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ヘル・オンライン  作者: 遠
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第二十六話

 攻略よりも俺の護衛を優先してくれた『ソル』の協力のおかげで、無事に再び山を越えて昨日立ち寄った小さな村へと辿り着き、ライバックとカゲの二体と合流しさらに南下。図体のデカいカゲを引き連れて立ちふさがるモンスターたちを『ソル』のメンバーが蹴散らして突き進み辺りが暗くなる頃にテブルの街へ帰還したのだった。

 テブルに向かう道中、ユウコ率いる『エンカウント』と再会して情報交換したあと、このまま俺を送ったら『ソル』は転移門でマーシーの街まで戻ってさらに北上する予定だと話し、ユウコたちにマーシーの街までの北エリアの注意ポイントを伝えて別れた。


 移動中にサオリにメールで『ソル』の護衛付きで暗くなる頃に着くと伝えてあったので広場にはサオリとウル、マキシさんと『ノースガーデン』からはレックスさんが出迎えてくれた。

「おかえり! トモ」

とサオリは店の制服姿で手を振りながら声をかける。

「おいおい、これまた随分でけえやつをテイムしてきやがったなトモ!」

カゲの巨体で驚きながら帰還を歓迎するマキシさん。

「ユウコさんと知り合いの上に『ソル』とも顔見知りとかすげえよトモ君」


 『ソル』のメンバーはサオリたちに挨拶をした後装備の点検、アイテムの補充しつつ情報が掲載される掲示板を見ると現在の進行状況は西に有名どころでは『円卓騎士団』、東と南にはアップデート前の様々な有名だったギルドが向かっており、北は『ソル』と『エンカウント』となっていた。それを確認後すぐ転移門へと向かっていった。別れ際にリリが「ちぃ、こんな所にもライバルが・・・・・・」などと言っていたが、ひとまず「え? なんだって?」と言っておいた。


 『ソル』を見送った後、早速サオリが担当することになった移動型店舗を牽引するだけの力があるモンスターを調教テイムするために候補のモンスターを相談することになりユウコとサオリを会わせたカフェでマキシさんとレックスさんも混ぜてコーヒーを飲みながら意見を交わす。

「店その物を運ぶわけじゃないけど、アイテム欄に収納出来ないタイプのテーブル類を余裕で運べるくらいには力持ちのモンスターをなんとか調教テイムしたいんだけど・・・・・・。アタシとレックスさんで無理しない程度に近場のフィールドを回ってみたんだけど大型はこのウルが特別な個体だったみたいであとはみんな小柄なモンスターばかりで困ってるんだ」

サオリはメニュー操作でテブルの周辺のマッピングデータを開いて指でそれをなぞりながら説明してくれた。

「そうそう、マキシさんは街のクエストで調教テイムスキルを使う系統のやつがないか見て回ってくれたりしたんだけどトモが手に入れたライバックみたいな移動手段には使えても運搬まではとてもじゃないけど使えないタイプしか見つからなかったみたいだしな」

そういってお手上げと言わんばかりにテーブルに突っ伏すレックスさん。

「ああ、正直トモが新しく手懐けたあのでっかいトカゲ。あのクラスで調教テイムしやすそうなやつなんてこの辺りにはいるようには思えん」

マキシさんはため息をつきながらカゲを預けてある馬車の貸し出し屋の方角を見つめながら言う。

「はい、あのカゲが居たのはもっと北に進んだ所に居るNPCのイベントをこなさないと手に入らないですし要求スキル熟練度もそれなりでした。かといってもう一度向かったとしても同じイベントが起こる可能性は低いしそこまで辿り着ける戦力が今の俺たちにはありませんしね・・・・・・」

俺は申し訳ない気持ちで低めの声で説明する。それともう一つの問題がある。

「俺自身がこんな状態じゃ相談に乗るくらいしか出来ないのが本当にもう用無しって感じで笑えて来ますよね・・・・・・・」

自虐に走るのを止められずに俺は乾いた笑いを漏らす。

「話はコウジさんから聞いてるよ、気にしないでトモ。アタシたちはそんな事これっぽっちも思っちゃいないんだからさ」

そう言って俺の肩に手を置いてくるサオリ。

「そうだぜトモ。俺だって前話した通り怖じ気づいてからまともな戦闘をこなせるようになるまでどんだけ時間をかけたかなんて数えるのがバカらしくなるくらいだったんだぜ? なのにお前は怖いのを我慢してここまで来てくれたんだ。それだけで凄いと思うし嬉しいよ俺は」

マキシさんは言い終えると飲みかけのコーヒーを一気に飲み干すと乱暴にテーブルに置くと椅子から立ち上がり

「よし! レックス、サオリさん。もう少し遠くに行ってみよう。もしかしたらまだ手がつけられてない大型モンスターの調教テイムイベントがあるかもしれないからな。トモはゆっくり休んでいてくれ何かあったらすぐ連絡するからさ」

 そういってマキシさん一同は俺に手を振って新しい相棒を探しにフィールドへ出て行った。それを見送る事しか出来ない自分に腹立たしい気持ちになりつつも気持ちを切り替えて俺は街の中で少しでも役に立とうと思い新しいクエストが増えていたり情報が入っていたりしてないかあちこち見てみようと歩き出した。

 それから数時間が経ち、結局戻ってきたマキシさんたちに収穫はなくあちこち回ってみた俺も収穫はなく合流して酒場で夕食を食べるとそれぞれの宿へと解散してその日は終わってしまった。

