第三十一話
何年も手入れもされずに朽ち果てた元は豪奢な物であったことが伺える椅子に腰かけながら男は宙に指を這わせると同時に男の目の前には一人の少女が森の中を歩いている映像が映し出された。
それを見て男は掠れた声で呟く。
「どうしてだ・・・・・・お前はこの世界でなら永遠に生きていられるのに・・・・・・どうして終わりを望むんだ・・・・・・どうして・・・・・・」
男の声は嗚咽が交じり始めやがて男以外に誰もいない大広間にすすり泣きが響いた。
森の中へと駆け出した俺は、しばらくそのままのペースで移動し続けなんとか目的の女の子を視界に捉えることに成功した。
「おーい! いくら装備が凄くたって一人じゃいくらなんでも危ないよ!」
俺はさらに距離を詰めてから女の子に声をかけた。
彼女は俺がついてくるとは思っていなかったようで心底驚いた様子で振り向いた。
「あなたは・・・・・・いえ、大丈夫ですよ。こう見えて私強いですから」
と言って彼女は力こぶを作るそぶりを見せるが実際ゲーム内での筋力などのステータスが上がっても見た目も筋肉モリモリマッチョマンになることはないので彼女のそれは年相応の細くてか弱い腕のままだ。
「強いか弱いかじゃないんだ。もし万が一麻痺攻撃をしてくる敵が来たらどうするんだ? 麻痺してる間は身動き一つとれずにただ攻撃を受け続けることになってそのままHPが無くなれば君は死ぬんだぞ!」
今日で二回目なのにこんな風に怒鳴り散らされたらさすがに嫌われるかもしれないが構わない誰かが死にに行くのを放置することなんて俺には出来ない。嫌われようが俺はこの子を止めるそう決めた。
「お叱りはごもっとです。ですが、私は行かなければならないんです」
全く揺らぐことのない真っ直ぐな目で俺を見返してくる彼女。この目はどこかで見たことがあるな・・・・・・。これは何があっても前に進んで絶対にこの世界を終わらせて帰るんだって宣言したユウコの目だ。
「全く・・・・・・どいつもこいつも・・・・・・」
俺の独り言にきょとんと首を傾げる女の子に手を振りなんでもないと伝え
「わかった、そんなにいうなら仕方ない。俺も一緒に行くよ」
「でも、あなたはさきほどの拠点で待機してなければならないのでは?」
俺の事を煩わしく思っているのとは違うがどこか心配しているような声で彼女は言う。
「サオ、仲間たちに事情を伝えとくから大丈夫だ。それに予備のテントやら何やらはまだ持ってるしな」
「そうですか・・・・・・では改めてよろしくお願いします。自己紹介がまだでしたね、私の名前はジュリアです」
そう言ってジュリアは手を差し出して来た。
「よろしく、ジュリア」
俺はジュリアの手を握り返した。
それからと二人で歩き出すのだが、ジュリアの足取りに迷いはなく初めてここに来てるはずなのにどこに何があるか、どこをモンスターが通るのか把握しているような場面がいくつかあった。その間もジュリアの目線は塔をじっと見つめ続けていた。
時折休憩を挟みながら歩き続け、早くも俺とジュリアは皆が目指している塔の入口へと辿り着いてしまった。だが、その入り口の前には15メートルはあるであろう巨体を横たえた巨大な鰐がデカい口を開けて昼寝をしていたのだった。
「まさかユウコたちよりも早くここに辿り着くことになるとはな」
「ユウコさんというのはもしや先ほど演説していた彼女の事ですか?」
俺とジュリアは塔の入口から一番近い岩陰に隠れて鰐の様子を伺っていた。
「そうそう、あいつが作ったギルド『エンカウント』と俺の知り合いがリーダーやってる『ソル』とかのガチの戦闘プレイヤー抜きでボス戦をやるのは自殺行為だ。とりあず二人にメールしてみるから待っててくれ」
ジュリアは一度頷くも正直不服な顔を浮かべていたが、その理由は俺には分からず見なかったことにして俺はメニューを開きメールを作成して二人に送信しようとした時だった。
「あっ!」
ジュリアが声を上げたのと送信を押したのはほぼ同時だった。『送信されました』の表示を視界の隅に捉えながら岩陰から顔だけ出してみていたジュリアと同じ姿勢で見てみればそこにはギルド『円卓騎士団』が入口を占拠している鰐へと攻撃を仕掛けていた所だった。
「我々が先に進み必ずやこの世界から皆を救うのだ! そのためにも今ある戦力で進まなければならない!
