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ヘル・オンライン  作者: 遠
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第七話

 バイトクエを受注した俺はユウコとサオリに付き添ってもらい目的のアイテムを手に入れるため北東にある山に来たのだがライバックに乗れる定員が二人までだったのでライバックは店に預け俺たち三人は徒歩で数十分ほどかけてようやく辿りついたのだった。

「さて、ちゃっちゃと手に入れて街に戻ろうか!」

ユウコが持ち前の明るさで俺たち二人を元気付け山道を登っていく。それなりの高さの山なのでうっすらと雪が積もっている、これは頂上付近は雪で足が取られるのは間違いないな。

「目的のアイテムは頂上かぁ。トモ、ここのモンスターを調教テイムしようとか考えないでね?ぱぱっと済ませたいんだから寄り道は禁止だからね!」

ユウコは思い出したように振り返り俺に釘を刺す。

「いや、さすがに今回はそんな事する気にならないよ。サオリを早く街に戻してあげる事しか考えてないんだけど」

頬を掻きながら苦笑いを浮かべる俺を見てユウコは満足したのか

「なら、いいんだけど。サオリ、私の後ろから離れないようにしてね?最後尾をトモにして一番戦闘になれてないサオリを真ん中にして私が前で敵に対処するから」

「うん、分かった。ありがとうユウコ」

ユウコに優しく手を引かれサオリが礼を告げる。

 しばらく緩やかな登り坂が続き、標高が徐々に上がって行くにつれて積雪量が増えていき場所によっては完全に凍ってしまっていてスケートリンクのようになってしまっている小さな池などが目に付くようになってきていた。そして例えデータ上の再現だとしても耐え難いものが俺たちを襲い始めた、そうそれは『寒さ』だ。手が凍えて指先が動かし難くなるといった現実の再現までは流石に出来ていないが肌を刺す冷気は本物そのままに俺たちを嘲笑うように包み込む。

「さ、寒い。このゲームに排泄が無くて良かった。俺、こんな寒いところに居たら何回でもトイレに行ける自信があるね」

身を縮こまらせながら俺が言うと二人も

「私もそれは思う、アップデート前の『氷雪の塔』の攻略の時も心底生理現象まで再現されてなくて良かったと思ったなぁ」

とユウコは過去の出来事を懐かしむように語り

「アタシもトイレ近い方だから本当に良かったと思ってる」

とサオリは両腕で自分を抱きしめ摩りながら同意する。

さらに進んでいくと本格的に雪に足が埋もれるようになってきて四苦八苦させられるようになり辺りを見渡すとそれを待っていたかのように真っ白な狼の姿をしたモンスターたちが集まり出した。

「少し動きにくいけど全く動けないって程でもないしなんとかなるわ。トモ、無理はしないで良いから出来る限りサオリに近づけさせないようにしてね、危なくなったら私がなんとかするから」

背中に装備している身の丈に近い大振りな両手剣を鞘から抜き放って構えながらユウコは俺に声をかける。

「ああ、分かった。死にたくないから無理なんかする気はないけど、サオリをこれ以上危なくならないようにやれるだけはやるよ」

俺は周囲に寄ってきた白狼たちに目を配りながら返事を返すと拳を構える。

「ありがとう、二人とも。アタシも出来るだけ頑張ってみる」

そういってサオリは腰に装備した片手剣を引き抜き構える。

サオリが最後に構えたのを合図に白狼たちは一斉に飛び掛ってきた。雪のフィールドに生息しているモンスターという事もあってか動きが平地にいる同種族のそれよりもいくらか素早く感じられ虚を突かれたがなんとか初撃を避けるとすぐさま振り返りと同時にスキル発動の位置で止めて置いた右足を動かし体術スキル『灰燼脚』を叩き込むと同時にサオリに飛びかかろうとしていた右前方に居たもう一匹に肉薄し渾身の右ストレートを放つ。攻撃を食らった二匹はノックバック判定を食らい数メートル吹っ飛ばされるが、エリドとの対戦で俺の装備は持って行かれたままなので武器と呼べる物は皆無、つまり素手での攻撃ということでダメージは与えることはなんとか出来ているが決定打に欠け距離を取らせる事しか出来そうにない。だが

「その分体術スキルの使用回数が増えるから熟練度も上がるからな。ここはポジティブシンキングで乗り切るか」

 スキルの熟練度が上がれば新しいスキルを覚えるかもしれないし覚えなかったとしても熟練度上がれば僅かだがダメージボーナスが付くのでいくらか素手状態でもダメージが通るようになるはずだ。ここは確実にスキルと拳と蹴りを繰り出してなんとしても自分とサオリの事を守る事に集中するべきだ。そう考えつつサオリの方へ視線を移すとサオリはサオリなりになんとか足を引っ張らないようにと必死の形相で白狼たちの攻撃を避けつつ俺の攻撃を食らってノックバック状態になった所に片手剣でダメージを蓄積してくれていた。

