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あの日にかえりたい。  作者: 七草せり
7/12

私の気持ち

私は考えた。凄く凄く悩んで考えて。

でもやっぱり裏切れない気持ちと、それでも離したくないあの手の狭間で、真剣に悩んだ……。


「ママ大丈夫?」


息子と娘の言葉に我に返り、「大丈夫よ。なんでもないよ……」


なるべく笑顔で答えたが、ちゃんと笑えているだろうか。


「何か具合でも悪いのか?」


夫の言葉にハッとした。


「何だろうね。風邪ひいたかな?」


誤魔化す様にリビングから寝室へと向かった。


まずい。本当にどうしたらいいのだろうか……。このままじゃ何もかもが中途半端じゃないか。



そんな事は分かっているけど、結局答えなど出ないまま出せぬまま、数週間が過ぎた。



『もしもし? 今大丈夫?』


ある日湊君から電話がかかってきた。


『あ……。うん』


何となく話しづらいな。


『考えてくれた? 俺もあれからずっと考えてた。でもやっぱりお前を諦め切れない。自分勝手だし、無茶苦茶なのは分かってるよ。

ただ、お前を諦めたら一生後悔する。あいつともそれとなく話しをしてるんだ。元々価値観の違いとかあって、最近上手くいってなかったけど、離婚となると仕事に支障をきたすとか言っててさ。何だそれ? って感じで話して……。色々話してるうちに、離婚したくない理由がそれなんだなって思ってさ……』


『ーー好きじゃないって事……?」


『……分からない。ただ前程の感情はないかなぁ。子供居ないし、あんまり話す事ないしね』


『夫婦でいる意味がないって言ってるの?』


『確かに夫婦じゃなくて友達みたいになってきてるな。お前と居るほうが安心するし』


『湊君……』


『お前は俺と違ってきちんと家庭を持ってるし、子供も居る。旦那とも仲悪くないみたいだし……。それでも。……それでも離したくないんだ』



そう言われたら、心が揺れるじゃない。尚更揺れて分からなくなるじゃない。


私達の関係はいけない事なのに、そう思えなくなる。



『取り敢えず考えて欲しい。本気で』


そう言って電話を切った。


湊君の気持ちは本当の本当で、私だって湊君と一緒にいられたらって思うよ。

でも現実はきっと許してくれないだろう。


何度も何度もそう自分に言い聞かせる。



「あなた……、ちょっとお話があるんだけど……」



ある日の夜、子供達を寝かせた後。私は意を決して夫に全てを話す覚悟を決めた。


きっと責められるだろう。罵られるだろう。

だけどいつまでも悩んでいられない。


はっきり言ってこの先どうなるかなど分からない。

けれどこのままじゃダメだ。



「話しって何? 子供達の事?」


寝室のベッドに座った私は、向かいの椅子に夫を座らせた。



「突然で本当に申し訳ありません。私……ずっと貴方に黙ってた事があるの」


キョトンと私を見つめる夫の目を真っ直ぐ見据え……。


「好きな人がいるの」


はっきりとした口調でそう言った。



「本当にごめんなさい……。家族を裏切ってるって分かってる。許されないって事も……。でも、好きな人がいるの」



余りの衝撃だったのか、暫く夫は口を開けず呆然としていた。


私は俯き夫の言葉を待った。




「それって、誰?」


「……前に付き合ってた人」


「最近出かけてたのって、そいつと会う為? て言うか、いつから……?」



私は包み隠す事なく話した。同窓会の後から二人で会っていた事。彼と離れたくない気持ちがある事も。



「離婚したいって事? 子供達はどうするつもりだ? いや、別れたいと思っているのか?

そいつと一緒になりたいって?」


「自分でも分からない。だけど本当に申し訳ないと思っています……。ごめんなさい」


「分からないって……。じゃあどうするんだ? 此処を出て行くのか?」


「……このまま貴方と一緒に暮らせないよね? こんな私と一緒に今まで通り暮らせないよね? 他の人に気持ちがあるのに、家族としてなんて暮らせないよ……」


涙が溢れて止まらない。こんな自分勝手な話しをしておいて、泣くなんてあり得ないのに。涙が止まらない。


何の涙なのか分からず、私はただ泣いた。




暫くして 「取り敢えず実家に帰れよ……。子供達連れて……」


悲痛な声を振り絞り、夫が呟いた。


私は頷くしかなかった。


”離婚”の二文字が頭に浮かぶ。

夫は悪くないのだ。悪いのは私……。





数日後、母に全て話し子供達を連れて実家に帰った。


有り難いのは子供達の生活圏が変わらず、幼稚園を移らなくて良い事と、パパと別れて暮らす事が余り理解していなのか、仕事の都合と言ったら納得してくれた事。



実家に帰り、私はまた色々考えた。これからの事、湊君との事。もちろん子供達を優先に……。





「旦那さんと別居したんだ?」


「うん……。全て話してね。離婚まではまだ話してないよ」


「そっか……。俺も話したよ。離婚したいって」


「そうなんだ……。何て言ってた?」


「仕事に支障でるってだけかな? あんまり納得してない」


「仕事かぁ……。奥さんそんなにいいポストにいるんだ?」


「まぁね……。お偉いさんとの懇親会とかによく行くから……」


「私は……平凡だよ? 何も持ってないよ?」


「そんなの要らないよ。ただ側に居てくれたら、それでいいんだ……」



湊君と会ってこれからの事を話した。私達のこれからの事を。

だけどまだ踏み切れない気持ちが私の中にある。これでいいのか、このまま湊君の手を取っていいのかって。

今更なんだけど……。



子供達が寂しがり始めたのもあるんだ。パパに会いたいって泣かれた。


それが私の気持ちを困惑させる。

でも、こんな私をきっと夫は許さないだろう。家族としてなんて無理だ。

私の気持ちも揺らいでいるのに……。



「とにかくお互い相手とよく話し合おう」



湊君への気持ちは確かに変わらない。でも現実が押し寄せる。


私は何処に行くのだろう……。

ぼんやり考えた。



「迷いがある?」


「分からないの……。湊君と一緒に居たいけど、子供達を考えると分からなくなるの。色々考えると、ね」


「分かるよ。その気持ち……。だけど何度も言う通りだから……」


「うん……」



結局話は堂々巡りで終わった。


ただ。もう戻れない事だけは確かな事実で。

これから進む道も平坦ではない。


それはきっと罪を犯した罰の一つであろう事はよく分かった。



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