食事タイム
「ん・・・」
目が覚めてもやっぱり地面の上。起き上がると、まだ楓さんが仰向けになって寝ていた。
復活する時間には個人差があるのだろうか。とりあえず起こそう。
「楓さん、起きてください。楓さん」
「ふあああ・・・。ったく、うるせえなあ」
楓さんの体を数回揺するとすぐに起きてくれた。もう少し抵抗されると思っていたので意外だ。
「お前なあ。ろくでもない殺し方しやがって。一発で斬れなかったら大量出血しながら何度も切られなきゃいけねえんだぞ」
「すいません。あれしか方法が思いつかなかったんです」
「まあいい。とりあえず今日は終わりだ。また明日迎えに行かせるから宿で待っていろ」
「分かりました。では、お疲れさまでした」
訓練場を出て城門に行くと、途中の通路でアルカネが待っていてくれた。
「カズト、お疲れさま」
「うん。アルカネもお疲れさま」
「今って何時?」
「ちょうどお昼時よ」
ぐぅぅぅぅっ
昼と聞いたからか、お腹が急に鳴りだした。結構大きな音だったので少し恥ずかしい。
「何か食べに行きましょうか。近くに露店があったはずだわ。そこに向かいましょう」
少し歩くと、確かに露店はあった。あったのだが、数が多い。神社の宵宮のような感じだ。
もちろん、沢山の人でごった返している。通れる道なんてものは存在しない。
「これどうやって進むの!?」
「無理やり突っ切るのよ!1時間後にここの時計のある広場で集合ね!」
言うが早いか、アルカネは人混みの中に紛れてしまった。
「嫌だなあ、この中進むの」
面倒だったため、人通りがたまたま少ない露店に向かった。
近づいてみると、串焼きを売っているみたいだ。パッと見では何の肉か分からない。
「お、そこの兄ちゃん!一本どうだい?」
串焼き屋のおじさんが声を掛けてきた。でも自分、中銀貨しか持ってないんだけど。
「いくらですか?」
「一本小銅貨5枚だ。手持ちが無かったのかい?」
「いや、あるっちゃあるんですけど・・・」
ズボンのポケットから中銀貨を取り出す。それを見たおじさんは大笑いだ。
「はっはっはっは!そういうわけか!そりゃあ困る訳だ。あっはっはっはっは!」
ひとしきり笑うと、「ちょっと待ってろ」と言っておじさんはカウンターの下から大きな袋を取り出した。置くときにジャリッと金属音がしたので恐らく店の売り上げだろう。
「時々あんたみたいな奴がいるんだよ。釣銭はしっかり用意してある。ちょっと買ってもらう本数は多くなるが、中銀貨でも応じるぞ?ちなみにほかの店だったらとっくに追い返されてるぞ」
やっぱり。細かい通貨を持っていないと、ここの露店では買い物ができないらしい。親切なおじさんのおかげだ。このおじさんがいなかったら僕は昼ご飯を食べ損ねていた。
「何本ありますか?」
「在庫なら1000本以上あるぞ?」
「じゃあ100本ください!」
「はっはっは!そうこなくっちゃ!じゃあお釣りは小銀貨99枚、大銅貨99枚、中銅貨95枚だな!ちょっと待ってろ!」
おじさんは袋から小銀貨、大銅貨、中銅貨を一枚一枚丁寧に数えて渡してくれた。かさばるからと、丈夫な袋に入れてだ。優しい世界だ。
それからものすごい勢いで肉を焼き始めた。(おそらく)熟練の技で、焼きムラのないこんがりと焼けた串焼きを次々と作っていく。ものすごい芸当で、露店の周りにはいつの間にか人だかりが出来ている位だ。
「はいよ!」
最後の一本が完成する。周りから一気に歓声が上がった。
「お、なんだなんだ?有名人か、俺?」
驚いているおじさん。が、すぐに落ち着きを取り戻し、串焼きを渡してくれた。
「はいよ!串焼き100本、毎度あり!」
「ありがとうございました!また来ますね!」
「おう!俺はいつだってここで待ってるぜ!」
串焼きを抱えて店を離れると、周りで見ていた人たちがおじさんの串焼きを買おうと殺到していた。
買う人の少なかったさっきと比べると大繁盛だ。
また今度、沢山買いに来よう。そう誓って、集合場所に急いだ。
広場に着いた。アルカネはどこかな。辺りを見回すがみつからない。
あれ、何処にいるんだろう。まだ来てないのかな。
時計を見ると、まだ約束の時間まで10分くらいあった。
ベンチに座り、串焼きを食べる。
「うまっ」
柔らかい。こんがりと焼けているのにふんわりとした噛みごたえ。口の中に肉汁があふれ出す。
たった1本の串焼きで、満足してしまいそうな美味しさだ。
でもこれ、何の肉なんだろう。まあ美味しいし、べつにいっか。
黙々と美味しい串焼きを頬張っていると、遠くから誰かこちらへ走ってくる。
「ごめんなさい!遅くなっちゃったわ!」
手にはパイやらクレープやら見たことない奇妙な見た目をしたケーキなどなど、沢山の甘いものをぶら下げている。
「やっぱり混んでるわね。全部買うのに手間取っちゃった」
「それ全部食べるの?どう見ても自分の体より体積が大きいよ?」
「入る入る!こんなのへっちゃらよ!」
そういうとさっそくパイに手を付け始めた。本当に美味しそうに食べるなあ。見てるこっちが幸せになるくらいの笑顔で食べている。
自分が串焼きを食べ終わるころには、アルカネは甘いものの群れをほぼ全て平らげていた。
すごい。いっぱい食べるだけじゃなくて、食べるのも速いなんて。フードファイトとかやらせたら甘いもの限定で無双できそうだ。
「カズト、もう一度城の方に向かいましょう」
「え、何で?」
「お金を預けるの。カズトもそれ、かさばって邪魔でしょ?」
「うん」
「城の近くに役所があるの。そこでお金を預けられるから、魔石を売って手に入ったお金を預けるのよ。中銀貨なんて結構な大金だもの。スリとか強盗に狙われる前にさっさと行きましょう」
確かに。これものすごく重いんだよね。一個一個は軽いけど、束になったらこの団結力だもんね。
「分かった。じゃあその役所に行こう」
串焼きおじさんの串焼きで心地よい満腹感を得て、僕はアルカネと一緒に役所に向かった。
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