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Let There Be Love  作者: 武城 諸行
Ⅱ D'You Know What I Mean ?
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始業式の日、僕は学校に行くことを億劫に感じた。こんな気持ちに驚いた。今まで学校に行くことを嫌だと感じたことはなかったからだ。この何日間、彼女と別れた悲しみを隠し、いつも通りの日常を送ることが辛かった。そんな生活を学校でも送るのは耐えきれなさそうだった。彼女との別れを知っているのは僕ら二人だけだったからだ。殺人という大罪を犯し、罪悪感にさいなまれながら、それでもいつも通りの日常を過ごさなければならない、そんな殺人者に僕は等しかった。この話を誰かに打ち明けて同情してほしかった。誰かに話だけでも聞いてほしかった。そうしたら、自分の中から苦しみが少し抜けて楽になるかもしれないと感じた。それでも変わらず自然と足は学校へと向かっていた。

教室につくと一学期と変わらず、生徒がにぎやかにあれやこれやと話していた。夏休みの間海外旅行に行っていた話や、友達と遊んだ話だ。そんな生徒たちの様子を見て少し僕の気持ちも明るくなった。僕も話の輪に加わり、いつもと同じように話した。僕のいつものオーバーな反応にみんなが反応してくれると心の中から暗い気持ちが消えていくのを感じた。彼女なんかいなくとも僕には学校の友人たちがいるじゃないか、そう思えた。

そんな僕の様子を遠くから見ている生徒がいた。気になって見ると彼だった。彼は誰ともしゃべらず、一人でこちらを見ていた。もう今の僕は彼のことを何とも思っていなかった。確かに全く憎くないとは思っていないが、それよりも彼と元の関係に戻りたかった。同じ受験生として励ましあっていく仲に。僕は話の輪から離れ、彼のもとへ近づいていき、素直に夏休みの間の彼に対する態度を謝った。

「夏の間、ごめん。なんか浮かれていた。許してくれ。」

「いや、謝るのは僕のほうだ。すまなかった。君に嫉妬していたんだ。」

そう言って、僕は彼と先ほどの話の輪に入っていった。何もかも普段通りのようだった。


授業が終わり、学校から帰るときになり、僕は再び、朝感じた暗い感情に戻っていた。辛かった。僕と彼女の関係を知っている彼に事情を話せば、楽になるかもしれないと思い始めた。だから、帰りの支度をしている彼のもとへ行き、

「ちょっと付き合ってくれないか?マックのドリンクおごるからさ。」

と声をかけた。彼は僕の顔を見て不思議そうな表情をして、

「いいよ。別に」

と言って鞄に荷物を詰め込み、一緒に教室を出た。久しぶりの彼との下校だった。それよりも久しぶりの彼との会話だった。

「どうだった?夏休みは?」

「いや、話すようなことは何もないよ。君みたいな生活は送っていないから。」

やはり、彼の言葉には少し嫌味が含まれていた。その嫌味が僕の心臓を締め付ける。僕は怒りを押し殺しながら

「俺もそんなことはないよ。まあ、詳しくはマックで話そう。」

と夏休みの話を切り上げ、勉強の話や将来の話、同級生の噂話などをしながらマックへ向かった。

店に着くと彼は

「やっぱり、おごりはいいよ。さすがに申し訳ない。俺の分は自分で払うから。」

と言ってきたので、そうかと言って僕は自分の飲み物を頼んだ。無性にドリンクを大量に飲みたかったので、僕はコーラのLサイズを頼んだ。

席に着くと彼は先に座って僕を待っていた。

「ごめんね。待たせたね。」

そんなことを言いながら、僕も彼の向かいに席に着いた。

さて、何から話すべきだろうか…。話すことは決まっていたし、用意しているはずだったが、口にしようとすると整理がつかなくなっていた。気がつくと、しばらく僕と彼は周りの席とは対照的に無言で向かい合って座っていた。

先に口を開いたのは結局彼だった。

「で、話って?」

「ごめん。それを話そうとしているんだが、整理がつかないんだ。何からどう話せばいいかわからないんだ。」

「彼女のことか?」

「うん…。」

「夏休みどうだった?」

「別れた…。」

自分で言って、自分の声の低さに僕は驚いた。朝のどがかれていた時に出す声と同じくらいの低さだった。彼もどうやらその声の低さに、そして僕の発した言葉の意味に驚いたらしい。

