第二十九話
ユウコたちが来るまで温泉に入る事になったので全員で宿に入ると早速レックスさんがこれはやらねばならないことなんだ等と鼻息を荒くして覗きを敢行したものの、びっくりするくらいのデカい柵で区切られており柵越しにサオリと会話しつつゆっくり肩まで浸かり疲れを癒し、宿から出て街を散策。
それからしばらくするとユウコから到着の知らせが来たので入口から一番近い俺たちが温泉に浸かった宿がある広場まで戻りユウコたちと合流し、状況を確認。
日が落ちてきたのでそのまま宿を借り一泊することになり今度はコツさんとコウジさんが鼻息を以下略。とまぁそんなこんなで日付は変わり大所帯になった俺たちは問題の西エリアを移動中なわけなのだが・・・・・・。
「ねえねえトモ、聞いてよ。北側のエリア良い具合にマッピング出来てきてさもっと先に何かあるかもって進んでったらさNPCの門番がいてね? 『許可が無い者はここから先へは通すなと言われております、申し訳ないがお通し出来ません』 って言われて誰の許可がいるんだって聞いても答えないしさぁ・・・・・・仕方ないからマーシーまで戻って聞き込みしてみたんだけど全然進展無しなんだよね」
ユウコからは最近の攻略に関するグチ? のような物を延々と聞かされるハメになってしまっていた。
「そう、へえ・・・・・・・」
返事をする気力も無くなりかけた時、カゲの背中でのんびり昼寝をしていたウルが急に起き上がり唸りだしたのだった。
「サオリ、ウルのやつどうしたんだ?」
サオリはウルに駆け寄ると首筋を撫でながら答えた。
「この感じ、モンスターの気配を感じてる時と同じ・・・・・・まさか!?」
その話を言い終える時にはコウジさんが一際デカい声を上げて
「全員警戒! 例の遠距離攻撃が来るかもしれない! 油断するな!」
その一声とともにカゲを停止、ノースガーデン組の俺たちはカゲの背中から首の方へ移動して周囲を見渡す。ユウコはカゲの頭頂部で辺りを見渡している。『円卓騎士団』はカゲを中心に尾の方に扇型に展開、頭側をコウジさんたち『ソル』が同じ隊形で陣取る。
待つこと数秒。それは唐突に始まった。トスッという何かが刺さるような音と共に『円卓』の一人がうめき声を上げ蹲った。
「ちぃ・・・・・・やられた」
声の主を見やれば首に一本の矢が刺さっていた。視界で表示されている彼のHPはクリティカル判定で一気に満タンから半分まで減少していた。
「盾持ちは持ってないやつを出来るだけ庇うようにしろ! 辺りに変化が無いか良く見るんだ!」
コウジさんは身の丈を越えようかという巨大な剣を前方に翳して即席の盾にしながら声を張り上げる。
「でも、このまま身動き取らないで居たら奴らの人数まで分かってないけど場合によっちゃ囲まれて嬲り殺しにされるだけだよ! サオリっ! 私にウルを貸して」
ユウコは頭頂部で剣を構えたまま振り返らずに口を開く。
「うん。 良いけど一人で突っ込む気!?」
サオリがユウコを心配そうに見ると
「大丈夫、一人で行くわけないでしょ? みんな聞いて! 奴らの戦力がどんなものか大体で良いから把握したいの! 出来るだけ軽装な人、私に付き合ってくれない!?」
ユウコの呼びかけにすぐさま手を上げたのは『ソル』のコウジさんとロナードさんを除く全員だった。
それを見たコウジさんがため息をつくと
「バカかお前ら、そんなに行ったらこっちが手薄になんだろが! ちっとは頭使ってくれよ・・・・・・」
緊迫した空気を少し和ませるとコウジさんの指名でしずくさんとイヴェールさんの二人が選出された。
そのあとで『円卓』の数人が手を上げた。
「よし、それじゃ行くよ!! おいでウルっ!」
ユウコはそういうとカゲから飛び降りて着地する直前にウルから背中で受け止めてもらいそのまま矢が飛んできたおおよその方向へ飛び出していきその勢いに乗るように他のみんなが続く形になった。
数秒後、金属音が響いたり時折待機している盾持ちに矢が当たり音を響かせ始めた。
「ユウコ無茶しなければいいけど・・・・・・」
それから数分経つとユウコ以外の皆が無傷で帰還した。
「奴ら、結構な数がいた、特に奴らのボスは中々戦況を見極めるのが上手いらしい私たちが来たらすぐに仲間に知らせて撤退していった。どこかにアジトがあるはずだからとユウコがウルに乗ったまま尾行するといってあのまま行ってしまったよ。一緒に行くと言ったんだがな・・・・・・」
しずくさんが心配そうな顔で状況を説明してくれた。
「とりあえず、ユウコさんを放っては置けない。このまま討伐戦を続行しよう。反論は無いな?」