「サオリその調子!だけどあんまりダメージを与えちゃうとサオリが狙われやすくなっちゃうから気をつけてね!無理はしないで、私たちが付いてるんだからっ!」

そのサオリの奮闘を見守りつつ危なげなく攻撃を避け大振りの剣を全く重さを感じさせない剣捌きで白狼たちを屠っていくユウコ、さすが攻略プレイヤー。

 そんなこんなで俺の攻撃力が低いせいで若干持久戦になりかけた白狼の群れとの戦いもユウコが最後の一匹を上段に構えた両手剣で真っ二つにして終了した。

「ふう、今のモンスターの素材持ち帰ってさっそくお店に行かなくちゃ」

嬉しそうにメニュー画面を開いてアイテム整理をしながらユウコが言う。

「アタシは・・・・・・どうしようかなぁこれ」

今回は特別に街の外に出てきているサオリだが、今後はテブルの街に定住する予定なので装備強化などはする必要がないので売って防御力重視ではなくファッション重視の服を買うというのも手なのだがサオリはチラッと俺を盗み見ると何か悩むような表情を浮かべメニュー画面を閉じた。

「サオリは今の素材どうするの?売って可愛い服買いに行く?」

ユウコが自分のアイテム整理が終わったのでサオリに話しかける。

「え、あ・・・・・・えっと、アクセサリーでも作って見ようかな・・・・・・って」

またもや俺の顔を一瞬だけ見てからサオリはユウコに顔を向け答える。なんだろう俺の顔になんかついてるんだろうか?でもいくらリアルなこのゲームでも顔の汚れなんて物まで再現し切れるはずないしなんだろう?

「アクセサリーかぁ、うん!良いね。私も余裕があったら一つくらい作ろうかな」

サオリの返事を聞きユウコがそう言いながら再び頂上を目指し歩き出す。

「さぁて、もうちょっとで頂上みたいだし早く行こう!」

俺とサオリもユウコに続き先ほどの隊列で歩き出した。


数分後、俺たちは氷と雪に覆われた危なっかしい長い階段をおっかなびっくり登っていきついに頂上に辿り着いた。

それほど高い山ではないにしても先ほど居たテブル街がある平野に比べたら高い位置にいるためか遠くには更に高い頂が分厚い雲に覆われた山脈地帯を視界に捉える事が出来た。

「うわぁ、てっぺんが見えないじゃんあっちの山。ソルの人たちもうあそこに着いてるのかな?」

眉間に皺を寄せじぃーっと黒々とした雲に覆われた山々を睨みつけながらユウコは言う。

「あの人たちの事だから、あの山の頂上でバーベキューでもしてそうだけどね」

俺も何度かあった事がある有名ギルドの一つ『ソル』。そのギルドマスターのコウジさんとそのメンバーの人たちとはユウコを通じて話したことがあるのだが、とにかくテンションが高い、死ぬのが怖くないのか自分のHPバーが減少するのも省みず攻撃を当てに行こうとするそのクソ度胸、かと思えば冷静な判断力で危険な攻撃はスルリと避けるしとにかく色んな意味で凄いプレイヤー集団なのだ。そんな彼らがああいう高い所とかに一番乗りなんかしようものならバーベキューの一つや二つやらないわけがない!と俺は思っている。

「ハハハ、確かに。コウジさんたちならあり得るね!」

ユウコが楽しそうに笑う、

「そんなに凄い人たちなんだ、『ソル』って」

そんな俺たちの様子を見ていたサオリがユウコの笑顔に釣られて微笑みながら言う。

「うん、凄い強くて凄い面白い人たちだよ!今度サオリにも紹介するね・・・・・・っと忘れてたよ。トモ、あの果物早く回収しちゃおうよ」

そうだった。頂上から見た光景に圧倒されつつ『ソル』の話なんかしてるから頭から抜けてしまっていた。早くサオリを街に帰さなきゃいけないのに俺とした事が!

「ええと・・・・・・お、あった。これだ『ビューティライチ』ゲット!」

俺は頂上の中心に生えている腰くらいの高さの木に生った木の実をメニュー画面を開き採取すると二人に向き直った。

「これで達成だ。ありがとう二人とも。特にサオリ、本当にごめん。せっかく安全な街に着いたのにこんな所につき合わせちゃって。この埋め合わせは必ずするよ」

カフェでしたようにもう一度深く頭を下げながら二人に礼を言うと

「あの・・・・・・今更なんだけど、別にサオリには残ってもらって私のフレンド呼んだりすればサオリを連れ出さなくて済んだし、私とサオリがお金出して別のバイトクエでお金稼いでトモからお金返してもらったりしても良かったんじゃないかなぁ・・・・・・なんて思ったりもしたんだけどね」

などと申し訳無さそうに静かな声でユウコが言うのに対して俺が言える事はこれ位しかなかった。

「俺ってホントバカ・・・・・・」

今回はなんとか間をそんなに空けないで書けました!そして戦闘も書けた。勢いとノリの第七話。意見感想待ってます。

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