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ヘル・オンライン  作者: 遠
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第二話

 このゲーム内の戦闘、及びその他もろもろのスキルに魔法と呼ばれる物は存在しない。あくまで物理系統の攻撃スキルしか存在しない。もちろん武器も剣とか槍とかなどで杖とか銃とかそういった物は存在しないのだ。一応街から出ないにしても暇なので店を見つけてはひやかしに入って見るだけ見るという事をユウコとスタトの街、リモコの街を廻ってみて改めて実感した。

 もちろん、これからユウコたちが辿りつく新しい街やボスモンスターのレアドロップ限定で飛び道具が登場するかもしれないし、スキルだって何かしら今後誰かが習得するかもしれないけど今の所はそういった情報は流れて来てはいない。と言ってもまだ二日目である。どうなることやら。

 そんな事をリモコの街の大通り沿いにあったNPC経営のレストランに入って適当にカレーを頼んでから窓から見える大通りを眺めながら考えていた。

「やっぱり最初はみんな似たような装備で見分けがつかねえな」

行き交うプレイヤーたちは皆序盤という事で初期装備の、男性はシャツにズボン、女性はシャツにスカートという大まかな装備の上に安価なプロテクターやらショートソードなどに身を固めて差異はあれどみな服装としては代わり映えがしない状態だった。

「ま、かくいう俺も同じだけどな」

窓から視線を動かし自分の装備を見ると、大通りを歩いてるプレイヤーと同じ格好が目に入る。何か変えようかとも思うが具体的なコーディネートとかを考えるのが面倒なので思うだけに留める。

「おまたせしました、カレーライスでございます」

営業スマイルを浮かべたNPCの女店員が俺の前にカレーを置いて一礼し去って行った。

このヘル・オンラインの楽しみは馬に乗るか美味いものを探すの二つだと俺は信じている。アップデート前で見つけた名店という評価を下した店たちがどこかにまだあると思いたいがスタトの街以外は全て新規マップになっており希望は薄い。だがしかしこれからまた美味い店を探す楽しみが増えたと思えばそれほど残念なアップデートではない。脱出不可能なのが嫌なプレイヤーがほとんどなんだろうけどそれに関して俺はそれほど落胆も絶望もしていない、だからこうして能天気に戦闘で役に立たないスキルを覚えたり美味い店を探すなどというクリアを目指すプレイヤーから蔑みの目で見られる目的の元、行動するわけだ。

「さぁて、いただきますっと」

スプーンを手に取りさっそく口に頬張る・・・・・・、うん。ただのカレーだ。味にこれといった特徴もなくレトルトを暖めて出されたような語る事もない。肉は細切れで味気ないし他の具材も似たような物で小さくカットされており歯ごたえもなくただ腹に入れるだけといった物だ。

「はぁ、ここははずれか。前だったら序盤でもいい店あったんだけどなぁ・・・・・・」

最初の一軒目から美味しい店に出会える確率が低いというのは分かってるけど期待してしまうのが人間という者ではないだろうか。とりあえず腹ごしらえしたらさっきの馬車の店に行ってライバックを借りて街中を探検だな。

 そんな風に午後の予定を立てていると、丁度通路を挟んだ向かい側の席に男3女1ののパーティーがやって来て席に着いた。

「ねえ、これからどうする?アップデートで前のマップと違うからどこに何があるか分かんないしアタシ戦闘全然やって来なかったから恐いんだよね・・・・・・」

不安げにメンバーを見渡しながら紅一点の女性プレイヤーは話した。

「確かに、心配事は多いけど何もしないでただ待ってるのはもう飽きたっつったろ?トップに立ってたギルドだって初期状態になっちまってんだろうしそいつらにまた任せっきりてのはどうかと思うんだよ俺は」

女性プレイヤーの隣に座る短髪の男性プレイヤーが女性プレイヤーに訴えるように語る。

「だよなぁ、今ギルドとして活動再開したのは北に向かってる『ソル』くらいだしよぉ。この際俺らでギルド立ち上げて西と東と南の内どこか拠点にしてクリア目指すってのもありなんじゃね?」

