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Let There Be Love  作者: 武城 諸行
Ⅳ Aquiesce
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 僕は洋風の料理屋にいる。木のテーブルをはさんで向かい合っているのは彼女だ。彼女はメニューを見ながら、注文する料理を悩んでいる。

 しばらく悩んだ後、彼女は顔を上げて、僕のほうを向きながら

「決まった!」

と笑顔で言ってきた。

「よし、じゃあ頼もうか。」

彼女は大きく頷く。

「すみません!」

そう大きな声で言うと店員がささっと僕らのテーブルの脇にやってきた。

「ご注文をお伺いします。」

僕と彼女のほうを見て、その店員はそう言う。店員には僕らがどのように見えているのだろうか。僕は彼女のほうに手を出して、先に注文するよう促した。

「あっ、えーっと、これ1つください。」

「ハンバーグステーキ定食がおひとつ。」

被った。僕も同じものを頼もうとしていた。違うものを頼もうかとメニューをめくったが、ピンとくるものはない。注文が終わった彼女も店員と同様に僕のほうを見てくる。

「あっ、僕も同じものをお願いします。」

「はい、ハンバーグステーキ定食がお2つ。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

僕が彼女のほうをを見ると、僕の視線に気づいたのか頷いていた。

「はい、それでお願いします。」

「かしこまりました。メニューをおさげしますね。」

そう言って、店員はメニューをテーブルの上からつかみ取り、またそそくさと立ち去って行った。

 再び、テーブルには二人だけしかいなくなる。彼女は言葉を発さず、自分の着てきた服を眺めていた。僕は僕でそんな彼女の様子を見たり、ほかの客の様子を見たり、スタンドに書かれているドリンクメニューを眺めたりしていた。僕たちはどこかよそよそしかった。何から話せばいいのだろうか。話すことは山ほどあった。聞きたいことも山ほどあった。ただ話を切り出す勇気がなかった。なにせ僕は彼女と長らく話をしていなかったのだから。


ああ、何か月ぶりだろうか。彼女と会うのは。そう思うだけで胸が締め付けられる。彼女と全く会ってなかったわけではない。彼女と付き合うのをやめてからも、模試や講習などで度々彼女のことを見かけることはあった。しかし、彼女と話したりすることは別れて以来なかった。僕がそれを拒んだのである。彼女が口を開こうとする前に僕は彼女の前から去った。彼女が僕に気づき、僕のほうへ振り向く前に僕は明後日の方向に視線をやった。そうしていくうちに彼女のほうからも僕に気づいても気づかないふりをしてくれるようになっていった。

正直、僕の心には彼女にかまっている余裕はなかった。こういう言い方は失礼かもしれないが、実際そうだ。まあ、彼女だってそうだったろう。当たり前だ。僕たちはこの前まで受験生だったのだから。彼女がどこの大学を受け、結果がどうであったか、僕は知らない。しかし、少なくとも僕の場合は無謀な挑戦をしていた。受かるはずもないような大学を第一志望にしていたからだ。だから、彼女を含め、僕の心に乱れを生じさせる要素を排除する必要があったのだ。彼女にもそれが必要だったに違いない。

受験のおかげで彼女は少しやつれていた。目の下に隈を作り、頬が少しこけていた。未亡人はこんな表情をするのだろうかなどと思わされる。明るい表情をしているのだが、どこか空元気のような感じだった。


「受験お疲れ様でした。」

この沈黙を断ち切りたくて、僕はそう言った。彼女の表情からも受験の疲れが少しうかがえたからだ。彼女は視線を彼女の洋服から僕へ移した。視線が合う。久しぶりだ。

「ほんとに。お互いお疲れ様でした。」

彼女は笑顔を作ってそう言った。

「結果どうだったの?」

立て続けに彼女はそう聞いてくる。僕は正直あまり言いたくなかった。なので、はぐらかすように僕は首をかしげた。しかし、彼女は僕の目から視線を外そうとしない。目から僕の秘密を読み取ろうとでもしているかのように。

「えーっとね。一応決まったよ。」

「えっ、どこに?」

僕が答えると間をおかずに彼女はまた聞いてくる。もう答える以外に方法はなかった。

「北海道の大学だよ。」

言いたくなかった。希望通り、僕は第一志望の大学に受かってしまったのだ。受かったこと自体は多少自慢したいという気持ちが僕にはあった。しかし、彼女にだけは言いたくなかった。なぜと聞かれれば理由があるわけではなかったが。

 彼女は

「そっか。」

とだけ言って、俯いた。明るい表情が少し暗くなる。僕は腹をくくって結果を言ったのだから彼女にも何かしら言って欲しかった。しかし、彼女はそれ以上言葉を発さず、沈黙が訪れる。

「おめ…。」「別に…。」

同時に言葉を発した。お互い、沈黙が気まずすぎたのだ。

「あっ、先にどうぞ。」

「いやそっちこそ。」

今度はお互いに譲り合い始める。

「別に大したことを言うつもりはなかったから。」

「私も大したことじゃないよ…。ただ、おめでとうって言ってなかったから…。」

語尾になるにつれて彼女の声が何かに吸い込まれていくかのように小さくなっていく。

「あっ、ありがとう。」

僕もなぜか自信を失ったようにそっぽを向いたままそう言う。まだ、彼女と話すということに慣れない。

「すごいね。」

「すごくなんかないよ。たまたま運が良かっただけだよ。」

「そんなことないでしょ。」

「いや、そんなことがあるんだ。逆に君はどうだったの?」

「えっ、私…。」

彼女はそう言って下のほうへ視線を移した。彼女の視線の先には何もなかった。彼女は特定のあるものを見ようとしたわけではなさそうだった。しばらくして彼女は口を開いた。

「私も一応決まったよ。第一志望ではなかったけどね。」

そう言って大学名を口にした。相変わらず下を向きながら。僕はその大学名を聞いて驚いた。彼と同じ大学だったからだ。彼女は恐る恐る顔を上げ、僕の反応を確かめようとした。僕はすぐに何もなかったかのように装い、

「そうなんだ。十分すごいじゃん。」

とだけ言う。彼のことに触れないように。僕はグラスをもって水を飲んだ。そのおかげで少し心が落ち着く。

「すごいよ。うん。おめでとう。」

もう一度、彼女にそう言った。

彼女を見ると、僕の後ろのほうを見ようとしているのが分かった。僕も彼女の見ているほうへ振り向く。


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