7
僕はまだ悩んでいた。メールの文章を完成させて2時間が経つ。どうせ、2学期が始まると本格的に受験勉強が始まり、恋愛どころではないのだ。だから、今別れずとも、僕らはすぐ別れる運命にある。そう思うと勇気が出てきた。
指を震わせながら、ついに携帯のメール送信ボタンを押した。一発目は指の震えでボタンを外してしまい、メールを送信できなかった。じれったくなり、焦りを感じ、僕は何度も送信ボタンを連打し、2時間にらめっこし続けた携帯をさっと閉じた。そしてその携帯を机の上に置いて、自分の部屋を出た。
終わった…。
僕の心の中には後悔などなかった。悲しみさえもなかった。いや、感じなかっただけかもしれない…。あるのはちょっとした達成感、そして虚無感のようなものであった。すぐには、僕は自分が何をしたのか理解できず、実感もわかなかった。僕はキッチンへ向かい、冷蔵庫からコーヒーと牛乳を取り出し、僕専用のマグカップに半分半分に注いでそれを一気に飲み干した。不味いコーヒーだ。そんなことを思いながら、もう一杯、もう一杯とコーヒーと牛乳がなくなるまで飲み続けた。
コーヒーで腹の中がタップンタップンになると気持ち悪くなり、リビングの椅子に座った。そして、改めてさきほど送ったメールのこと、彼女との関係のことを考えていた。いや、実際は考えているふりをして何も考えていなかった。とりあえず、あの携帯電話のある、あの部屋には僕は戻りたくなかった。彼女のことだから返事がすでにきているような気がしたからだ。返事を読みたくなかった。読んでしまえば、本当に彼女と別れることを認めてしまうことになるだろうから。結局僕は心のどこかで後悔していた。それも激しく。そして深く。
そんな風にして、夕飯を食べ、風呂に入り、家族でテレビを見て笑って過ごした。その間、彼女のことを忘れようと必死に笑顔を作り、笑って家族と雑談をしていたが、忘れられるはずはなかった。笑顔も嘘くさく感じ、笑い声も嘘くさかった。ひどく苦しく感じられた。だから、改めて現状に向き合おうと思い、僕は自分の部屋に戻った。
僕の部屋はさっきまでのリビングルームとは打って変って静かな空間だった。机の椅子に座り、放っておいた携帯電話を開いた。メールが一件来ていた。差出人は彼女だった。着信日時を見ると、僕のメールを送った時間の直後の時間を表示していた。
「こちらこそ、あなたに嘘をつかせてしまってごめんなさい。
あなたと一緒にいられてとても幸せでした。
今まで本当にありがとう。
稽古の時は今までのように普通に接しましょう。みんなが心配すると良くないから。
それでは稽古の時に。」
短い文章だったので、あっという間に読み終えた。僕はまるでそのメールに隠された秘密を探るかのように何回も何回も読み返した。彼女は今微笑んでいるのだろうか、それとも悲しんでいるのだろうかなどと彼女のことを考える余裕は僕にはなかった。ただ、僕は放心状態だった。こんなあっさりと終ってしまうものなのか、と思えるほどあっけなかった。少しはわがままくらい僕に言ってほしかった。怒ってほしかった。「ふざけるな」の一言ぐらい欲しかった。僕は彼女にとってその程度の存在だったのかもしれない。涙は出なかった。こういう時自然に涙が出るものだと思っていたから正直僕は自分自身に驚いた。僕自身も彼女のことをその程度の存在にしか思っていなかったのか。そんなことを思って携帯電話を閉じた。
その日のオナニーは激しかった。彼女と付き合っている間、僕はオナニーをしないと心に決めており、それを忠実に守っていた。実際、オナニーをしようという気も起きず、彼女に対する恋愛感情だけで僕の心は満たされていた。だから、その日のオナニーは三、四か月ぶりだったので、精液もその分大量に出た。もう止められなかった。抑えきれない感情が僕の欲をかきたてた。しかし、気持ちよくはなかった。むしろそのあとに襲ってくる虚無感のほうが激しかった。僕はひどい喪失感と虚無感にさいなまれて、そして寝た。




