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それから彼の私に対する態度は一変した。学校でこそ普通な素振りでいる彼だったが、私と二人だけであったりするとのろけというのだろうか、顔を赤くして彼女の自慢してきた。私にはそれが不愉快でたまらなかった。一応話を聞いている振りをしたが、それでも苦痛であった。しかし、心の底では憎みや怒りより憧れや羨ましさを感じていた。そして、それがさらに私の怒りを買った。彼は人生で最大に充実した時期を過ごしていた。
ところが最初は私に自慢するだけで済んでいたが、彼はそれでは収まらなかったらしい。私にもガールフレンドを作ろうとし始めた。おそらく彼の親切心だったのだろうが、私には嫌味でしかなかった。
そしてその計画の一貫として私は彼女の学校の文化祭へ行くことになった。彼女の学校は進学校ということもあって、春に文化祭があるのだった。正直私は嫌だった。文化祭なのだから二人だけで楽しめばいいことである。私を呼ぶ意図は間違えなく自慢でしかなかった。そもそも、彼は彼女に私が二人の関係を知っているということを把握しているのか甚だ疑問であった。彼の様子からして二人の関係は誰にも秘密という約束の下で成り立っているのではないだろうか。でなければ彼のことだ、学校で大っぴらに自慢するに違いなかった。
ともかく何度も言っている通り、私は彼女と付き合うようになって以降の彼が鬱陶しかった。もしかしたら嫌いというところまで来ていたのかもしれない。
彼女の学校は女子校であった。女子校とは縁のない人生を送ってきた私にとって初めての女子校であった。
噂には聞いていたが、なるほど女子校とはまさしく女子の楽園というよりは女子の溜まり場であった。それは男子校とは全く違った世界であった。まず、世の中にこれほど女子高生が存在していたことに驚いた。聞くと、一学年四〇〇人のマンモス校であった。辺り見まわすとどこもかしこも女子高生なのだ。むしろ、薄気味悪かった。女子はみんな文化祭ということもあって、化粧したり、髪を染めたりだので同じような容姿に見えた。男子高生らしき人たちもこの女子たちに驚いていた。
そして、私はそんな女子たちよりも彼に驚いていた。彼がいつもの彼と違ったからだ。今まで彼女と共にいる彼を見たことがなかったが、逆にこのような彼を見たことがなかった。まず、いつもより声が大きかった。常日頃から人一倍声が大きいのだがそれを超えていた。また、落ち着きがなかった。終始チラチラと彼女のことを見ていた。彼はそんな彼自身に気づいてなさそうであった。
彼女に案内されて、私と彼は色々なところへ行った。その中に縁日を模した展示があった。射的などで点数をかせいでその点数によって景品がもらえるというどこの学校にでもあるようなものであった。そこの受付に彼らの目的の人がいた。
私のガールフレンドにさせようとしている女子であった。彼女の友人らしい。私はその友人に見覚えがあった。そう、塾のクラスメイトであった。確かに私も彼女の群れの中でその友人が一際私の目を惹いた。ポニーテールで私より多少背が低く、肌の白い人であった。私の好きなタイプであった。私には申し分ない、むしろ申し訳ないくらいの相手であった。
私は初めて彼らに感謝の気持ちを抱いた。ちょうど彼女の友人は仕事が終わったらしく、四人で回ることになった。しかし、 私はさすがに二人の邪魔をしていることに耐えきれず、彼女の友人と二人で回ることを提案した。二人はそれを待っていたかのように素直に了承し、友人も快く受け入れた。
それからの二人は知らないが、私は友人と文化祭を満喫した。二人でお化け屋敷を回った時には手を繋ぎもした。白々とした肌からは想像できないほど温かな手であった。彼女の友人は私よりも臆病で、怖いものが嫌いであったらしい。お化け屋敷を出るのに結構な時間がかかったが、私にとっては一番の至福の時であった。彼らの思惑通り、私たちは仲良くなり、メールアドレスを交換して別れた。
しかし、結論から言うと私と彼女の友人との関係は発展しなかった。原因は明らかに私にあった。私の話下手である。私は自分で話していても自分の話下手を実感するほど話の運びが下手であった。そのお陰で最初は良い調子で会話をしていたが徐々にネタが尽き、ただの駄々話に発展していって、彼女からの返信が来なくなった。そんな夢を見ていられた日数はわずか五日間であった。彼らの優しさはありがたかったが、私は自信を無くした。私は恋愛というものに不向きであると突きつけられたようであった。
そんな状態であるにも関わらず、彼はやたら私と彼女の友人との状態を聞きたがった。まあ、うまくいっているときは私も気分がよく、話していて楽しかった。しかし、その五日目以降、私にはそれが苦痛でしかなくなった。彼女の友人とはもうなにもないと言っても彼は私が嘘つきで何かを隠していると断言するのであった。彼の頭の中では私と彼女の友人は付き合っていて、それを彼や彼女には隠しているという先入観というか憶測としか呼べないような見解があった。彼にそんな風に思われているにも関わらず、その友人との関係を破綻させた私は悔しくてたまらなかった。しかし、悔しさはバネにはならず、むしろ女性から逃げる方へ逃げる方へと私を向かせた。そして、私の中に彼への恨みを生んだ。




