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あの日にかえりたい。  作者: 七草せり
6/12

思いがけない言葉

「ただいま〜。 ごめんね遅くなって。 今ご飯の準備するから」


家に着き、私は夫と子供にそう伝えると、急ぎ着替えて台所へと向かった。


「そんなに慌てなくても大丈夫だよ? 結構遅めに昼食べたから」


ニコニコと笑いながら台所へとやってきた夫がそう声をかけたが、何かをしていないと何となく落ち着かない私。

買ってきた食材をシンクに並べ、今日の献立を考えた。



「今日は何して遊んだの?」


夕食の最中、私は子供達に話しかけた。


「今日はねー、 パパと公園行ったりDVD観たりしてたよ」


楽しそうに話す娘の言葉に胸がチクンと痛む。


この子達を私は裏切っているのではないか?

夫を裏切っているのではないか……。


……人には言えない秘密がある事自体、裏切っているのだろう。


自分に自分でそう言い訳をする。間違っていると分かっていても。言い訳しか頭に浮かんでこなかった。



「久しぶりに出かけたから疲れた?」

夫が優しくそう言ってきた。


「うん……。大丈夫だよ。ありがとう」


「今日は子供と一緒だったからこっちが疲れたよ。でもやっぱりいいな。二人の成長が見られた気がした」


「そっか。本当にありがとう……」


ズキンとする胸に気付かぬふりをして、私は今日の日を終わらせた。






暫く湊君とは連絡もせず、普通に妻として、母として生活していたある日。突然湊君から電話がかかってきた。


『突然で申し訳ない……。明日とか会えないかな? ちょっと話したいことがあるんだ』


『電話ではダメ?』


『できれば会って話したい……』


『分かった……。明日お昼で時間大丈夫?』


『ありがとう。じゃぁ駅前のカフェで』



何となく思い詰めている話し方をしていた湊君。何かあったのだろうか。


洗濯物を畳みながらぼんやり考えた。





次の日。私はお昼に湊君と待ち合わせしたカフェへ向かった。

既に湊君が来ていて、そのまま湊君のいるテーブルに案内された。


「話って、 どうしたの?」


「……実はこないだ出かけた事、あいつに感ずかれたみたいなんだ……」


「奥さん……?」


「前から怪しいと思ってたらしいんだ。それがこないだの事で……」


そんな言葉に私は驚き戸惑ってしまった。


「何も怪しい事はないって何度も説明したよ。それでもやっぱり信じてないらしくて……。だけど俺としては優真が大切だから、 突然だけど本当に真剣に考えてるから……」


「私も……。私も大切に思ってるよ? だけど私達の関係は良くない事なんだよね? 皆んなに言えない関係なんて、いいはずないんだよ……」


ああ。やっぱりこんな時が来てしまったのかと、氷が溶け始め水滴がついたアイスティーをストローでグルグルかき回した。


「俺の事……、真剣に思ってくれてるなら……。無責任にはしたくない。……できれば、いや、俺とのこれからを考えてくれないか?」


唐突に紡がれた言葉の意味が分からなく、じっと湊君を見つめた。



「それってどういう……?」


「一緒になって欲しい。確かに簡単な事じゃないよ。お互い相手もいる。けど、もう二度とお前の手を離したくないんだ。俺と一緒に歩いて欲しい……」


苦しげに、切な気にそう口にした湊君は、本当に真剣な眼差しをしていた。



私もこの人の手を離したくない。でも夫は?子供は?

きっと周りを傷つける。大切な物を失う事になる……。

けれど。この手を離したくない。


確かな思い。理不尽な現実。不確かな未来。


グルグル頭に浮かぶのはそんな身勝手な事ばかりだった。



結局答えなどすぐに出せる訳もなく、湊君と別れたが、頭に浮かんでは消える湊君の言葉と、どうにもできない現実に押し潰されそうになりながら、家路についた。


子供達のお迎えの後、スーパーに寄り買い物をし、いつもの自分を必死に演じた。


そう。私はいつもの自分を演じていたのだ。

そうでなければ今にも崩れてしまいそうだったから。

この平和な日常が……。私の心が。


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