「今すぐ向かうのではなく、もう少し時間を空けてからの方がいいのではないか? こちらも少なからず負傷者はいるわけだし」
発言したのは『円卓騎士団』の団長アーサーだった。
「確かにそれもある、だが逆に今の戦闘が終わってすぐさま奇襲をかければ奴らも対応が遅れて変に小細工を仕掛けられる心配も無くなる、ここは攻めるべきだ」
コウジさんの話が終わるとアーサーは静かに息を吐くと観念したように苦笑すると
「わかったよ、今回は譲ろう。だが今度こういう大きな戦いがあった時は僕の意見を尊重してもらうからね?」
「ああ。すまないな」
そう言ってコウジさんは皆に向き直ると一度息を吸い込み
「総員突撃準備。ユウコさんからの報告が届き次第一気に攻め落とす!」
《おおおおおおおお!!》
全員が雄叫びを上げた。
それから数十分後、コウジさんの元へユウコのメールが届き俺たちは違反プレイヤーが立ち上げたギルド『カラミティ』の一団のアジトへと進撃を開始した。
途中モンスターに出くわすも有力ギルドの精鋭たちが集まった現状のヘル・オンライン内最強チームが雑魚に後れを取るわけもなく千切っては投げ千切っては投げを繰り返しさらに進むと森がありさすがにそこを図体のデカいカゲで歩けば気づかれるのでカゲを一旦待機させ、二~三人で一組を作って森を駆け抜け道中俺たちは襲い掛かってきた違反プレイヤーを徹底的に痛めつけHPを死ぬ寸前まで追い込んでから選択をさせる事を移動中決定した。
一 ここで死ぬ
二 始まりの街の地下牢へ投獄
この二つを迫り、幸い俺とサオリ、レックスさんのチームは地下牢行きを選択するやつだけにしか出くわすことは無かったが森を抜けユウコの報告にあった古い村の家屋を利用しているアジトが見える所で他のチームと合流すると選択に従わず襲い掛かってきた奴を殺したとか選択云々の前に殺されるのが怖くて加減する事も忘れて殺したとかそんな話がちらほら聞こえてきた。
「みんな、その話はこの状況が終わってから考えよう。今は目の前のこの問題を解決してこれ以上犠牲者が出ないようにするためにここでやつらを叩く事に集中するんだ。 いいね?」
コウジさんは静かに、だが良く通る声で注意する。
「まずはこのまま俺たちが突っ込む。ほかの皆は周囲の崩れた外壁などを通って外側から攻めてくれ、取り囲まれないようにするためにな。 それじゃ、健闘を!」
『ソル』のメンバーが一気に駆け出し正門だったと思われる崩れかけたレンガ造りのアーチだったものを通り見張りの一人を奇襲。その様子を見終わるや否や俺たちも外側から入れるような場所を探して移動を開始する。
速攻で仕掛けるために合図などもアイコンタクトなどで済ませ次々と『カラミティ』の連中を投降させたりあるいは罪悪感に苛まれながら抵抗するプレイヤーを殺したりして俺たちはユウコのアイコンが表示されているポイントを目指してひたすら静かに突き進んでいくと・・・・・・。
「居た! ユウコ」
俺が出来るだけ声を抑えて岩陰に隠れているユウコに声をかけるとウルはサオリに駆け寄りユウコは振り返りながら
「あ、トモ。 今アイツら例の弓の補充作業とは別の何かを作ってるみたいなんだけどここからじゃ見えないし一人で闇雲に突っ込んで行ってもあれが何か分からない以上油断は出来ないしで誰かが合流するのを待ってたんだ! というわけでいちにのさんで行くよ? せーの、いーち!にーの!・・・・・・・」
止まることを忘れたようにユウコはまくし立てるとすぐさま突撃出来るように背負ってる両手剣の柄に手をやる。
「おいおいおい、まだ心の準備がっ!?」
「さんっ!!」
聞く耳持たずと言う勢いで岩陰から飛び出すユウコ、一瞬遅れて俺たちも後に続く。
作業に集中していた違反プレイヤーの一人が気づくと声を上げ別の場所で見張りをしていた奴らも集めさせあっという間に2~30人が集まった。
その人数に怯む事無くユウコは得意の両手剣スキル『アクセル』をぶちかまし悪即斬と言わんばかりに選択を迫ることも無く切り伏せていく。
「ユウコ、躊躇無しであんな簡単に人を・・・・・・」
「簡単じゃない、よく見てみろサオリあいつの顔を」
「え?」
俺に言われてユウコの顔を見るサオリ。
「・・・・・・凄く辛そう」
「いつも戦闘になると楽しくて仕方がなくて笑ってるあいつだけど人を殺すのに抵抗が無いなんて事あるはずないよ」
俺とサオリ、レックスさんは背中合わせでお互いをカバーしつつウルはサオリの負担を減らすようにサオリを狙う奴を重点的に攻撃、大人数を捌きながらユウコが居る位置に少しずつ移動していく。その間に他の皆がそれぞれのギルドと合流して俺たちを囲む連中をさらにその外側から囲い込み総力戦の流れになりつつあった。