今度は女性の前に座っている小柄な男性プレイヤーが話した。

「いやいや、情報が入ってないだけで実は以前のトップギルドが再集結して攻略する地域を決めてそれぞれ活動しているかもしれないだろ?」

そして最後に男性プレイヤーの向かいに座る太めの男性プレイヤーが話しに混ざる。

 トップギルドというのはアップデート前に前線で活躍していたギルドの事を言う。たとえばユウコが立ち上げたギルド『エンカウント』などはユウコの見た目の美しさと戦闘でのあまりの暴れっぷりが話題になり入団希望者が続出していたし、さきほど話題に出ていた『ソル』というギルドも戦闘に関してはユウコにも負けず劣らずの激しさで特に団長のコウジというプレイヤーはユウコと同じ両手剣使いという事もあり何かと比較されついにはどっちが強いかという議論が展開されるまでになった。他にも二つほど有名なギルドがあり、一つは『円卓騎士団』もう一つは『住所不定無職』だ。前者は徹底的なギルド内での階級制度や使用スキルを両手剣だけしか認めないなどゲームシステム以外の縛りなどが話題になったギルドだ。そして後者のギルドは名前とは裏腹にプレイヤーたち主にクリアを目指すプレイヤーたちには欠かせないギルドだった、彼らは誰よりも早くマップを探検しマップデータを地図にして提供したり敵モンスターの行動パターンなども自分達自身が戦いに赴き研究を重ねメモを作って無料配布するなどとてもありがたい存在として慕われていたギルドだった。

 だがアップデート後、ユウコが確認した所フレンドリストやギルドリストも消去されておりかつてのメンバーを揃えるのは困難なのが分かっている。特に今彼らが話していた『ソル』が活動再開したというのは彼らの人数の少なさが理由だろう。『ソル』のメンバーは全員でたったの6人。それだけの人数しかいないのでメンバーが集まるのも早かったのではないだろうか?彼らの会話を聞き流しながら食事を再開すると

「あれ、あれあれそこのあんたもしかして上様じゃありませんか?」

嘲りの表情を浮かべながら短髪のプレイヤーがこちらを見ていた。

「え、あ本当だ上様だ!」

他のメンバーも俺に気づき騒ぎ出した。

ガヤガヤと店内がざわめき立ち出したので席を立って通路に出て会計は注文する際に済ませるのでそのまま帰ろうとしたところで先ほどの短髪のプレイヤーが俺の前に立ちはだかった。

「おいおい、待てよ上様。これから俺たちクリア目指して頑張ろうとって時にあんたはまた街中を馬に上様ごっこか?はっ良いご身分だな!さっすが将軍様は我々庶民とは違いますなぁ」

いつものことなので無言で立ち去ろうとしても他のプレイヤーたちも席を立って通路に出てしまっていて出口まで辿り付ける状態では無くなっていた。

「逃げんのかよ、上様。ほらほらお供のお庭番とか呼んで成敗してみろよ」

ギャラリーが増えて調子付いたのか煽ってくるが散々似たような罵詈雑言を受けてきた俺には全く意味を成さない言葉が降ってくる中俺はどうやって店から出ようか考えていた。

 そんな時、バシッという肌を叩いた音が店内に響いた。先ほどから黙っていた女性プレイヤーが短髪のプレイヤーの頬を平手打ちした音だった。

「・・・・・・ってえな、何すんだよ!」

額に青筋を浮かべ女性プレイヤーに向き直る短髪のプレイヤー。

「あんた、このゲームの中でクリアを目指してる人たちが偉くてそうじゃない人たちはどんなに馬鹿にしてもいいって思ってるの?そんなのおかしいよ!この世界で死んだら現実でも死んでしまう、その事を承知の上でクリアを目指して頑張ってる人たちは確かに凄い。けどそういう風に覚悟出来ない人たちはこの世界でこの安全圏の街の中で生きていくしかない。この人はこの世界で死ぬのが恐いから街中にいる、でもただ『居る』んじゃないこの世界でちゃんと『生きている』んだよ。アタシはこの人が楽しそうに馬に乗って街中を走ってるのを宿屋のベランダからいつも眺めてた。あの時の楽しそうな顔を見てたらアタシは元気になれた。他にもこの人の笑顔を見てそう思った人たちは居るはずだよ。だからアタシはこの人を馬鹿にする奴は嫌いだし一緒に居たくない!」

