第二十七話
サオリのメールを受け取り、少しの間足踏みしたもののなんとか恐怖を飲み込み再びフィールドに出た俺は半年近くさらに鍛え上げた調教スキルと騎乗スキルの効果でより速くライバックを乗りこなせるようになっていた。
マップに表示されるサオリの位置情報を頼りに一直線に突き進むと見えてきたのは鋭利に尖った巨大な岩の塊が蠢いている光景だった。
表示されているサオリのアイコンは丁度岩が蠢いているすぐ近く。
「あれ、モンスターなのか!?」
手が震え出すけどもう立ち止まらない、そう自分に言い聞かせてここまで来たんだ今更後戻りはしない。全力でサオリを助ける!
暴れ回る岩のせいで砂煙が巻き起こり砕けた地面が前進を拒むもなんとかライバックを誘導しながらさらに近づいて声を張り上げる。
「サオリー! どこだー!?」
と、返事はすぐ返ってきた。
「と、トモ!? 本当にトモなの・・・・・・信じられない・・・・・・」
声がした方を見ると岩が暴れて見えてなかった向こう側にある崖に突き出した足場のような所でウルとサオリがこちらを覗き込んでいるのが見えた。
「話はあとだ! そこから移動出来ないのか!?」
俺は岩が撒き散らす騒音に負けじと声の音量をさらに上げて言ってみるが
「完全にお手上げ! 一回注意を反らしてこいつが離れてる隙に降りるしかなくて困ってたの!」
状況が掴めたので頷くと。深呼吸。
「やるぞ、ライバック。全速力だ」
俺はライバックに合図すると岩へ突撃させる。俺は適当な石を拾って岩に投げつけるとサオリに向かって暴れていた岩が俺に向き直り襲い掛かってきた。その時デカい岩の正体が分かった。
岩だと思って見ていたのは背中から伸びているもので実際はもっと下の所に目がありに足も背中ほどではないが岩を細く鋭く削り出したようなフォルムをしていて風で土煙が一度晴れて全体を見ればその姿はデカい蜘蛛だった。
蜘蛛というにはデカいし俺がここに来るまでサオリたちに糸を使って攻撃していた痕跡もなく遠距離攻撃はして来ないタイプかと思い間合いをある程度取ってから速度を落とした途端、岩蜘蛛は一度身を縮めると冗談のように天高く飛び上がり一瞬反応が遅れた俺の頭上へ落下してくる。俺はライバックにほぼしがみつくようにして猛ダッシュ。間一髪で避けるも落下の衝撃波でライバックと一緒に吹き飛ばされる。
「くぅっ・・・・・・」
あまりの衝撃にライバックから落ちてしまうも、寝転がっている暇あるわけもなくすぐさま立ち上がり岩蜘蛛の動向を伺いつつライバックに駆け寄り再び騎乗。再度転進、だが岩蜘蛛はすぐに追って来ず着地した体制のまま数秒硬直してから再び動きだしこちらを追尾し始めたのを確認しつつ速度を加減しサオリたちへ目をやると、ウルに騎乗しサオリが無事に足場から降りてこちらへ向かって来ているのが見えた。
このまま振り切る事も出来るが、やっと恐怖心を克服してフィールドに出た初戦が撤退戦てのはなんとも言えない敗北感があるような気がしてきた。俺は振り返りこちらへ追いつきつつあるサオリへ大声で意図を伝える。
「サオリー! 俺、こいつを倒すか調教したくなった!」
それを聞いたサオリは一瞬驚いた顔をしたがすぐに真顔になり
「大丈夫なの!? 無茶しない方がいいんじゃないの!?」
サオリも負けじと叫びながら答えるが
「せっかくまた外に出て来られたのにただ逃げ帰るなんて負けた気がするんだよ! だから俺・・・・・・逃げたくないんだっ!」
振動や岩蜘蛛の追ってくる歩行音など様々な音にかき消されそうになりがらも大事なところだけは伝えようと必死にサオリに訴えた。
「・・・・・・分かった。アタシもやれるだけのことは手伝うよ! やろう、トモっ!」
速度を上げたウルがライバックに並ぶとサオリは俺を真っ直ぐ見つめながら応えてくれた。
「ありがとう! サオリは最高だなっ!」
精一杯の感謝を込めて笑顔でそういうと
「なっ・・・・・・何言ってんの!? ほら、さっさとどうするか決めて!」
心なしか顔が赤く染め照れるサオリを見ながら内容を話す、それを聞いたサオリは少し不安そうな顔をするが顔を左右に振り頷き同意を示す。俺も頷き返すと。カウントを開始する。
「さんっ・・・・・・にぃ・・・・・・いち・・・・・・今っ!!」
並走していた俺たちは同時に速度を緩めて岩蜘蛛のジャンプ攻撃が来る間合いまで距離をわざと詰めさせるすると、狙い通りジャンプ攻撃の態勢に入ってこちらへ飛び込んでくる、この時に前もって間合いを開けておき衝撃波に巻き込まれないようにして着地直後の硬直時間を利用し接近し攻撃を叩き込むという至ってシンプルな方法で体力を削っていくという方法が俺のプランだった。