皆、全力で行くぞ!」
リーダーのアーサーが仰々しく口上を並べ立てると一斉に声を上げてそれぞれスキルを鰐へヒットさせていくが何分ギルドメンバーだけではダメージ量が微々たるものでかなりの苦戦を強いられている。
「彼らだけではあのモンスターを倒すことは無理です。私たちも行きましょう」
「あ、ああ。・・・・・・そうだね」
俺は頼りない返事を返す。少人数でしかもほぼほぼ初対面のメンバーたちだけの戦闘に混ざり戦うなど今まで全くしたことがないので、正直不安で仕方がなかった。
「私と貴方が組んで戦うのがこれが最初だというので慣れないとは思います、一度でもHPが0になれば死ぬ。それは承知の上であの人たちも私も戦ってきたはずです。それはもちろん貴方も、どういう動きをするのか分からない相手と組むというのはそういうリスクもありますが、我々がいるこの世界はゲームであることに変わりはありません。こういうタイプのゲームで他人と戦闘をするというのも面白さの一つなのだと私は思っているのですが違いますか? 正直に言えば私は貴方と、あの人たちと一緒に戦ってどんな立ち回りをすればいいか考えてるこの瞬間が楽しくて仕方がありません。貴方はどうですか?」
ジュリアはさっき名乗りあった時のように視線を落として項垂れる俺の視界に入るように手を差し出してきた。
「楽しい・・・・・・か。確かにこの世界の理不尽な部分に恐怖してばかりいた俺を引っ張ってくれたユウコもそんな風に言ってたっけな。ありがとうジュリア、俺もできる限りのことをして足を引っ張らないようにするよ。メールも送ってあるし戦ってる最中にあいつらも来るかもしれないしな」
俺はジュリアの言葉に背中を押され戦う決意を胸にジュリアの手を取り立ち上がると二人で『円卓』の連中の戦ってる前線へとジュリアは片手剣を構え俺は拳を握りしめ飛び出した。
『円卓』の人数は総勢50人くらいはいるのだが今この浮島攻略作戦に参加しているのはその中でもトップクラスのプレイヤーで構成されたチームだということはユウコたちとの会議で説明は受けていたが実際に間近で見ると確かに動きに無駄が無く連携もとれていて見ていて美しいとさえ思ってしまうほどだった。
しかし、そのトップクラスのメンバーからの攻撃を受けてもさすがに人数不足は否めず鰐のHPバーの減少は遅々として進まない。ここに俺たちが加わったところで大した変化はないだろうが先に進むためにもここは少しでもダメージ量を増やして時間を短縮したいところだ。
「おい! そこの上様! こいつを調教する事は出来ないのか!?」
『円卓』の一人が俺にそう言ってきたが
「悪いけど、ボスクラスは無理だ。 それが出来るとしたらチーターだけだろうさ!」
俺は返しながら前足に向かって体術スキルを叩き込んでいく。少し離れたところでジュリアは片手剣を華麗に振るい身を捩って尻尾を振り回す鰐の動きを余裕で躱しながら涼しい顔で立ち回っている。
「あれから、一体どんだけ戦えばあんな戦い方が出来るようになるんだ?」
鰐の動きは単調ではあるが防御力が高い上に体力も多いという長期戦パターンのボスの様で戦いが始まってからおよそ40分が経過した頃、やけにテンションが高い声が聞こえてきた。
「やっとボスモンスターと戦えるぜぇ!! さっきはユウコさんにあのでかい鳥を譲ったがこっちの鰐は俺が仕留める!!」
ここに来るまでに何度か戦闘してきたようでテンションが上がって声がいつもよりデカい『ソル』のメンバーが全員歯を見せながらギラギラした目でこちらに向かっているのが見えた。正直言ってあんな連中を相手にするのだけは絶対にお断りしたい。
「あ、ジュリア。あれが俺の知り合いがやってる『ソル』だよ」
「なんというかアグレッシブな雰囲気の人たちですね」
ジュリアも若干引いてるし・・・・・・。
だが、別の反応が『円卓』側から上がった。
「おいおい、ここで『ソル』かよぉ」
「またコウジくんか、一体何度我々の邪魔をすれば気が済むんだい?」
などと嫌そうな顔をしながら嫌悪感を隠そうともしない様に俺は少し不快になった。もともとの人柄的な部分から『ソル』と『円卓騎士団』は相性が悪く何度もボス戦でのいざこざが起きたか数えきれないほどだ。
特にこの間のイベントクエストなんかはもう正直同じ場に居たくなくて帰りたかったくらいだ。そして今回の攻略作戦、嫌いな人間よりも上の装備で相手を見下す優越感に浸りたいという思考を持つ連中が多い『円卓』の連中にとっては性能の良いアイテムやらここにしかいないであろうレアモンスター、ボスモンスターのドロップアイテム狙いで少しでもコウジさんたちより良い装備を作り見下したくてしょうがないんだろう。そんな時にその見下したい相手から乱入されたらまぁあんな反応をするのも無理もない。
「おやおやぁ? 円卓の皆さんじゃないですかぁ俺らも混ざらせてもらうけど構わないですよね?」
明らかな挑発的な態度で話しかけるのはコツさん。最初からもう思いっきりガン飛ばしまくりでもはやチンピラにしか見えない・・・・・・。
「なんだ、ソルのハンマー使いか。せいぜい邪魔だけはしないでくれよ。間違って俺たちをホームランとかな、はっはっは!!」
煽りあい宇宙・・・・・・。
「ま、まあまあとにかくこいつをちゃっちゃと倒して先に進みましょうよ皆さん!」
俺は場を一旦落ち着かせるように戦いながらも話し掛ける。
「まぁそれもそうだな、よしそれじゃちゃちゃっと倒して先に進んで安全地帯探そうぜ!」
ふぅどうやらなんとか喧嘩が始まりそうな流れを変えることに成功したぜ・・・・・・。俺の深いため息を見ていたジュリアは俺と目を合わせると「大変ですね・・・・・・」と言いたそうな苦笑いを浮かべてから向き直り鰐へと突撃していった。
「まぁね、大変だけど俺たち同士で喧嘩してる場合じゃないからな」
俺は気を取り直してメンバーが増えた事で攻撃を避けながら確実に攻撃を与えていく事に集中した。
さらに数十分後、どうにかこうにか体力と防御力が高い鰐のHPを削り切りドロップをアイテムを手に入れて俺たちはついに塔の中へと足を踏み入れた。
ノリと勢いの第三十一話。意見感想待ってます。