 涙を瞳に湛えながら女性プレイヤーは棒立ちになった短髪プレイヤーの脇を通って出て行こうとすると野次馬プレイヤーは左右に一斉に分かれて道を作り女性プレイヤーは外へ駆け出していった。

「な、なんだよ・・・・・・俺は、俺は悪くねえ!」

短髪プレイヤーは非難の視線や囁きにうろたえ出した。その隙に俺も外へと駆け出し女性プレイヤーを探した。せめて礼と謝罪くらいは言いたかった。今更どんな罵りを受けようと痛くもかゆくもない俺だが、そんな俺のためにあんな必死に怒ってくれたのが素直に嬉しかった。

「さて、どこにいったのやら」

人通りの多いメインストリートと言う事もあって中々見つけられないなぁ・・・・・・。その場でジャンプしてみるが大した高さにはならずとりあえず近くにいたプレイヤーに聞いて見る事にする。

「ああ、その人ならこの先にある階段を上っていったからたぶん広場にいったんじゃないかな?」

「ありがとう!」

礼を言って言われた通りの階段を駆け上がっていく・・・・・・居た、広場中央のベンチに座って俯いているさっきの女性プレイヤーだ。

「あ、あのさっきは俺のためになんか怒ってくれて嬉しかったです、でも仲間割れみたいな事になっちゃってすみませんでした」

彼女の前まで行き頭を下げて俺は言った。

「えっ!?あ、さっきの・・・・・・いやだなアタシ恥ずかしいったらないわね。ほんと一回頭に値が上ると気が済むまであんな風にベラベラ喋ってはこうやって一人になってしょぼくれるのよ」

女性プレイヤーは恥ずかしそうに手で顔を仰ぎながらなんでもないように装いながら話した。

「でも、まぁこれですっきりしたわ。あいつらとはもう組まない、良い奴らだと思ってたけど今回のアップデートでトッププレイヤーとの差が縮まったとか言って調子付いてたせいもあってか非戦闘プレイヤーに対しての態度が気に食わなくなってたのは事実だし、それに」

そこで彼女は俺の目をじっと見て表情を和らげると

「こうして、あんたと話す機会を欲しがってたしね」

「え、俺と?」

俺は自分を指差しながら応える。

「そう。ねえ、馬に乗るのってどんな感じなの?」

首を傾げて興味津々といった感じで聞いてくるので俺もちょっと得意げになって

「そりゃもう、人馬一体っていうかすっげえ気持ち良いよ?風になるっていうか自分のいつも見てる視点からじゃない高さで車並みの速さで街中を駆け回るんだぜ?こんなに楽しい事はないよ!」

「いいなぁ、アタシも騎乗スキル上げようかなぁ。あ、でもその前にあんたにお願いがあるんだけど」

申し訳なさそうにこちらを見上げてくるので

「え、なに?俺にできることなら協力するけど」

「ほんとっ!?嬉しい。本当はあいつらと一緒に移動するするつもりだったけどこうなっちゃったから一緒に行ってくれる人を探そうと思ってたんだ、この街にはもう居たくないからさ」

移動・・・・・・か、なら丁度良い。

「移動ってとりあえず次の適当な街までだろ?」

「え、そうだけど?」

良い機会だ、ここで体験してもらって仲間を増やしてとくのも悪くない。

「馬車じゃなくて俺が手懐けた馬がいるからそいつで行かないか?馬の上がどんなのか体験したいんだろ?」

「いいね!それ、そうしようよ!」

 嬉しそうに顔を綻ばせたのでこっちまで嬉しくなってくる。

「んじゃ今から三十分後に街外れの馬車の店に集合って事で」

「分かったわ、アタシの名前はサオリ。よろしく!」

そう言ってサオリが手を差し出してきたので

「こちらこそ、トモだ。よろしく」

俺も名乗りながら差し出された手を握り返した。



第二話です。戦闘皆無、ただの日常グダグダ回。そしてお気に入り登録が増えている!びっくりです嬉しいです。意見感想待ってます。

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