第六話
トモに向かって大きく手を振っていたのは、同性のアタシから見ても綺麗としか言いようの無い艶のある長い黒髪を腰近くまで垂らし細身の体に装備している防具の隙間から覗く肌はきめ細かく、切れ長の目を大きく開き嬉しそうに微笑むのその様は人当たりの良さを窺わせるものがあった。なんというかこのとんでもない美人さんとアタシを乗せて馬を操るトモを見比べると正直、接点が思い浮かばない。間違っても恋人同士なんて風には思えない。そんな風にアタシは感じながらトモに手伝ってもらいながら二人をここまで乗せて走ってきてくれた馬のライバックからゆっくりと降りた。
「やっほートモ、3時間ぶりかな?で、事情っていうのはこっちの子の事?」
ライバックから降りて近くの柱に紐を結ぶとトモは、
「うん、そうなんだ。サオリ、この明るく元気な美人さんが俺の幼馴染のユウコ、アップデート前は『エンカウント』っていうギルドを立ち上げて最前線で戦ってたんだ。そんでユウコ、こっちがサオリっていうんだ。とある事情で街から離れる事になったんで俺が付き添いって形で二人でここまで来たんだ、ちなみに騎乗スキルと調教スキルの勧誘中だ」
その説明を聞いたアタシは驚きを隠せなかった。
「今なんて言った?エンカウント!?あの超有名ギルドの『エンカウント』の事?」
驚きの余り声が裏返ってしまったがそんな事を気にしてる余裕がないほどアタシは気が動転していた。「えっと、うん。私が『エンカウント』元団長ユウコです、よろしく。今はただの攻略プレイヤーに戻っちゃったけどね」
チロっと舌を出しながら照れ笑いを浮かべるユウコさんに
「ま、まさかあのユウコさんがトモの幼馴染だったとは・・・・・・」
あんぐりと口を開けたままトモとユウコさんを交互に見比べてしまうアタシに二人が笑う。
「あ、えっとサオリさん?私の事はユウコで良いから。あんまり気を使われるの好きじゃないんだ私」
「ひゃ、ひゃい!・・・・・・えっと・・・・・・ユ、ユウコ」
たどたどしく名前を口にするアタシを見てトモがニヤニヤ笑っていた。
「な、なんで笑うのよ」
「いやぁだって、俺の時はすぐ呼び捨てにしたのにユウコに対してはあまりにも態度が違うのが面白くて」
再びニヤニヤ笑い出すトモにゲンコツでも入れてやろうかと拳を握った時、ユウコがそれよりも早くトモの脳天にゲンコツを叩き込んだ。
「こら、トモ。女の子をそんな風に笑うもんじゃないでしょ!罰としてここの店の会計全部トモね!」
それを聞いたトモはこの世の終わりのような顔をして
「う、嘘だろユウコ。俺そんな金持ってねえぞ」
「ふーん、だったらここでバイトクエでも受けてしっかり稼げば?」
腕組みをしてそっぽを向くユウコ、それを見てがっくりと肩を落とすトモ。思わず微笑んでしまっているのが自分でも分かる。
「まぁいいや、どうとでもなりやがれ。とりあえず座って話そうぜ」
「それもそうね、サオリと私は一番高いの選ぼうね!」
ユウコが私に腕を組んで来ながら話しかけてくる、顔が近いドキドキする。
「う、うん」
憧れの女性攻略プレイヤーユウコが今アタシと腕を組んで歩いている。これはまさにウルトラハッピー!
