王の提案
「ようこそ、アルトノリアへ」
この人がアルトノリアの王様?どっからどう見ても日本人だよね?
僕が驚いて何も喋らないでいると、そのまま話を進め始めた。
「さっそくだが襲撃してきた魔物の姿、被害を報告しろ」
「はいっ!襲撃してきた魔物は人型の鳥のような姿をしていました。被害は建物が何棟か破壊され、戦闘時に草原を少し焼け野原にしてしまいました!以上です!」
威圧感に負けてほぼ反射的に答えてしまった。もう一度工藤楓と名乗った王様を見る。
髪は黒いし若い。なぜか手にはボロボロの制服が握られている。
制服を持っているということはこの世界に連れてこられた人で間違いないだろう。
当の楓さんは手を顎に当てて考え込んでいる。
声をかけようとしたら先にアルカネが話しかけた。
「あのー・・・」
「おっと悪い、お前達にはほかにも用事があったんだった」
「あ、あの!」
「それじゃあ用事を済ませてしまうか。じゃあさっそく」
「少しは喋らせてください!」
叫んだ。アルカネが。空気がビリビリする位の大声で。さすがの楓さんもこれには驚いているようだ。
「いい加減にしてよ!呼ばれて来たら何も喋らせずに次から次へと!会話をして!会話を!」
「すまないすまない、昔からの悪い癖でな。ちゃんと段階を踏んで話そう」
口で謝ってはいるが全然反省した様子が見えない。この人はいつもこんな感じなんだだろうか。
「改めて、工藤楓だ。力あるものが王になる規則に則り去年、先代の王を打ち負かして王になった。大体見当はついていただろうが、お前と同じ日本人だ」
「やっぱりそうでしたか」
「そこで本題だ。先代の王が決めたお触れがあってだな、変わったお触れなんだ」
「どういうお触れなんですか?」
「ちゃんと正式に言わないといけないからな。ちょっと待て」
一息吸うと、真面目なトーンで、王様っぽい口調で話した。
「47代アルトノリア王、石川昂の政策に則って、お前達異世界人を保護したい」
「保護?」
「保護ってどういうことなの?」
アルカネが問いかける。
「保護ってのはそのまんまだ。国ぐるみでお前らを匿うんだ。異世界人を殺しにくる奴らからな」
殺すって、あの襲撃も仕組まれた事だったのか。まだ情報が足りない。もっと聞きださないと。
「一体誰が僕たちのことを殺しに来るんですか」
「他の国や部族だ。一年に数人、この世界に人間が来るんだ。お前達みたいな奴だ。もちろん俺もだがな」
ということは、毎年何人かの人が別の世界から連れてこられるってことだよね。自分と永遠を除いて他にも何人か、同じ世界、または別の世界から来た人がいるってことだよね?
「どこの国や部族にも、この世界に来た奴らを探知できる奴がいてな。それで近くに来た異世界人を殺すんだ精度は甘いんだが、何人来た、何人死んだ、ってことは分かる」
「なぜ私たちを殺す必要があるの?」
次はアルカネが質問した。
「何か強大な力を持っているからだ。例えば、そこのお前のような」
楓さんが僕を指さす。
「だが最初はどんな力を持っているか何も分からない。強くなる前に、自分達の脅威になる前に殺そうって考えだ」
「ひどい…」
それはあんまりじゃないのか。僕は死んでからこの世界に来たけど、生きたままこの世界に連れてこられた人だっているはずだ。何も知らないまま死ぬなんて、あんまりじゃないのか。
「先代の王がそれはあんまりじゃないか、って言いだして、この政策が出来たんだ。具体的には、最低限自分の身を守れるくらいには強くしてやろうってことで、この国でそいつの持っている力を引き出すんだ」
「つまりは?」
「お前たちの力を引き出す、強くする。言っておくが、お前らには既に狙われている可能性が高い。お前たちが対処した魔物は、普通にしては数が多すぎる。何者かがけしかけたと考えるほうが辻褄が合う。そいつらを返り討ちに出来る強さをここで付けようじゃないかってことだ。これで分かったか?」
確かに言っていることは分かった。でも、
「国がそこまでするメリットは?」
国には何の得もない。何かしら裏があるはずだ。
「無い」
楓さんは断言した。
「昔の王が決めた事だが、俺はこのお触れを、政策を続けていきたい。理不尽に殺される奴を一人でも減らしたいんだ。だから続ける、それだけだ」
「分かりました。では、僕とアルカネの保護を申請します!」
「でも私って異世界人じゃ・・・」
大急ぎでアルカネの口を塞ぐ。
「言わなくていい。一緒に強くなった方がいい」
だってそのほうが、守りあえるから。
「分かった。ではお前達二人の申請を受け入れよう。訓練は明日からだ。以上を持って解散する」
こんな感じで報告は終わった。僕は知らなかった。これから先、地獄が続いていることに。
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