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Let There Be Love  作者: 武城 諸行
Ⅰ Some Might Say
5/16

夏休みの終わり、始業式の一日前から塾は始まった。その日行くと塾の講習の時にいた彼はいなかった。まあ、当り前のことである。そして、彼女はいた。一学期と変わらなかった。しかし、彼女はいつものように友人の輪に加わっていなかった。だからと言って何かをしているわけでもなかった。彼女らしくなかった。私は一瞬別れという二文字が頭をよぎった。しかし、それにしては悲しみに浸っている様子でもなかった。しかし、変なことには変わりがなかった。そしてその日彼女はそのまま誰とも群れず、一人で帰って行った。それ以降、私は彼女と話すことはなくなった。

次の日の始業式、彼はいつも通りであった。いつものハイテンションで高いトーンで同級生と話をしていた。彼とふと目があった。さすがに私も彼に申し訳ないと思い、謝ろうと思ったが、彼はそれよりも先に声をかけてきて無理やり彼の友人たちとの会話に入れさせられた。結局私は謝らずにそれに乗っかることにした。彼は帰りに飲み物を奢るから話をしないかとまた提案してきた。夏休みの間色々なものが溜まっていたのであろう。私のもう彼に対する思いは落ち着きを取り戻していたので、彼に付き合うことにした。

学校の同級生たちと別れ、二人きりになってファーストフード店に入った。私はさすがに彼に払わせるのは申し訳ないと思い、自分でコーラの小さいサイズを頼んだ。彼は同じコーラの一番大きなサイズを頼んでいた。


彼は私と二人きりになるとさっきまでの陽気な表情からいきなり深刻そうな表情に変えた。昨日の彼女といい何かがおかしかった。私は彼女と彼が喧嘩したのだと踏んだ。なるべく傷つけないように彼によかったことを思い出させようと私は彼の夏休みについて尋ねた。彼はすぐには返事をしなかったが、少し間をおいて今まで聞いたこともないような低い声で彼女と別れたことを私に告げた。彼は重みを持たせて言おうともせず、さらっと言った。私は思わず聞きなおした。彼はもう一度同じ言葉を繰り返した。彼と彼女に別れる要素は一切なかった。いや、ないように思われた。どちらが振ったのか私が尋ねると、彼は自分が振ったのだと言った。ますます、訳が分からなかった。彼はふたを開けてコーラを一気に飲みあげた。そして、

「なんか、面倒くさくなったから振った。そう、面倒くさくなったんだよ。」

と自分を納得させようとしているかのように言った。彼の話はまったく筋が通ってなかった。彼女のことが嫌いになったのか聞くと、嫌いになったわけではないと言った。むしろ、好きなことに変わりはないそうだ。謎だった。それから彼を質問攻めにした。その結果をまとめると次のようになった。

彼は彼女のことが好きで今も好きであるが、なぜか面倒くさくなり、受験勉強も忙しくなるし、彼女が受験に落ちてしまったら自分の責任もなってしまい、実際彼女の学力が落ち始めたから彼女を振ったそうだ。

彼は必死に理屈にならない屁理屈をこねて、彼自身に言い訳をしているようであった。しまいには、

「僕は、こんな派手なことには向いてなかったよ。」

と卑下するに至った。まだまだ聞きたかったが彼の眼が先程から辛そうな表情を見せていたので質問をするのをやめた。彼は最後に

「夢は叶えるものじゃないな。」

と言った。彼は彼女以外にも何かを失ったようであった。


その次の日から、そんな姿を彼が見せたことはなかった。いつもの明るい陽気な彼に戻っていた。しかし、彼のまなざしはその明るさを失っていた。もしかしたら、前日に彼が彼女と別れた話をしていたからそう見えたのかもしれない。ただ、彼の振る舞いは不自然だった。

その不自然な振る舞いは別な方向へ形を変えた。彼は急に毒舌になり、思ったことをさらっと言うようになった。見ている側からすると面白かったが、なるほど言われると腹立たしいものであった。そのせいか、彼は次第に友達をなくしていった。


修学旅行の夜、例によって恋愛話をすることになった。この前のスキー学校の時とメンバーが変わった。一人ずつ話していくことになり、彼の番が回ってきた。彼はまた小学校の好きな人から話を始めようとした。彼女との話を隠すつもりだったらしかった。私は彼女との話を一通りは聞いていなかったので聞きたかったし、他のメンバーに知らせて、彼がいかに羨ましい体験をしていたか彼自身に知らせたかった。そのため、彼に最近の話をするよう促した。他のメンバーはそれに食らいついて、彼は隠しきれなくなった。彼は私のほうを睨んでから話を始めた。リアルな純愛の話であった。彼はやはり、最後の彼女を振った理由を曖昧にした。結局私に話した話とほぼ変わらなかった。私は最後の別れた理由が気になって仕方がなかった。しつこく聞くと、彼が友人に話し、それを後で私が友人から聞くというまどろっこしい提案を持ちかけてきた。彼から直接聞きたかったが、彼はかたくなに拒んだ。私は仕方なしにその提案を受け入れ、部屋を出た。

話は長かった。実際は短かったのかもしれないが、長く感じた。しばらくして、彼はわたしを部屋に招き入れた。彼は私に話すようにと友人に言って部屋を出て行ってしまった。しかし、友人はこのことを話すことはできないと言い始めた。そして、彼自身から聞くべきだと言い始めた。私は結局、その理由を教えてもらえなかった。

気がつくと夜中になっていた。私は友人に別れを告げ、自分の部屋に戻った。布団に入ってから、私はもう一度、彼に別れた理由を尋ねた。彼は眠さにやられていたせいか、先程のように頑なには拒まなかったが軽く拒否したため、私は先に彼に彼女と一線を越えたかという違う疑問をぶつけた。一線を越えたかというのは、先ほどの妄想の話である。やはり、彼は否定した。彼女に対して一切そういった感情は持てなかったと同じ説明をした。ガードが緩くなったところで、私はしつこくもう一度別れた理由を質問した。彼は諦めたのか、ヒントを言うから後は妄想で補うよう私に言ってきた。

「僕と君って似ているところがあるだろ。まず、これが前提条件な。だから、君と同じだと思うけど、僕はものすごく心配症なんだよ。だから、彼女が好きと言ってくれたとしてもその裏を考えちゃうわけ。その不安に耐えられなかったんだよ。笑えるだろ。」

何が言いたいのかさっぱり分からなかった。しかし、彼はそれ以上このことについて語ろうとはしなかった。

私は腑に落ちなかった。不安なんて彼にあるとは思いさえしなかった。なぜなら、彼女のほうから告白してきたからだ。そんな幸せ者の悩みが羨ましかった。


ある日、学校で彼がウォークマンで音楽を聴いていた。見るとこの前の曲とは違う曲を聴いていた。題名は「Stop crying your heart out」という曲であった。私は何も考えずに今の彼にぴったりの曲だとからかった。彼は怒った様子でもなく、悲しむ様子でもなく無表情で呆れたように

「君は人の気持ちが分からないんだね。今まで君にいろいろ相談したりしてきたけどきっと何一つ僕の気持ちが分かっていなかったんだね。」

と言って二度と話しかけてくることはなかった。彼は人に当たり、物に当たるようになり、死にたいと豪語し、気が狂っていった。並行して、彼はクラスで孤立するようになっていった。私は彼の言葉に腹が立っていたので、そんな彼の姿を見ていて気持ちがよかった。

彼は今も独りでいる。


読んでいただき、ありがとうございます。いかがでしたか?第1章がこれで終わります。次の章も考えていますが、まだ一切手を付けていませんのでお待ちください。


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