プロローグ―乙女の落胆―
正直に告白しよう。わたしは腐女子と呼ばれるものである。腐女子とは男性同士の恋愛に萌え悶える少し危ない嗜好を持つ乙女の事である。漫画やゲームのキャラクターと言った2次元に存在する者に萌えるものもいれば、本当はあまり好ましくないのだけど、実在する男の人で妄想する強者だっている。ちなみにわたしはどちらも美味しくいただいていました。ごめんね、高3の時クラスメイトだった後藤くんと衣川くん。君たちの漫才のような掛け合いはわたしと数人の友人の中ではバカップルの痴話喧嘩と呼ばれていました。反省はしていない。
わたしは腐女子でありながらゲーマーでもあった。某108人の仲間を集める系RPGの有名キャラとマイナーキャラを掛け算してハァハァしたり、某歴史系アクションゲームの所属陣営が違うもの同士を掛け算して「何というロミジュリ…!」とか言ったりしながらゲームをやりこんでいったのもいい思い出だ。もちろんゲームに登場する夫婦キャラ―もちろん異性同士だ―に対してもそれはそれで萌えていたのだけど。だってせっかく登場してあまつさえ夫婦イベントもあるのにそれを引き裂いてまでホモ妄想したくない。わたしは腐女子と言えどもNLもガッツリ行けるタイプだったのである。
さて、わたしはアクションやらシミュレーションやらRPGやら、それなりのジャンルのゲームを楽しんでいたのだが、あまり手を出していない分野があった。というか友人の隣でそれを見ているだけで満足だったのである。それよりも塊を転がしたり筆で花を咲かせたりモンスターを配合していたかった。
それも今では出来ること能わず。何でちょっと漢文っぽくしてしまったのだろう。それだけ脳が現実を拒否しているのだと思ってほしい。わたしのちっぽけな脳みそには耐えられないくらいのことが目の前で起きているのだ。多少現実逃避をしてしまうのも仕方のないことだ。そうやって自分を正当化しなければやってられない。
――だって、わたしは何の因果か友人がやっていた乙女ゲームの世界に転生していたのだから。しかもよりによって主人公として。
+++++++++
私立藤皇学園は日本有数の名家の子息令嬢が集う学校である。幼稚舎から大学までの一貫教育が売りで、それはまさに上流階級の社交場と言った様相を呈している。ある程度の資産があるならば、親たちは我が子をこぞってこの学園に入れたがる。この学園に幼稚舎から入学しているということが家柄重視の人々にとってはステイタスになるのだ。
だが、中には違った者たちもいる。一握りの、超上流階級と呼ばれる人たちはこの学園に通うのを当然としているのだ。それは学園のネームバリューがそうさせているのではない。そんなものをステイタスにせずとも、彼らの家柄は盤石で揺るぐこともない。
では、何故か。それは連綿たる一族の血統がそうさせるのだ。親から子へ、子から孫へと続いていく血統が、この国を陰日向から支えているというプライドが、何も言わずとも彼らをこの学園へと誘う。親から強制されるわけでもなく、彼らは彼ら自身でこの学園で学ぶことを選択するのだ。
そのため、この学園の中枢には世代ごとに名家が集まる。前述した学園のネームバリューが目当ての成り上がりとは一線を画した、まさに生粋の名家。その子息令嬢が学園の顔として存在するのである。有る者は彼らに嫉妬し、有る者は彼らに追従する。そのようにしてこの小さな世界は回っているのだ。
その小さな世界にどこからか一石が投じられた。庶民とは程遠い身分の者たちが通うこの学園に、今年度からたった一人、一般家庭出身の生徒が混じる。平凡な庶民の家庭からこの学園に入学した彼女を見て、選ばれし者を騙る者が黙っているはずがない。儚げで可愛らしい容姿をした彼女に対して、連日成り上がりたちの執拗なる嫌がらせが行われていた。
これは、その裏側で起きているお話。