはお前が倒れていた時に本気で心配してくれた仲間がいる。そいつら置いて勝手に死ぬつもりか?一人で突っ込むってのはそういう事だ」


何も言い返すことなんかない。言い返すことなんて出来ない。楓さんの言っていることは正しいんだ。


「それに敵も味方も死なせないと言ったな。その場合、お前が戦場全体の指揮を執らなきゃいけない。つまり国の兵士全員の命を預かることだ。お前にはその覚悟があるのか?指揮を執って敵も味方も死なせずにどう戦争を終わらせるつもりなんだ?言ってみろ。確実なプランを提示したうえでお前の覚悟を言え。でなければお前の提案は受け入れない」


吐き捨てるように言って楓さんは玉座へと戻る。僕が喋るのを待っているんだろう。考えろ、この足りない頭を使って考えるんだ。


「10分、待ってください」

「分かった。10分後にお前の案を聞こう」


でも時間を貰ったとはいえ何も考えてはいない。ちゃんとした作戦でなければ楓さんを説得することは出来ないだろう。そのためには情報が欲しい。


「アキナ、聞きたいことがあるんだ」

「んー、何を聞きたいの?」

「アキナが知っている限りのことでいい。竜の里の兵の数と、兵士の主な攻撃手段を教えてほしい」

「了解。兵士の数はざっと1000人くらい。多めに見積もっても1200人よ。攻撃手段だけど、竜人は空を飛びながら火炎魔法で攻撃してくるわ。空を飛ぶのと火炎魔法には魔力を使うから、魔力が切れそうになると地上に降りて白兵戦に移るわ。使う武器は里で作った金属の剣。かなり丈夫だから、力の強い私たちが扱いやすいようになってるわ。無力化したいなら地上から引きずり降ろして魔力を使えなくしてしまえばいいわ。この国にはそれがあるから、手足につなげばいいわ。ちゃんと武器も取り上げてね?」

「ありがとう。使わせてもらうね」


攻撃手段だけでもよかったのだが、それ以外の情報ももらうことが出来た。非常に助かる。


「楓さん。アキナが言っていた魔力を遮断する拘束具はどれくらいありますか?」

「知らんな。今調べさせておこう」

「お願いします」


兵士の拘束手段はこれで一つ。白兵戦になったらどう対処するべきだ?これは個々の意識に任せるしかない。誰か人望のあるリーダーに指揮を任せた方が良いだろう。

火炎攻撃の無力化は僕で何とかするしかない。戦場全体のカバーなんて出来る気がしないがそこはサポートしてもらおう。


「そろそろ10分だな。現時点でのプランを言え。後さっきの拘束具だが、城の倉庫に2000は軽くあるそうだ。採用しても構わん」

「分かりました。まず、迎え撃つ場所は僕がアキナと魔物に襲撃された草原にします。あそこならここからの支援も可能な距離です」

「確かに。国が攻められる危険も本来なら考慮すべきだが、今回のターゲットはお前だ。お前が草原にいれば国の方に被害が及ぶこともないだろう。次」

「次は動員して欲しい物資と兵士です。関所の近くに緊急の治療院を用意してほしいです。それと、敵味方問わず、負傷した兵士をその治療院に運ぶ部隊も。竜人には魔力を遮断する拘束具を付けておいてください。後は動員できる兵士を出来れば3000人位。魔法の扱いに長けた人も欲しいです」

「先に行った三つは許可しよう。魔導師を連れていくのは何故だ?」

「僕の考えた竜人の無力化の方法は、閃光で目潰しをして視覚で認知出来ないようにする方法です。魔法を使う人には竜人たちに向けて強い光を起こし、目潰しをしてほしいんです」

「確かに閃光を起こすことは可能だが、1000人をまとめて目くらましできる程の魔力は持っていないぞ。他をどう補うつもりだ?」

「これを使います」


僕は魔力創造で一つの手榴弾を出した。M84スタングレネード。爆発による被害を最小限に留める設計がされている非致死性武器だ。爆発すると轟音と閃光で相手を無力化できるはずの武器。実際に使用したことがないのでどうかは分からないが空中を飛ぶ竜人たちには有効なはずだ。楓さんにそれを説明すると、玉座から立ち上がり、魔法の詠唱を始めた。すぐに薄紫色の結界が張られる。


