第三十三話
ノリと勢いの第三十三話。意見感想待ってます。
ジュリアと二人で飲んだ後、俺はコウジさんにジュリアはリリたちに引き離され飲まされ一発芸を強いられ俺は滑りジュリアはアカペラで有名なアイドルの曲を歌って場を盛り上げたあと流石に睡魔に襲われ皆死んだように眠った。
そして俺たちはそれぞれ武器防具の点検回復アイテムの補充をして再び螺旋階段を登っていくのだが今度のは最初のカマキリの所に辿り着くまでの長さよりもさらに段数があるようで途中から数えたり気にするのを放棄するほどの長さだった。これが製作者の地味な精神的苦痛を狙った攻撃だったとしたら俺は別のとこにその製作時間を使えよ! と怒鳴っている事だろう等とアホな事を考えているうちに辿りついたのはカマキリの時と同じような踊り場だった。
だが、そこで待っていたのは今まで一番の衝撃がここにいる全員に走った。
「おい、まさかあいつ・・・・・・」
「そんな嘘でしょ、どうして!?」
それぞれが数メートル先で立っている者を見て悲鳴を上げたり声を震わせていた。それは俺も同じで声が出ずに茫然と立ち尽くすだけだった。
そんな時、円卓の一人が駆け出してその者へと話し掛けようとしたが体に触れようとした途端駆け寄ったそのプレイヤーの体から剣が突き出てきた。
「は、はは。何やってんだよ・・・・・・俺が分からねえのかよ!! コウタ!」
剣が刺さったまま肩を揺するもコウタと呼ばれた人物は虚ろな目で刺していた剣を更に深く沈めた。
「もういい離れろ!」
見かねたアーサーが刺された団員に駆け寄り体を引っ張り後方へ放り投げすぐさま剣を構えた。
「へっ! 悪趣味にも程があるだろ。製作者さんよぉ・・・・・・」
「・・・・・・流石に頭に来たよ。よくもよくもミユキ姉をっ!!」
コツさんとリリの二人が激高するのも無理は無かった目の前に立っているのはかつて『ソル』のメンバーでありアップデート以前のボス戦で死にかけたリリを庇って帰らぬ人となってしまった元メンバーであるミユキさんのアバターだったのだ。
コウタと呼ばれた元円卓の団員、ミユキさんの他にも十数人が皆同じ虚ろな目でこちらを捉えた途端、武器を構えて顔色一つ変えずに襲い掛かってきた。
「こんな冷酷な事まで・・・・・・どこまであの人は・・・・・・」
ジュリアは静かだか確かな怒りを発露させ片手剣を握る手に力を入れた。
「防御無視のとんでもボスの次は死んでいった仲間たちと戦わせてくるとはな、反吐が出るぜ」
コウジさんは吐き捨てるように言うと大剣を構えて迫り来るミユキさんの槍を受け止める。俺の所にも誰かの大切な人のアバターが大剣を振りかぶり両手剣スキルで肉薄してきたためそれぞれが個人個人で戦うような状態に分断されてしまった。
「くそっ! こんなの戦えねえよ! 自分の仲間を、親友を自分の手で殺すなんて出来ねえよ!」
泣き喚く人も出始めてしまいショックのあまり放心状態でただ攻撃を受け続け粒子となって消える人までいるようだった。
「みんな、目を覚ませ! もうこいつらは俺たちの知ってる仲間でもなんでもないんだ! 製作者が都合の良いようにデータだけ拾って来て操ってるだけのただの人形だ! 思い出せ、あいつらがこんなクソAIみたいな腑抜けな攻撃していたか!? 違うだろう、あいつらはもっともっとすげえコンビネーションで俺たちのピンチを何度も助けてくれたはずだ! それに比べたらこんな攻撃、攻撃でもなんでもねえ!」
コウジさんは精一杯の声を張り上げてミユキさんのアバターの槍を切っ先で軌道を逸らしそのまま立ち上げておいた両手剣スキルを叩き込み一気にHPを半分まで減らした。
「コウジ君の言う通りだ、誇り高き『円卓騎士団』の団員がこのような気持ちの入ってない攻撃など振るうはずもない! こいつらにはたっぷり戦い方という物を叩き込んでやれ!」
負けじとアーサーも団員を鼓舞して士気を高め自身も手にした剣で元団員たちを撃破していく。
「その意気だ。 さぁてミユキの槍捌きを再現出来ないようなヘタレ槍使いさんにはそろそろご退場願うぜっ! やれっお前ら!」
