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Let There Be Love  作者: 武城 諸行
Ⅰ Some Might Say
2/16

三学期の終わりになり、スキー学校に行く日が近づいてきた。学校の泊まりの行事において恋愛話は恒例行事である。私は彼の恋愛話が楽しみであった。それは、最近彼があまり彼女の事を話さないのだ。だからと言って、彼女に振られたなどということがあった訳でもなさそうであった。

私の部屋は彼の向かい側の部屋であった。夜中の部屋移動には持ってこいの配置だった。昼間スキーをして、夜案の定、私と彼と彼の友人の三人で恋愛話をすることになった。順番は友人、私、彼の順であった。

友人の話は小学校の頃のことから始まった。友人はいわゆるイケメンという部類に属す人で、私や彼とは別次元の世界の住人であった。友人は毎年のように女子に告白されていたという。私は妬みなどを通り越し、羨ましいとも思えず、この世にはこんな人生を送っている人もいるのだという驚きと感心しか感じなかった。私には縁遠い話であった。

そして、最後に友人は今彼女がいるという話をし始めた。今までそんな素振りを一切見たことがなかったので、また私は驚いた。友人はこの恋が不安であると語っていたが話を聞く限り不安なところは皆無であった。しかし、友人は恋についてこう述べた。

「友達と恋人の境界線あたりが一番楽しそうだな」

私にはこの言葉の意味が理解できなかった。いや、確かにそのままの意味はわかる。しかし、理由がわからなかった。一般的に恋人になることが目標ではないのか。それだと目標が目標でなくなるということだ。しかし、友人は確かにこう言ったのだ。私は友人の言葉の真意を聞こうとしたが、友人は時間を見て部屋に戻ると言ってその場を立ち去った。私は共に残された彼のほうを向いた。彼も友人の最後の言葉が理解できていないようだった。いや、今思えば理解したくないようであったというほうが適切であろうか。きっと、友人には私や彼には理解できない世界が広がっているのだろう、そう思った。


私の話は何もなく終わり、彼の順が回ってきた。彼も私たちと同じように小学校の頃の好きな人の話から始めた。彼の初恋は彼の姉の友人であったそうだ。その彼女は色白で、ポニーテールの似合う人であったらしい。しかも彼女のことを知ってから卒業するまでずっと好きだったそうだ。私は彼の一途さに感嘆した。私はどちらかというとすぐに好きな人が変わる性格であったから、彼のような経験はなかった。

そして、今はその一途な思いをあの彼女に向けているのだった。彼はここ最近の彼女に対する思いを語り始めた。彼は私の思っていた以上に彼女のことが好きであった。言い方が変かもしれないが人はここまで他人を愛せるのかとさえ感じた。私はなぜか敗北感に似た感情を抱いた。それも試合に惜しくも負けたときのような悔しさの滲むような感情ではなく、完敗した時のような途方にくれるようなそんな感情であった。そんなまでに他人を愛したことがないという劣等感ゆえの感情なのだろう。私は今までの自称恋愛なるものを恥じた。そして、彼のような本気の恋への憧れを感じた。

しかし、彼は彼女をそこまで愛しているからこそ新たな恐怖に対峙していた。それはそんなに彼女のことが好きな彼自身が怖いということであった。彼女のことになると彼自身が制御できなくなるのだそうだ。私は彼女と一緒にいる彼を見たことがないからわからないが…。恋とはそんなものなのだろう。

一方、そんな彼の様子に気づかない彼女の方が不思議であった。いくら鈍感であろうとさすがにここまで彼が彼女のことを愛しているのであれば気づかないことはないと思うのだが…。気づいていて無視をしているとなると…。私には最悪の展開が思い浮かんだが、彼には言えなかった。

彼は話を終わらせ、恥ずかしさを隠すためか、携帯で音楽を流し始めた。そして、メールの返信を打ち始めた。横からちらっと見えてくる画面には彼女との甘い会話が展開されていた。私はふと画面から視線をそらした。もう一度見ようかという気持ちが湧いたが二人の世界を邪魔してしまうような気がしてやめて、耳に入ってくる音楽に耳を傾けた。かすれた歌声とゆっくりとしたメロディが今の雰囲気に合っていた。優しい歌であった。なんと言っているのか疑問に思い、曲にあわせて口ずさんでみた。すると彼が

「Let There Be Loveだよ」

と私に言った。いい響きの歌詞であった。

それからというもの、私は彼の語ったような本物の恋を探すようになった。純粋に恋をしたいという思いからというのもあるが、彼への対抗心もあった。しかし、そもそも私は女性との接点が全くないため、望み薄であった。


時が経ち、私たちは高二に進級し、中間考査が終わった頃、一日だけ彼の様子が違う日があった。いつも以上に落ち着きがなかった。そして、いつも寝てばかりいる彼がすべての授業を真面目に受けていた。彼にとっては珍しいことであった。私が何かあったのかと聞くと、彼は昨日行ったカラオケで点数が良かったと答えた。確かに彼はいわゆる音痴であった。私には腑に落ちなかったが、次の日からいつもと変わらない様子だったので、彼の言葉を信じることにした。まあ、彼ならあり得ることである。彼は意外と単純な人間、いや気持ちに素直な人間であった。しかし、なにかが今までと違った。


そして、一週間が経ち、私がいつものように彼の彼女との関係をからかっていると、彼がいきなり真顔になって、こう切り返してきた。

「もし、俺が彼女と付き合っていたらどうする?」

私は彼の今までになかった切り返しに驚き、言葉がつまった。一間おいてから、私は彼に本当に付き合っているのかと恐る恐る尋ねた。彼の口元が緩み、満面の笑みが広がった。今までに見たことのないほどの彼の笑顔であった。そして、声を出すことなくうなずいた。

衝撃的だった。正直疑ってはいた。彼の様子は変なので、彼に何か良いことがあったことには違いがないとは思っていた。もちろん心のどこかで彼は彼女と付き合い始めたのではないかということも考えていた。しかし、その一方で彼の臆病さでは告白なんてものは無理だろうと鷹をくくっていた。ましてや、彼女は彼の一途な好意を無視していたのにだ。

彼の話によると、彼女が告白してきたのだという。やはり、彼には自信や勇気がなかったのだ。彼は強がりを言ったりするが、人一倍小心者で臆病者であった。それがゆえ、彼はいつも彼自身を卑下して、信じていなかった。それは異常なほどであった。

まあ、話を戻すが彼女が彼の好意を無視してきた理由に対して私は見当違いをしていた。彼の好意に気づかなかったのは他でもなく彼女自身の好意によってそれが視界に入らなかったのだった。塾から共に帰っていた彼女は私と話しながら気持ちは彼の方にしか向いていなかったのだ。なるほど、彼女の側からすると、私と仲良くなることで彼と近づくことができ、彼との会話の種も増えるということだ。つまり、彼女にとって私は彼との懸け橋というか単に会話を持たせるネタであり道具でしかなかった。そんなことを考えてしまった私は彼と彼女の関係を素直に喜べなかった。むしろ憎く、崩壊を望んだ。今思うと笑ってしまうほど子供じみた嫉妬であったが、当時はそうとしか思えなかった。

しかし、そんな気持ちを彼に伝えることができるはずもなく、彼にありふれた祝いの言葉を伝え、応援している素振りを見せた。彼はおそらく心のなかで舞い上がっており、私の祝いの言葉さえ耳に入っていなかっただろうが。

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