「俺に向けてそれを使え。もう結界は張ってある」


その為に結界張ったんですかこの人。実際に体験してみようとか正気の沙汰ではない。


「そんな武器はこの体で試してみないとワクワクが収まらないんだ!早く使え!」


……そういえばこの人、狂戦士だった。本当は採用するにあたる武器か確かめたいんだろうけど、先に願望が口から漏れてしまっている。残念な人だ。

 

「アルカネ達は下がってて。死なないとはいえ、それなりに危険なものだから」

「分かったわ。壁の方を向いていればいい?」

「うん。そうしてもらえると助かる」


アルカネ達が部屋の隅に行ったのを確認すると、楓さんに確認を取る。


「じゃあ今から楓さんに投げますけど、爆発した後はどうすればいいんですか?」

「1分待て。その後は一度俺を殺せ」

「分かりました。行きますよ!」

ピンを抜いて楓さんの足元に投げる。回れ右をして耳を塞ぎ、全速力で壁に向かって走る。2秒後、大きな音と閃光が部屋を包んだ。楓さんの方を向くと、辛うじて立ってはいるものの物凄いフラフラしている。酔いつぶれた酔っ払いでもあそこまではふらつかないだろう。よく立っているものだ。体の様子を見ても、眼だった傷などは無い。足元で爆破してあれなら大丈夫なはずだ。


「楓さん、実際に受けてみた感想はどうですか?」


聞いてみたが返事が返ってこない。まだ聴覚が戻ってないみたいだ。でもそろそろ1分経つので殺さないといけない。剣じゃこの人は殺せないので銃を出し、引き金を引いた。フルオートなので1マガジン打ち切って銃を消す。顔が滅茶苦茶になった楓さんが消えて、玉座の上に座った状態で再び創られていく。そうして楓さんが元の状態に戻り、しばらくの間目覚めるのを待つ。


「採用だ」

「はい?」


目覚めた瞬間に楓さんはそう言い放った。聞き返したのは単純に聞いていなかったからだ。


「採用だと言ったんだ。実際に怪我はしていないし周りの様子が全く分からなくなる。確かに無力化するのには最適だ。実際にはどう使うつもりだ?」

「既に安全ピンを抜いた状態で空中に出現させて使います。そっちの方が効率的ですから。一度失敗すると対策を取られるので、出来れば一度で決めたい所です」

「そうだな。音はともかく、閃光に対しては光を遮れば問題ない。その方が良い。次はそこの竜人が言っていた火炎攻撃の対処法だ。考えてあるか?」

「それは今のところ防壁を使って防ぐとしか考えていません。一人でもカバーできる程度の火は個人で何とかしてもらいたいですけど、面制圧されるほどの大規模なものは僕が何とかします」

「魔力が尽きた場合はどうする?」

「そこで一つ聞きたいことがあります。魔力を補給するものは何かありますか?」

「魔石だ。補給と言うよりは使用だな。魔石から魔力を引き出して使用することが出来る。魔石の予備は大量にある。それを使えばいいだろう」

「分かりました。大まかな内容はこれでいいですか?」

「まだだ。さっきも言ったが指揮官を決めなきゃいけない。総合的にはお前だが、部隊を仕切る奴がいなければ戦場は大混乱だ」


という事はリーダーを決めればいいのだろうか。楓さんでいいかな。


「じゃあ楓さんでいいですか?一応王様ですし、見た感じ兵士からの信頼もしっかりしてると思うので」

「一応って、お前なあ……。分かったよ。戦闘部隊の指揮は俺が執る。作戦が成功するように死力を尽くそう」

「ありがとうございます」


淡々と進んだけど、大雑把な作戦は立てることが出来た。後は上手くいくように行動するだけだ。


「初心者にしては比較的まともな計画を立てたな。まあ前提となる条件が異常なんだが。これから先どうなるかは俺にも分からん。今日は城に泊まっていけ。何かあった場合指示を出す。明日は4時に起きろ、それから10分で支度だ。俺たちの指揮下に入る兵士達はもっと早く準備をするからな。文句を垂れるんじゃないぞ」