コウジさんの言葉を合図にミユキさんのアバターに『ソル』の総攻撃が次々に決まっていく。ロナードさんがまず初めにダッシュ突きで槍の耐久値を削り、リリとコツさんのダブルハンマーで完全に破壊し無防備になった所でイヴェールさんとしずくさんの槍と太刀の見事な連携攻撃が連続ヒットし最後はコウジさんが渾身の両手剣スキル『アクセルバースト』を発動させ勢いよく大剣を突き立てたあと両足を地面につけ刺さったままの状態で地面に叩きつける。そこでHPは消失しミユキさんのアバターは完全に消えた。
「お人形遊びがしたかったらおもちゃ売り場に行くんだな」
心の安定を取り戻した他の人たちも過去と決別しアバターたちを撃破していく。
しばしの休息の最中にあることに気付いた。階段が無いのだ。床が昇降装置になっているかと思って俺とリリやサオリたちで床のあちこちを探して回ったがそんなものはなく代わりにコウジさんが壁面に何かスイッチのような物を見つけたのでそれを押し込んでみると壁面の一部が崩れ落ち外の景色が見えるようになった。
「え? どゆこと・・・・・・ここでピクニック気分で良い景色でも眺めてねってこと?」
リリがキョトンとしているので、もしやと思い床に転がった崩れた瓦礫を手に取り外の景色へ適当に放り投げるとコトっと小さい音を立てて空中で静止した。
「うわぁ懐かしい、昔のレトロゲーのRPGであったよこういう見えない床の仕掛け!」
コウジさんは目を輝かせて駆け出そうとするが
「ちょっと待てどのくらいの幅があるかも分からないのに飛び出すなっての!」
「そうですよ、ちょっと待ってください」
俺は一度閉まっておいた敷物を取り出し見えない床の上に広げてみた。するとどこも凹むことなく敷物が見えない床の上に広げられた。
「大丈夫みたいですね。このままこの方法で進んで見ましょう」
振り返って声をかけると俺は同じ手順を何度か繰り返して先に進んだ。
少し進むと途端に空中から見下ろしていた浮島の景色やら空と雲の景色が消え代わりに目に映ったのは朽ち果てた城と思しき大広間だった。
「ここはあの時のヘルと戦ったあの城じゅねえか。てことは・・・・・・」
コツさんが言うのとリリが叫ぶのとはほぼ同時だった。
「あった! 扉と鍵穴、ちゃんとユウコちゃんが手に入れた最初の鍵も刺さってるよ!」
「じゃあここがマジでラストダンジョンってか・・・・・・!」
みんながその事を知って喜ぶのもつかの間、ラストに相応しいボスが現れた。
「お前の面をまた見ることになるとはな・・・・・・今度はヘル・キングってか」
そう、現れたラストボスは以前ユウコたちが戦ったアップデート前のラスボス、ヘルを更に凶悪に変えた姿だった。
ヘルの時は完全に白骨化した骨が動いてるような状態だったがこいつは違い、全身にまだ辛うじて肉というには薄すぎる言うならば皮といた方が良さそうなものが辛うじてあり顔も痩せこけて目は落ち窪みもはや廃人呼ばれるレベルよりもさらに悪化した状態の人間のような姿になっていた。手に持っているのは昨日戦ったカマキリの物を加工したようなレッドメタリックの刃を持つ大鎌。
「さぁて、それじゃ最終決戦と行きますかぁ!!」
「「おおおおおお!!」」
俺たちは全員唸り声を上げて骸骨王に突撃した。
おそらくあの鎌はカマキリ同様に防御無視の一撃死鬼畜使用なのは間違いない、だとするとカマキリ戦のように序盤だけでも盾持ちに頑張ってもらうというパターンが出来ない。ここは身軽な俺やサオリ、ジュリアなどの比較的軽装なメンバーがとにかく引き付けて盾持ちや重装備の人たちに削りに行ってもらった方がいいだろう。そんな事を考えているとコウジさんが早速大声で俺が今考えていた事をそのまま口にしてくれた。こんな時でもコミュ障な俺は指示なんて出せるわけもない。リーダーシップある人って素敵! などと下らない事を考えていると俺の方へ鎌が迫る、それを紙一重で躱しすぐさま間合いを取りそれぞれの立ち位置が確認できるところまで距離を開けた。俺の武器は拳と蹴り技の超接近タイプなので夢中になって戦っていると周りの事が目に入らず何度か『ソル』や『エンカウント』のメンバーに迷惑をかけた事があったので出来るだけ距離を取るように心がけるようになっていた。
