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Let There Be Love  作者: 武城 諸行
Ⅳ Aquiesce
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エレベーターを降りると絶景が広がっていた。絶景と一言で表してしまうのは申し訳ないのかもしれない。高層ビルのそびえたつ一帯のバックに夕日が少しずつ、しかし着実に沈んでいく。高層ビルのシルエットは頼りなさげに、寂しく立っていた。

「うわあ」

彼女がその光景を見て、一呼吸を置いてからそう感嘆を漏らした。そして夕日を浴びながら彼女は眩しげにこちらを振り向いた。

「美しいと一言では表せないくらい美しい景色だね。」

僕もそう言う。彼女は頭を傾け、

「結局どういうこと?」

とたずねてきた。

「あまり深く突っ込まないでくれ。言葉に表せないほど美しい景色だと言いたいだけだから。」

彼女は納得したように頷きながら

「いちいちまどろっこしいのよ。美しいものは美しい、それでいいじゃない。」

と言った。

「そうかもしれないな。確かに。」

そう頷きながら、僕は世界とこちら側の境界となっているガラスへ近づいていく。彼女も後ろから僕に続く。彼女が僕の手を静かに、しかし意思をもってつかんできた。僕も応えて握り返す。

僕たちは手をつないだまま、ガラス越しの東京とガラス越しの夕日に酔いしれていた。

「東京ってこんなに広く、こんなにビルが乱立していてせわしない街なんだね。」

僕がそう言うと、

「そうよ。だからこの街はいい街だとは思えない。人が多くて、だけど孤独で寂しげな街。だけど、日本が夢見てきた街よ。だから、悪い街には思えないかな。ここには何でもある。洋服とか雑貨とかだけじゃなくて、友達とか家族とか思い出とか。私にとっては一番思い入れのある街。そんな街よ。」

と彼女は僕の手を握りながら言った。目線はどこまでも遠くの夕日を見ていた。まるで、何かを思い出し、懐かしんでいる様子だった。

「だからね。私はこの町を離れたくないの。結局、私にとって日本で一番の街だもの。親から離れるのも辛いしね。」

彼女はそう言うと静かに頷いた。


僕たちはしばらくベンチに座って、日が沈んでいく東京の街を眺めていた。街は徐々にネオンの光が灯り、そして瞬間的に空は暗闇に変わる。何も言わず、ただ手をつないで静かに時間を過ごした。

突然僕は彼女のことが気になり、彼女の方を向いた。彼女も僕の方を向いた。彼女の目を覗く。すると、彼女は目を閉じ、繋いでいた手を離して僕の背中へ伸ばしてきた。僕も彼女の背に手を伸ばす。言葉もなく、静かに優しく僕たちは抱きしめあった。

僕の目の前にあるのは彼女の肩。僕の手が触れているのは彼女の背。僕の胸に当たっているのは彼女の胸。僕の太股と密着しているのは彼女の太股。そして、僕の背に触れているのは彼女の手。

僕は1つ1つ、彼女の部位の存在を確認し、そこから目の前に彼女の像を構成していった。そしてここにいるのは彼女であることを改めて理解した。

「好きだ。何にも代え難いほど好きだ。」

そう僕が彼女の耳に囁いた。彼女はうんと頷く。

「他の誰よりも好きだ。」

「うん…。」

目の前にある彼女の肩が小さく震え始める。彼女は顔を僕の肩に押し当てた。僕は彼女の顔の方を見ようとするが、彼女の髪の毛で見えない。

「…なんで…、なんで…北海道なの…?なんで…。」

声を震わせながらそう呟く。僕は激しくショックを受けた。そのショックで茫然としてしまった。そして、今になって僕のしてしまったことの重大さに気づいた。そして、激烈に後悔した。

「なんで…北海道なの…?」

彼女がもう一度呟く。僕は彼女の体をさらに強く抱き締めた。彼女の体の震えは止まらない。意外と僕の目から涙は出なかった。涙を流すほど、心に余裕がなかった。言葉も出なかった。

言葉に表したことのない彼女の僕に対する思いを初めて知ることができた。しかし、それは皮肉なものだった。4月から彼女にもう何もできないことがわかっているのだから。もっと早くに彼女の気持ちを知りたかった。もっと真剣に進路を考えるべきだった。

「ごめん…。」

気がつくと彼女は落ち着いていた。僕の肩から顔を離し、僕の背に回していた手を解いて、彼女のカバンの中を何か探し始めた。僕も手を解き、自分の荷物からティッシュを取り出し彼女に渡す。

「はい…。」

彼女が僕の方を振り向く。彼女の目は赤く腫れていた。笑顔を作り

「ありがとう…。」

と言う。後ろを向き、彼女は受け取ったティッシュで目の辺りを拭いた。そして、彼女はまた僕の方を振り向き、ティッシュを僕に渡した。

「ありがとう。」

そう僕の目を覗いて言った。そのまま彼女は僕の目から視線をそらさなかった。僕も僕で彼女の目から視線をそらすことができなかった。彼女の僕に対する思いに気づき、僕の心は揺れていた。僕はこれ以上彼女に関わっていいのだろうかと。それは彼女と関われば関わるほど僕は彼女のことを傷つけてしまうことになるからだ。しかし、その一方で彼女は僕を求めてくれている。

僕は彼女の目を見たまま、口を開いた。

「僕は君のことがこの上なく、好きです。しかも今、最高に好きです。」

僕はこの言葉が彼女を苦しめてしまうことをわかっていたが、言わずにはいられなかった。彼女は目を潤ませながら、頷く。

「キスをしてもいいか?」

静かに周りに聞こえないように言った。彼女は何も言わなかった。何も言わず目を閉じ、僕に顔をゆっくりと焦らすように近づけていった。僕もゆっくりと近づけていく。まるで僕たちは初めてキスをするかのように相手の唇を探した。そして触れ合った瞬間、お互いの口の中に舌を押し込んだ。僕たちは長い時間をかけて、情熱的で激しく、寂しく切ないキスをした。この愛には先がないということがわかっているだけに長いキスをするほど、僕の心はえぐられていった。

キスが終わると何もなかったかのように

「もう少し景色見よう。」

と彼女は提案してきた。

「うん…。」

僕も何もなかったかのように装おうと試みたが、心の中では様々な感情がごちゃ混ぜになっていた。ただ、陽気な感情ではないことは確かだった。心ここに在らず、まさしくそのような精神状態で今置かれている状況が受け入れられないでいた。

まるで星がそこにあるかのように地上のビルなどの光が散りばめられていた。

「これが東京だよ。忘れないでね。」

彼女は僕にそう言った。

「忘れないよ。さすがに。」

僕は彼女の言葉で彼女との距離を感じた。彼女に僕はもう北海道から帰って来られないと思われているかのようだった。僕の寂しさが上書きされた。だから彼女の手を強く握り直した。

この時間がずっとずっと続いてくれれば…。世界が僕たち2人だけだったなら。そう思いながらも今の時間を噛みしめるように味わっていた。口の中にはキスのしょっぱい味がまだ残っていた。

だいぶあいてしまいました。

次でおそらくこの物語を終わらせられると思います。

引き続きよろしくお願いします。

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