部屋に入ってメニュー操作で部屋着に着替えると俺は拳を握り足を肩幅に開き体術スキルを少しでも上げていざという時に備え覚えている技を何回も繰り出し15分ほどそれを続けたあとベッドに横になり目を閉じて睡魔がやってくるのに任せ意識を手放した。


 それから数日が経ち俺は街の外へは出なくなり、その分サオリの代役として『ノースガーデン』の手伝いをしながら街のサブイベントを片づけてはスキルの熟練度を上げる生活を繰り返していた。

 時折、俺を見かけては嘲笑を浮かべて俺に野次を飛ばす奴らも居るが俺はなるべく気にかけないようにして手伝いやらイベントやらに精を出していた。

「今日はサオリたちどの辺まで行ってるんだろう・・・・・・」

正直俺もライバックに乗ってサオリたちの希望のモンスターを探している時にあった出来事を聞いていると自分でもその場所に行ってみたいという思いが芽生えるしサオリたちの手伝いをしにフィールドに出たい気持ちもある、だがしかし街からフィールドへ出ようと足を踏み出そうとしても最初の一歩が踏み出せずにその場で立ち竦むだけでなんら改善の傾向はない。日に日に募る無力感に苛まれつつもサオリたちの励ましでなんとか気持ちを持ち直してはいるものの歯がゆい思いは無くならないまま時間だけが過ぎていく。

 そしてある日の午後、一通のメールが俺の元に届いた。ちょうどそのとき俺は小屋に預けっぱなしでは機嫌が悪くなるのではと定期的にライバックに乗って街の比較的広い道がある一番外周部を走っていたところだった。

 視界の隅に表示されるメールアイコンを操作し文面を見ると俺はライバックをその場で立ち止まらせる。

「助けてって・・・・・・サオリに何かあったのか!?」

メールの中身は『たすけ』と中途半端に途切れた三文字のみ、それがただのご入力とかならいいのだが今サオリは朝からフィールドに出かけているし帰ってくるときは必ず帰る旨を伝えるメールを俺に寄越すのが習慣になっている。そういう事から考えてもこれは決して楽観視して良い状況じゃない。俺はすぐさまフレンドリストを開きサオリの位置情報を確認する。サオリの存在を示すアイコンは今現在ここテブルの街から西に大分離れた所で点滅している。

「マキシさんとレックスさんは別の仕事で今日に限って別行動してるし完全にサオリとウルの二人だけって言ってたし・・・・・・どうしよう・・・・・・俺じゃ外には・・・・・・」

思い浮かぶのは自分のHPがどんどん減っていき死が迫ってくるあの感覚。それだけで足が震え何も出来なくなってしまう。あれからどれくらい経ったのだろうか? 忘れようとしても忘れられずに未だに引き摺り続け周りの親しい人たちの優しさに包まれぬるま湯に浸かって穏やかに心を弛緩させのうのうと生きている自分。それが俺という存在。俺がここで過ごしてきた一年半以上の年月の結果。何も出来ない、何もしない・・・・・・それが自分。

 そうして一人で俯いて立ち尽くしている俺の横を元気にフィールドに出て今日は何を倒そうか?等と話しながら駆け出していく俺より少なく見ても3~4つ下の男の子と女の子の姿があった。

「ちょ、ちょっと君たち! 門から出たらモンスターに襲われて危ないんだよ、分かってるよね!?」

俺は震えが残る頼りない声を出来るだけ張り上げてその二人に声をかける。その声を聞いた二人は一度立ち止まりこちらを向いて口を開く。

「そんなの知ってるよ! だから楽しいんじゃん!」

と男の子が屈託ない笑顔で笑いながら言うと

「そうそう、それにあっちで見た事ない景色がいーっぱいで綺麗なんだもん! 行ってみたいってお兄ちゃんも思うでしょ?」

女の子も同じくらい元気いっぱいの笑顔を俺に向けながら言ってきた。

「そ、そうだね・・・・・・確かにそうだ」

二人の言葉を聞いて俺はこの世界で過ごしてきた時間で見てきた景色を改めて思い出した。

 初めてこの世界に来てユウコと一緒に武器を手にして夢中になって駆け回っていた自分。あの時の自分は怯えながらモンスターと戦っていただろうか? ユウコは『エンカウント』を作り有名になり『ソル』と交流を深めその際に一緒に行って初めて目にしたエリアボス戦でのトッププレイヤーたちの戦いを自分はただ恐怖に震えて目を閉じていただろうか? 

「違う・・・・・・よな、そうじゃないよな・・・・・・・今こうして俺が生きているのはこんなダラダラするためなんかじゃないよな」

俺は俯いていた顔を上げライバックを走らせ街の外周の四か所ある大きな門の前でライバックを止める。

「きっとまた怖じ気づくかもしれない、そうやってビビってる隙に死んでしまうかもしれない。けど俺は自分以外の誰かが死ぬところを見るのは嫌だ、それがせっかく出来た友人ならなおさらだ。だからライバック、俺に力を貸してくれ」

俺はライバックに語りかけながら手綱を握り直すとライバックは振り返り

「やっと腹を決めたかボーズ」とでも言いたそうに顔を左右に振ってから前に向き直る。

俺はそれを見て少しだけ笑ったあと門の向こうに見える草原を睨みライバックと共に門をくぐり久しぶりのフィールドへ駆け出した。

 




とんでもない期間更新が遅れました、すいません。一か月に一度というのをあえてしないで書き溜めてから纏めて投稿してみようと思っていたらここまで空いてしまいました。ノリと勢いの第二十六話、意見感想待ってます。

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