すると、ヘル・キングの目が後方に下がって武器の耐久値を回復させていたマキシさんへ向き上半身を仰け反らせ数秒溜めると思い切り上半身を前に突き出し口から爆炎を吐き出した。マキシさんはそれをギリギリで躱したもののHPが3割近く削られてしまった。
「今のブレス威力もデカいみたいだが範囲も結構あったな」
「だけど、仰け反りモーションがあからさますぎる。大丈夫だろ」
コウジさんとコツさんは短い間に戦況を分析すぐさま離れてお互いの得意な距離で立ち回り確実にダメージを与えていく。
それから何人かの人たちが全損し粒子となって消えたが次第に皆無言になり何かに突き動かされているようにひたすらに戦い続けた。だが、数十分の戦いで分かった事だが骸骨王の攻撃優先度はどうやら体力や武器耐久値を回復させている硬直時間が発生している人を優先的に狙っている事が分かってきた、そこで命知らずな作戦をしずくさんが実行に移した。
「よし、ヘル・キング今から私は武器の耐久値を回復させるぞ私を狙え!」
ドスの聞いたハスキーボイスを轟かせしずくさんは武器の手入れ動作を開始した。観察して見つけた行動パターン通り骸骨王はしずくさんに向かって鎌を大上段に構えて命を刈り取ろうと一気に振り下ろすも後ろからコウジさん、リリとコツさんが無防備な背中にスキルを叩き込みたまらず骸骨王はうつ伏せに倒れ込む。「みんな、今の内だ体力を回復しとけ!」
俺もジュリアも半分を下回っていたHPを回復させほぼ全快までもっていく。と、そこで倒れた舞い上がった土煙の中から骸骨王の手が伸びてきてサオリを無造作に捕まえると地面に叩きつけるとそのまま足で押さえつける。満タンだったサオリのHPバーは一気に危険域の赤になってしまった。
「この野郎、サオリちゃんを放せえ!」
怒りを爆発させたリリがハンマーを振りかぶり肉薄するも横薙ぎに払われた鎌が迫りリリは咄嗟に体を捻って回避に成功するがサオリを助けることが出来ずに着地したあと歯を食いしばる。
「だめだよ、リリさん・・・・・・たぶんこいつアタシが死ぬまでこのままでいるつもりなんだ。それを助けようと近寄ってくる人を釣る餌としてね」
「そんなの・・・・・・関係ないよ。待ってて絶対助ける」
リリはもう一度骸骨王へ接近しようとするが上手く行かないのは目に見えている。
「投擲スキル持ちで遠距離攻撃を頼む少しで良いんだ注意を逸らしてくれれば俺たちが突っ込む」
コウジさんはそういうがそれが大して意味がない事は何度か分かっている空を飛ぶタイプの敵には相性的な物でダメージボーナスが付与され高威力を誇るスキルではあるのだが広まってからまだ間もないスキルということもあり中々威力の高いスキルを習得できずにいるプレイヤーがほとんどだ。一部の攻略プレイヤーの意見で違反プレイヤーを一時釈放し戦線に加える等というリスクしかないような意見まで飛び出したがさすがにそれはユウコたちによってすぐ却下された。
そして今ここにいる精鋭のプレイヤーたちの中でも投擲スキルだけを極めたプレイヤーは誰一人としておらず浮島上陸前での巨鳥戦も数で押し切った部分が強くダメージの総量で言えばやはりユウコたちの今までの接近戦での打撃、斬撃に寄るものが大きい。そういった理由から今この状況であの鎌の間合いの外から骸骨王をノックバックさせるような高威力の投擲スキルなど誰も持ち合わせてはいないのだ。
「くそ、サオリさん。待っていろ絶対、絶対助けるから!」
そう言って駆け出したのは昨日サオリと楽しそうに話していた円卓の団員の青年だった。青年は少しでも身軽になろうと盾を捨て骸骨王に斬りかかる。それを待ちかねたように鎌を構える骸骨王の顔はどこか愉悦に満ちた顔に見えた。無謀な特攻を仕掛ける青年を鎌が引き裂こうと迫る一瞬、誰もが目を逸らそうとした刹那、それは突然現れた。
