再会の後の約束
同窓会は二時間程でお開きになった。
皆んな家庭があったり、恋人がいたりと色々事情もあるらしい。
それでも、この後何処か行く?とか、夜また会おうか。何て話しているひともちらほらいた。
「優真は帰る?」
杏達に声をかけられた。
「そうね。皆んなは?」
「夢華と広尾君達数人男子と、 場所変えて話そうかってなったんだけど……」
「そうなんだ……」
「まだ時間あるでしょ? 一緒に行こうよ」
「え?」
私が考えていると、湊君がやってきた。
「無理に誘うと悪いんじゃない?」
にこやかに話に割って入った。
「それもそうか……。でも夜もまた違うメンバーと飲もうって話になってるから、 予定が合ったらおいでよ」
「夜も?」
「あーっ、 余計に無理か。ごめん……」
「ううん。こっちこそごめんね」
そんな話をして、杏は向こうに行った。
「本当、 昔から変わらないなぁ。あいつの強引さ」
「はは……。で、 皆んなで何処行くの?」
「んー。まだ日が明るいし、 久しぶりにボーリング行こうかってなってるらしいよ。俺も無理矢理誘われたけど……」
「そうなんだ。お休みなのに、 疲れそうだね」
何て話していたら……。
「そう言えば、 アドレス交換してなかったよね? こっちから今度って誘っておいてごめん」
「気にしないで? じゃあ改めて……」
そう言うとお互いのアドレスを交換した。
「大体いつ頃空いてる?」
「やっぱり休日かな……。子供居るから中々難しいけど」
「平日の夜はやっぱり無理か……」
「旦那が早く帰れたり、 実家に預かってもらえれば大丈夫かと思うんだけど……。って、 そっちは? 奥さん平気なの?」
「うーん……。何て言うかなぁ。最近あっちも仕事仕事だから、 あんまり時間合わないんだよね」
「そうなんだ……」
「まぁさ、 予定分かったら連絡してよ」
「あっ、 うん。分かった」
そんな約束をし、私は皆んなに挨拶をしてから家路についた。
「連絡先、 交換しちゃった……」
一人になりドキドキしてしまった私は、何度も湊君のアドレスを眺めた。
「もう、 唯の友達だよ。何て事はない」
家に帰る前に買い物を済まし、いつもの私に戻る。
同窓会はまるで昔にかえった様な、そんな不思議な時間だった。
「ただいま〜。遅くなってごめんね」
リビングのドアを開けると、夫と子供達がDVDを観ていた。
「ああ、 お帰り。同窓会はどうだった?」
「うん。懐かしかったよ。皆んなあんまり変わってなかった」
「そうか、 良かった。あ、 子供達はお利口にしてたよ。昼もちゃんと食べたし」
「ありがとう」
春の訪れが近く、薄陽がリビングの窓からこぼれて、庭先に目を見やる。
一軒家に住む私達の家には小さな庭があり、子供達の遊具や小さな花壇がある。
ふとこれが現実なんだと思い、私は着替える為に寝室へと向かった。
「あー、 ちょっと疲れたな……」
ベッドに寝転びカバンから取り出したスマホを見ると、メールが一件届いていた。
「誰だろ」
受信ボックスを開くと、湊君からのメールだった。
『今日はお疲れ。今皆んなとボーリングにいるんだ。皆んな凄い盛り上がってるよ。今度一緒に行けたらいいなと思った。連絡待ってる』
「一緒に行けたらか……」
ポツリ呟いた言葉に、何処か虚しさを感じた。
お互い家庭があって、私には子供がいる。
自由になれない事に不満はないけど、やはり何か虚しくて。
「疲れたの?」
ぼんやり考えていたら、夫がやって来た。
「ごめんなさい。大丈夫。あ、 紅茶でも飲む? 夕飯にはまだ早いよね?」
ベッドから起き上がり夫に尋ねた。
「じゃあ紅茶貰おうかな? 本当に疲れてない? 普段あんまり出かけないから……」
「本当に大丈夫だから。さ、 ほら行こう?」
スマホをカバンに仕舞い、夫と寝室を出た。
リビングに戻り、キッチンで食材を冷蔵庫に入れ、紅茶の用意をした。
「レモン切らしちゃって、 ごめんね……」
テーブルにティーポットを置きながら夫に謝った。
「いや、 問題ないよ」
ティーポットから紅茶をカップに注ぎ、匂いを楽しみ一口飲んだ。
「蒸らす時間も絶妙だよね」
「貴方に教わったから」
「今じゃ君の方が上手いよ」
やっぱり私の居場所はここにあるのだろう。
当たり前の日常から少し離れて夢を見ただけだ……。
そう思いながら二人で紅茶を飲んだ。
けれど返信もせずに閉じた電話が気になるのは、まだ夢を見ているのだろうか。
急いで返信しなくてもいい筈なのに、何だかとても気になってしまう。
先ほどから感じている虚しさがまた、胸を掠め、私は立ち上がり寝室に向かった。
「幹事の友人にお礼の連絡をしなきゃ」
ひとつ、嘘をついた。
そんな嘘をこれから幾つ積み重ねてしまうのだろう……。
湊君へメールの返信をしながらぼんやり思った。
湊君から直ぐに返信がきた。
特に何か大事な文章ではなく、何でもない内容だったが、それが何故だか嬉しくなるのはまだ心の中に彼が居るからなのか、それとも懐かしい気持ちからなのか……。
少しずつ、変わってしまう私の日常に戸惑う気持ちはある。何て事はない、唯の友達だと呟いたのも結局は言い訳なのか。
グルグル考えても仕方がない。
私は再びリビングに戻り、何でもない顔をして、冷めた紅茶を飲み干した。
「今日の夕飯なぁに?」
可愛い娘の質問に、ハンバーグだよ。と答えてやれば、凄く喜んでくれた。
キッチンで夕飯の支度をし、皆んなで食卓を囲む、変わりない光景。
そうである筈なのに、気になってしまう彼からのメール。
結局何度かメールのやり取りをし、近々会おうか。そんな話になった。
予定分かったら何て言ったのに……。はやる気持ちを抑え切れなくなってしまったのは、今日の再会のせいだろうか。
あの頃から変わらない彼の眼差しを思い出してしまったから。
私は夫に週末友人と飲みに行きたいと申し出、実家に連絡をした。
子供を預かってもらう為に。