「ひとまず、このパターンでダメージを与えて行こう。HPバーが二本あるところを見るともしかしたら途中から動きが変わるかも知れないから注意して!」
すぐそばで足に片手剣スキルを発動させHPを削っていくサオリに声をかけつつ俺も体術スキルを発動させ削りにかかる。与えるダメージの量がどの程度か見当がつかなかったが目に見えて岩蜘蛛のHPが減るのを確認して少し安堵する。
「見た目の割にはダメージ通るんだなこいつ。 サオリ、俺たちだけでも行けそうだ! 気を抜かないでこのまま確実に減らしていこうぜ」
俺はサオリを鼓舞すると最近覚えた新しい体術スキルを発動させるため岩蜘蛛の真上に向かって足から背、背に生えてる岩を伝って登っていき蹴り上げて宙に身を投げ出す。筋力アビリティも日頃のサブイベントなどで鍛えたおかけで更に向上しており思い切り飛び上がってみると数メートル近く跳んでいることに自分自身驚きつつも向きを変え足を地面に向け、眼下にいる岩蜘蛛に突き出すようにしてシステムアシストでスキルが立ち上がるのに身を任せて放つ。
「最近覚えたこの技、どの位くらうか試させてもらうぜ!」
体術スキル『猛襲落』 文字通り猛烈な勢いで下方向に向かって蹴りを放つ体術スキルだ。街中の人気のないところで試しに放った時の落下する速度にビビったものだが何回か試してるうちに遊園地にあるアトラクションの落ちるアレを滅茶苦茶速くしたような物に乗ってるみたいで楽しくなっていた。だがスキルのモーションなどが分かっても街中に居る限りHPが減る事はなく、威力までは確かめる事はもう無いと思っていた矢先、こういう事態になったことが良い事なのか悪い事なのか・・・・・・いや、良い事にしておこう、俺はもう死ぬ事を恐れて外に出るのを止めたりなんかしないって決めたんだから。
そんな思考を振り切るような速度で下に居る岩蜘蛛との距離が縮まるのを感じながら俺は今まで溜まった鬱憤やこれから始まる新たな俺の冒険の旅への期待を込めて思い切り叫びながら岩蜘蛛にスキルを叩き込む。
「くらいやがれぇぇぇっ!!」
砲弾が着弾したかのような衝撃音と共に岩が砕け散り、立ち込める砂煙。足に確かな手ごたえを感じながら視界に表示される岩蜘蛛のHPは目に見えて減っていた。
「おお、すげえ威力だなこの技っ!」
俺は素直に新スキルの威力に驚き喜んでいると下からサオリが叫んできた。
「トモー! その技凄いね!」
そう言いながらサオリもウルの背に乗りながら片手剣を振り勇敢に立ち向かい足にダメージを蓄積させている。
「それじゃアタシも・・・・・・行くよっ!」
俺は背中に乗ったまま基本の殴ったり蹴ったりを繰り出しながらサオリへ目を向けるとサオリも新しいスキルを試すようだった。
ウルの背中に乗った状態で身を屈めて片手剣は大上段に持っていきスキルが立ち上がりエフェクト光が輝き出すとサオリはそのまま一気に岩蜘蛛へと飛びかかる。
「やぁっ!」
サオリも俺の叫びに影響を受けたのか中々の大声と気迫に満ちた声を出して岩蜘蛛の前足側を切りつけた。
ダメージも俺の新技『猛襲落』の与えたのと同じか少し上程の高威力だ。
「やった! 結構削れたんじゃない? アタシの新技!」
新技のおかげか岩蜘蛛はその後2~3度身を捩り俺を払い落し踏みつぶそうと暴れ出し何度かヒヤっとする場面も何度かあったものの無事にサオリと二人で岩蜘蛛の撃破に成功したのだった。
それから、ドロップアイテムを回収し街へ戻ってさっそく装備を新調しようと武器や防具など戦闘に関連する物を売り買いしたり戦闘系のサブクエを重点的に扱う斡旋所が集中するエリアを歩いている時。ガヤガヤとプレイヤー間の最新情報、主に情報屋ギルド『住所不定無職』が独自に調べたモンスターの弱点部位などが貼り出される掲示板に人だかりが出来ているが見えてきた。
「なんだ? 前みたいに『住所不定無職』がまた何か攻略関係の新情報公開してくれたのか?」
俺はそう思いながらサオリには離れた所で待っててもらうように頼んで掲示板を見に人だかりの中へと突入し何とか辿り着けた掲示板にはこう書かれていた。
『東のエリアに向かっていたとあるギルドが違反プレイヤーたちによってPKされ壊滅状態になった模様。
なんとか逃げ延びることが出来たメンバーの証言によりアップデート前には無かった遠距離武器による索敵範囲外からの奇襲だったとのこと。これにより、フィールドを移動する場合は集団で移動する事、もし少数で移動する場合は今まで以上に周囲の警戒を劣らない事。
