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剣と魔法と銃器を武器に僕は世界に立ち向かう  作者: 雨空涼夏
一章 若き少女と竜の巫女
22/87

知らない昔のお話

遅くなりました。


「君・・・だれ、な」

「質問に答えなさい。と言ってもその状態じゃ話せそうに無いわね。ちょっと待ちなさい」


そう言うと少女は手を僕の方に向けた。


「魔力を用いて宣言する。この者の傷を治せ、『再生』」


黄色い魔力が僕の体を包む。体の骨折は完全に直らないようだけど、傷口は塞がってくれた。さっきよりはだいぶマシだ。


「じゃあもう一度。あなたはこの世界で何をするつもり?世界征服?それとも最強になってハーレム作り?あんたら異世界人はろくな事をしないからね。どうせあんたも同じなんでしょ?」


少女はゴミでも見るかのような目で僕を見下ろしている。


「僕と一緒にこの世界に連れてこられた永遠とわって女の子を探しているんだ。僕には狙われる理由が分からない!」

「静かにして」


そういうと少女は僕の顔を覗き込んできた。エメラルド色の瞳がくりくりと動いている。


「へえ。嘘はついてないみたいね。その話、詳しく聞かせてもらおうかしら」


・・・この子、どうやって嘘をついてないって判断したんだ?顔を近づけていたから眼に何か仕組みがあるのか?とにかく、誤魔化すのは止めた方が良さそうだ。


「その永遠って子はどんな子なの?教えてくれたら私の知っていることを教えてあげるわ」

「それを教えて何の意味がある?永遠のことを知っても君には何の意味もないはずだ」


少女は困ったような、楽しんでいるような顔をした。


「まあ普通疑うわよね。先に教えておきましょ。私はアキナ。竜の里の巫女であり里の長ガナンの娘よ。

私は事実を見極める眼を持ってる。この世界の人間か、別の世界から来た異世界人か。喋ったことが本当か嘘か。今言った二つを見極めることが出来るの。それであんたが言ったことを見極めたの」


彼女は、アキナと名乗った少女は自分の目を指さして言った。

やっぱりか。この子には嘘が通用しない。その代わり、本当の事を伝えれば助けてもらえるかもしれない。これはちょっとした賭けになるかも。


「永遠は僕の幼馴染みだ。別の世界、ここに来る前の世界で事故に遭って、僕と一緒に死んだはずだ。目が覚めるとこの世界にいて、キューブと本があったんだ。キューブに聞けば分かるって本に書いてあって、永遠はこの世界にいるか聞いたんだ。キューブは、いるけどどこにいるかは分からない、と答えた。だからいまこうして力を付けながら永遠を探す準備をしてる」


アキナは僕の顔を見ながら、僕の言った内容を確かめているみたいだ。


「ふーん、だいたいのことは分かったわ。そのキューブってのを見せてくれない?」


僕はポケットからキューブを取り出し、アキナに渡す。

アキナはキューブを不思議そうに眺めて、手で弄んでいる。


「これがキューブ?真っ白ね。どうなってるのかしら。ここはどこ?」


アキナがキューブを握って問いかける。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「何か言いなさいよ!恥ずかしいじゃない!」


キューブは反応しなかった。僕が使った時は光ったんだけどなあ。


「ちょっと貸して。僕しか使えないのかもしれない」

「じゃあ使ってみて。機能したら信じてあげる」


返されたキューブを握り、アキナと同じことを聞いてみる。


「ここはどこだ?」


キューブが青白く光る。


「ここはアルトノリアから7キロ離れた草原だ。日中は草食動物が多く、夜間は魔物が徘徊している」


キューブの光が収まっていく。


「・・・キューブが光ったのは見ることが出来たけど、私には何も聞こえなかったわよ?」

「それは僕にもよく分からない。僕にはちゃんと聞こえているんだ」


アキナは僕の顔を覗き込む。嘘をついていないか確かめてるんだろう。


「・・・分かった。信じるわ。所有者しか扱うことはできないってことね。よく出来てるわね、それ。じゃあこっちからの質問は以上。次はアンタ。何か聞きたいことはある?」


聞きたいことか・・・。


「僕を狙った理由と、君の眼、竜の里について教えてほしい」

「分かったわ。私が知りうる範囲ですべて話すわ。長くなるから寝ないでよね」

「寝ないよ。僕には寝るなんて選択肢はない。そんなことしたら生きてないと思うよ」


大真面目に言ったのに、アキナはジョークとして受け取ったようだ。


「ふふふっ。それもそうね。まずはあなたを殺そうとした理由ね。私の里では異世界人は忌むべき悪として教えられているの。異世界人がこの世界に来るときは、どこに来たか、何人来たかを私の眼が教えてくれるの。私の役目は、見つけた人数を伝え、全員殺すこと。直接殺すことが困難だと判断したら、魔物を使って殺す。アンタは全部殺してくれたけどね」


つまり2回にわたる魔物の襲撃は、僕を殺すための軍勢だったのか。


「そのせいでお父さんには怒られるし、貴重な魔物たちも失うしで散々だったわ。アンタが無害な奴だって知ってればこんなことにならなかったのに。ともかく、殺そうとした理由はこんな感じよ。あ、安心してね。私はもうアンタを殺そうとは思わないから。この眼で無害な奴って判断したから。お父さんも何とかして説得しておくわ」


