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Let There Be Love  作者: 武城 諸行
Ⅰ Some Might Say
4/16

学校の期末の直前に私の通っている塾の模試があった。私は受験を考えていたので当然受ける予定であった。彼女も同じ塾であるから受ける予定であった。そのためか、違う塾に通っている彼も模試を受けると言い始めた。彼も受験を考えていたからである。彼女の学力は知らないが、彼と私とは互角でいつも競い合っている良いライバルであった。しかし、それは学校の試験での話であって、塾での成績はお互い知らなかったのだが…。

私はそのときの彼にだけは負けたくなかった。彼が受けると知ってから私の猛烈な勉強の日々は始まった。今まで遊んでいた時間も休みの日も全て勉強に費やした。しかし、どこかで今の彼には勝てるだろうと鷹をくくっていた。


模試当日、私は始まる三十分前には席について直前の確認作業に入っていた。大体、英単語も覚えていたし、授業の復習も日頃からしていたのでやることがなくなり、リラックスするためにクラシックをウォークマンで流した。「歓喜の歌」である。私はいつもこれで緊張を解いているのだが、その日は珍しいことに緊張は一切なかった。むしろ、私はできるという謎の自信に満ちていた。試験十分前に彼と彼女は揃って部屋に入って来た。彼は外部なので彼女を教室に見送ってから自分の教室の方へと向かっていった。謎の自信に満たされている私はもう彼に勝った気しかしなかった。

試験が終わり、私はそそくさと家路を急いだ。試験は所々分からないところはあったが、全般的に簡単であった。私はできたと確信した。そんなハイな気分がバレたくなく、無性に一人の世界に入りたかった。そして、一人でそのできたという余韻に浸りたかった。私はウォークマンを取り出し、耳にイヤホンを押し込み、再生ボタンを押した。しかし、流れてきた音楽はさっきの「歓喜の歌」ではなく電池切れを伝える電子音であった。


時は過ぎ、期末が終わって夏休みに入ろうとしていた。私は彼に遊びの約束を取りつけようとしたが、彼には彼女とのデートがあった。映画館のデートだそうだ。彼は初めての二人きりのデートに期待で胸が高鳴っていた。さすがに彼の邪魔をするわけにはいかなかった。私は諦めて、他の友人と遊びにいくことにした。

そのデートの日、彼からメールが届いた。彼からのメールは珍しかった。あまりメールなどを私に寄越したことがなかったからだ。メールには彼のデートの自慢話が書かれていた。私はそれ以上のことがあったのだと察した。でなければ、彼からメールなど来るはずがない。

一番に思い付いたのが…二人が一線を越えたということである。私は男子校の人間であるからそういった飛躍的な妄想をするのだ。色々質問をして関心があるように見せかけた返信を返した。もちろんその中には先の妄想が真実なのか聞く質問も書いておいた。すると彼はその質問に対する否定しか返してこなかった。彼曰く、本当に好きな人を前にしたらそんなことは考えられないと言ってきた。怪しかった。むしろ、はじめは冗談半分で聞いたことであったから、私自身驚いてしまった。思わずそんな姿の彼と彼女を妄想してしまった私は今度会うときに彼ならまだしも彼女とどう接すれば良いのか分からなくなっていた。


学校の一学期の終業式にあのメール以降彼と初めて会う機会が訪れた。その日の彼は幸せだけに包まれている今までの彼ではなかった。私は妄想のこともあって彼に話しかけられないでいた。終業式が終わり、彼は私に近付いてきて一緒に帰ることを提案してきた。こういうときは大体相談が待っていた。私はその日、夜からの塾があったので昼間はやることもなく、暇つぶしにはちょうどいい提案であった。

彼の相談は些細なことであった。もしかすると、その時の彼にとっては大事なことであったのかもしれないが。肝心の相談内容は彼女に好きという気持ちをどう伝えていいかわからないということであった。聞いたときは意味がわからなかった。

彼に言わせると、彼女の誕生日にそのことを直接表現して喜ばせようとしたのだが、それができなかったそうだ。それで、彼は彼自身が思っているほど彼女のことが好きではないのではないかと不安になり、そんな彼を彼は責めていた。彼自身何故言えないのか分からないそうであった。意外であった。ドラマみたいに付き合っている仲だと自然とそういうことが言えるものだと思っていたからだ。私はどんな言葉をかけてあげればいいか分からなかった。しかし、彼はそんな不安な気持ちなどを吐き出していくうちに徐々にいつもの彼に戻っていった。いつもと同じであった。彼は吐き出すことがなくなると元に戻るのだった。


その後、彼に会ったのは塾の講習であった。その日は例の模試の結果が出る日であった。私は受付で模試の結果を受け取って、教室に向かうとそこに彼がいた。彼も塾の講習を受けに来ていたのだ。前に言った通り、彼が通常通っている塾は私とは別の塾であった。彼が塾の講習を受けに来るという話を聞いていなかった私は寝耳に水であった。

まあ、今思うと彼女が彼を誘ったのであろう。そして、彼は私のほうを向き、模試の結果を聞いてきた。私は言われて模試の結果を見た。思ったよりはできていなかったが、まずまずの結果であった。校内順位も二位であった。私は彼に勝ったと確信した。どうだと言わんばかりに彼に結果を見せると彼も同じような態度で私に結果を見せてきた。点数よりも何よりも先に1という数字が私の目に止まった。よく見ると、校内順位の枠に書かれた数字であった。私はもう一度見直した。変わらず堂々と1と書いてあった。

負けた…。何よりも先にそう思った。言い訳のしようがなかった。いや、言い訳はできたが、したところで惨めなだけであった。悔しかった。憎かった。なによりも自分が情けなかった。今まで隠していた彼に対する憎悪に近い感情が再び姿を現した。その日はそれ以降彼とは一切口を利かなかった。しかし、彼には私と口を利く必要がなかった。彼女がいるからである。それがさらに怒りの炎に油を注いだ。

そして、そんな私と彼の関係を知らない人がいた。彼女である。本当は知っていて仲直りをさせようと思って、そんな態度をとっていただけかもしれないが、彼女は今までのように彼にはもちろん私にも接してきた。最初妄想の一件もあり、彼との一件もあったので、彼女とは話しにくかったが、彼女の会話力のほうが一枚上手であった。彼女は会話力に長けていた。確かに友人の多さがそれを物語っていた。彼女は私と彼の間に入って講習中話をするようになっていった。そうしている間、決まって彼はあまりいい表情をしなかった。もちろん私もいい表情をしていたとは言えなかった。


その後の夏休みの彼のことは知らない。しかし、彼は終業式と同じあるいは終業式以上の暗い表情をするようになっていった。私は講習の時にたびたび見る彼のそんな姿に憐みを覚えながらも少し爽快感というか優越感のようなものを感じた。しかし、彼女のいる前ではいつものように話をしては盛り上がっていたので二人が別れたわけではなさそうであった。彼の暗さがどこから来るものなのか、私には理解できなかった。幸せなはずであるのに悩むことがあるはずはなかった。どうせこの前のような些細なことに違いなかった。私は話したげにこっちを見てくる彼を無視し続けた。

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