巨大な衝撃音を響かせ骸骨王を仰け反らせたのはこの塔の一番下にあった戦士の石造が持っていた巨大な錆びた大剣だった。それが飛んできた先へ目をやるとそこには投擲姿勢のままで不敵な笑みを浮かべるユウコの姿とその左右には『エンカウント』のメンバーが各々の武器を構えて臨戦態勢になっていた。
「なんかわかんないけど持ってきてよかったでしょ? それ」
ユウコはそう言って左手でピースサインを出しつつ右手で背中に背負った肉厚の大剣を構えて歩き出す。
「お前って・・・・・・お前ってやつは・・・・・・このタイミング美味しすぎて腹が立つぜ」
俺はそういうとダウン状態から立ち上がる骸骨王に向き直った。視界の隅ではサオリがさっきの青年に支えられ後衛に移動していきそこへマキシさんとレックスさんが護衛する隊形にするのが見えた。ひとまず大丈夫そうだ。
「さぁて、遅れた分はきっちり働くよ! 『エンカウント』のリーダー、ユウコ!! こっからはワタシたちのステージよ!!」
俺の隣に並ぶと高らかに宣言するとユウコは一気に間合いを詰めて斬りかかる。
「ユウコ、気をつけろ! そいつの鎌は防御無視の一撃死だ。絶対に当たるなよ!!」
「了解、いいねえ! 燃えてきた!!」
ユウコは空中で体を捻り鎌を避けたタイミングで腕に摑まり一気に肩まで駆け上がりそこから今度は頭頂部までよじ登っていくとそこから鍛えた筋力アビリティで真上に飛ぶと体を一本の槍のようにしてスキルを立ち上げると流星のごとき速さで骸骨工の頭蓋に剣を突き刺した。たまらず悶えて鎌を放り投げ無防備になったそこへ総員で全力のスキルを叩きこんでいく。HPはだいぶ削っていたのでここまでくれば押し切れるはず・・・・・・誰もがそう思った時、目を疑う光景がそこにはあった。
「もう一体現れやがった・・・・・・」
誰もが絶望に陥りかけた時に
「大丈夫、さっさとこいつを倒しちゃおうHPももう一割もないし余裕余裕! こっちは任せたよコウジさん! ワタシたち『エンカウント』がとりあえず二体目を引き付けておくね! みんな行くよっ」
そう言ってユウコはメンバーを引き連れて二体目の骸骨王へと向かっていく。
ユウコが言ったようにどうにか一体目を倒し切り俺たちもユウコたちに混ざり、二体目に取り掛かるがある事に気付いて少し気持ちが楽になった。
「なぁユウコ気付いてるか? こいつ一体目よりもさ」
途中まで言いかけた所でユウコは頷いて
「うん、HPバーが一体目よりもかなり短いみたいだね。ここは油断せず確実に行くよ」
俺たちは力強く頷き合うと再び無言で意思疎通が出来ているようなあの感覚がやってきて体感時間がやけに短く感じられた。
最後の最後で骸骨王はHPバーが赤くなると一体目よりもさらに攻撃力が上がり足を使った蹴り攻撃などでもHPを半減させてくるほどの威力を発揮して俺たちを苦しめだした。鎌にだけ集中していた所を狙われたのかまた一人粒子となって消えていく。それは『ソル』にも『エンカウント』にも起きていた。
ロナードさんが間合いを取り損ねた円卓を庇い足で蹴り殺され、ミルガさんがハルの回復の時間稼ぐためにわざと回復アイテムを使用して身代りになったりと苦楽を共にしてきた仲間たちが消えていくのをただ見ている自分に嫌気が差していた俺はジュリアと体力を回復して戦線に復帰したサオリの三人で一斉攻撃に出た。流石に体制を崩す骸骨王だが仕返しとばかりに体制を崩しながらも鎌を縦に振り上げてきた。
「この体制じゃ・・・・・・っ!?」
死を覚悟した時俺の右隣に居たサオリが空中で俺を引き寄せ耳元で一瞬だが
「バイバイ、トモ」
その言葉を聞き取る頃には俺の体はサオリに引き寄せられた勢いのまま位置を入れ替え空中へ放り投げられた。そのあとはスローモーションのように周りの景色がゆっくりと流れていくように感じた。ゆっくりとさっきまで俺が居た位置にサオリがいて鎌が背後から迫っている、微笑んでいる
俺はただサオリが斬られる様を見ているのを永遠にも等しい時間をかけて見つめるしか出来なかった。感覚が元に戻り全てがゆっくりだった物が一気に動き出す。粒子となって消えたサオリの最後の笑顔が俺の目に焼き付いていた。