我々『住所不定無職』は現在この遠距離武器を扱うのに必要なスキルの入手法を捜査中。なお違反プレイヤーギルドの名は『カラミティ』との事。東エリア以外にも出没する可能性があるので注意されたし』
という嫌な内容だった。
「PKか・・・・・・違反プレイヤーたちは人殺しを楽しんでばかりだな」
だけど気になるのは遠距離武器による攻撃の件だ、索敵系のスキルを持っているとプレイヤーを中心に大体10メートル離れていて物陰に隠れたプレイヤーが居ても存在を知らせるアイコンが視界に表示されるので大体の奇襲は防げるのだが隠蔽スキルなどを鍛えていたりすると話は変わってくる。このスキルを上げている場合は周囲に溶け込み本来なら見つけられる距離でも発見されにくく出来るので対処法としてはこちらも対抗して索敵スキルを上達させて見破る目を鍛えるなどしておかなければならない。
だが今回はそもそも視界に入る入らないの距離以上の所からの遠距離武器での奇襲。考えられるのは投擲スキルを上げまくって槍なんかを思い切りぶん投げるとかあるけど遠距離武器とは言わないよなぁ・・・・・・。
「だとすると妥当に考えて弓・・・・・・か」
「トモっ! いつまで待たせんの!? 早く武器屋とか行くんでしょ!」
あれこれ考えてるうちに時間が過ぎてしまっていたらしくお怒りモードのサオリさんが目を吊り上げて俺を睨みつけていらっしゃった。サオリもなかなかの睨みつけ具合ですね・・・・・・。でもまぁユウコ程じゃないことに少し安堵したのは秘密にしておこう。
「ごめんごめん。よし行こうか」
俺はサオリに謝りながら武器屋へと並んで歩き出した。
マキシさんと『ノースガーデン』の人たちに俺がまたフィールドに出られるようになった事を伝えたら自分の事のように喜んでくれ盛大なパーティを開いてくれて俺は今まで迷惑をかけてきた分。移動式店舗の候補モンスターを探すのを本格的に手伝う事となりサオリとマキシさんそしてレックスさんの四人でパーティを組むことにしてフィールドに出てはテブルを拠点に西へ東へ北へ南へ駆け回って探してみてオープンカフェで審議の結果、最終的には以前戦った岩蜘蛛に決定した。ゴツゴツとした岩に関しては街に居る建築業をしているNPCを雇ってそのまま岩をくり抜いて建物代わりに使えるようにしてもらえるんじゃないかというレックスさんの話だった。それを聞いて思い出したのは遠い記憶にあった『ノースガーデン』の初期の店だった。
「そういえば、最初の頃の『ノースガーデンの店って街中のあまり人通りが少ないギリギリ安全圏内の岩がそのまま残ってるような所にありましたよね? あれって今回やってもらうNPCにしてもらってたんですか?」
と俺がレックスさんに聞くとマキシさんも反応して
「ああ、そういやそんな時期もあったらしいなぁ・・・・・・俺は友人の話で昔の店舗の話は聞いたことがあったけど、あの頃から知っていたら間違いなく俺の食事事情は変わっていただろうなぁ・・・・・・トモが羨ましいぜ・・・・・・おっと悪いな話に割り込んじまった」
俺とレックスさんは首を横に振って気にするなと伝えたあと俺の質問にレックスさんが懐かしそうに遠くを見ながら答えてくれた。
「その頃から俺たちの店知っててくれてるなんて嬉しいな。そうだよ、俺たちがそれぞれ有り金の殆ど突っ込んで雇ってくり抜いてもらって出来上がったのがあの店だったんだよ。こんなとこに建てたって客なんかこねえぞ!ってウダイと喧嘩したのもいい思い出だな」
「今度は記念すべき移動型の新店舗のメンバーとしてアタシが参加出来るなんて・・・・・・畏れ多くなってきたよ・・・・・・」
サオリは『ノースガーデン』が本当に歴史ある店であることを思い知り不安顔になりつつも
「いやいやいや、せっかく店長のウダイさんからスカウトされたんだからしっかりやらなくちゃね! そのためにもトモ、あの岩蜘蛛をきっちり調教するからアシストよろしくね?」
サオリは手を差し出してきたので俺も手を重ねる、すぐに声をかける間もなくマキシさんとレックスさんも手を重ねる。自然にそれぞれの顔を見る。みんな気合いが入った顔だった。
「移動型店舗を完成に向けての第一歩、岩蜘蛛ゲット大作戦!! みんな気合い入れていくよ!」
サオリが言うとみんな腕を振り上げてこれでもかと大声で叫んだ。
更新ペースを変えると言ったな?
あれは嘘だ。
とでも言い切ってしまった方が良い様な気がしてきた今日この頃。
ノリと勢いの第二十七話、意見感想待ってます。




