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トンネル  作者: 桑 司
3/3

相沢貴理子 転

三日後、貴理子の学校では卒業式に向けての練習が始まった。練習が終わると李奈と鈴とクラスでしばらくお喋りをしていた、内容は卒業後の話だった。例の不安はいつのまにか消えていた。


李奈と鈴とは途中まで帰り道が一緒だ、帰り道の別れるまでそんな話で、盛り上がっていた。


別れ際、彼女達に手を振ったとき、貴理子はあのトンネルを出た後に感じた不安を再び感じた。


もう、2度と2人には会えない


そんな気がした。


家に帰ると、母が台所にいた。

母に会っても、そんな気がした。

帰ってきた父と話をしていても そんな気がした。


全ての瞬間が最後のようにと感じてしまう。



その感じは、貴理子が寝るまで続いた。

















貴理子は夢を見ていた






何かを引きずる音がする。ズルズルではなくもっと軽い何かを引きずる音が。

貴理子はそんな音を聞いていた。

辺りを見渡し、ここはどこ?と思う。

「なぁんだ・・・・」

周りには普段と何にも変わっていない我が家の台所が広がっている。そこに繋がっているリビングには、いつも寝そべっているソファーと父がボーナスの時に買った大きなテレビが見える。ソファーには新聞を読みながら父が座っていた。

今いる台所にも、小学生の時に引っ越してきた時からある冷蔵庫、両親が結婚時に買ったという、食器棚がある。そして流し台には母がいて、洗い物をしている。

(いつもの我が家じゃないのよ)

と、安心していた。


ただ・・・・・何かがおかしかった。


何というか、普段とは何かが決定的に違う、何かが足りない、そんな気持があった。改めて辺りを見渡す。

そして、貴理子はようやく足りないものが何なのか気がついた。

(音がない・・・・・)

リビングを見直してみると、テレビはついている、テレビの中でアナウンサーがニュースを解説しているように見える、だが音は聞こえない。


母の方をみると、洗い物をしているのはわかるが、水の音、お皿が触れあうカチャカチャという音がしてこない。

静だった。


ただ、その静さの中に聞こえる音があった。


サワッ サワッ サワッ サワッ


この音、何かを引きずるような音、せめてミステリアスなBGMが流れているならまだしも、この静かさにこの音は不気味だ。

(怖い)

ここまで来て、始めて貴理子は怖いと感じた。

(どうして?どうして?何も聞こえないの?)

自分の耳を何度も触る、もちろん耳はそこにある。ただ、普段触れている時にする音がしない。

(怖い・・・・・怖いよ)

そう思い、うずくまって眼を塞ぐ。

先程から聞こえていたサワッサワッサワッという音が止み、今度は本当に何も聞こえなくなった。

(何?何なの?)


恐る恐る眼を開ける、台所はもうそこにはなく、目の前に光を放つカマボコ型があるだけだった。

(何ここ?あのトンネル?)

辺りを見渡す。あのトンネルだった、目の前と後ろの光は出口か入り口かのどちらかだというのがわかった。

(出口だよね・・・・・あれ)

今度は回りの音が聞こえる、吹き抜けているであろう風の音、遠くでバイクが走っている音が僅かに聞こえる。


(トンネルから出よう)


立ち上がり歩きだそうとすると


サワッサワッサワッ


何かを引きずるような音が再び聞こえた。


自分の背後で、その音が迫ってきている。

気がつくと貴理子は走っていた、何故だかわからない、ただ本能的な何かが貴理子を走らせた。

それは、危険から逃げるという本能以外の何でもなかった。


(嫌、嫌、嫌・・・・・)


迫って来ている何かを見る気にはなれなかった、ただ気配では近づいているのをハッキリと感じる。


(逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ・・・・・・)


貴理子は出口に向かって走り続けた、しかし、いくら走っても出口が近づかない。


(どうして?)


全力で走っていたが、貴理子にもいよいよ限界がきた、息が上がる、足に力が入らなくなってきて、ついに止まってしまった。

気がつくと、あの音がしなくなっていた。

後ろを振り返る、もう1つの出口は何も変わらず光を放っていた。


「ハアッハアッ、もう、何なの?」


そう呟やき、息を整える。前をみると先程といた場所から自分が全然動いてないことがわかった。。


(ここ、知ってる・・・・・)


そう思った時、後ろにあの音と、"何かの気配"を感じた。

その"何かは"私を見ている、私を、私を


負の感情で見ている

嫉妬?怨み?怒り?


"振り返ってはいけない"そんな気持しかない、わかっている振り向けば私はヤバイ事になる。


絶対に見ない絶対に見ない、見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな見るな。


だが、貴理子は好奇心に負けた、ゆっくり振り返る。


目の前に、縦にノイズが走っている。

ノイズ?風にたなびいているのに?

そう、トンネル内に吹く風がノイズを揺らしている、貴理子はゆっくりそれに触れてみる、触れた感触がある、繊維みたいなそれを貴理子は知っている・・・・


髪の毛だった。


長すぎるその髪は地面についている。


貴理子は上をゆっくり見上げる。


トンネルの天井、そこに巨大な蜘蛛みたいな何かがいた、天井に張り付いているそれには、真っ白な足が4本あった、しかし、蜘蛛に4つ足なものはいない、目が慣れ始めハッキリわかった時に貴理子は

「あぁああああああっっ・・・・」と声をあげ、尻餅を着いた。


すべてが足ではなかった、貴理子が見上げて前にある2本は手だった、よく見ると爪が剥がれ白い手に血が流れている、後ろ足は裸足の人間の足だった、胴体は裸なんであろう白だったが、頭にあたる部分から髪の毛が垂れ下がっていた。

裸の女が天井に張り付き髪の毛を垂らしていた。


貴理子は逃げなくてはいけないと感じ、尻餅を着きながらも、少しずつ後退する。


だが、天井の女はその動きに合わせるかのかのように、天井を這ってきた。髪の毛は女が動くたびにサワッ サワッっという音をたて地面を箒で掃くように動いた。


その髪の毛が貴理子の体の下から撫でるように顔まで近づいてきた、貴理子はあまりの恐怖にもう動けなかった、目には涙が滲み、顔に女の髪の毛がかかり始めたのを怯えながら見ることしかできなかった、脂汗が吹き出て、全身の毛が逆立ち、呼吸は先程の逃走と今の恐怖で乱れ、あまりの恐ろしさにズボンが自分の漏らした尿で濡れ始めているのも気が付かなかった。


(やっぱり、やっぱり噂は本当だったんだ・・・・皆にも、その内・・・・)


何か声が聞こえた、ボソボソと呟く僅かな声



上を見上げると


顔があった


目は血走り、涙のように顔に垂れていた、逆さまにいるからだろう目の下にも瞼の上にも縦に一歩の血の線ができていた、顔のいたる所から血が出ていた、白い顔を赤い血が塗りつぶしているように見えた。口は何かを言っているように常に上下にカクカクと動いていた。



その女と目が合った

女は血だらけの顔を歪ませニヤリと笑っている風に見えた。


貴理子は直感した


(私は死ぬんだ、逃げられないんだ、私は・・・・・あんなことしなければ・・・・・・・・・・・・・・・・お父さん・・・お母さん・・一・・・・皆・・・・ごめんなさい)


女の目が窪み、目が完全に穴だけになり、そこに吸い込まれるような感覚になる、顔がだんだん渦を巻くように歪んでいくのを貴理子は呆然と見ているだけだった。



「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・」



貴理子は、今までの人生で一番大きな悲鳴をあげ、その短い生涯に幕を閉じた。

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