「おい! てめえら、こいつら攻略ギルドの連中ばっかじゃねえか! 気合い入れてかからねえと俺たちが殺されっぞ! 女は生かせ!男は殺せ!」
どこの世紀末だよと思わず緊迫した空気をぶち壊すかのような『カラミティ』のリーダーと思しき人物が声を張り上げ喝を入れる。
「おとなしく投獄されれば命までは取らない、と言いたいところだがうちの連中も他の討伐隊の中にも血の気の多い奴もいてね。問答無用で殺してしまうかもしれない。それでもいいのなら思う存分抵抗すると良いさ。どうする?」
コウジさんは厳しい顔をリーダー格の男に迫るが
「だれが、投獄されるか! 野郎どもやっちまえ!」
その言葉を合図に一斉に違反プレイヤーたちは襲い掛かってきた。
「ちっ・・・・・・いい度胸じゃない」
俺の前で剣を構えたユウコは底冷えのする声で小さく言うと足を踏み込み前方へと飛び出しリーダーの男へ真っ直ぐに向かった。
そのあとの数十分は無我夢中で戦い続け。あちこちから悲鳴が聞こえそれが味方なのか敵なのか判別する余裕もなく『カラミティ』討伐戦はいつの間にか終わっていた。
こちらの死者は6人、『カラミティ』側はほぼ全員が死亡。最後に死んだリーダーが残した言葉が俺たちの心の中で強くクリアへの意思を改めて固めた。
『俺たちはここで終わりだが、他のやつらがこの世界を永遠に閉ざした世界にし続けてくれる、お前らがあの世界に帰る時なんて一生来ないぜ? 残念だったなぁ! ひゃははははは!! お前らがどんだけあがこうとなぁ!ひひ、あの世で高見の見物させてもらうぜぇ・・・・・・」
そういってリーダーは手に持ったナイフで赤ゲージまで減少した自分のHPにとどめを刺し粒子となって消えた。
投獄を勧めたコウジさんの目の前で。
「他のやつらか。面白い、どれだけいるのか知らんが現れる度に叩き潰して回ればそのうちそんな事をする気も起きなくなるだろう。なぁお前ら」
コウジさんが振り返り『ソル』のメンバーがそれぞれ雄たけびを上げた。
まさに戦闘集団。血気盛んである。
「まぁ、でもこれだけ大人数の違反プレイヤーたちを纏められる人物なんてそうそう現れるとは思えないけどねえ」
満月を見上げながらユウコが言うと
「まぁ、こんな事あんましたくないしな。命懸けでやるなら攻略してる時のエリアボス戦とかじゃないとな」
そういってコウジさんもユウコの意見に賛同してしばしそれぞれギルド毎に集まって装備チェックやら済ませたあと残党が隠れてないか警戒しつつ近くの街に寄って全エリアに配布される掲示板に『カラミティ』討伐の旨を告げる紙を張り付けた頃には日が昇り始めており現地解散とはいってあったのだがみんな移動する気力もなく一旦街のあちこちにある宿屋で各々疲れを取り、今度こそ解散になった。
「じゃあトモ、サオリ。またね!」
そういってユウコたち『エンカウント』は転移門で再び北側エリアへ向かった、そのすぐ後にコウジさんのギルド『ソル』も北エリアへと帰っていった。途中リリが「ちょっとだけ! ね? 一日だけでもトモっちたちとどっかクエスト行こうよ!」などと駄々をこねたのだがコウジさんがゲンコツ一発を脳天に叩き込んで黙らせると頭を抱えて蹲るリリを米俵みたいにして抱え上げてコウジさんが申し訳なさそうに頭を下げていったのがなんとも楽しいギルドの一面を見られて和みつつ俺たちは一旦スタトの町に戻る流れになると思っていたのだが転移門のある広場でサオリが
「どうせだし、このまま西エリア営業しようよ! トモも調教スキルをもっと上げたいだろうしこっち側のモンスターだって違反プレイヤー討伐に集中してたから見るだけだったでしょ?」
「違反プレイヤーの巣窟みたいになってたところを潰したとはいえ、少し不安もあるがいいんじゃないか?」
とマキシさん。
「俺も特には進路についてはお任せだから。行きたい所にいってくれて構わないぜ」
ウルはサオリの胸に嬉しそうに顔を擦り付けてる。 こいつなんてうらやま・・・・・・ゲフンゲフン。
「どうかな?」
最後に俺に向き直り首を傾げながらサオリが聞いてくる。
「うん、確かにスキルを上げたいとは思ってたし俺も賛成だ」
俺の返事を聞いたサオリは頷くと皆が視界に入る位置にてくてく移動すると振り返り
「じゃあ、ノースガーデン二号店、西エリア営業頑張るぞー!」
拳を突き上げるサオリの笑顔は頭上に広がる青空のように晴れやかだった。
ノリと勢いの第二十九話。意見感想待ってます。




