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設定ガバガバですいません。厨二臭さ全開で頑張ります。
この世の果て…その町はまさにそう称するに相応しい。悪党やチンピラたちが流れ流れてたどり着き、洗練された悪の中で淘汰され、更に深い闇の底へころがり落ちてゆく。行政や警察まで真っ黒に染まり切ったこの町では闇の力だけが物を言い、世間のあらゆる常識がそこでは通用しない。
タイトロープシティ―――
しょぼい盗みを繰り返しながらその日その日の空腹をなんとかしのぎ、ギリギリの毎日を送っていた、若いチンピラの俺はその邪悪な町の名前すら知らなかった。
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その日の俺はご機嫌だった。久々に自動車を手に入れたからだ。このご時世に、車に鍵をかけないなんて不注意にもほどがある。まぬけもいいところだ。気の毒だが自業自得だろう。
俺は数か月ごとに住む町を変えることにしている。そろそろ頃合いと思っていた時期に車が手に入ったのは幸運だった。空いた夜道をすいすいと軽快に走り抜けていると、道の上に佇む人影を発見した。慎重に停止し、警笛を鳴らすが一切道を開ける様子はなく、足を引きずりながらこちらへ歩み寄ってくる。
なにやらただならぬ様子を察知した俺は車を降り、男に駆け寄った。男は肩で深くゆっくりと息をしながら、崩れるように俺にもたれかかってきた。
「おっさん、こ、これ…!」
まず最初に気が付いたのは、彼の腹の当たりの生暖かい感触。おびただしい量の出血だった。服の上からは傷の様子は分からないが、すぐにでも治療が必要なのは明らかだった。
「び、病院…!救急車!」
俺はあわててポケットに手を突っ込んだが、住む家も仕事も無い俺が携帯電話など持っているはずがないじゃないか。男の衣服に手を伸ばし、携帯を探ろうとしすると、男は俺のこめかみに冷たいものを押し付けた。…銃だ。彼はうつろな目で俺を見つめている。
「びっ、病院はだめだ…。俺の案内通り、運転、しろ…っ」
…なんだこれ…?どうなってる?今助けようとしてる奴に、どうして命を狙われているんだよ。
絶対に関わっちゃいけない世界に巻き込まれかけている…そう思った。しかし目の前の燃え尽きそうな命と、なにより自分の命が懸ったこの状況で選択肢は一つしか無い。
「わ…分かったよ、分かった」
俺は悲痛な男のうめき声を聞きながら、男に肩をかした。わずかに体を動かすだけでも辛いのだろう、彼の必死な息遣いを感じるだけでこっちが泣きたくなってくる。慎重に男を後部座席へ運び、俺もすぐに運転席へ座った。
「よし…車…出…」
バックミラー越しに男を確認すると、震える手で物騒な代物を構えたまま、まっすぐ前に突き出して先端をこちらに向けていた。
こんな男がまともな人間な訳がない。こいつは一体どこへ向かうつもりなのだ?まともじゃない人間が帰るところだってまともじゃないはずだ。俺も危険に晒されるかもしれない。
どうしてこんな事に…時間が経つほど、先の軽率な行動を悔いてしまう。こんなろくでもないやつ気にせずに素通りしてしまえば良かったじゃないか。
「なにやってる…はやく出せ…」
蚊が鳴くような声の情けない催促、しかし彼の手には拳銃が握られている。俺はしぶしぶギアを入れた。