「分かりました」


楓さんが玉座の部屋を出ていく。泊まって行けと言われてもどこに行けばいいのだろうか。


「僕たちってここで待ってればいいのかな?」

「分からないわ。勝手に動いて指示が通らなかったら困るでしょうし、ここに居ましょうか」

「はーい!ねえカズト、何かして遊ぼう!」


アキナが元気な声で提案する。


「そうだね、少しは暇だろうし。追いかけっこでもしようか」

「じゃあカズトが逃げる方ね!私が追いかけるから!」


言うが早いか僕にタッチしようとアキナが駆けてきていた。紙一重で躱して逃げる。


「あはははっ!待てー!」

「待ったら追いかけっこにならないよ!」


そんな感じでしばらくの間、玉座の部屋を駆け回った。どれくらい走っただろうか。疲れて座り込んでいるところに楓さんが戻って来た。


「済まない、部屋を伝えるのを忘れていた」

「だと思ってました。どこに行けばいいんですか?」

「俺の部屋の隣だ。全員付いてこい」


連れてこられた場所は城の3階。天蓋付きのベッドが二つもあり、巨大な窓がある広い部屋だ。


「凄いわね。こんな部屋を貸してもらえるなんてありがたいわ」

「うん。僕もちょっと驚いてる」

「カズトー!このベッドふかふかだよー!」


アキナがベッドの上で飛び跳ねている。楽しそうだが止めてもらわないと埃が舞う。跳ねるアキナをベッドから降ろし、荷物を整理する。伝えが入ったのはその時だった。


「通達します!竜の里より宣戦布告が告げられました!攻撃開始は明日8時!急いで準備をお願いします!通達します!竜の里より宣戦布告が告げられました!攻撃開始は明日8時!急いで準備をお願いします!」


もう時間は無いらしい。楓さんにどうすればいいか聞いたところ、「メシを食って寝ろ」と言われたので3人で用意された食事を食べ、早々にベッドへ転がり込んだ。寝る前に僕達は3人で願った。


誰も死なないように、と。


_______________


「結局戻っては来なかったか……」


既に兵士たちは準備を整えて里の広場に集合している。総勢1300人。かき集められるだけかき集めた兵だ。

あの娘はどうしようか。まだ使えそうではあるが、手遅れであるならばすぐに処分しなければ。所詮は道具だ。あの首飾りは最後の切り札だ。例え敗れるとしても、ありったけの被害を残して負けてやる。

さて、兵の士気を上げようか。その為にここに集めたのだ。一息吸い、声を張り上げる。


「竜の里の勇敢なる戦士たちよ!良く立ち上がってくれた!ここにつどってくれたことを感謝しよう!」


兵士たちの歓声が上がる。よし、士気は高い。この調子ならばあの異世界人一人を殺すことは容易いだろう。


「この戦いはかつて住処を奪った人間達への復讐だ!これまで我々が溜め込んできた恨みを、怨嗟を晴らす時だ!戦うのだ!誇り高き竜人たちよ!ここに雪辱を果たすのだ!」


怒号にも似た唸り声。これが恨みだ。怒りだ。憎しみは力をもたらすのだ。朝がお前たちの命日だ。待っていろ。

兵達の声を背中に受けながら、自分の居城へと戻る。明日の8時、攻め込むことは向こうに伝令で伝えてある。どこに陣を構えるかは分からないが、見当たらなければ城へと攻め込んでやろう。街に横たわる死体を想像し、思わず笑い声が出る。


「はは、はははは、はははははははははははははっっ!!!!」



かつての教えを忠実に守り、里を治めてきたガナンの姿はもうない。復讐に取り憑かれた男が一人、ただ笑い続けていた。


次からしばらくは戦争です。

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