席に着いて数分が経ち、各々が頼んだメニューを口にしているとトモが話を切り出した。
「そういえば良いのかよユウコ、こんな所でのんびりおやつなんか食ってて攻略連中はどんどん進んでるんだろう?」
「え?ああうん。とりあえずこの街でのクエストは大したもんじゃないから素通りしようかと思ってたんだけどトモが来るっていうからどうせだったら約束通りご飯でもどうかなって。まぁ今回はおやつだけどね」
「ふーん、そうなのか」
「そうなのよ、それよりも私としてはサオリがリモコの街から出なきゃ行けなくなった理由が知りたいんだけどなぁ。勿論無理にとは言わないよ?言いたくない事くらい誰にだってあるだろうしね」
話題を振られ、それほど重い話でもないしアタシはユウコにリモコでの出来事を伝えた。
「うっわあ、そんな考えの人もいるんだねえやっぱり。その場に私が居なくて良かったねその人たち」
「え、どうして?」
私は気になって問いかける。
「私がその場に居たら安全圏なのを利用してずっと両手剣スキルの練習台になってもらってたね」
「「・・・・・・」」
トモとアタシは無言でニコニコ笑顔のユウコを見つめてしまった。さすがトッププレイヤーはやる事が違うわね。
「ま、私の話は置いといて。サオリはこれからどうするの?ここでトモみたいに気ままにやってくつもりなの?」
「うん、アタシはこれまでずっと戦闘なんか全然しないで過ごしてきたからね。でも今度からはトモを見習ってここの街の馬や動物に乗ったり手懐けたりしてのんびり過ごそうと思ってる」
アタシはトモとユウコ、二人を交互に見ながら質問に答えた。
「そっかぁ。私はとりあえずこのまま北エリアを進んで見ようかな、途中でソルの人たちとも再会ついでに情報交換と団長のコウジさんともまた対戦したいしね」
ユウコが話し終わり、アタシとユウコの視線はトモへ集中する。それを受けてトモはゆっくりと口を開く。
「とりあえず」
「「とりあえず?」」
「バイトクエ開始だ」
絶望という言葉が擬人化したような有り様のトモを見て思わず吹き出してしまうアタシとユウコ。
「あははは!トモ、そんな顔しないでよ。落ち込み過ぎだよ!」
「そうだよ、トモ。アタシも手伝うから」
お金が足りなくなったのはアタシとここに来る事になって装備やらアイテムやらを買うハメになりそしてエリドとの勝負で有り金全部取られた事も元はといえばアタシが原因だ。
「あ、勿論。私も手伝うよ」
ドン、と只でさえ主張がデカイ胸をさらに張りながら右手で叩くユウコ。
「サンキュー、二人とも。んじゃちょっと受注してくる」
「オッケー」
「はーい」
数分後、店の奥から帰ってきたトモは大層申し訳なさそうな顔で帰って来た。
「どうしたの?トモ。そんなに難しいクエスト内容だったの?もしかして調理スキルが一定レベルに達してないと受注出来ないとか?」とユウコが言う。
無気力にゆっくりと首を横に振りトモは口を開く。
「いや、スキルレベル云々では無いんだけど。ここのお店の看板メニューあっただろ?」
看板メニューとは先ほどアタシとユウコで食べたウルトラハッピーパフェの事だ。
「うん、あったね」
と二人で頷く。
「そのパフェに使われていた、スライスされた水色の綺麗な果物を採って来いってクエなんだ」
「・・・・・・」
「外に出なきゃいけないクエ、しかも受注人数は3人からなんだ。ごめんサオリ、また外に連れ出さなきゃ行けなくなった」
深々とアタシに頭を下げてくるトモ。
「ううん、気にしないで。高いもの思いっきり頼んだアタシが悪いんだから」
そんな真剣に謝られたらこっちも対応に困ってしまうじゃない。
「トモ、大丈夫。今度は私も付いてくんだから!そんなに深く考えないでさ、気楽にピクニックにでも行くくらいの気持ちで行こうよ」
頭を下げたままトモは
「二人とも、本当にありがとう」
と微かに震えた声で礼を告げたのだった。
またもや一ヶ月近く間が空きました。申し訳ない。なんだかんだで戦闘回に持っていこうとして日常回で一区切りにしてしまうこの悪い癖をなんとかしたいものです。次回こそは戦闘回です。意見感想待ってます。