「えっ…。」

「だから、別れたんだ。彼女と。」

しばらくまた、僕らは無言になった。ようやく彼が言葉を発した。

「知らなかったとはいえ、さっきはすまん。傷つけるようなことを言ってしまったな。」

「気にするな。君は知らなかったんだ。」

沈黙。彼はどうやら僕にかける言葉を探しているようだった。僕は僕でまだ何から話すべきかを迷っていた。再度、彼が先に口を開いた。

「ごめん。素直に驚いた。君と彼女はあんなに幸せそうだったから…。正直別れることはないだろうと思っていた。彼女が君のことを僕に話すとき、本当に幸せそうだったんだ。聞かせてくれ、どっちが振ったんだ?」

「僕。」

「えっ、なんで?君は彼女のことが好きだったんだろう?」

「そうだよ。 僕は彼女のことが本気で好きだったし、今でも彼女のことが本気で好きだ。」

そう言っていて、胸が苦しくなっていくと同時に徐々に彼に対する憎悪の感情が湧き出てくるのを感じた。僕はその感情を必死に抑えようとした。彼は、また僕にかける言葉を考え始め、無言になった。その沈黙の時間のおかげで僕も落ち着くことができた。僕は買ったコーラのふたを開けて、飲んだ。さっきまでの数少ない言葉にもかかわらず、僕の喉は乾ききって潤いを欲した。炭酸が喉を通過するときのちょっとした痛みが気持ちよかった。僕はそのコーラを飲んで、飲んで、一気に飲み干した。心地よかった。僕の感情は落ち着きを取り戻していた。彼はそんな僕の様子を眺めながら絶句していた。

「なんか、面倒くさくなったから振った。そう、面倒くさくなったんだ。」

「そう、そうなのか…。」

彼は僕の言葉を素直に受け止められないといった表情をしていた。僕も僕に言い訳しているだけかもしれない。そんな気もした。

「さっきも言ったように別に彼女のことが嫌いになったわけでもないんだ。ただ、僕たちは受験生だ。もう時間がない。高二の二学期、つまり今日からはそろそろ本気で勉強しないと受験に間に合わない。なのに最近僕もそうだが、彼女の成績も落ち始めたし。僕のせいで彼女が受験を失敗するなんてことは僕には耐えられない。僕が彼女の夢の邪魔になっちゃいけないんだ。」

言いたいことを一気に言った。どれも綺麗ごとだった。しかし、これを言うことで僕はさらに落ち着きを取り戻した。反対に彼は僕の話を聞いて、さらに混乱していったようだった。そのせいか、彼は喉が渇いたようでコーヒーをちょっと飲んで黙っていた。僕は彼に向って再びこう言った。

「僕は、こんな派手なことには向いてなかったよ。」

素直に僕が思ったことだった。僕は恋愛なんてする派手な人間ではなく、もっと地味なタイプの人間だったんだ。そんなことは小学校の時、好きな女の子に振られたころから自覚していたことだった。そう、僕に恋愛は向いていない。始めから終わりは決まっていたのだ。そう思うと、自分が惨めで、世の中は無常で理不尽なように思えてきた。だから、僕はもう一つ言葉を付け足した。

「夢は叶えるものじゃないな。」

そう、結局、夢は夢のままが一番だった。彼女との恋で学んだことはこれだった。

彼はもう何も話さなかった。ただ、僕を憐れむかのように見ていた。そして、彼はそんな自分自身に気づき、あわててコーヒーをストローで吸い上げ、

「そっか」

と言った。

そうだよ。そんなものなんだよ。僕は彼にそう言いたかったが、彼をこれ以上困らせるべきではないと思い、

「ごめん。暗い話になったな。付き合わせて悪かった。」

そう言った。そのあとは彼と何を話したか、覚えていない。どう言って彼と別れ、どうやって帰ってきたのかも…。ただただ頭の中では僕自身が言った言葉が渦巻いていた。

「僕は、こんな派手なことには向いてなかったよ。」

「夢は叶えるものじゃないな。」

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