アキナは軽く微笑む。


次は私の眼だっけ?まあさっき言った通り。異世界人を見分けることができて、この世界に来るときは人数、場所がわかる。ついでに、喋ったことが嘘か本当かもわかる。これのせいで巫女なんてめんどくさいものになっちゃったんだけど」


アキナは目を指さしながら言った。本人からすれば便利なようで鬱陶しいものなのかもしれない。


「次は竜の里。私の里は大きな山脈のてっぺんにあるの。ここからは見えないけど、地図で見ればだいたい真ん中辺りにあるわ」


地図といわれても、僕はアルトノリアと最初にいた村しか分からない。今度地図を見せてもらおう。


「さっきも言ったけれど、昔アンタと同じ異世界人が私達の里を襲ったの。その時に私のお母さんと、里の若い女の子達が攫われてしまったらしいわ。『ドラゴン退治だ!一匹残らず殺せ!』なんて。馬鹿みたい。同じ竜なのに男は殺し、女は攫い、ただの賊じゃない。そのせいで異世界人は目の敵にされてるわ」


なんとなく想像が付く。異世界に行きたい、そんな事を考えた時は何回かある。小説を読んだりしていれば少しは憧れるものだ。その人たちも、なんらかの力を持って、主人公になってみたかったのかもしれない。


「結局そいつらは攫った子達を全員殺した。何故殺したのか理由を聞いたら『デレないあいつらが悪いんだ、俺たちは何も悪くない、歯向かうあいつらが悪いんだ!』って言ったのよ」


怒っているのだろう。悔しそうな声でアキナは語る。


「デレってのはよく分からないけれど、あいつらの身勝手な行動で里の仲間が沢山死んだ。私と父さんでそいつらは全員殺したけれど、今でも皆異世界人を、いや、人間を憎んでる。ずっと、ずっと」


僕には黙ることしか出来ない。


「もういいかしら。私が知ってることはこれくらいよ。後は何かある?」

「体を元の状態に戻して欲しいかな」


全身の骨がちょうどいい具合に折れているので痛い事この上ない。左腕はそもそもない。しかもなんか白いものが突き出てる。想像がつくけど見なかったことにしたい。結論から言えば全身が痛いのだ。


「健康な状態ね。でもすぐには直せないわよ?」

「どうすれば直せるの?」

「あなたの腕を使えば直せるわ」

「う、腕?」


またもがれるのだろうか。あの激痛は勘弁願いたい。


「何で腕が必要なの?」

「あなたの体の情報がないから正確に創れないのよ。体の骨折だけだったらあなたの血と肉があれば足りるんだけど、腕一本となると、もう片方の腕も使わないと厳しいわ。何か元となる媒介物が必要なの」


これは従わないと碌な事にならないことが予想される。仕方ないが、背に腹はかえられない。


「分かった。そうしてくれ」

「良いのね。じゃあ準備するから少し待って」


アキナが目をつぶりぶつぶつと何か呟いている。次第にうっすらと魔力が漏れ出してきた。目を凝らさなくても魔力が見えるくらいになるとアキナは呟くのを止めた。


「いくわよ。絶対無理だろうけど、痛いから我慢してね」

「うん、頑張る」


なんか注射する前の子供みたいだ。


「せーのっ!」

「ーーーーーーっっっっっってぇええええ!!!」


腕が千切られた。痛い。なんで千切ったの、切った方が痛くないじゃん、骨とか関節とか筋肉とかの引き裂かれて行く感じが痛い。無くなっちゃったから腕の痛覚はないけど肩からどばどばと血が流れていく。


「魔力を用いて宣言する、この腕を糧にこの者の体を再生し創造せよ、『復元』!」


唱えた?始まった?激痛に耐えながら聞いたアキナの詠唱で体の再生が始まった。先に腕が生えてきた。アキナが持っていた腕が粒子に分解され、僕の肩に集まってきた。くっつき合って腕の形になり、肩からゆっくりと実体化していく。痛みはもう無い。1分もすると両腕は確かに僕の肩に繋がっていた。


体中の骨折はどう再生しているのか分からない。痛みが引いている、としか感じられないからだ。でもたぶん大丈夫だ。アキナを信じよう。


「終わったわよ」


体を見ると、服は元に戻らないが体は完全に元通りになっていた。だけど体がものすごいだるい。


「ありがとう。でも体が重いんだけど」

「多分体の再生に体力を使ったのよ。しっかり休んでおいた方がいいわよ。私は行かせて貰うわ。さようなら、正直者のお人好しさん」


そう言うとアキナは赤く光る翼を広げて飛んで行ってしまった。


「はあぁぁぁぁぁ」


何とかなった。助かった。運がよかったんだ。早くアルトノリアに戻らないと。


「アルカネが、心配してるな・・・」


立ち上がりたいけど体が動いてくれない。ちょっと休もう。

血溜まりに身を投げると意識は闇へと沈んでいく。


「カズトー!どこにいるの?返事をしてー!」


遠くで誰かが呼んでいる、ような気がした。

定期考査が迫っているため投稿ペースを週1に落とします。投稿日は日曜日の予定です。

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